僕が乗るアラハバキは雲海を突破する。
計十六……いや、セイバーに一基壊された分を除いた十五基のロケットで空を上がる。
加速は続いている。程なく成層圏も突破するだろう。
(対サーヴァント戦で想定以上に手間を取ってしまった、損傷は……)
セイバーに斬られた腕部の傷、そして両肩のバリア発生機。
腕の傷は浅いものの、発生機の傷は厄介だ。自動修理機構である程度の修復を行い機能は戻ったものの、バリアの強度は通常の七割にまで低下している。
加えて地上での戦闘によるエネルギーの消費もある。
(……まぁいい。それ以外の兵装は万全、エネルギー消費もカバー出来る範囲内。何も問題ないはずだ)
成層圏を超え、僕とアラハバキはついにたどり着く。
「宇宙──か」
宇宙……僕が生前の時代には考えすらしなかった。
空の向こう、果てしなく広がる星の海。
アラハバキ下部に装着されていたロケットは役目を終えてパージ、本体の両脚部に備えたブースターを点火し航行を続ける。
軌道エレベーターを辿り、向かうはこの世界の最新技術を独占している巨大企業、コズミック・セントラルの本社だ。
既にエレベーターの中間地点にある宇宙ステーションは通過した。このまま行けば程なくして到達するだろう。
(──かつてコズミック・セントラルの現会長である天原銀星が行った小惑星探査。星さえも超える文明の急速な発展はそこから始まった。
半世紀も経った今もなお、あの小惑星には何かがあるはずさ。でなければ本社なんて構えるはずもない)
僕が召喚された聖杯戦争も魔術によるものじゃない。
不明の超技術により英霊召喚を行い、聖杯戦争を運営している。その『聖杯』に当たるものは、果たして──。
モニターに視認出来たのは、宇宙に浮かぶ巨大な岩石。
あれが例の小惑星。軌道エレベーターもそこに終着し、小惑星地表上に建てられた大型宇宙基地が繋がる先だ。
(用意に辿り着いたな。あれがコズミック・セントラルの本社、スキャナーによる魔力及び、その他のエネルギー反応は……)
一切感知されない。どうやら外部から検知できないよう、シールドに類するものが張られているんだろう。
更に接近して調べるしかない。僕が判断した瞬間に、それが現れた。
「……あれは何だ?」
小惑星から現れ、迫る影。
エネルギーの粒子を放つ翼に長い尾、赤い単眼を覗かせ角が生えた頭部を持つ人型のシルエットだ。
そして宇宙の闇に溶け込むような黒い金属で構築された身体……恐らくは。
(僕のアラハバキと同じ、機械兵器か?)
今の距離からして、全長はアラハバキの半分以下の十二メートル程度。……けれど油断は出来ない。
あの機体から検知されるエネルギー反応は未知で測りかねる。加えてあの金属、機体の構造、この世界の技術体系に近いがそれ以上に高度化された、不明な技術によって作られているものだ。
例えるなら、今の時代の更に千年以上先の未来技術の兵器、と言った所か。
(──僕の能力は自身が所有する兵器を今の文明の最新式のモノへと進化させるもの。その力の範囲よりも更に進展した技術……だとするなら)
あの機体はこの人類の文明と技術からかけ離れ、より発展した異文明から来た『何か』だ。
謎の人型兵器は本体を中心に別空間を構築、展開する。
サーヴァントや魔術師が用いる固有結界と同等のもの。僕はアラハバキごと空間に巻き込まれる。
太陽とは異なる巨大な青色の恒星……地球から何百、何千光年も離れたかのような、僕たちがいる太陽系とは異なる星系の情景。
「……なるほど」
どうやら僕の想定は正しいらしい。
コズミック・セントラルによる発見の秘密と、数多くの技術革新の正体。
(まぁいい。その為のアラハバキ、想定した戦力に対抗、制圧するための力は用意した!)
正体不明の敵機からは高エネルギー反応が感知される。
向こうさんもやる気ってことかい。──面白い!
敵の胸部、赤く輝く中央のコアにエネルギーの収縮。
こっちに向かって先制攻撃するつもりか?
「させはしないさ!」
恐らく相当な威力、まともに受け止める気はない。
僕のアラハバキは右腕掌から大出力のビームを放つ。地上では艦隊を吹き飛ばしたが、最大出力なら街一つくらいは消滅する威力だ。兵装の中でも特に強力だが、出し惜しみはなしだ!
