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三味線を鳴らしながら、僕はついに完成した『傑作』を見上げる。
──ようやくこの時が来た。少し手間は取ったものの、これで手筈は整った。
「素晴らしいじゃないか……さすが僕だ」
思わず一人呟いてしまう。
自分の才能に我ながら惚れ惚れしてしまう。まぁ、あのマスターが魔術世界や現実社会に太いパイプ、資本力があったおかげでもあるが。
(噂をすれば、か)
扉の開く音。国際的テロ組織の首魁で、地位のある魔術師である俺のマスターがやって来た。
「……ずいぶんと待たせてくれたな」
「悪いね、マスター。けれど勝利は確実なものとなった。喜んでくれたまえ」
「言葉には気をつけろ。貴様は儂の使い魔だ、尽くすのは当然の義務と知れ」
全く、この調子には困ったものだ。
地位の高い魔術師ほど、あんな感じになるんだろうかね。まぁ、いいさ。
僕はマスターの横にいる彼にも声をかける。
「君の尽力にも助かったよ、レルケン卿」
片眼鏡をかけた貴族風の丸男、レルケン卿を伴い、僕へと近づく。
彼にはアレの開発を大いに手伝ってもらった。ああ見えても魔術工学と現代科学にも精通している技術者でもある。
この時代にも、大分面白い男がいるものだ。
「光栄至極。時間こそ必要でしたが素晴らしい作品となりました。
勿論、アーチャーの主導があればこそ。彼の知識と発想は吾輩から見ても天才だ。尊敬に値する」
「照れるじゃないか。無事に完成したのは君のおかげでもある、誇ってくれてもいい」
彼は両腕を広げて感極まる様子で言う。
「吾輩も感激ですな。魔術と科学の融合した大いなる力、いや、神代魔術と同等の力の行使さえも理論上可能な……まさに機神と言うべきか」
「『機神』──良い響きじゃないか」
機械の巨躯に、神の如き力。実にふさわしい名前だ。
思わず笑みがこぼれてしまうな。『聖遺物』を組み込みサーヴァントと同等の戦闘力を発揮する、あのアルビ・マキナと言うオートマタもいいセンスだ、彼とは実に気が合う。
「黙れ、アーチャー」
マスターは冷淡に僕に一喝する。
「貴様の考えなど興味ない。この力は儂のものだ、サーヴァントはサーヴァントらしく儂に従い、尽くせばそれで良いのだ」
「……」
ははっ、僕のマスターとは大違いだ。
彼も彼でいい気なもので、しわがれた声で笑い声をあげていた。
「くくっ……これで儂の望みは叶う。圧倒的な力で今の文明を焼き尽くし、再び魔術世界の再興を果たす。
そして聖杯も手に入れれば一族の悲願でもある根源にさえ到達出来るのだ。儂が! 儂こそが聖杯戦争の勝者となる!」
一人野望に酔うマスター。
望みなんて人それぞれだ。それを叶えるためにはどんな手段でも使う。
たとえ誰を犠牲にしても。非道ではあっても咎めることは僕に出来ない
(その点で言えば、僕も人のことは言えないか。こっちにも別に目的ってものがある)
その為に作ったのがこれだ。マスターはあれを自分の物だと思っている。
なまじ魔術師の分、サーヴァントは使役されるべき使い魔として考えるものだ。レルケン卿はちょっと違うのにな。
(おかげで付け入る隙もあった。手筈は全て整え、後は起動させるだけだとも)
こっちとしてもあと少し。
そうなれば僕にとっても、いよいよもって本番だ。
さぁ、待っているといいさ。
──この世界の運命を決める時だ。