高杉晋作──江戸時代の末期、『幕末』と呼ばれていた時代、長州の藩士であった男だ。
尊王攘夷の思想を掲げ、江戸幕府を打倒するべく『奇兵隊』を組織した英傑。実際に幕府を相手に戦争を起こし、当時は最新式であった兵器、西洋式の艦隊を指揮して幕府軍さえも打ち破った。
(高杉晋作と奇兵隊、日本史でも知名度は高い名前なのは知っている。となると、その能力──宝具も)
俺はアーチャーの能力を思い出す。
自らが所有する兵器を最新式のものにまで強化する力。つまり、その力もまた史実に類するもの。
「ほう? 僕の真名を聞いて察したみたいだね。
──じゃあ改めて紹介しよう。僕の能力、『武装維新』を」
彼に呼び起こされるように、控えていた人型機体が稼働する。
「敵機全てから魔力を感じます。アーチャーの能力による強化ですか」
「セイバーとそのマスター君はご存知だろう?
僕は僕自身が所有する兵器や軍隊を強化できる。僕の奇兵隊、かつて幕府軍を西洋式の最新武装で蹂躙したように。
さぁ! 今から再現と行こうじゃないか!」
アーチャーの合図とともに、彼の軍隊が俺達を襲う。
「今更ブリキ人形が相手になるかよ!」
ブレードを展開した小型機体の真正面からの突撃。バーサーカーが剣を構えて受け止めるけれど──その一撃は重く。
「……ちっ!? さっき相手した奴よりパワーがありやがる!」
当然一機だけじゃない。更に二機の小型機体が加わり、防戦となるバーサーカー。
「こっちも手が離せないわ! 厄介だわね、このっ!」
ランサーは人型機体を槍で貫く。……が、それでも動きを止めず、腕先の砲門を向ける。
とっさに離れる彼女。しかし敵機に囲まれ集中砲火を浴びせられた。
「耐久、火力も強化されているわけ。分かってはいたけれどっ!?」
「敵兵の強化と物量……合わさるとこんなに厄介でありますか!」
今相手にしている敵機はアーチャーにより強化されたもの。
逆に言えば甲板上で相手にしていた敵はそうでもなかった。……これが彼の本領、本気と言うわけか。
セイバーも人型機体を相手にしている。
その最中、敵陣の奥に佇むランサーの姿を見据え、瞬時に太刀を変形させる。
「けれどアーチャーが姿を見せている今なら! ここで仕留めれば終わりであります!」
確かに今、この時はチャンスでもある。
敵が何を企んでいるにしろ、アーチャーもその要になっている可能性は高い。ここで倒すことが出来るのなら。
セイバーの高速機動なら阻む間もない。彼に迫ったセイバーは短刀を抜き、その首元に狙いを定める。
「その首、貰いますっ!!」
刃の煌き、それをアーチャーは抜いた刀で防ぐ。
「──簡単には殺されないさ」
同時に後ろの壁が開き通路が現れる。その逃げ場を使い退避しようとするアーチャーを追うセイバーと、セイバーの後に続く俺。
今の状況、人型機体はサーヴァントしか相手にしていない。強化した身体能力で敵機を掻い潜り、容易に隠し通路に入ることが出来た。しかし、俺が入ったその瞬間に入口が閉ざされる。
「しまった……」
向こうにはタケルとアルス、二人のサーヴァント達がいる。
閉じられた扉は固く、俺ではどうする事も出来ない。
「セイバーっ!」
セイバーはすぐ目の前にいた。手には太刀を握り、足元には斃れているアーチャーの姿。
まさか仕留めたのか、こんなに呆気なく。
「アーチャーを倒したのか?」
「いえ……残念ですが、コレはただの傀儡です」
俺は歩み寄り、改めてアーチャーを見た。
セイバーによって刺し貫かれたであろう胸の傷。そこから覗くのは精密な機械のパーツ。
「サーヴァント特有の魔力まで偽装するなんて……倒すまで気づかないなんて間抜けにも程があるであります。
いえ、確かにアーチャーの気配はあの時近くにありました。もしや本体も近くにいて、別の場所で隠れていたと言うことも……」
「そんなの今更仕方ない。早く引き返してタケル達に合流を──」
セイバーの力なら扉を斬ることも出来るはず。向こうでも戦いが続いている音が響く、今すぐなら間に合うはず。
最も、そんな事はさせてくれそうにもなかった。
