Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第六章 新世界への野望
第一節 人間としての決意(Side タケル&ランサー)


 前の戦いから、二日後。

 

「また戻って来てくれて嬉しい、タケル」

 

 彼方が住む部屋の玄関で、俺とランサーは改めて挨拶に来ていた。

 

「前まで暮らしていた隣の部屋が空いたままで良かった。聖杯戦争が終わるまでは、また隣人としてよろしく頼む」

 

「そー言うこと。またしばらくの間、仲良くしましょ」

 

 そんな感じで挨拶を済ませた後、自室へと戻った。

 

 

 

 部屋に戻って、休息をとる僕たち。

ランサーはソファーに座ってくつろいでいた。

 

「落ち着ける場所があるって、いいものね」

 

「……そうかも」

 

 そう呟くと、彼女はおかしそうにしてクスクス笑う。

 

「マスターってば、大分素直になったじゃない」

 

 そんなランサーの言葉に、僕は振り返って表情を緩める。

 

「──僕は怪物にはならない。一人の人間として、ガイアスと決着をつける。

 そのためにはランサーの力が必要だ。力が完全に回復するまで、今は休んでいてほしい」

 

「分かっているわ。体力も随分戻ったし、もう少しすれば元通りに戦える。安心して」

 

 今度はソファーにごろんと仰向けになって、ぐっと背伸びをする彼女。

 

「じゃあアタシは昼寝でもしとくわね。二、三時間したら起こして頂戴」

 

 そう言うとクッションを手にとって顔に被せる。

 少し勝手な所もランサーらしい。言われた通り、彼女は寝かせておこうとは思った。……けれど。

 

「ランサー」

 

「……どうかした?」

 

 クッションを少しずらし、半分眠たそうな目を向けて彼女はこたえる。

 

「実は、どうしても君に伝えたいことがある。──僕の復讐について」

 

 ランサーは「それで?」と言うような様子。

 少し呼吸を整えて、僕はこう伝えた。

 

「ランサー、君は僕の武器として、代わりに手を汚すと契約した。仇を討つ時には力を借りると。

 けれど……もうそんな必要はない」

 

「何言っているのよ。ついさっき怪物にならないって言ったクセに、結局自分で仇を討ちたいってこと? このアタシが認めるでも」

 

 怒りを込めて睨むランサー。

 僕はそうじゃないと、静かに首を横に振る。

 

「そうじゃない、僕は君の力で戦う。ただ、君にも怪物に──誰かを手にかけて欲しくないだけ。

 ガイアスを倒す。けれど奴らと同じように殺したりはしたくないし、君にもさせたくない。捕まえて、償いは生きたままさせる」

 

 これに彼女は目を丸くする。それからため息を一つ。

 

「アタシは既に怪物なのに、どうかしているわ」

 

 けれど少し口元を緩めて、言った。

 

「でも悪くない考えね。簡単に殺すより、そっちの方が案外復讐になるかもしれないし。

 ……オーケーよ、マスター」

 

「良かった、君がそう言ってくれて。それと──」

 

 

 

 

 僕が振り返ると、ランサーは完全に目を閉じて、小さく寝息を立てていた。

 

(最後までは言えなかった。……もう一つ、伝えたいことがあったのに)

 

「──!」

 

 頭が痛い。激痛で冷や汗が流れて、くらついた。

 

「……ランサーが寝ていてくれて良かった。無駄な心配を……させるだろうし」

 

 ポケットを弄り、薬入れを出す。

 水を用意する暇もなく、錠剤を数粒出すとそのまま口に入れて、飲み込む。

 

(僕も変われたんだ。これくらいで弱音は言えない、まだしばらくは……)

 

 痛みは酷くなりつつあるけれど、ここしばらくは悪化もしていない。

 

(ライダー、アサシン……そしてキャスター。

 サーヴァントも半分近く減っている。アーチャー陣営──ガイアスも動く可能性だってある)

 

 決着をつけるには問題はないはず。

 そしてその後は──。

 

 

「すべてが終わった後……か」

 

 そんな事、今までは考える必要はなかった。

 仇をとったらそれで終い。僕の結末はとっくに『解って』いる、その先なんて存在しない。

 そう、僕の結末は……だけど。

 

 

 もう一度、ランサーを横目で見た。

 今は穏やかに眠っているように見える竜の少女。かつて怪物と化した哀れな女性の、写し身。

 

(サーヴァントは人間ではない。英霊──既にを迎えた何かの記録で、聖杯戦争のための駒。

 僕にとっては仇討ちの道具に過ぎなかった)

 

 今まではそれで済んでいた。なのに今は、そう割り切れない自分がいた。

 

「君には……幸せになって貰いたい」

 

 サーヴァントがどんな物か理解もしている。それに、こんな僕が誰かの幸福を願うなんて、自分でも滑稽でさえ思う。

 ただ、もしその願いが叶うのなら。

 

(もしサーヴァントではなく、人間になれたなら。また一からやり直せたなら。実現不可能な願いだとしても…………願い、か)

 

 ふいに思い出した、聖杯戦争は願いを叶えるための戦いでもあった事を。

 最後まで勝ち残ったマスターとサーヴァントには、望む願いを叶える権利が与えられる。叶える願いがない今まではどうでも良かった。

 

(今更、聖杯戦争に勝利したい理由が見つかるなんて。でも構わない)

 

 仇討ちと、もう一つの目的が出来た。

 

 

 マスター、サーヴァントを全て倒して、聖杯戦争に勝ち残る。

 ──もちろん、彼方とセイバーも最終的には。例外はない。

 

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