Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第二十節 血染めの少女領主

 

 俺にも振り返って笑顔を投げかけた彼女。その身体を──赤い弾が貫く。

 

「は?」

 

 驚愕と、訳が分からないと言うような表情を浮かべた後、アルスは……。

 

「……くそっ、カッコ……わりぃ」

 

 彼女は斃れた。起き上がることもなく、ただ赤い水溜りが広がるだけ。

 その光景に俺は思考がまとまらなくなる。覚悟はしていたはずなのに、頭が真っ白になってまともに考えられない。

 

「……あ……あ」

 

「お気を確かに主さま! 今はショックを受けている場合ではありません!」

 

 セイバーの声が聞こえる。言葉は聞こえるはずなのに上手く理解が出来ない。

 この状況への混乱と、そして……。

 

「……ふ、ふふふ。まずブタを一匹……仕留めてやったわ」

 

 膝をついたまま、空いている左手で手銃の形を作って嗤うランサー。……さっきの一撃は彼女の仕業だ。

 アルスをあんなにしたランサー、俺の方にも狂気で濁った水色の瞳を向ける。

 

「っ!?」

 

 奔る強烈な恐怖。彼女はそれを感じ取り愉悦に浸る。

 

「いい顔じゃない。……待ってなさい、すぐに同じ目に遭わせてあげるから」

 

 どうしようもない状態。ランサーの狂気と殺気に圧されて精神が潰されそうになる。

 

(駄目だ……ここで俺まで潰れたら、それこそ終わりだ)

 寸前で何とか理性を取り戻そうとする。ようやく働き出した正気で、美星が倒れているアルスの状態を確認している事に気がついた。

 

「安心しなさい、出血は酷くても急所は外れているわ。止血すればしばらく保つはず」

 

 彼女はまだ生きていた。けれどしばらく保つと言った、それまでに決着をつけて医者に診せる必要があると言うこと。

 

「……ますます折れるわけにはいかないな。ランサーは──」

 

 光の粒子の分離は止まり、再び立ち上がろうとするランサー。瞳の狂気は消えていない、霊基の分離は不十分か。

 

「美星さん、令呪は残り一画だろ。もう一度すれば……」

 

「思ったより霊基の結合が強いわ。完全に分離するにはまだ一、二手足りない気がします。

 それに残りのチャンスは一度。今度こそ確実に成功させなければ」

 

 今度はより消耗させる必要があると言うこと。

 ランサーは確実に弱り続けている。さっきみたいに圧せばいいだけの話、ダメージは与えられるようになった。全然大丈夫……。

 

「ふふっ、ははははっ!」

 

 だけど俺の推測を嘲笑うように彼女は哄笑を響かせる。

 

「こんなに弱ったアタシなら倒せると、そう思っているのでしょ。バカね! アナタ達なんかアタシの力の足元には及びはしない。

 本気の本気、今見せてあげるわ」

 

 そう言って立ち上がったランサーの様子は、異様な雰囲気を放っていた。

 これは、何をする気なんだ。

 

「……だめ」

 

 かすかな声が聞こえた。それは半壊したキャスターからの呟き声だった。

 

「ランサーは……固有結界を使うつもりだわ。……今すぐ逃げて、さもないと──」

 

「今更遅いわ。味あわせてあげる、アタシの支配する──『チェイテの夜』を」

 

 

 

 

 ──いつの間にか別の森にいた。

 今までいた森とは全く異なる。生えている樹木はずっと高く暗い木々ばかりで、夜空に浮かぶ大きい満月が真上を照らす。

 

(今日は満月じゃなかったはずだ。同じ森の中でもさっきまでいた場所とは全然違う……まるでヨーロッパ辺りの、外国の森みたいじゃないか)

 

 ずっと前に観たテレビの海外ドキュメンタリー番組を思い出す。、まさにそんなイメージ。

 

「おい……何の冗談だ、あれは」

 

 何より異様な光景は森の向こうに見える巨大な、石造りの城だ。長年の歴史と伝統を感じさせる由緒正しい古城の風貌、それが急に姿を現した。

 冗談と思ってしまう程に非現実的で。そんな中でキャスターの呟きを思い返す。

 

(固有結界……と言うことは、ここは結界──ランサーが作り出した空間、なのか?)

