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まるで箱庭のような世界。俺がいた場所がそうだった。
スターライト・ハウス──人里離れた山中の森に位置する、社会からも離れた孤児院。
コズミック・セントラルが行っている慈善事業である一方、優秀な子供が集められ教育を施す。将来的な人材育成も兼ねた孤児院だ。
俺もそんな子供の一人、けれど大事なものが欠けていた。
将来の夢──生きる希望、目的が持てなかったと言っていい。ただ生きるだけで、何かしようとする意欲が持てないまま。
どうしてそうだったか、特に大きな理由があるわけじゃない。単に当時の俺がそんな子供だった……それだけの事。
他の孤児院の子とも関わる意志もなく、虐められこそなかったものの、誰にとっても背景に過ぎない程度の存在に過ぎなかった。
別に寂しいとは思わなかった。ただ、時折他の子が話す『将来の夢』。
──教師や医者、どんな仕事につきたいかと言ったもの。
あるいは人助けがしたい、世の中の役にたちたい、そんな観念論なもの。
素敵な人と結婚したい、等など──
それを聞いたとき、自分に欠けているものを感じずにはいられなかった。
ある夜のこと、俺は外で星空を眺めていた。
夢はなくても星を見ることは好きだった。たまに深夜に孤児院を抜け出して、近くの丘で夜空を見ることがあった。
その日も俺は丘に来ていた。
曇り一つない空に広がる瞬く星。いつもと変わらない、ただ眺めて終わるはずだった。
「──あれって、何だろ?」
上空に見えた謎の亀裂──オーロラのように虹色に淡く発行する空間の裂け目から、青い流れ星が現れた。
流れ星の光筋は夜闇を一瞬照らした後、森に落下する。空の亀裂もいつの間にか消えていた。けれど、流れ星は近くに落ちた。走って行けばすぐに到着する。
(謎の裂け目から現れた不思議な流れ星。その正体、確かめるしかない!)
好奇心に駆られ、俺は落下地点に向かった。
丘を下って、森を抜けて辿り着いた先。そこに誰かが倒れていた。
「──」
初めて見るような不思議な格好をした、機械仕掛けの太刀を持った、ボロボロの何者か。
「君は……誰?」
今にも消え入りそうな声で、顔を俺に向けて訪ねた。
正体は分からないけれど美人だった。少年か少女か分からない中性的な顔立ちで、右目は眼帯で隠されている。
謎の誰かからの問いかけに、俺は戸惑いながらも答えた。
「空上彼方。向こうの孤児院で暮らす、孤児だよ」
「そう、ですか」
空を仰いで沈黙を挟んだ後、改めて俺に向かって話をした。
「ボクは……ランマル。異なる宇宙、異なる星から来た──彼方さまから見れば『宇宙人』であります」
自分が宇宙人だと言う、信じられない言葉。
普通なら絵空事程度。けれど俺は気づいてしまった、ランマルの身体が淡く半透明に、まるで消えかかっている状況に。
「その身体、やっぱり人間じゃ……ないんだ」
「……この世界には、ボクの存在を維持するためのエネルギーがないですから。このまま……消えるのを待つだけです。
ですが──」
話しながら、その瞳は俺を見つめていた。
「彼方さま、もし良ければボクと契約してくれませんか?」
「え?」
訳が分からない。そんな考えにこたえるように話を続けた。
「契約は、ボクと彼方さまの間に生命力の繋がり(パス)を構築するもの。彼方さまから頂いた生命力で、この世界に存在し続けることが出来ます。
彼方さまは生命力……魔力とも言うのですが、素質が感じられますから、最低限存在に必要な魔力供給くらいなら大きな影響はないと思います」
「そうは言っても、な」
自分でも無理を言っているのは分かっている。ランマルもそう言いたげな様子だった。
「会ってばかりで我儘を言って申し訳ありません。断られても、それはボクの運命だと諦めます。
ですがもし契約してくれるのなら……彼方さまを主として、誠心誠意お尽くし致します」
