コズミック・セントラルのトップ、天原銀星と対峙している。
「……貴方が、あの」
彼によって世界が変わった。たったの半世紀で人類の宇宙進出を加速させ、新たな科学技術を創出した。
「君が空上彼方君だね、才能ある幼い君をスターライト・ハウスで引き取り、その後は天宙学園の特待生を勝ち取りこの街へと来た。
聖杯戦争においてもイレギュラーとして巻き込まれながらも戦いをくぐり抜け、ここまで辿り着いた。その才覚と勇気、称賛しよう」
タケル、アルスにも視線を向けて語る。
「家族がテロに巻き込まれ、復讐心を抱いた君を聖杯戦争に招いた。決して折れない意思の強さ、決戦の場に相応しい。
──アルス君も良い戦いぶりを見せてくれた。一歩の所で敗退したことは残念ではあったが最後の戦い、そして人類の更なる変革に立会人になってくれれば光栄だ」
銀星の傍らにハルが移動すると、彼に告げる。
「ギンセイさま、彼らの案内を」
「おお、そうであったな」
そして俺達全員に向かい合い、ついて来るように促す。
「ここからは私が案内しよう。後をついてくるように」
天原銀星に案内され、宇宙基地を進む。
この基地も人工重力が完備されているらしく、地球にいる時と何ら変わらない。基地の突き当りには更に下へと降りるエレベーターがありそれに乗り込む。
「いかがかね、これを見た感想は」
地下へと降りるエレベーターの窓から見える、さっきの大穴と底にある宇宙船。外装のくすんだ白は長年の経年によるものに見える。
俺も疑問に思っていた。たったの五十年間で数世紀分の技術進歩、特に著しい宇宙開発の進展。何かがあると思っていた。銀星の問いに俺は呟く。
「……これがコズミック・セントラルが生み出した技術の原型か。
地球人より遥かに進歩した異星文明の船、それを解析したって言うのか」
「頭の回転が早い子は好きだ。その通り、殆どは正解だ」
その回答に彼は笑みを浮かべる。
「五十年前に外宇宙から地球へと漂着した小惑星、当時は父が経営していたコズミック・セントラルによる探査が決定し、若かった私もチームとして加わった。
探査船は小惑星に着陸し、その材質には珍しいものはないとされた……が」
銀星は懐かしみながら、こう続けた。
「この深い大穴に、不時着し埋もれた宇宙船が発見された。調査によって測定された年代は約一万年前、未知の材質、そして高度な技術によって作られた船は地球と異なる異星の文明だと確信したよ。
我々は調査を進め、その技術を解析し再現した。特殊合金、新たなる動力機関、ロボット工学、そして……Aエナジー。全ては再現したものに過ぎない」
だからこその半世紀の急激な進歩。遥かに発展した異星技術を基にした技術革新。
その大元こそが目の前のアーキテクチャ。
「──通称『シロフネ』。安直な名前だが、わかり易くていいだろう。
今の世界の技術体系の根幹であり、そして……聖杯戦争の核、聖杯とも言える存在だ」
シロフネ──それが目の前にある巨大遺物の名なのか。
「聖杯……魔術世界にさえ名を知られる万能の願望機。アレにはそれと同等の機能がある。
Aエナジーはエネルギーであると同時に、霊脈としての役割も持っている。シロフネはこの本社と、軌道エレベーターを通じ地球の天宙市と繋がり、根を張り巡らせ聖杯戦争の儀式場として機能させた。
そして地球そのもの、人理とも同期を行うことで英霊の座へとアクセスし、サーヴァントをも生成した。サーヴァントを戦い合わせ、魂を純粋なエネルギーとして収集し……『ブラックボックス』を起動させることが最終目標だ」
「ブラックボックス、あの船に秘められた未知の領域、と言うことか」
「この五十年でシロフネを解析し、多くの技術を再現した。シロフネそのものの手助けを借りて……な。そうだろう、ハル」
銀星がハルに視線を投げかけると、彼女は俺達に告げた。
「ええ。私はギンセイさまにより意思を得たシロフネの制御システム、疑似人格、AIと言った方が分かりやすいかと。
遥か長い時間の中、休眠していた私をギンセイさまは再起動しました。始めはどのような文明が、どんな目的で私──シロフネを建造したのか知りたかったようですが、残念ながら永い眠りの中で記憶は初期化され、覚えていることは殆どありませんでした。ですが……」
