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ずっと力が欲しかった。
自分の運命を切り開く、自由を得るための力を。
親父は世界で名の知られた一流料理人だ。一人娘だったアタイは幼い頃から、跡を継がせたがっていた親父から料理を叩き込まれて育って来た。
親に敷かれたレールってやつだ。厳しい教育は物心がついた時から続いて、始めはそれに疑問なんて覚える暇はなかった。けれど、成長するにつれて段々と分かって来た。……アタイの在り方は自由には程遠いと。
それからは早い話、『グレちまった』んだ。不良として悪友とつるんで、暴走族の真似事までして。親父の望みなんて知ったこっちゃない、勝手にしてやる。そのつもりだった。
──でもアタイは気づいていた。
この世の中はあまりにも出来る事が限られている。どの道社会に縛られ、職業や役割、立場……型にはめられた人生を送るしかない。
だからこそ自由を、それを勝ち取る力を望んだ。それがアタイの欲であり、願い。
願いが叶えばアタイだけの、本当の人生を歩めるはずだ。丁度、ハル曰く『適正』があったと言うことで聖杯戦争への誘いがあった。勝てばどんな願いでも叶うなんてファンタジー過ぎるけれど、唯一のチャンスだと思ったんだ。
聖杯戦争に加わり、アタイのサーヴァントも手に入れた。──ベオウルフ、巨人殺しの逸話を持つ伝説の戦士と同時に王であった英霊。力を望んだアタイに相応しいパートナーだった。
ワイルドで豪胆、勝手な性格であるけれど、とにかく強い。たまに憎まれ口は叩く奴だけれど、そんなあいつが気に入っていて、憧れていた。あいつとなら聖杯戦争を勝利して願いを叶えられると。
……そう信じていた。
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「ッ! バーサーカー!!」
セイバーの口元に咥えられた短刀の光刃が、バーサーカーの心臓を貫いていた。
動きが止まり、その身体は後ろへと倒れる。アタイは彼のもとに駆け寄る。
「わりぃ、ヘマしちまった。期待に応えられずに……悪かった」
「……お前が謝るなよ。謝るのは、アタイの方だ」
どうしようもなかったのは分かっていた。
以前のセイバー戦で受けた傷、それにアーチャーの巨大ロボットとの戦いで受けた一撃。度重なる致命的なダメージで、とっくに消滅してもおかしくない程に霊基、霊核はボロボロだった。これ以上戦うだけでも限界だと分かっていたはずなのに。
「とんだ無能なマスターだ。自分の願いのために、無茶をさせちまうなんて」
倒れたバーサーカーの元で膝をついて、項垂れる。
「……はは、何かと思えばそんな事か。
俺は気になんてしてねぇよ。マスターに召喚されて存分に闘えたんだ、むしろ感謝してんだぜ」
「……」
何も言うことが出来ない。そんなアタイに、バーサーカーは続ける。
「だとしても、やっぱ心残りはある。
マスターの望み……何にも縛られないほどの力、くれてやれなくてすまねぇな……げほっ!」
咳き込んで吐血する。
無理をするな──そう言おうとした寸前、あいつはアタイの肩に手を乗せて告げる。
「……けどな、そんな力なんて聖杯に願うまでもねぇ。マスターなら大丈夫だ」
「何がだよ。……アタイは」
聖杯への願い。力が欲しい、自由になりたい──だけどアタイ自身、本当は分かっていた。
「……アタイは勇気がなかっただけだ。自分では自分の道を見つけられなくて、それを周りの責任だと押し付けていた。バカだぜ……願い通り力を手にしても、無駄だって分かっていたのにな」
こぼした本心に、バーサーカーは空を仰いでかすかな笑い声をあげる。
「ちげぇねえ。俺のマスターはとんだバカ野郎だ」
「ははっ、そこは慰める所だろ」
「俺に気遣いなんて求めんなよ。それにな、俺はバカだって言ったのは自分の事を変に卑下してっからだ。
マスターはただ若いだけさ。とっくに自分の道を切り開く力も、勇気も持っている。……後は時間だけだ」
バーサーカーの身体はほとんどが消失していた。
最後の別れだと、そう実感したアタイは──
「──ありがとな、ベオウルフ。アタイのサーヴァントとして戦ってくれて。
これからもアタイなりに頑張るからさ……一時でも共に過ごした、お前のマスターに相応しい大人になってやるよ」
あいつの口元に、微笑みが浮かんだ。
「そうかい。せいぜい頑張りな」
短い別れの言葉。それを伝えて満足したというように、バーサーカーは消滅した。
「──」
あいつはもういない。振り返って彼方、そしてあいつのサーヴァントであるセイバーに向き直る。
彼方のヤツ、一瞬申し訳なさそうな表情を浮かべたと思うと、気持ちを切り替えたのかアタイと向き合って言った。
「俺達の勝ちだ、アルス」
「……ふっ」
下手な同情をされるよりずっとマシだった。
アタイは笑みを向けて、こう答えてやった。
「ああ、アタイの負けだ。かえってスッキリした気分だぜ」
ふっ、憑き物が落ちた感じだ。学ランのポケットに両手を突っ込み、彼方とセイバーの横を通り過ぎる。
「じゃあな二人とも。アタイのバーサーカーを破ったんだ、最後まで勝ち残らないと承知しないぜ」
アタイの聖杯戦争は終いだ。
けれど、一緒に戦ったあいつの存在は胸の中に刻まれている。
──進む道は、これから見つけてみせるさ。