 

「これがアタシの固有結界。生前所有していたチェイテの領地を再現した空間、領主であるアタシが治める場所よ」

 

 ランサーは勝ち誇ったように俺達を見据えて言った。

 

「もうアナタ達には万の一つにも勝ち目はないわ。全員まとめてアタシのために無様に喚いて……死になさい」

 

 圧倒的な上位者の態度。何かがあるのは分かっている。

 ……それでも逃げることは出来ない。美星が応急処置で止血こそしているものの、早く治療を受けさせる必要がある。

 

「気をつけろセイバー。この空間、何かあるはずだ」

 

「ダメージと消耗は残っているはず。速攻で半殺しにすれば!」

 

 瞬間、セイバーはランサーに迫る。

 彼女の四方八方を高速跳躍。移動を繰り出していくつもの残像を残す。

 さながら分身の術のように、どれが本物かも見分けがつかない。その中の一人がランサーに近接を仕掛ける。

 槍で振り払う彼女。──だったが、それも残像の一つ。残像が掻き消えたと同時に背後から一閃が浴びせられた。

 

「マスターが受けた借り、倍にして返してやるよ!」

 

 続けてバーサーカーの正拳突きが襲う。ランサーは吐血しダメージを受ける。

 ……空間を形成しても本人は強くならないのか?

 

 

 

 セイバー達はランサーを追い詰める。

 絶え間ない猛攻を受ける彼女。……その筈なのに。

 

「──ふっ」

 

 おかしい。途中からランサーに余裕が戻っていた。

 

「くそっ! こんなこったろうと思った!」

 

「攻撃が通らない? ……ランサーの魔力が、戻っている!?」

 

 セイバーの一太刀を竜化させた腕の鱗で防ぐ。

 少し前まではその守りも弱まっていたはず、失われた防御力が復活しているのか。

 いや、それだけじゃない。

 

「……うっ、はぁ」

 

 俺自身ひどく消耗している。

 サーヴァントに生命力、魔力を送っているから当然にしても。ここまで消耗するのは早すぎると感じた。

 戦っているセイバー、バーサーカーも同じように消耗し出している。……この空間に入ってから急速な消耗だ。

 

「なるほど……そう言うものですか、ランサーの固有結界は」

 

 今はサーヴァントを使役していない美星までも疲弊した表情だ。

 彼女は青ざめた顔を俺に向けて伝える。

 

「彼女の作り出した空間は、私達やサーヴァントの魔力を奪い取って……自分のものにしてしまう。

 ……状況は最悪です」

 

 セイバー、バーサーカーの同時攻撃を槍で防ぎ、圧し返すランサー。

 そして俺達に向けてにやりと笑みを浮かべる。

 

「よく分かっているじゃない。

 ──そうよ。この固有結界はアタシが生前治めていた領地、チェイテを再現したと言ったでしょ。

 アタシこそが『領主』! そしてこの場所にいる以上はアナタ達は『領民』。残っている魔力はアタシのために徴収されて然るべきじゃない?」

 

 固有結界なんて初めて聞いたが、ただ異空間を形成するだけじゃない。

 

(空間を作り出し、さらに独自の『法則性』、『性質』までも空間内の者に強制させる。

 ここでは一般法則は通用しない。現に何をするわけでもなく俺達の魔力はランサーに……)

 

 この空間に入ったばかりは優勢に回っていた二人も、さっきまでは互角。今は──。

 

「あはははっ! やっぱり大したことないわねっ、アナタ達!」

 

 竜化した左手でバーサーカーの拳を用意に受け止める。

 

「ぐ……っ」

 

「拳も全然軽くなったわね。もうアタシには効かないわよ」

 

 続けて放たれたセイバーの斬撃さえ鉄壁の鱗で尽く防がれる。

 

「──もちろんアナタの刀も、ね」

 

 そして、槍のたった一薙ぎで二人まとめて蹂躙する。

 

 

 絶望的なまでの差だ。セイバーとバーサーカーの魔力は奪われ、ランサーは力を取り戻した。

 美星がぼそりと呟く。

 

「……ランサーを元に戻すことは、もう無理ね。彼方君」

 

 彼女は俺に眼差しを向ける。

 

「この空間なら逃れるには彼女を倒すしかないわ。私は残りの令呪を彼女の足止めに使い、貴方は令呪でセイバーに全力の宝具を放つように命令しなさい。

 ランサーを倒さなければ、私達は全員助からないのだから」

 

 対ライダー戦で使用したセイバーの宝具は、簡単に言うなら強力無比な一太刀だ。今は魔力が弱まっていても、令呪の力があればあの時と同じ……それ以上の一撃を放てるかもしれない。

 彼女を倒す。そう言った美星の表情には一切の余裕がなかった。

 

(あんな変わり果ててしまったまま、ランサーを倒すしかないのか)

 

