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バーサーカーを倒した翌日、俺はハルに呼び出されて病院に来ていた。
「……」
タケルは私服姿で、見た所体調は問題なさそうだった。隣にはランサーもいる。あいつの病室に俺達は来ていて、聖杯戦争の監督を行うハルもいる。
「さて──」
ハルは口を開く。
「残るサーヴァントはカナタさまのセイバー、そしてタケルさまのランサーのみ。
決戦は明後日……これが聖杯戦争最後の戦いです」
この言葉にタケルは頷いた。
「分かった、ハル。──彼方も」
それから俺に視線を向けた。
アルスの時と同じ、闘志を宿した目だった。
「最初は仇を倒せれば聖杯戦争の勝敗はどうでも良かった。
けれど、今は叶えたい願いがある。負けるつもりはない」
タケルの決意。叶えたい願いは分からないが、俺も譲る気はない。
「タケルには俺も助けられた。だけど負けられないのは俺だって変わらない。……闘うしかないなら」
負けられない。その思いは同じはずだ。
「決戦には特別な場を設けさせていただきます。それまでは自由にお過ごしください。
残りの時間……悔いのないよう」
ハルから話を聞いた後、俺たちは解散した。
日は沈んで、俺とランマルは自室で過ごしていた。
「もうすぐ、この戦いもお終いですね」
「……テロに巻き込まれて、ランマルと出会って聖杯戦争に参加した。あれからもう一ヶ月近く経った。思えば早いものだな」
「あとは一戦だけ。聖杯戦争に勝ったらボクたちは自由です」
ランマルの言う通り、終わりはもう目の前だ。
少し安堵した気持ちになっている所に、こんな質問を投げかけられた。
「彼方さま」
「どうかしたか?」
「彼方さまは聖杯戦争で叶えたい願い事は、本当に何もないのですか?」
聖杯戦争で勝ち残れば望む願いが叶えられると言う話か。
実際本当かどうかは今になっても半信半疑ではあるものの、叶えたい願いを持ってマスターになった人間もいた。けれど俺は──
「言っただろ? 宇宙に行きたいと言う俺の願いは自力で叶える、わざわざ願いを叶えたいとは思わない。
そう言うランマルこそ、何か願いはあるのか?」
俺が質問を返すと、少し考える仕草を見せる。
うーんと首をかしげながら、ランマルは口を開く。
「ボクは聖杯戦争が終わった後も主である彼方さまといられたら、それで満足です。……ですけど」
途中、思い出したことがあるみたいに呟いた。
「ボクがいた、この宇宙とは異なる宇宙で、彼方さまと旅をしてみたい……なんて。
いろんな宇宙人に不思議な星、冒険だってたくさんです、退屈なんてさせません。そして故郷の蘭丸星の蘭丸たちにボクの大切な主さまを紹介したいです」
話しながら見上げる先は、窓の向こうに見える星空。
懐かしむような、少しだけ寂しいような表情で。その後何事もなかったかのように俺に笑いかけて言葉を続ける。
「でも、今は聖杯戦争から解放されることが先です。
明日はゆっくり休んで決戦に備えるでありますよ」
俺もそうしようかと考えていた時、誰かから電話がかかって来た。
携帯端末を手にとり通話を入れる。
「もしもし……タケルか?」
電話の相手はタケルだった。体調は回復しているらしいものの、念のためまだ病院にいるあいつが何の用事で……。
「……なるほど、それも悪くないとは思うが…………分かった、また明日会おう」
通話を終えると、ランマルは気になる様子で俺に訊ねてきた。
「相手はランサーのマスターですよね? どんな話だったのですか?」
「はは、ちょっとしたお誘いってやつさ。ランマル──」
一呼吸置いたあと、俺は言葉を続けた。
「良かったら俺と、デートに行かないか?」
──(Side タケル)──
「────」
明日は彼方、そしてセイバーとの決着をつける時だ。
けれど今日は違う。朝の十時頃、街の商業区画の大通りで、僕とランサーは待ち合わせをしていた。
「あの二人はまだかしら? まさかドタキャン、なんてことはないわよね?」
横にいるランサーは待たされて少しイライラしている様子。
「そんなに遅れたりはしないはずだよ。多分すぐに来るはず──」
「悪いタケル! 少し遅れた」