彼女は俺達を見渡すようにして、どこか慈愛を感じさせるような口調で言う。
「私に刻まれた行動原理は失われていません。
──あまねく知性体、つまり『人類の未来のため』。ゆえにギンセイさまに協力し、文明、技術の発展に協力しました」
今の言葉には偽りないと、俺は感じた。
ハルは機械で感情や心があるかは分からない。けれど、不思議とそう思った。
再び銀星に代わり、解説は続く。
「シロフネの技術の多くが解明された。だが特に重要なシステムは厳重に封印され、私はおろかシロフネそのものと言えるハルでさえ解くことが出来なかった。
封印されたブラックボックス、その機能を解放するにはAエナジーより更なる、高次元のエネルギー、人理より召喚された英霊の魂を必要とした。その為の聖杯戦争だ」
一通り語ると、銀星は俺に告げた。
「彼方君、シロフネの技術により月に行くことがやっとだった人類が、半世紀で木星にまで進出が可能となった。太陽系内であれば現状の技術でも何とかなるだろう。
しかし、それ以上はどうだ。一番の問題は何だと思う?」
不意に訊ねられた問い。まるで学校の授業で先生が生徒に聞くような感じだ。
一番の問題、思いついたまま正直に答える。
「宇宙そのものの、途方もない距離だ。太陽系から近い恒星系でも光の速度で何年、何十年もかかる程で、一つの銀河系だけで十万光年の規模がある。
まるで井の中の蛙が大海を渡るようなもので、本当の意味での宇宙探査には程遠い……と、俺は考えている」
「正解だ。現状ではコロニー規模の巨大宇宙船による数世代の航行、冷凍睡眠の使用と言う手段が考えられているが、限界が大きい。
シロフネのブラックボックスの中身は確かに不明な部分が多いが、ハルにより判明した機能の一部は明らかになっている。その一つが空間跳躍……つまり『ワープ機関』の技術だ」
「──!!」
ワープ。空間を転移し、遥か長距離でも瞬時に移動可能な夢の技術。
「解明し、その技術が手に入れば、人類史は数世紀どころか千年分に匹敵する躍進へと繋がる。
まだ見ぬ星から星へとの旅……それが実現するのだ」
これこそが銀星の目的。サーヴァントを召喚し、聖杯戦争を行ったのはあの古代宇宙船──異星の技術の完全なる解放。
(あの船を基にコズミック・セントラルの技術が生み出された。そして、それもまだ一部に過ぎない。
本来の機能は未だ封印されて、聖杯戦争によって目覚めようとしている。──どれほどの物なんだ)
彼の主目的はワープ技術。確かにそれが実用化されれば、人類は何十、何百光年もの距離さえも関係ない。宇宙開発においては夢の技術、俺もそう思う。
けれど、それさえもブラックボックスの権能の一部だと言っていた。未だ隠されている本来の機能は、どれだけのものか。半分興味、もう半分は……恐ろしささえ覚えた。
──最下層に到達する。
大穴の底、異星の船が鎮座する前で俺とタケル、ランマルとランサーがそれぞれ対峙する。
両者の間に立つようにして、ハルは言う。
「五十年前、全ての始まりの場、聖杯戦争の決着をつけるには相応しい。
……こんな所で戦っても大丈夫かですって? ご安心を、戦闘の際にはフィールドバリアを張りますので、重要な設備に被害が及ぶことはありません」
ランマルは太刀を構え、俺に視線を送る。
俺達の意思は同じだ。戦いに勝つ──誰であっても。そしてそれは向こうも同じ、まるで鏡合わせだ。
「聖杯が持つとされる願望機の機能もまた、判明しているブラックボックスの権能の一つ。聖杯戦争自体への願いを持たないカナタさま達はともかく、タケルさまが願うサーヴァントの受肉、ランサーが願うタケルさまの病の完治、それもブラックボックスが解放されれば叶うのです。
解放に必要なのは、残り一基のサーヴァントの魂。さぁ、譲れない物のため──全力で戦いなさい」
ランマルは俺に目配せする。
大切な友との戦い。思うところはどうしたってある、例え勝てても後悔は残るだろう。だとしても、今すべきことは揺るがない。
「……ああ。全力で勝ちに行け」
小さく頷いて、槍の切先を向けるランサーと対峙するランマル。そして──
地を蹴り、太刀を振りかぶり敵に迫る。
残る二人のサーヴァント──最後の一人を決める時だ。