予想通り、敵機も同時に胸部からビームを撃った。互いから放たれた強大なエネルギーは中心で混じり、超新星爆発を思わせる光球へと変わる。
「威力はほぼ互角か。──っ!?」
追撃、翼を広げ高速で迫る敵機。直接アラハバキ本体を狙っての拳を──白兵戦を仕掛けて来た。
バリアで防げると思った……が、拳一撃の威力は想定よりも強力だった。
「……何だと!?」
サイズがアラハバキの二分の一程度と油断していたか。
敵の拳をバリアは受け止めるも一瞬、瞬く間にヒビが入り粉砕される。
発生機に受けたサーヴァントからの傷で出力が落ちたといえ、容易くも粉砕するものなのか!?
即座にバーニアで加速、後方に距離を離し背部の発射孔に展開、追尾式ビームで反撃に出る。全てのビームはただ一体の敵に狙いを定め、向かう。命中すれば少なからずのダメージが与えられるはずだと考えていた。
最も、その目論見は甘いものだと刹那で分からせられたが。
放ったビームは直撃を与えるどころか、次々とコアに吸収され、敵のエネルギーに変換される。
(……厄介だな。生半可なエネルギーだと逆効果か)
となれば、吸収さえ出来ない程の一撃を与えるか、物理的な攻撃しかない。
「ならば、これをくれてやるさ!」
コンビナートの戦闘には用いなかった兵装、アラハバキ両脚部に備えたミサイルを撃ち放つ。
迫る多数の弾道。だが、敵は機体の各部から放つビームの弾幕で尽く迎撃する。ダメージは与えられていない
(無傷……甘くはないな、これは)
敵の右腕部、肘から先が銃型の形態変化を遂げる。そして構えての射撃攻撃、エネルギーの弾丸をアラハバキに放つ。
バリアを張って防ぐ。けれど、この攻撃も強力で、下手をすればまた割られかねない。しかも敵は一撃で留まらず二撃、三撃と追撃連射して来るときた。
(アラハバキ全体に張るバリアの補正だ。着弾地点を予測し、該当箇所にピンポイントでバリアを集中させて強度を高める)
射撃の命中箇所に合わせ、その箇所にバリアの守りを固める。おかげで攻撃の防御には成功している、勝負は互角と言っていい。
僕もアラハバキ右手の発射孔から高威力のビームを再度放つ。迫るエネルギーの光柱、敵機は回避する。
(回避すると言うことは、吸収能力にも限界があると見た。あまりにも多量はエネルギーは吸収出来ないと言うことか)
銃による連射を中断、今度は左腕を変形させてブレードへと変える。エネルギーが帯びた刃先を構えると同時に、急加速をかけてこちらに迫る。
再度の白兵戦……ならば!
アラハバキ両腕のガントレットから大剣を展開、右腕の刃で敵の斬撃を受け止める。間髪入れずに左腕の剣による斬撃を放つ、が、直前に敵は銃口でその腕関節を狙い、撃ち抜いた。
「!!」
超至近距離、それも攻撃に転じた隙を狙い、かつ関節と言う機械構造における急所狙いの攻撃。バリアで防ぐ間もなく致命的な損傷を受け、片腕の機能が停止する
(やってくれるじゃないか。けれど、至近距離と言うことなら受けて立とう)
敵の刃を受け止めている左腕、その手を開いてビームを……三度目の攻撃を放つ。
避けようと離れた、けれどアラハバキが放つ強力なエネルギーは敵機の左脚部を焦がした。戦闘においてついに与えた決定的なダメージ。まだ油断は出来ない。このアラハバキに対抗し得る力、次で仕留めてみせるとも。
攻撃を受け、敵は距離を離した。このまま火力を叩き込もうじゃないか。
ミサイルによる牽制。そして、アラハバキ胸部から展開する四門のレールガン。電力、エネルギーにより物理弾頭を加速、発射させることで超速度の射撃を可能にする、科学による兵器だ。
加えてアラハバキの全兵装には魔術付与、強化も施されている。威力や性能は数倍以上だろう。
ターゲットをロックオン、レールガンによる高速射撃は敵の胴体に命中し、傷を与える。
深い傷じゃないが、着実にダメージは与えている。僕の勝機は十分にある。
そう思った、瞬間だった。ダメージの警告音が鳴り響く。