手を振ってこっちに駆けて来るのは、僕と同年代の少年。
茶髪で、優等生の雰囲気を感じさせる好青年。多分女の子にもモテそうだ。それに今日は服のファッションにかなり気合が入っている。紺色を基調にした上着など等、週刊誌のモデルか何かとも思った。
「……ったく、あまりに洒落っ気が強くて、落ち着かないな」
「だって彼方さまとのデートですよ! コーデにも気合を入れるのは当然であります、えへん!」
なるほど、彼方のファッションはセイバーによるものらしい。遅刻もそれが原因なのだろうか。
この光景にはランサーも半分呆れているようで。
「アタシが言うのも何だけど、明日は決戦なのに浮かれすぎじゃないかしら」
「だからこそでありますよ。悔いのないように時間を過ごす……最後の最後で後悔したくありませんから」
セイバーの言葉に、彼方も続けて話す。
「そう言うことだ。明日は敵同士だったとしても、今日は楽しく過ごしたい」
彼方たちも明日の事を忘れているわけじゃない。そうだな、今日この時は──良い思い出にしたい。
────
僕とランサー、そして彼方とセイバーのダブルデート。
「今日は目一杯楽しみましょ、マスター!」
彼女と手を繋いで通りを歩く。まずは何処に寄ろうか考えてはいるけれど……。
「……ん」
細く柔らかな少女の手。人を超えた力を持つ存在、サーヴァントであることさえ一瞬忘れてしまう。
今更どうしたんだ。これまでランサーと過ごして来て、こんな意識を持つことはなかった。家族の仇を討つことが第一だった、今までは。
「どうしたの? そんな緊張したような顔、初めて見たわ」
「いや……何でも、ないから」
「デートがしたいって言ったのはマスターなのに、変なの。アタシのマスターなんだからシャンとしなさい」
可笑しそうにしてランサーは言った。その向こうではセイバーがニヤニヤしているのが見える。
「ぷぷっ! 手を繋いだだけでその反応、初心すぎでありますよ」
「うるさいわねっ! これ以上余計なこと言ったらただじゃおかないわよ!」
サーヴァント同士の言い争い。彼方は半分呆れている様子でセイバーに言う。
「あまり茶々を入れるなよ。ただでさえ目立っているのに、余計注目されるだろ」
セイバーは眼帯を付けた麗しの美少年、もしくは美少女か。そしてランサーは頭のツノと尻尾。コスプレか何かと思われていると思うけれど、注目が寄せられてもおかしくない。
「そう言えばカナタの格好、セイバーの奴が用意したのよね」
顎に指をあてて、考える仕草を見せるランサー。それから急に繋いでいた手を引っ張ると──。
「決めたわ! マスターも、このアタシが相応しいコーデをしてあげるっ!」
「──!?」
半ば無理やり引っ張られて、近くのファッション店に連れて行かれた。僕は服についてよく分からないけれど、ランサーは真剣だ。
「うーん、この服とか良さそうね。試着してみなさい」
何着か試着をさせられ、それでも完全に気に入っていない様子で。
「……微妙だわね。もっと合う服があるはず、次の店に行くわよ!」
そんな様子で何店も回ることになる。店に行っては服を探し、試着をさせて、四店目に入った所でようやく……。
「あっちのマスターも大変でありますね。自分のサーヴァントに振り回されるなんて」
途中駄菓子屋にでも寄ったらしく、セイバーは飴を舐めて様子を眺めている。隣の彼方も同じ飴を口にしていた。
「今度こそマスターに合う衣装のはず。──ほら、これなら良い格好じゃない」
「「……マジかよ(でありますか)」」
赤い革ジャンに黒いジーンズ、ギラギラした金属のアクセサリー。まるでロックミュージシャンみたいな格好だ。センスが悪い……と言うわけではないけれど、普段なら絶対に着ないような衣装だ。
絶句する彼方たち、対してランサーは得意げだ。
「その姿、とてもクールってやつね! 似合ってるわ、マスター」
どう反応すればいいか困る。けれど彼女が喜んでいるなら、それで良いか。──今日くらいは。
「そろそろ昼ご飯にしましょう。誰かさんの服選びでもう昼ですし、あそこのハンバーガーとか美味しそうですよ」
「はぁ? 昼食ならあの店が良いに決まってるわ。ピザとかスパゲティとか、デートなら絶対にこっちでしょ」
