僕とキョウスケはランサー達が戦っている地点へと向かっていた。
「……キャスターは逃げるよう言ったのに、裏切るなんて」
小さく彼がそう呟くのを聞いた。
「僕だって無茶をしているのは自覚している。キョウスケさんが無理に付き合う必要はない」
僕の言葉にキョウスケは安心させるように視線を向けて言った。
「確かに彼女の言葉に背いている。けれど、ここで逃げたままだと僕も後悔する。
……同じだよ、君と」
彼の言おうとしている言葉は、僕にも分かる。
自分でも不思議な感じだ。今まで復讐のためにガイアスを追い続けていた。なのに、今はランサーを救いたいと言う別の動機のために命を賭けている。
もちろんガイアス、総帥である男とそのサーヴァント、アーチャーと戦うために彼女の力が必要なのも当然ある。……でもそれとは別の思いから行動している自覚も同時にある。
目的の地点にはしばらくしてたどり着いた。
地面や木々に抉れ、裂け目のある戦闘の形跡。けれどランサーとキャスターの姿はどこにもない。
「どこにいるんだ、ランサー」
気配を感じない。正直違和感はあった。追っている最中も彼女の気配、魔力の形跡を感じないままだったのを。
まるでこの世界から忽然と消えたような。普通ならあり得ない。けれど前例を体験した事が一度だけある。
「もしかして、キャスターの固有結界にいるのか? キョウスケさん」
「──いや、それはない」
僕の問いに即座に返答したキョウスケ。
彼を見ると、その両腕にボロボロの布に覆われた何かを抱えていた。
半壊した人形。……彼のサーヴァント、キャスターだった。
「やっぱり、置いていくべきではなかった」
「マスターこそ……どうして戻って来たの。……逃げるように言ったのに」
キャスターのか細くながら責める言葉に、僕が代わりに答える。
「彼は悪くない。ランサーを正気に戻したいと、僕が無理を言ったせいだ」
彼女は残った片目をこっちに向けて、瞳を閉じると。
「そう。やっぱり優しい人ね。
今の彼女にあなたの言葉が届くか分からないのに……それでも彼女のために危険を冒すの?」
決断は既にしている。キャスターもすぐに察したようだった。
「……分かったわ。
あなたの救いたいランサーは、セイバーとバーサーカーと戦っている。……危険な状態よ。サーヴァントとそのマスター達を固有結界に閉じ込めて、今頃は……」
「──なんだって?」
セイバーとバーサーカー、そのマスター達──彼方とアルスだ。まさか捕まっていた僕を助けに来たのか。だとするなら……。
「なら尚更向かわなければいけない。
お願いだ、キャスター。僕達に力を貸してくれないか」
さっきまでの彼女の物言い、何か手立てがあるはずだと思った。
キャスターはそうね、と小さく呟いてキョウスケを見上げる。
「……マスター、最後の令呪を私に頂戴。
ランサーとの戦いで霊基はもちろん……霊核まで壊れかけ、どの道長くは保たないわ」
そして申し訳ないように目を伏せる。
「ごめんなさい。マスターの願い、叶えることは出来なくて」
後ろ姿なせいでキョウスケの表情は見えない。
ただ、彼女の謝罪に数秒の沈黙。その後彼は──。
「令呪を以て命じる。君の力でみんなを──救ってほしい」
キョウスケの令呪が輝き、最後の一画が消失する。
同時にキャスターの身体が彼の腕から離れ、宙へと浮かぶ。全身が白い光に覆われてその姿形を変貌させる。
(これが令呪の力……だけではないと思う)
上手くは言えない。根拠さえないけれど、彼女に注がれる力はもっと別の、マスターであるキョウスケの想いさえも力にしていると感じた。
(サーヴァント・キャスター。彼女はマスターの在り方に大きく影響を受ける、特殊なサーヴァントかもしれない。
まるで読み手によって感じ方、捉え方が異なる物語のように)
人形くらいの大きさしかなかったキャスターは人間大となり、そのシルエットも変貌を遂げる。
「──」
目を開ける。キャスターの姿はドレス姿の人間の少女へと変わっていた。
人形の時には幼女姿だった彼女が成長したような容姿。
長い白髪には銀色のクラウンを載せ、黒く絢爛なドレスは異国の姫君を思わせて。──その姿は、まるで。
「そうか……その姿、やはり君は……」
悟ったように呟くキョウスケ。
キャスターは決意の色を瞳に浮かべて、言った。
「ぐずぐずしていられないわ。マスター、あなたの命令通り──みんなを救ってみせる」
宙に手をかざす。
何もない場所に裂け目が現れ、別の空間への口を開く。
その先にあったのは──。