アラハバキ背部に何かの損傷……異物が突き刺さっている。確認すると、それは敵機体の尾の先端部。長く伸ばし背後に回り込ませていたのだろう。
迂闊だった。一応のバリアは張っていたが、正面に集中していたために後ろの守りは脆弱となっていた。損傷が与えられていなけれは、防げた攻撃かもしれない。
受けたダメージはそこまでない──けれど、その一撃が勝負の行方を決定的にした。
「何っ!?」
アラハバキのエネルギー、魔力が急激に低下している。
(尾を介して、敵に吸収されている……のか)
既に残存魔力の半分以上が吸収されていた。これじゃあ兵装、守りに使える分さえロクに……
続けての爆発と揺れ。アラハバキの右脚が吹き飛ばされる。
「ちいっ!!」
出力低下で回避と防御、ひいては迎撃さえ困難だ。
高速飛行する敵機、それでも一撃を与えようと左手の砲口を構えようと──
即座に左肩もろとも切断された。続けてレールガンの砲塔も潰し、容赦なく火力を削る。
一気に畳み掛けられたのは僕の方だ。エネルギーを奪われ、機体さえも満身創痍、この状態でもはや勝機は……
(……仕方ない、か)
残念ではあるものの、この結果も想定していた。
僕とアラハバキの敗北。だが、ただでは終わらない。
最後にして最大の武器──残るエネルギーにより炉心を暴走させ、最終的には大爆発を巻き起こす。早い話『自爆特攻』だ。
そうと決まれば早い。自爆シーケンスの起動、これで三十秒後にアラハバキは爆発する。
敵は更にアラハバキの残る左脚も吹き飛ばした。そこで向こうも僕の狙い……正確には魔力の異常反応でも検知したのだろう。戦闘から離脱しようとしていた。
けれどまぁ……手遅れだ。
両脚と左腕を失った分、重量は減っている。全ての推力を使い最後の突撃を仕掛ける。
食い止めようと射撃を繰り出すも、回避とバリアで持ちこたえる。
(あーあ、僕自身が天下を握りたかったが、プラン失敗か)
残り五秒、命運もここまでだ。
しかし、僕とアラハバキがここで終わったとしても、残せるものはある。
戦闘により解析したデータは地上へと送られている。次の『計画』の糧となるだろう。
迫る敵機、そして臨界。
目の前が閃光に包まれ、霊基そのものが消し飛ぶ刹那、僕が遺したものを思う。
(サーヴァントの僕が消えても、終わりじゃない。
──次の『僕』はきっと、もっと上手くやってくれるはずさ)
後継を託す。まるで生者みたいだと。
サーヴァントに似つかわしくない想いを抱き、僕は……機神と運命を共にした。
────
──
『サーヴァント・アーチャーの消滅を確認しました、ギンセイさま』
戦闘は終わった。巨大兵器を建造し、反逆を企てたアーチャーの処理は済みました。
マスターである天原銀星──ギンセイさまへ報告を行う。
『ご苦労。だが、無事にとは行かなかったようだ』
『──申し訳ありません』
敵の戦闘能力は想定以上でした。
当初の予定通り、サーヴァントによる制圧と阻止が完遂していれば、この『義体』を使う必要もなかったかもしれません。
そして宇宙へと上がり、本社へと迫るアーチャーの迎撃。最終的に倒せはしたが、戦闘による義体の損傷──特に最後の自爆によるダメージは大きなもの。完全な修復は困難と考えています。
(まさかあれ程とは。サーヴァントと言うものは侮れない、地上での戦闘でバリアが弱体化していなければ……)
おそらくは、敗北していたのは己だった可能性もある。
『構わない。どの道アレを使うほどの脅威は最早起こり得ないだろう、気にすることはない』
『……』
『テロ組織ガイアス、そしてアーチャーは消えた。聖杯戦争における最大の脅威は既にない。
後は粛々と事を進めればよい』
ギンセイさまは続けます。
「残るサーヴァントも三基。……分かっている、この聖杯戦争は間もなく終わるだろう。
その時こそ、私の望みが叶うとき。全ては──」
──人類と、その未来のために。彼はそう言いました。