ランサーとセイバーの言い争い。昼にどこに食べに行くかで意見が分かれているようだ。
「まぁまぁ、いくらダブルデートって言ってもずっと一緒に行動しないといけないって事はないしさ、昼は別々でいいんじゃないか」
そんな事で一旦二人とは分かれて、僕とランサーはレストランに。彼女が言った通りイタリアンな店らしく、ここもいつもなら来ることのないような、そんな所だった。
(……いや、今までは見向きもしなかっただけか)
何気ない幸せ、これが生きていると言う事なんだと感じた。
「ふふっ、マスターも早く食べないと冷めちゃうわよ?」
注文したピザを口にしながらランサーは言う。促されるまま僕も食べると──。
「──美味しい。こんな感情、長いこと感じたことがなかった気がする」
「そうね。今のマスターはとても人間らしい、サーヴァントとして喜ばしいわ」
「……」
自分の事のように嬉しげな、同時に一抹の寂しさを感じさせる笑顔。
「アタシのような反英雄がこんな事を願うなんて変かもしれない。でも、聖杯戦争が終わった後もマスターはヒトとして、幸せな人生を送ってほしいから」
「今更必要ない。ガイアスは壊滅して、仇を討つ目的も終わった。僕はそれで満足しているんだ。
それに、病気でもう長くない。だから──」
「だから聖杯に、マスターの病気を直すよう願えばいいのよ」
思いもよらなかった言葉。僕の反応にランサーは続ける。
「聖杯で願いが叶うなら、病気を治すくらい何ともないわ。
セイバーとカナタを倒せば、マスターはまだまだ生きることが出来る」
ふと、気になると言う様子で彼女はつぶやく。
「アタシはてっきり、マスターもその願いのために聖杯戦争にやる気を出したと思っていたから。
違うとするなら、別に叶えたい願いでもあるの?」
「そうだね、願いなら僕も見つけている」
「へぇ、どんな願いかしら? 聖杯戦争に勝てばマスターとサーヴァント、二人分の願いが叶うわけだし、あと一つ願いがあってもどうってことはないわね。
億万長者とか? それとも、素敵な恋人かしら?」
僕自身のためじゃない。叶えたい願いを彼女に話そうとも考えた。
「……僕の願いは、また後で話すよ」
けれど、今はまだ伝える時じゃない。
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それから彼方たちと合流して、ダブルデートの続きをした。
「気になっていた『プリクラ』がありました! 今度来たときには彼方さまと撮りたいと思っていたんです」
以前彼方がアルスたちと来たらしいレトロなゲームセンター。
そこで少し遊んでから、一緒にプリクラで撮影をしたり。僕はプリクラと言うのは初めて知ったけれど、話では撮影した写真を好きなようにデコレーション出来るみたいで、ランサーも気に入った様子だった。
「このキラキラしたデコもいいわね。文字もいれて、あとはマスターにネコ耳もつけてあげる!」
こっちも二人で撮ったあと、記念に四人全員でプリクラもしてみた。
「もっとボクに寄って、ピースってしましょう」
「マスターも笑顔が固いわよ? アタシを見本に笑ってみなさい」
セイバーもランサーもノリノリで撮っていて、僕も彼方も少し振り回され気味。でもこう言うのも悪くはなかった。
後は通りの店をまた見て回って、三時過ぎには公園近くの売店をしているワゴンカーで、クレープを買って食べながら休憩したり。
それからも色々と巡ったりして、時間はまたたく間に過ぎて行った。
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「今日のデート、最高だったわね」
夕暮れ時、このデートももうすぐ終わり。僕とランサーは少し前にクレープを食べた所と同じ公園に、また来ていた。
ベンチに座って噴水を眺めながら隣に視線を移す。穏やかな風にたなびく赤い髪、彼女の横顔。
「……君のおかげだ」
つぶやいた言葉に、ランサーは当然のように胸を張る。
「そりゃそうよ! こんな美少女とデートが出来るなんて、マスターは幸せものだわ」
自信げな態度もいとしく思えて。僕は続ける。