俺とセイバーの立つ通路が、ガコンと言う音とともに下へと下降する。
「この場所がエレベーターそのもの──と言うわけですか」
俺達がいる通路の一部が切り離され、そのまま下層へと降りている。
「完全に離された。これじゃあ、合流は難しい」
「心配しなくてもボクがいれば大丈夫でありますよ。それに、下に向かっているのなら好都合。黒幕もろともブッ潰すだけです!」
自信げに言うセイバー。確かに心強くはあるけれど、この状況は罠であることは確か。油断は出来ない。
エレベーターはしばらく下降を続け、ある地点で止まった。
「でもさすがにボスの所に直通……なんて、甘くはないでありますか」
到着した場所はアリーナのような空間。中央には人型をした存在が佇んでいる、人間と同程度のサイズだ。
敵は一体だけ。けれどその雰囲気は異質だった。
「さっきまでの敵とは感じが違うでありますね。……同じ機械ではありますけれど、強力な魔力炉心を備えている、オートマタですか」
中央に立つオートマタは頭部を向け、赤く輝くバイザーで俺達を見据える。
体格はセイバーと同じほどで、手に構えているのは機械製の大太刀。……もしかするとセイバーを真似て作られたのか。
「こんな物まで用意して、本当に俺達を待ち構えていた訳か」
「面白いであります。そんなに挑戦したいなら、受けて立ってあげますよ」
セイバーはアリーナの中央に進み出る。
オートマタの正面に立つと、同じく太刀を構えて向かい合い、出方を待つ。
「──どこからでも来て構いません」
その一言が合図のように、オートマタは先手を取り突撃をしかける。
鋭い太刀による突きをセイバーは右に跳んで回避。が、容易く予測したように横薙ぎで連撃を仕掛ける。
「なるほどっ!」
体操選手のような体術で床をたたき、宙返りをして再度回避するセイバー。同時にオートマタへの反撃、太刀を振りかぶり斬撃を放つ。
──しかし敵は素早く回避する。
着地したのち、セイバーは再度迫る。互いの太刀による攻防戦が繰り広げられる。
「予想していた通り、コイツ、ボクの戦闘能力を真似しているでありますね」
「……やっぱり」
俺から見ても、オートマタの動きはセイバーの鏡写し。
高速剣術に追従し、自在に太刀を操り先頭を行う。殆どそのままと言っていい。
「ここまで真似られるのは褒めてやります。なら、これはどうでありますか?」
一旦距離を離し、太刀をボードに変形。そして短刀に武器を換え構えるセイバー。
対するオートマタは、太刀が分離変形し背部に搭載。翼のようなバインダーを展開させる。そして腕の甲からビームの刃を展開し、同様に構えた。
「そっちの場合は合体ですか。フィギュアやプラモなら人気は出そうではありますが……容赦はしません!」
互いに宙を飛び、先程以上の高速戦闘を空中で行う。
セイバーの飛翔能力まで模倣したスペック。ボードに乗り短刀を武器とする、セイバー第二の戦闘スタイルにまで追従し、互角の戦闘を行う。
(あんな戦闘能力を持つロボット──オートマタ。外見だけでも今現在のロボット工学とは別体系で構築されているのは分かる。これも魔術が使われているのか? だとしても、あんな機械を作れるなんて)
制作者は間違いなく天才だ。俺でさえそう思えるほどの性能だ。
──けれど、あくまでセイバーの真似にすぎない。
「強いですが、問題ありません! 主さま!」
セイバーが持つ短刀が宙に煌き、オートマタの頭部を刎ね飛ばした。
「ボクの真似をして強くなっても、結局はただのオートマタ。敵ではないであります」
本物には及ばない。一撃で首を失ったオートマタ。
生物なら間違いなく致命傷、けれど敵は機械だ。確かに首を無くしても、ものともせずに戦闘態勢を崩さない。
「……でも少しタフでありますね。倒し切るにはあと少しだけ、時間が必要そうです」
時間──その言葉を聞いて胸の内に焦燥が奔る。
確かにセイバーは目の前の敵に勝てる。けれど本当の敵はまだ先にいて、こんな所で時間を使ってはいられない。
せめてタケル達は先に進めていることを願う。