Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第二十二節 誰かの為の物語

 

 現れた空間の裂け目。そこにタケルの姿があった。

 

「タケル? 一体、どうしたんだ。それに……」

 

 彼だけじゃない。さらに二人、見覚えのある青年と、黒いドレス姿の姫のような少女が彼の近くにいた。

 

(あの人は、前にコミケで会ったことがある。けれど少女の方は初めて見た、そのはずだけれどあのドレス姿……覚えがあるような)

 

 ただ青年の右手の甲に見える、完全に輝きの消えた令呪の跡。少女の姿と雰囲気も普通の人間でない、何より面影が先にランサーと戦い、壊された人形のサーヴァントに似ていた。それににコミケの時にも人形はあった覚えもある。……まさか同一、姿が変貌したのか?

 以前見た時には死んだ魚のような目の、気力のない様子の青年だった。けど今は決意に満ちた瞳と表情で。

 

「僕はキョウスケ、キャスターのマスターだ。

 彼方君だね、無事で良かった。……倒れている女の子は」

 

 青年──キョウスケは倒れているアルスに視線を向ける。

 

「まだ一命は取り留めているけど、傷は深い。早く治療が必要だ」

 

「そうか。後の事は僕達に任せてほしい。ランサーとの決着は、ここでつける」

 

 キョウスケと少女……キャスターの二人はランサーに歩みを進める。

 

「アタシがスクラップにしてあげたのに、傷どころか姿まで変わるなんて。

 霊基レベルからの変貌、『霊基再臨』と言うわけね」

 

 察したランサーは僅かに警戒の色を浮かべた。しかしすぐに不敵な態度に戻ると。

 

「……傷は霊核にまで達していたはず。再臨したと言え深手なのは変わらない。消える前のロウソクが激しく燃え上がる、一瞬の瞬きにすぎないのよ。すぐにかき消してあげる。

 まぁ、結界に穴を開けるなんて、クラス・キャスターなだけあると認めてあげるわよ。……それも無駄な努力だけど。この空間では誰もアタシには敵わないのに」

 

 対してキャスターは動じない。ただ優美なドレスの裾を翻し、両腕を広げると──

 

「そうね、あなたの固有結界は強力よ。一度は私の固有結界を上書きする形で展開して、相手の魔力を無条件で自分のものにする。ここであなたに勝利するなんて土台無理な話だわ」

 

 でも──。そう続けたキャスターから魔力の高まり、周囲の空間そのものの揺らぎを感じた。

 

「今の私はあの時とは違う。マスターとの強い繋がり……本当の力、本当の『宝具』として展開が出来る」

 

「宝具、ですって!?」

 

 ランサーに動揺がはしる中、キャスターの口元から詠唱が紡がれる。

 

「繰り返すページのさざ波、押し返す草の栞。全ての童話はお友達。

 ──誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)

 

 

 

 

 瞬間、ランサーの結界が急速に上書きされる。

 既にペンキで塗った壁を、上からさらに別の色のペンキで塗り替えるように。キャスターから拡張された『テクスチャ』は固有結界そのものを変貌させる。

 

「この……空間は」

 

 古城がある森の中にいるのは変わらない。外見上の変貌は殆ど無いと言ってもいい。

 けれど空間全体を覆っていた禍々しい雰囲気、ランサーの魔力で圧迫される感じ、無条件に他者の生命力を奪う邪悪な感覚は消えていた。

 穏やかな空気、静寂な森の中。月光は優しく淡い光で夜空を照らす。

 

「それに力も戻っている気がする。もしかすると」

 

「主さま。ボクも回復しています、バーサーカーも」

 

 戦闘不能になっていたセイバー、バーサーカーも再び立ち上がれるようになっていた。

 

「どうやらそれだけじゃねぇようだ。これがキャスターの宝具の力ってやつか」

 

 バーサーカーがそう言って見る先には、意識が回復して上体を起こしたアルスの姿が。

 

「アタイは確か、ランサーに撃たれて……。傷も塞がっているなんて」

 

「私の宝具は、マスターの心の投影。マスターが夢見たカタチを具現化する、私自身の本質そのもの。

 今の姿だってそう。そしてこの空間も、私と同質のものに上書きしたのよ」

 

 話す中で、ランサーは頭痛を抑えるように手で頭に抑え、荒い呼吸が見られた。

 

「マスターの夢、願いは『今、みんなを救うこと』。流石に聖杯には遠く及ばないけれど、法則を書き換えて道筋を整えることくらいは出来る。

 後は……あなた達にかかっているわ」

 

 俺とセイバー達に魔力が戻り、逆にランサーの魔力は奪われつつある。

 

「形勢逆転とは好都合。これなら、もう一度──」

 

 美星は残り一画の令呪が刻まれた右手を構えながら言う。

 

「……ひどい頭痛、忌々しい。

 結界なんて関係ないわ! キャスターさえ潰せばそれで終わりよっ!!」

 

