俺たちはテロ組織ガイアスとアーチャーの企みを止めるために本拠地へと突入した。
多数の人型機体、そしてオートマタの妨害を受けながらも俺とタケルにアルス、そしてサーヴァントを伴って先に進み、最深部の司令室にたどり着いた。
待ち構えていた敵の親玉、ガイアスの総帥。
決着と思っていた……けれど、その男はもう。
「彼はとっくに、殺されているのよ」
司令室の椅子から崩れ倒れた身体と、転がる首。絶命しているのは見て分かる。
「……本当に死んでいるのか。この死体も、本人ではない偽物かも」
俺は言った。
少し前にアーチャーの偽物に騙させたこともある。油断させるために同じ手を使うことも考えられた。
ランサーは死体の右腕を掴む。腕先と手が切り離され、綺麗な断面を残すだけの右腕だ。
「偽物だったとして、わざわざこんな真似までする? 彼を殺して、令呪が刻まれた腕を奪ったのが自然じゃない」
「この腕の断面、それに首も」
続いてセイバーも死体に近づく。総帥の生首を掴み、傷跡を覗く。
「鋭利な刃で一瞬で命を奪った。この断面は『刀』によるものであります。
卓越した剣士である誰か、可能性が高いのは──」
刀を武器として扱う人物、いや、サーヴァントに覚えがあった。
一人は僕のサーヴァント、セイバー。……そしてもう一人。
「どこにいるか分からない。けれど、俺達を監視しているんだろ──アーチャー」
『御名答。それでこそ、ここまで勝ち残ったマスターだ』
ホログラムのモニターが出現し、不敵な笑みを浮かべるアーチャーの姿が映る。
『いやぁ、映像での挨拶だが許してほしい。
──特にランサーのマスター君。仇討ちを台無しにしてしまった事は、特に悪いとは思っている。しっかり殺すつもりなら君に仇を取らせようとも思ってはいたんだが、生け捕りとなっては僕としても都合が悪かったんだ』
「どうして……殺したんだ」
タケルが呟くのを聞いた。
対してアーチャーは、当たり前かのようにこう答えた。
『理由はいくらだってある。何せこの男は無辜の人々を大勢殺したところで何とも思わない悪党で、性格だって悪い。僕の事も奴隷のように扱っていもいたしな。
まぁ高位の魔術師ならそんなものかもだが。けれど一番は……』
モニター越しに転がる死体を見下し、冷たく言った。
『時代は先を行くものさ。なのに、科学に排斥された魔術世界を取り戻すため、歴史を過去に戻すだって?
そんなもの、呆れるほどにつまらん」
その言葉を最後に自分が殺した男への関心が消えたようだった。
何事もなかったかのように僕たちを相手に、いつもの態度で話す。
『さてと、改めてよく来てくれた。今から始まる新時代の幕開け、ここはその特等席だ。
僕の目的は……『世界征服』。聖杯を運用して聖杯戦争を行い、科学技術によって現代の世界を支配している大企業、『コズミック・セントラル社』の全てを手にし、覇権を握ること』
「世界征服だって? 悪役じゃあるまいし……」
アニメの悪役が言いそうなセリフ。けれど、その言葉が冗談ではないことは分かりきっている。
近くにいるアルスさえ苦笑いを浮かべている。
「ははっ、笑えないジョークだ」
『分かっていると思うが、酔狂で言ってるんじゃないぜ? 聖杯戦争に付き合うよりも、大元を直接手に入れた方がずっと確実だ。聖杯の力、そして世界を動かす大企業と最先端技術そのものが手に入る。
──人類は宇宙にまで踏み出した。あまりにも面白いし、そんな世界は何が何でも欲しい。安心したまえ、僕が世界を手に入れた暁には、人類の更なる発展を約束しよう。
夢のようじゃないか。宇宙船団を率いて、大宇宙の深淵に乗り出して文明を拡大する。生前になし得なかった僕の『維新』、今度こそ成し遂げてみせる』
けれども、夢を語るアーチャーの口ぶりと輝く瞳。
「──」
今の時代、宇宙に夢を見るアーチャー。
共感出来てしまうし、想いも分かってしまう。
人類史の記録、死者の影法師。だとしても目の前にいるサーヴァント・アーチャーは夢を語り、信念がある。
彼のマスターは既にない。ここから先は正真正銘アーチャー自身──真名、高杉晋作の野望だ。
『僕の野望にはかなりの時間がかかったよ。
実につまらないヤツだったが、それでも魔術世界にもパイプがあり、テロ組織としての資金も持ち合わせていた。マスターを利用して魔術のリソースと資産力で計画を進め、時には裏で手を回しながら。
細工は流々……後は仕上げを御覧じろってことだ!』