俺は躊躇いはした。
生命の一部を吸い取られるなんて誰だって気が進まない。けれど、断るつもりはなかった。
別にランマルに尽くして貰いたかった訳じゃない。だってそうだろう、今目の前で消滅しそうな相手を、見捨てるなんて出来ることは出来ない。単にそう思ったからだ
「分かった。君との契約を結ぼう、ランマル」
そうして僕たちは契約を結んだ。
生命力を介しての繋がり。一瞬、ランマルと一体になったような錯覚を覚えた。けれどすぐに落ち着いていつも通り。……ほんの少し身体が重くなったかどうか、その程度だ。
「主さまの魔力を感じます。これで一命を取り留めました」
ランマルは立ち上がって、俺と向かい合う。身体の透明化も収まっていた。
──やっぱり綺麗な人だ。まだ十歳に満たない俺よりも年上、十六、十七歳くらいの美少年、もしくは美少女。今まで見たことがないくらいに。
そして俺にひざまずいて深々と頭を下げると……。
「お命を助けて頂き感謝します。救っていただいた命は主さまのため、お役立てすると誓います」
「ちょっと待った! 別に俺はそのために助けたわけじゃない、ただ、放っておけなかっただけで。
それに『主さま』って呼び方も、何だかこそばゆいしさ。だから、俺のことは名前で呼んでほしい。主従関係と言うより、その……」
この先の言葉は、俺自身も思いもよらずに無意識に出てしまった。
「……友達でいてくれると、俺の方が助かる」
友達──俺には存在しなかったし、欲しいとも思いもしなかったもの。
なのに何故それを求めたのか、今となっても分からない。本当はそんな存在を求めていたのかもしれない。ただ言えることは──
「はい! 望むのであれば、これからはボクと彼方さまは友達であります!」
──別の世界からの来訪者、ランマル。俺の初めての友達だった。
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それから始まった、ランマルとの日々。
存在は半分幽霊みたいなもので、ほとんどの時間は『霊体化』、不可視の姿になって過ごしていた。その方が魔力消費の節約になるからだとか。
「──してもランマルの故郷、蘭丸星の住民はみんなランマル……同じ姿で名前だろ? 誰が誰とか見分けつくのかよ?」
「もちろん。ランマルもいろいろ、でありますから!」
ランマルの事も色々と聞いた。
俺たちがいる宇宙と違う宇宙、その果ての銀河。
そこにある故郷の星、『蘭丸星』には沢山の森蘭丸──つまりランマルたちが暮らしていると言う。そして自分だけの主さまを見つけるために故郷を出て、宇宙を旅していたって話。
実体はなく、サーヴァント……と言うらしいエネルギー体で、後はランマニウム? と言う謎のエネルギーが力の源だとかどうとか。俺の宇宙にはランマニウムが存在しないせいで、俺の魔力で代用している訳だ。
「ちなみに、どうやって宇宙を旅したわけ? ロケットとか、宇宙船とか?」
この事を聞くと、ランマルは得意げに自分の太刀を、飛行可能なボードに形態変形させて教えてくれた。
「これがボクの武器であって宇宙を渡る手段、レプリカ蘭丸ブレード──通称R2ブレード。宇宙の旅だってお手の物でありますよ!」
元になった蘭丸ブレードは蘭丸星に伝わる伝説の大太刀で、今は最強の蘭丸を決める蘭丸大戦で勝ち残り、『X』の名を冠した蘭丸が所有していると言う。
そしてランマルのR2ブレードは、名前の通りそのレプリカ。機械的で無骨に見える外見はオリジナルとかけ離れているようだけれど、これは元の蘭丸ブレードが有している宇宙航行の能力を再現する事を優先した結果らしい。
何度も、何度も会いに行ってはランマルと話をした。
ランマルがいた、まるでスペースオペラのような世界観の御伽噺のような別宇宙の話。
あまりにも突飛で理解が追いつかないこともあったけれど、星から星への旅と冒険、胸を躍らせて聞いていた。
