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刀による卓越した剣技が繰り出される。
「どうですか! ボクの技は!」
「んなもん……屁でもねぇさ」
その技は後ろに飛び退いて回避され、格闘家は構えを取る。
「技を放った隙は見逃さねぇ!」
拳の連打。剣士は刀で受け止め、反撃で切り払いを放つ。
所謂カウンター攻撃ってやつか。
「おっと、まだ負けないでありますよ」
一閃の直撃、相当のダメージが入る。
セイバーとバーサーカーの戦いはほとんど互角。次の一手、二手先で勝負が決まると言ってもいい。
「今度こそ決めますっ!」
剣気を貯めて、大技の居合斬りの構えを取る。
セイバーの必殺技ってやつだ。が、バーサーカーも同じく大技を放とうと──。
「残念! その技の発動より、こっちが早い!」
「!?」
一コンマ早く、格闘家が構えていた両手から波動弾が撃たれた。
──トドメの一撃を受けた剣士は力付き、倒れた。
対戦格闘ゲームの筐体に映る「YOUR LOSER」の赤文字と、セイバーが操作していた剣士のキャラがダウンしている画面。
「見たか! この勝負、俺の勝ちだ!」
対してゲームに勝利し、得意げなバーサーカー。
これには更にセイバーは顔を真っ赤にして悔しがる。
「こんなのボクがゲームに慣れてないだけですっ! もう一回! 今度こそ叩きのめすであります!」
「何度だって受けてやるさ。──マスター、小銭を頼む」
話があるとアルスに言われ、同行した先は裏路地にあるゲームセンターだった。
日があまり差さない薄暗い道に、ネオン照明で彩られた店。外から見れば若干いかがわしい雰囲気もしないではなかったものの、入ってみれば意外とちゃんとした店で安心した。
セイバー、バーサーカーが何戦目かの対戦に入ろうとする傍ら、アルスは近くのシートに座り俺に言った。
「ここのゲーセンはアタイのベストプレイスって奴さ。ゲームが好だったこと、意外だったか?」
「そんなことはない。俺もコインでするミニゲーム的なものとか遊んでみたけど、結構楽しかった。アルスに誘われなければ来ることもなかった。ちょっと感謝している」
「ちょっとってのはないだろ。大いに感謝するんだぜ」
カラカラと明るく笑うアルス。
話があると呼ばれて来れば、俺もセイバーもゲームセンターで遊ばせて貰えた。しかも代金は全て彼女持ちと来た。
気前が良いと言うべきか。
「まぁ彼方が楽しんでくれて良かったぜ。──さて、そろそろ」
アルスはシートから立ち、こう言った。
「彼方、そこのレースゲームを一緒にしないか。
さっき二、三回遊んだから大体の操作は覚えているだろ? アレはアタイが特に気に入ってるゲームなんだ。せっかくだしマスター同士でも対戦勝負に洒落込むのも悪くない」
ちょっとした提案といった言葉。
アルスの言うようにせっかくだ、俺はそれに乗ることにした。
彼女お気に入りのレースゲーム『スピリットレーサー』
運転席のシートとハンドル、実際の運転と近い操作で遊べるゲーム。かなりリアル風味なレースが楽しめる。
「さてと、腕がなるぜ」
隣り合う二人分の座席、俺は右側、アルスは左側の席に座る。
ここのゲームセンターではキャッシュをゲームセンター用の『コイン』に両替して遊ぶことができる。俺とアルスはそれぞれコインを入れてゲームの起動、二人でのマルチプレイを選択する。
「コースは彼方に選ばせてやるぜ。どのコースがいい? アタイとしては都市高速のレースがオススメだ」
確かに色々コースも豊富だ。
選ばせてくれるって言うなら、そうだな。
「なら、これにしてみようか」
選んだのは夜の浜辺を走るレースコース。何となく直感で選んでみた。
続いて車の選択だ。俺は青いスポーツカーを選ぶ。横を見るとアルスは二輪、大型のバイクを選択していた。ハーレーダビッドソンと言う奴だな。
コースと車を選び終えたら、いよいよゲームスタートだ。
プレイヤーとNPC、合わせて十三台の車によるレース。コースを三周して先にゴールを目指す、実にシンプルなルールになる。
「3、2……1! じゃあ──行くぜ!」
カウントを待って、俺達はアクセルを踏んだ。
砂浜を走る俺のスポーツカー。スタートダッシュを決めたアルスのバイクが目の前を走る。
「くっ、早速越されたか」
「こんくらい軽い軽い。アタイにとってはイージーだ」
「たった最初だけだ! すぐにでも追いついてみせる」
そんな感じでレースをする俺達。
ゲームに集中して、もちろん楽しみながらあっと言う間に一周目を終える。
順位は俺が五位、アルスが四位。
今度は追い越してみせる。そんな思いで二周目に入ったタイミングだった。