「聖杯戦争に参加して、君と出会ってなければこんな思いは出来なかった。ランサーが僕を人間に戻してくれたから、今、こうしていられる」
彼女は少し沈黙を挟む。それから優しく、こう言った。
「──なら良かったわ。マスターはアタシのようにならずに済んだ。狂気に溺れ、凶行を重ね、悍ましい怪物となったこのアタシみたいに」
「やり直したいと思ったことはないのか? 確かにエリザベート・バートリーの悪行は取り消せないものであったとしても、サーヴァントの君は彼女そのものではない。だから、もう一度人間になれば今度こそ」
「無理よ。アタシが人間になるなんて」
「僕はその願いを叶えたい。ランサーが人間になって、聖杯戦争が終わった後も人としての人生を歩んで欲しいから」
僕が聖杯戦争に、願いを叶えるとされる聖杯に望むもの。
ランサーが僕の病気を直して、これからも人として生きていけるように願うように。僕も彼女に人間として生きて欲しかった。
「……くだらない願いだわ」
蔑み、心底呆れたように吐き捨てる。僕を睨んだその目には明らかな怒りが感じられた。
「アタシが人間になるですって? バカ言わないで。本質は変わりはしない、なれたとしてもきっと、生前のエリザベートの二の舞になるだけだわ。
ヒトとしての倫理、価値観を持つことが出来ない。いつか狂気に溺れ、非道な行いを繰り返し、怪物としての末路を辿るだけ。サーヴァントとしての存在を全うできればそれでいいのに、マスターはアタシにそうなって欲しいって言うの?」
「……」
言葉に詰まる。
彼女の為と言いながら、独善的な願い。
「ごめん、独りよがりの勝手だった。
けど僕は、君にも幸せになって欲しいって……その気持ちは本当なんだ。だから……」
「……むぅ」
さっきまでの怒りはしぼんで、ランサーは考えるような様子を見せる。そしてベンチから立つと、僕の前に来て言った。
「でも、もしも人間になれたとして、マスターとサーヴァントの関係が終わった後でも傍にいてくれるなら。
一緒にいてアタシの良心になってくれるなら、人の道をはずれずに、怪物にならずに生きていけるかもしれない。──マスターが良ければだけど」
彼女が微笑んで、手を差し伸べる。
答えは決まっている。僕はランサーの手をとり言った。
「僕で良ければ。ランサーが人として生きれるなら共にいたい。そして、僕たちの願いのためにも聖杯戦争で必ず勝とう」
「──ええ、そうね」
僕とランサーの願い、そして未来。全てが明日の決戦にかかっている。
──(Side 彼方)──
日の沈みかけた夕暮れ。
タケルとランサーは公園で、俺達はまた少し街を歩いてから合流。そして解散の流れになった。
「じゃあなタケル、ランサーも。楽しいデートだった」
「僕の方こそ。いい思い出になったよ」
タケルとも軽い挨拶を交わして、そのまま分かれた。
明日のことなんて関係ないと思えるくらい、何事もなく穏やかに終わった。ただ……
(別れ際のタケルの目、アルスと同じだったな)
願いにかける強い決意、負ける気はない意思。同じものをタケルから感じた。
「相手が誰でも負ける気はない。彼方さまだって同じ気持ちですよね」
ランマルは俺に問いかける。
「分かっている。ここまで来たんだ、相手がタケルであっても──」
「お邪魔するわ、二人とも」
横から呼びかける声。見ると道脇にランサーが一人で立っていた。
「どうも、ついさっきぶりね」
「何のつもりですかランサー、マスターを連れずにたった一人でだなんて。不用心過ぎて斬り捨てられても文句言えませんよ」
そんな事を言うランマルに、彼女は肩をすくめる。
「アナタのマスターがそんな許可を出すわけないでしょ。それに、今この場にはアタシのマスター……タケルは居ない方がいいもの」
思わせぶりな台詞。俺は前に進み出て訊ねた。
「君は何しにここに来たんだ? 戦うつもりでないのは俺たちも分かっている。話があるなら遠慮はしなくていい」
「ありがとう、カナタ。やっぱり優しいわね」
安心したように笑って、それから俺の目を真っ直ぐに見つめて告げる。
「確かにアタシは話をしに来た。最終決戦の相手、セイバーのマスターであるカナタ。
──アナタに一つだけ、お願いを聞いて欲しいから」