奥の壁が展開し、消失する。
壁一面が窓に置き換えられる。その先に見えたものは──。
「巨大ロボットの……頭だと?」
機械仕掛けの頭部、形態は人間の顔に近く、光のない二つの目が窓越しに俺達を覗いていた。
『魔術と科学が融合した大いなる機械の神、まさにロマンじゃないか。
殺して奪った腕の令呪も核へと取り込むことで、本体そのものがマスターの代わりとして機能する。おかげで問題なく現界が叶っている。
この世界における科学と魔術工学の粋を結集した絶大な力。──聖杯さえ組み込めば本物の神にさえ並ぶ力が発揮出来るとは思うが、今は高望みを止めておこう』
──機械の眼窩が赤く輝いて、辺りが揺れる。
『これが僕の力、神に近しい権能を保つ大絡繰機構。
さぁ起動の時だ! 亜級機神アラハバキ! 目指すは空の遥か先、宇宙にこそある!』
────
ガイアス本拠地、巨大な海上コンビナートの甲板上に現れた白鉄の城……機械の巨人。
「本当に馬鹿デカいロボットだな」
俺たちも最深部からここまで戻って来ていた。
「外まで直通していたあの大穴があって助かった。おかげ迎撃に間に合いそうだ」
「アルビ・マキナとの戦いで空いた穴、こんな事で使うなんて」
竜の翼をはためかせながらランサーは呟いて、抱いて運んでいたタケルを下ろす。
「……っ、やっと上まで登って来た!」
少ししてから穴を駆け上っていたバーサーカーが追いついた。アルスはその背中にしがみ付いている。
「ぜぇ……しんどかったぜ。セイバーやランサーのように飛べれば、どんなに楽だったか
飛べない代わりに、両腕を使って猛スピードでのクライミング。それに掴まっていたんだ。
飛行ボードにセイバーと相乗りした俺や、翼の生えたランサーに運んでもらったタケルと比べて大変なのは想像が出来る。
ともあれ、今は目の前の光景をどうにかしなければいけない。
アーチャーの作り出したあの巨大ロボット──『亜級機神アラハバキ』
甲板に姿を現したそれは全長三十メートルを超え、月光を反射する白鉄の体躯と、全身に流れる紅いAエナジーの発光部。
全身を覆う重装甲に、ガントレット型の大型の両腕が特徴的だ。
「文字通り、宇宙を目指すつもりかよ」
そしてアラハバキの下半身。
スカートのように複数基のロケットが装備されていて、発射準備は整っていると言っていい。
ハルからの通信が折り返しで届く。少し前に俺は現状……ガイアスの総帥の死と、アーチャーの目的について伝えていた。
『──サーヴァント・アーチャーは巨大兵器により宙へ上がり、コズミック・セントラル本社の制圧を目論んでいる。
彼の言うように、確かに聖杯は本社に存在しています。制圧、掌握は私としても阻止しなければならない事態、最大兵力による一斉攻撃を試みていますが……』
ここからでも状況は見えている。
イナゴの群れを思わせる大量のドローン、さらには輸送船で運び込んだ戦闘用人型機体による総攻撃。発射態勢のままアラハバキはその場から動かない。
まさに好機、けれど攻撃はマトモに通じていない。一斉攻撃の嵐は全身を覆うバリアによって尽く弾かれ、通じない。
『この程度では相手じゃない。そら! お返しだ!』
背部に並ぶ多数のハッチが開き、指向性のレーザービームが放たれる。
エネルギーの雨は一筋一筋が目標を捉えて、的確に撃破する。あまりにも一方的で、他愛もない結果だった。
『……君たちも、僕を止めるつもりかい?』
俺達がここまで来たことも気づかれていた。
頭部のみ振り向くアラハバキと、通信で届く搭乗者、アーチャーの声。
アルスは前に出て、拳を握って叫ぶ。
「当然だろっ! アタイは願いを叶えるために戦って来たんだ! それを横取りなんて……誰だろうとさせるものかよ!!」
タケルも続くように言う。
「仇だったあの男はいない。けれど、いまやろうとしている事は、あいつが遺したものである事に代わりはない。
なら──けじめだけはここでつける」
『そうかい。なら、やってみるがいいさ!』
バーサーカー、ランサーが迫る。
「だぁっ!!」
剣を振りかぶり、叩きつける。……が、攻撃はバリアで防がれる。
「ちゃんとしなさいよバーサーカー! 今度はアタシが!」
次はランサーの槍が繰り出される。けれど結果は同じ、攻撃は一切通らない。
『たとえサーヴァントだろうと届かない。この僕に──アラハバキには。
次はこっちの番だとも!』