「なぁ、彼方」
レースの最中、アルスが声をかけて来た。
さり気ない様子ではあったものの、少し雰囲気が違うように感じた。
「どうかした?」
「彼方はどうして聖杯戦争を戦っていられる。成り行きで参加して、自分のサーヴァントを守るために戦って。……特に叶えたい願いがあるわけじゃねぇのに」
藪から棒な質問。こんな事を急に言われるとは思わなかったけれど、俺は正直に答える。
「俺にとってはセイバーを失いたくないのも大事な理由だ。
聖杯戦争にかける願いは確かにない。けれど叶えたい夢そのものはある」
「へぇ? どんな夢だよ」
カーブに差し掛かる中、上手く切り替えしてアルスのバイクとの距離を縮める。
ゲームに集中しながらも俺は彼女に話した。
「俺は、空のずっと先──宇宙を目指したい。この星を離れて彼方まで、それが俺の夢だ。
夢のために学んで、将来的には宇宙航行士になって宇宙探査に出る。聖杯に頼らなくても自分の力でも叶えてみせる」
「なるほど、だから聖杯には興味はないってか」
トーンが下がった声で呟くアルス。
「……そうかよ。自分で願いを叶えられるなんて、いい身分だな。
どっち道、聖杯なんて必要すらないのにアタイの願いの邪魔するってのかよ」
「俺はそんなつもりじゃ──」
そう言おうとしたけれど途中で止めた。
彼女の言う通り、聖杯戦争には半分巻き込まれただけに過ぎない。それに願いを賭けている他のマスター、アルスにとってみれば、聖杯を必要としない俺の存在は癪に障っても不思議じゃない。
レースもついに三周目。他のNPCの車を追い越して俺が二位でアルスが一位。
互いに拮抗している中、彼女は言う。
「彼方、アタイの願いを教えてやるよ。
アタイは望むのは『何にも縛られない力』だ。……ずっと本当の自由じゃなかった、自由を手に入れるには絶対的な力がいる。
聖杯でなければ叶えられない願い、だから聖杯戦争には本気(マジ)だ。中途半端な彼方は気に入らねぇ」
彼女の気持ち、言葉は否定出来ない。
──いや、一つだけある。
「確かに俺自身は聖杯を必要としない。けれど、俺が戦いに負ければ大切な友達が犠牲になる」
俺が操作するスポーツカーがアルスのバイクに追いつき、同列に並ぶ。
「──中途半端ではない。セイバーを守ることも俺が叶えたい願い、本気なのは君と同じだ!」
そしてゲームでもゴールインした。トップでゴールインしたのは──。
「その意気はある程度認めてはいるさ。……けれどやっぱ甘いんだよ」
アルスのバイクが一位でゴール。俺は結局ゲームで勝つことは叶わなかった。
座席から立ち、俺達は向かい合う。彼女はこっちを見据えて言う。
「人は自分自身の為にこそマジになれる。なのに他人に気を回すなんて、聖杯戦争では間違っている。
これではっきりした」
「はっきりしたって、何がさ」
俺の問いにアルスの視線は鋭く、端的に答えた。
「彼方──アタイはお前に負けないってことがだ」
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その後もゲームセンターでそれなりに遊んだ後、解散することになった。
「今日は付き合ってくれてサンキューな」
アルスは笑顔を投げかけて言った。
「俺の方こそありがとう。楽しかったし、良い経験も出来た」
「……」
少し間が空く。彼女はこんな事を話す。
「聖杯戦争で最大の脅威はアーチャー陣営だ。それにマスターも危険なテロリストだって知ったら放ってもおけない。
居場所はハルが捜査中とも聞いた。だから戦うその時には、アタイとバーサーカーも力を貸す」
そっか、アーチャーについても知ってはいたのか。
現在潜伏して居場所は不明。……だけれど何か企てを行っていることは知っている。一刻でも早く倒したいのは俺も同じだ。
「そしてアーチャーを倒した後、今度こそ彼方との決着をつける。──忘れんなよ」
俺は頷いて答える。そして再度別れの言葉を交わして解散した。
──聖杯戦争で力を願うアルス。願いに賭ける想いも人一倍なのも感じた。
だから俺とは反りが合わない部分があるのも理解できる。それでも、俺にだって負けられない理由がある。
「この街のゲームセンターも楽しかったでありますね。格闘ゲームではバーサーカーに勝てませんでしたけど」
隣を歩いて話すセイバー。上を見上げて、自信沢山に言った。
「ま、いいでありますよ! 大事なのは聖杯戦争、次の戦いでは必ずバーサーカーをブッ倒しますから。ですよね主さま?」
「もちろん。相手が誰だとしても、俺とセイバーは負けない」
頼もしいボクのサーヴァントだ。
残りの聖杯戦争も絶対に勝ち抜いてみせる。この先も友達と──セイバーといたいから。