そう、いつしか俺とランマルは、唯一無二の親友になっていた。
「──ランマル」
「どうかしましたか、彼方さま?」
「俺はさ、ランマルの話を聞いて憧れていたんだと思う。こことは違う……全く未知の世界に。
だから決めたことがある」
丘の上、星空の下で俺はランマルに告白した。
告白と言っても、愛の告白とかそう言うことじゃない。ランマルと出会ったことで芽生えた、俺の夢について。
「どうぞお聞かせください、彼方さま」
「いままで持てなかった俺の望み……夢について。君のおかげで見つけた夢を、真っ先に話したかった」
空の果てに見える星々を見上げる。
ちょうど向こうの山から、銀色の船体が幾つものライトを瞬きながら上昇してゆくのが見えた。あの先にはコズミック・セントラルの宇宙港がある。そこから地球を発つ大型宇宙船、向かう先は果てすらない宇宙へ。
「俺のいる世界の人類は、本格的に宇宙への進出が始まろうとしている。月や火星にも基地を作って、もっと離れた遠くまで向かおうとしている」
だから……。ランマルを見つめて話す。
「君のようにこの目で見たい、まだ誰も行ったことのない未知の世界、宇宙を。それが俺の夢なんだ」
ようやく見つけた俺の夢。
ランマルはまるで母親のような慈愛の微笑みを見せてくれた。
「素晴らしい夢であります。主さまなら、きっと叶えられます」
「もし夢が叶ったら、ランマルも一緒に来ないか? 俺が主さまだとしたら、付き添ってもおかしくはないだろ」
その言葉にランマルは戸惑いと驚きを見せて、ぼそりと呟く。
「本当に、良いのでありますか?」
「もちろん。だって俺に出来た初めての大切な人だし、行くなら一緒に行ければと思った。霊体化すれば誰にも気づかれないかもしれないし、もしランマルの存在がバレて大変な事になっても……その時は俺が何とかしてみせる。
これは約束だ、君と俺との」
これがランマルと交わした、大切な約束。
──そのはずだった。
それから間もなくの頃、いつものように夜の孤児院を抜け出そうといた。
部屋を出て、誰もいない二階廊下の窓を開けて、隣接する木に飛び移って降りて外に出る。職員も巡回することもあるけれど、いつ頃通過するかの時間は把握しているし、見つかることはこれまでなかった。いつものやり方で俺も慣れていたんだ。
だからこそ、その日に起こったことは運が悪かったし、油断もしていた。
窓を開け、飛び移ろうとした矢先、急にライトで照らされる。
「君! 何をしているんだ!!」
いつもならいないはずの孤児院の職員。後から知った事だけれど、この日から夜の見回りを強化し、丁度俺が出るタイミングの時間帯に見回りを追加していたらしい。
「えっ!?」
しかも開けた窓に足をかけて向こうの木に跳ぼうとした瞬間。
急なライトと声で驚いた俺は、思わず足を踏み外して窓から落下した。
一瞬の浮遊感と、迫る地面。そして衝撃。
俺は意識を失い、ランマルとの記憶を失った。
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思い出したセイバー──ランマルとの記憶を、改めて伝えた。
「……主さま」
「彼方でいい。昔みたいに」
潤んだ瞳を丸くしているランマルの手を取って、俺は言う。
記憶を失ってもずっと傍にいてくれた。思わずその身体を抱きしめる。
「君は俺の大切な人だ、だからこの先も一緒にいたい。
俺の夢、未知の宇宙へ行きたいと言う願いも、ランマルと叶えたい」
偽りのない想い。
ランマルも、そっと俺の背を抱いてくれた。
「嬉しいであります──彼方さま。これからもずっと、ランマルをお傍にいさせてください」
もちろんそのつもりだ。
だからこそ、これからもランマルといるためにも聖杯戦争で勝ち残ってみせる。
戻った記憶は、本当の意味での決意もくれた。そして翌日──
──三度目にして最後の、アルスとサーヴァント・バーサーカーとの決闘が幕を開けた。