 ランサーがキャスターを狙って迫る。

 地を奔る真紅の稲妻。しかし、その切っ先は巨躯の鉄壁に阻まれる。

 

「させねえって、嬢ちゃん」

 

「アタイの土手っ腹に風穴をあけた礼はしなくっちゃな。やっちまえ、バーサーカー!」

 

 右腕の義手で槍先を掴み、猛烈な腕力で上空に振り飛ばす。

 ランサーの表情に浮かぶ苦々しい表情。翼を広げ空中に留まり態勢を戻そうとした、そこにバーサーカーも高く跳び勢いのまま左拳を放つ。

 

「おらよ!!」

 

「がぁ──っ」

 

 拳は彼女の右頬、顔に直撃する。

 顔半分を竜化、竜の鱗(ドラゴンスケイル)の防御をとる。……が、単純なパワーなら随一とも言えるクラス・バーサーカーの一撃、加えてランサーの魔力低下も重なりダメージが入る。

 砕け、飛び散る鱗と吐血。竜化を解いた顔にも大きな痣が残る。

 

「またアタシの顔をっ!? 絶っ対コロ──」

 

 血走った目で殺意を向け、吠えるように暴言を吐こうとする。

 けれど右真横からの一閃で中断された。

 

「──ズっ!?」

 

「追撃ですよ! ランサー!」

 

 航行形態に変形させた太刀で高速飛行するセイバー。Aエナジーと同質のエネルギー──エーテルの短刀による一閃を叩きつける。

 とっさに竜化した腕で防ぐも、やはり脆い。同じように散る鱗と入るダメージ。

 翼をはためかせ飛び退くランサー。余裕もなく、まるで追い詰められた獣みたいだ。

 

「許さ……ない。…………許さないわっ!!」

 

 激情のままに猛攻するランサーと、受けて立つセイバー。

 竜の翼と、太刀から変形した飛翔するボード、互いに譲らない空中戦を仕掛ける。

 

「串刺しにしてあげる!!」

 

「ぶった斬るであります!!」

 

 垣間見えたセイバーの表情も戦闘狂のそれになっていた。

 むき出しの殺気と殺気のぶつかり合い、飛び交う殺陣の乱舞。空中を飛翔するアクロバティックな軌跡が交差し、本気の殺し合いを繰り広げていた。

 

 槍の一突きが肩の一部を抉る。それをものともせず反撃の斬り払いがランサーの脇腹を裂く。

 返り血を浴びて高笑いまでするセイバー。

 

「ハハハッ! この感覚ですっ! もっと来いでありますよ!」

 

「……ころ……すっ!!」

 

 最初は互角に近かった。けれど今はセイバーが圧倒し、ダメージを与え続けている。

キャスターの力で固有結界のアドバンテージさえも逆転してもいた。これなら勝てるはず……だけれども。

 

(今のセイバーはハイになっている。この勢いのままランサーにトドメまで刺しかねないほどに)

 

 そう考えている間にもランサーは消耗していた。ここで止めさせないと……。

 

「セイバー! そこまでに──」

 

「その首、貰うでありますっ!」

 

 止めるよりも早く、ランサーの首筋を狙ってセイバーの刃が迫る。

 

「!?」

 

 思わず手を伸ばした瞬間、セイバーの背を巨体の足が踏みつけ、跳躍する。

 

「でっ! ボクを踏み台にっ!?」

 

「一番良いトコは頂くぜ、セイバー」

 

 セイバーを踏み台にしたのはバーサーカーだった。

 ランサーさえ訳の分からないと言うような表情で固まる。そして勢いのまま彼女の真上まで来て、容赦なく両手を組んで振り下ろす。

 

「おらよっと!!」

 

 圧倒的なパワーによるダブルスレッジハンマーの一撃は見事にランサーの脳天に直撃する。

 

「ぐあっ!!」

 

 即座に地面に叩きつけられ、ランサーは今度こそ倒れた。

 

「ったく、ギリギリまで弱らせるって話だろ?

 なのにマジで殺そうとするなんて、お前んとこのセイバーはどう言うつもりだよ」

 

 傍らでアルスは呆れたように言う。

 確かに彼女のバーサーカーはランサーをノックアウトしたかもしれない。けれど、これは。

 

「人の事言えないだろ。バーサーカーだって、これは流石にやり過ぎだ」

 

 砕けた地面に倒れたランサー、頭からドクドクと血を流して水たまりを作っていた

 いくらサーヴァントでも、これは流石にくたばったかもしれない。……そう思っていた時。

 

「ブ……タ……の……くせ……に」

 

 よろめきながら、ランサーはまだ立ち上がる。

 自分の流す血を額から垂らしながら、なおも狂気は消えない。

 

「みんな、ありがとう」

 

 後ろからの声。タケルが俺とセイバーの横を通ってランサーのもとに歩みを進める。

 

「そして──ここからは僕の役目だ」

 

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