ドローンの大群を撃破したものと同じ、多数のビームが放たれる。
ランサー、バーサーカーはそれぞれ攻撃を避ける。それでもエネルギーは曲線を描いて追い、追跡を止めない。
飛翔するランサーを追って来る幾つもの赤い光の軌跡。バーサーカーは甲板上を駆けて光筋を回避、避けられたビームは辺りに降り注ぎ、爆発を起こす。
「……っ冗談じゃない!?」
先に限界が来たランサーは攻撃を弾こうと試みる。しかし、受け止め切れずに吹き飛ばされ、壁に衝突する。
「ちぃっ──ミスったわ」
更に迫るビーム。このままだと直撃は免れない。
けれど……まだ俺のサーヴァント、セイバーがいる。
「貸しでありますよ! ランサー」
攻撃に迫るビームを、同じく短刀の──エネルギーの刃で流れを変え、別方向に屈折させ弾く。
「無駄に攻撃をしたって同じであります。まずはバリアを何とかしないと」
「それが出来れば苦労しないわよ!」
攻撃の手は止まない。アラハバキからさらに放たれるビーム、セイバーたちは回避しながらも反撃の糸口を探る。
『こちらでも援護します。ドローン部隊の追加、および無人艦隊による全砲発射。目標は前方の巨大人型兵器……急所と思われる胴体に狙いを集中します』
ハルからの言葉。
海上を確認すると、そこには三隻の大型戦艦が確認出来た。
砲門を回し、全門をアラハバキに向けて、放った。
強力なエネルギーがまとめて着弾し、閃光が巨体を覆う。
「……やったか?」
結果から言えば、これさえもノーダメージだった。……けれども。
『やって……くれたじゃないか』
身体をかばうようにして、腕のガントレットで防ぐ構え。そして、全身を覆うバリアに中規模の亀裂が入っていた。
『さすがはコズミック・セントラルの最新兵器。大層な威力だと言うことか』
アーチャーの言葉とともに、両肩に備えられた円形の装置が淡く発光する。呼応するように傷ついたバリアが修復される。
そして今度は右腕腕を掲げて、手の平を艦隊へと向ける。
『まぁいい。こっちの兵装の試し打ちと行こうか』
──放たれたのは、戦艦の砲撃を遥かに上回る一撃。
大口径のビームは海を割り、艦隊に直撃する。瞬間の静寂の後、光球が膨れ上がり全ての戦艦を呑み込んだ。
まるで昼間のような明るさで空を照らすほどの眩い光、そして衝撃波。
「く……っ」
目が潰れそうなほどの光と、衝撃から身を守るために右腕で顔を覆う。
「ったく、何て威力でありますか。砲撃にも無傷で、一撃で三隻の戦艦をまとめて排除するなんて」
「確かに威力は凄い。けれど、あれだけの威力なら至近距離で使うのは難しいはずだ。それに……」
俺はアラハバキの両肩にある装置を指し示す。
「あの両肩にある装置、あれがバリアを発生させている装置だ。どうにか破壊する事が出来れば、守りは無くなるはず」
「成る程、シールドに穴を開けて、修復される前に発生装置を破壊する。攻略法が見えて来たでありますよ!」
セイバーは縮地をかけて敵に迫る。
ビームの追尾も直撃寸前に掻い潜って跳び、左肩部に迫る。
「一気に突破口を開けますっ! オーキッドラウンズ──」
宝具を展開してバリアを破壊しようとした、その時に……別方向からビームが飛んで来た。
「なにっ!?」
アラハバキから多数放たれたのは自律行動が可能な円盤型のドローン。
宝具発動が中断されて、円盤ドローンを相手にするセイバー。複数方向からの射撃に加えて、本体周囲にエネルギーの刃を纏わせての回転突撃。
さながらビームのチェーンソーだ。セイバーも、ランサー、バーサーカーも応戦する。
「こんなのまで相手になんて、本当に面倒ね!」
槍でドローンの突撃を受け止め、叩き落とすランサー。そんな彼女に三方向から更なるドローンの追撃が迫る。──が、それは味方、コズミック・セントラル側のドローンによって撃ち落とされる。
少し前に全滅はさせられていたが、既に更なる増援が届いていた。
『指揮下にあるドローンは各サーヴァントの援護に回しています。これで、少しは戦いやすくはなるはずです』
ハルからの通信。彼女が指揮するドローンはサーヴァントの代わりに敵の円盤ドローンを相手に戦い、敵を引き付けている。
更にアラハバキ本体から放たれる追尾ビームの雨も、ドローンが身代わりになって防ぐ。
『全く……物量押しとは厄介だ!』
「チャンスだな! 両側から一気に破壊するぜ、セイバー!」
バーサーカーはアラハバキ両肩にあるバリア発生装置の内、右肩のそれを狙う。