「頼むぜ彼方っ! 俺のマスターはああなっちまっている。今はお前が頼りなんだ!」

 

 切羽詰まったバーサーカーの声が響く。覚悟を決めるしかない。

 

「っ、セイバー!!」

 

 俺は右手をかざし令呪を行使しようとした。……が。

 

「──ふふ」

 

「なっ!?」

 

 ランサーから放たれる魔力の奔流と気迫に呑まれ、全身が麻痺してしまう。

 まるで蛇に睨まれた蛙だ。セイバー、バーサーカーさえも足を止めるほどの魔力増大。……まさか。

 

「そろそろお遊びにも飽きて来たわ。一思いにフィナーレと行きましょう。

 光栄に思いなさい。アタシの最っ高の『宝具』を味わうことが出来るのだから」

 

 翼を広げて彼女は跳躍。その背後から大型の何かが出現した。

 ──城を模した巨大スピーカー。彼女は槍を地面に突き刺し、柄を足場に着地し不敵に笑う。

 

 

「聞かせてあげる! アタシの(ブレス)で消し飛びなさい! ──『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』っ!!」

 

 

 

 

 ────

 

 ランサーから放たれる圧倒的威力のブレス。

 彼女のボイスはスピーカーによって何倍にも増幅され、全てを薙ぎ潰す破壊の波となる。

 

「っ!!」

 

 津波のように広範囲で迫るブレス。逃げることはできない、俺達はここで終わりだ。

 覚悟して両目を閉じた。けれど、数秒経っても変化はなかった。再び目を開けると……。

 

「万一の試作品だけど、用意して良かったわ」

 

 俺達全員は半透明、半球体の殻にような障壁で守られていた。

 美星が右手に握られていたのは正六角形の機械装置。俺と倒れたままのアルス、それにセイバーとバーサーカーの前に出て彼女は装置を前にかざしていた。

 

「これは、貴方の装置が……」

 

「ええ。Aエナジーを防壁として展開する携帯型フォース・フィールド発生機、サーヴァントの宝具でも持ちこたえる強度はあるようね」

 

 彼女のおかげで首の皮一枚繋がったみたいだ。……いや。

 俺達全員を守るエネルギーの障壁に亀裂が入る。フォース・フィールドはもう保たない、そうなれば今度こそ俺達は終わりだ。

 

「ここまで……ですか」

 

 美星は唇を噛む。そんな中でセイバー、バーサーカーが太刀と剣を構えて前に出た。

 

「ここからはボク達の役目です!」

 

「残りの威力ならギリギリ防げるかもだ! やるしかねぇ!」

 

 次の瞬間に障壁は砕けた。

 と、同時に押し寄せる破壊の波。サーヴァント二人は俺達を守るために宝具を防ぐ盾となる。

 

「──っ! 霊基が消し飛びそう……でありますっ」

 

 決死の覚悟で宝具を受け止めるセイバー達。凄まじい破壊の奔流、美星のおかげで威力の大半を防げた。おかげで──。

 

 

 

 辺りの地面は樹木もろともことごとく抉れ、破壊の跡を一直線に残していた。

 無事だったのは美星、そしてセイバーとバーサーカーが防ぎきった俺達の周囲だけだった。

 

「……助かった、セイバー」

 

「ふふ、っ。ボクにかかればこれくらい──」

 

 セイバーは俺に振り向いて笑みを投げかけようとした時、崩れるように倒れた。

 

「く……っ、戦う為の魔力が、完全に切れたってわけか」

 

 バーサーカーさえも両膝をつき立ち上がれないでいた。俺達には今度こそ戦う力を失ったんだ。

 確かに宝具で消し飛ばされずには済んだ。けれど、これじゃ『悲惨な死』を遂げる運命は変わらない。

 

「アタシの宝具を防ぎ切るなんて。認めてあげるわ……ただの子ブタどもじゃないって」

 

 地面に着地し、俺達を見据えるランサー。

 嘲るような笑みを消し、槍を持ったまま俺達に歩みを進める。

 

「どうせ殺すなら愉しむのも悪くはないけれど、領主として敬意を払うわ。

 安心しなさい、苦しまないように一突きで仕留めるから」

 

「……」

 

 終わりだ。着実に迫る終焉にどうすることも出来ない。

 

「さようなら。アナタ達の血、アタシの糧としてあげる」

 

 槍先が月光を反射して赤く光る。

 これが俺達全員の、運命なのか。

 

 

「──もう止めるんだ、ランサー」

 

 聞き覚えのある声。

 その方向にいたのは……。

 

「……タケル? どうして」

 

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