セイバーも合わせて武器を構える。
「承知ですっ! 今度こそ──オーキッドラウンズ……セイバー!!」
「引き裂けっ! 赤原猟犬(フルンディング)!!」
左右同時、蒼と朱、二撃の斬撃が機神を阻む障壁に衝突する。
両方向からの宝具にバリアは振動し、亀裂が入り……砕けた。
「邪魔な守りは剥がさせてもらうぜ!」
そして勢いのままに発生装置に損傷も与えた。
バリアの守りは薄くなり、ランサーはアラハバキの正面に浮かび、トドメとばかりに放つ。
「喰らいなさい、デカブツ! 鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!」
彼女の宝具、魔力を込めた破壊的な衝撃音波。
絶対的な守りだったドーム状のバリアも、耐えられずひび割れ──ついには完全に砕けた。
『アラハバキの……守りを……っ』
「こうなればこっちのものだぜ! 喰らいなっ!!」
真っ先に向かったのはバーサーカー。守りの消えたアラハバキに一撃を放とうと。
しかし、同時に放たれたのはアラハバキの拳。
『あまり調子に……乗らないことだ!』
「──!!!」
バーサーカーは吹き飛ばされた。このまま行けば地平線まて飛ばされるほどの威力だ。
「させないわよっ!」
寸前に近くにいたランサーが受け止めようとする。が、あまりの衝撃で二人とも飛ばされ、かなり離れた場所に落下する。
「がぁ……はぁ、っ」
「大丈夫かよ! ……くそっ」
拳の一撃を食らったバーサーカーと、駆け寄るアルス。
恐らく完全な直撃を防ぐために剣で守りを入れたのか、ダメージに耐えられずに砕け、無惨に折れていた。バーサーカー本人も殆ど再起不能な程の傷……これ以上戦うことはおろか、起き上がることさえ無理に見えた。
「……やっぱキツい戦いね。アタシ……は……っ」
バーサーカーを受け止めたランサーは何とか起き上がる。それでもダメージは彼女にもあったらしく、息を切らして苦悶の表情を浮かべていた。
『どうやら、少し遊び過ぎたみたいだ』
残存していたドローンをまとめて巨腕で薙ぎ払う。
『残念だけれど、君たちの頑張りはここまでだ。アラハバキは間もなく宇宙に向けて発射される。幾らサーヴァントでも宇宙までは追っては来れないだろう』
アラハバキに取り付けられたロケットが点火し、今まさに発射しようとしている。
アーチャーの言うとおり、宇宙に行ってしまえばもう打つ手もない。
「そんなの、阻止してみせます!!」
セイバーはアラハバキに向けて突貫する。
ボードの高速機動でビームを掻い潜って狙うのは、本体に繋がっているロケットの一基。
一撃の斬撃でそのロケットは爆散し、続けて二基目のロケットを破壊しようと迫る。
『サーヴァントごときに邪魔はさせない』
瞬間、アラハバキを中心に白い光球、超高電磁波が広がった。
全方位に放たれた落雷と同等、それ以上の電撃にセイバーは撃ち落とされる。
そして落下してゆくセイバーを潰そうと、アラハバキはその左掌を振り下ろす。強力な叩きつけはコンビナート全体を揺るがす。まさか……そのまま。
「やられない……であります!」
機神の大腕に刻まれた斬撃。太刀で斬り上げたセイバーの一撃は、鋼の装甲に傷を入れた。
「このまま炉心ごとボクの宝具で────!」
瞬間、アラハバキの頭部がセイバーを捉え、その右目からビームが放たれる。
電撃のダメージも大きかったのか、回避さえ出来ずに直撃を受けた。
「セイバー!?」
飛ばされて来たセイバー。向かう方向は海、落下する前に俺は受け止めようと駆けた。
目の前、今まさに海に落下しようとするその身体。
「間に合えっ!」
脚に力を注いで跳躍、抱きとめる事に成功した。そしてそのまま下に落下。着地しようと試みるけれど、思った以上の勢いとセイバーを受け止めた反動で失敗した。
勢いよく転倒。セイバーを庇って背中と後頭部を強く打ち付ける。
『それじゃあ今度こそさよならだ。僕が世界を握る瞬間を、大人しく待っているといいさ』
点火したロケットはついに飛び立ち、アーチャーが作り出した機神は宇宙へと上がる。
空へと加速し上昇してゆくアラハバキを追う余力は、もう既にない。
(……やばい、頭を打ったせいか……意識が朦朧と……)
目の前の景色がかすみ遠のく意識。その最中、何かの記憶が脳内をよぎる。
ずっと昔、幼い頃に誰かと二人でいた記憶。
あれは……そうだ。
ずっと俺が忘れていた、かつての思い出だった。