Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第二節 老魔術師の野望(Side 総帥andアーチャー)

 

 ────

 

 世界は今や……酷く変わり果てた。

 

 

 かつて満ち溢れた神秘、それに対する叡智は時代とともに科学文明などと言う俗悪なもので追い立てられ、今や滅亡寸前にある。

 魔術協会、魔術師そのものさえ衰退し遠くないうちに存在すらも消える。何より魔術師の──我らが一族の悲願である『根源への到達』が潰えて終わってしまうだろう。

 

(我が一族も例外ではない。……このままでは悲願を叶える前に、一族そのものが滅びかねない。根源に到達出来ぬまま終わるなど──)

 

 根源──この世全て、万物の始まりにしてその全てを記録する存在。無限の知識と真理そのものである根源へと至ること。

 それこそが太古より人知を超えた神秘、奇跡を行使、研究、研鑽を行って来た我々魔術師の最終かつ、究極の悲願なのだ。

 

 

 

 ────

 

「──総帥、会場襲撃の成果は想定以上です。

 街の市民は騒然とし、大いに畏れている事でしょう。何より自らの直轄地が被害を受けた事によるコズミック・セントラルの社会的信用の低下もまた、免れないかと」

 

「……うむ」

 

 ガイアスの秘密拠点、中央制御室にて。総裁である儂は幹部より報告を聞いている。

 前回の技術展に対する襲撃。テロとしての結果も上々だろう。

 

「宇宙進出などの愚行、行き過ぎた科学文明に反省を促し宇宙で唯一なる生命の故郷、母なる地球への回帰を示す我らがガイアスの大義。

 所有するRMG−88、もはや旧式の人型機体さえ最新兵器並の性能と化する『あの方』の力さえあれば……必ずや達成出来るでしょう」

 

「……」

 

 ガイアスの大義を信じ、心酔するこの男は熱く語る。私は無言で頷き同意を示しはするが……儂は被る仮面の内で、軽蔑の眼差しを向けるのだ。

 

 ──くだらん。

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 儂は制御室を離れてある場所に向かう。あの男も、そこにいるだろう。

 秘密拠点の最深区画に通じるエレベーターで下へと降り、目的地へと到達し、扉が開く。

 

 ベン、ベベン

 

 広大な空間。照明も手前のタイル敷きの床に点々と設置された僅かなものしか点灯していない、大半が漆黒の闇で覆われた場所。

 エレベーターの扉から幾らか先、タイル上に不自然に敷かれた和畳と灯籠と、響く弦楽器の音。……確か三味線と言う日本の楽器だ。

 

 ──ベン

 

 灯籠に照らされ、赤と白が交じった派手な髪の、和服を纏った青年の姿をしたサーヴァント・アーチャーが畳に座り三味線を弾く後ろ姿。儂がここに来た事は気づいているだろうに、構わず弾き続けておる。

 

「……アーチャー」

 

 呼びかけでようやく楽器を弾く手を止め、儂の方へと向いた。

 

「マスターじゃないか。まだ完成さえしていないって言うのに、わざわざこんな所に来るなんてご苦労さまだ。

 アレについては僕に任せたはずだろう」

 

「馬鹿を言うな。あれは儂の切り札とも呼べる存在だ、お前ごとき……人間以下の使い魔風情の物ではない。

 儂の確実な勝利。その為に必ず要すると言うがために開発を認めたに過ぎぬ、図に乗るな」

 

「ああ、分かっているとも。マスターは君で、僕はサーヴァント──かつて存在していた何者かの影法師に過ぎない。

 自分自身の存在定義は、十分に理解はしているさ」

 

「ならば問題ない。引き続き儂のために尽力しろ。それが貴様の努めだ」

 

 アーチャーはうっすらと微笑みを横顔に浮かべ、頷いて応えた。

 この男、言葉ではああ言うが腹の中が読めぬ。隙あれば単独行動で勝手に出歩き、気ままに振る舞う態度。……気に入らない。

 

(気にはいらないが、奴は有能で能力も役に立つ。それに儂に従うことに変わりはしない。多少は見逃そうとも問題などない)

 

「だが、このような物がなくとも、貴様の能力があれば他のサーヴァントなど眼中にはないはずだ」

 

 儂はアーチャーが居る場所よりも更に奥──光の殆ど届かない暗闇に浮かぶ巨大な物体の影。奴が用意していると言う必勝の切り札、らしい。

 

「……全く動きもしない、出来損ないの木偶の坊め。

 会場襲撃の事もガイアスとしての大義を示す名目もある。が、それはあくまで目眩まし。仕組んだのはその最中に会場に展示されていた試作制御ユニットの奪取を目論んだ、貴様ではないか。

 この儂が協力し、無事に目的の物も手に入れたと言うのに……一向に完成しないのはどう言うことだ」

 

「ふっ、焦りすぎは良くないな。多少時間がかかろうとも、最終的に確実な勝利が手に入れば安いものじゃないか。

 僕の特別な兵器は一朝一夕で出来るものじゃない。最低でも後一月、手に入れたユニットの組み込みにも時間を要する上に、まだ手に入れるべき必要なパーツもある。別の奪取計画も考えないといけない」

 

「ふざけているのか!!」

 

 アーチャーの言う事を聞き技術展の襲撃も用意してやった。それなのに儂は、更に一ヶ月も待たされなければいけないのか!

 ただの使い魔の……分際が!

 

「まぁ、落ち着きたまえ。

 確かにこの時代の科学水準、僕の能力で強化した兵隊があれば敵じゃない。人間以上の力と能力を持つサーヴァントだろうと、あの人型機体のように……強力な武器と兵力さえあれば容易に倒せる。

 ──けれど」

 

 奴はおもむろに手にしていた三味線を二鳴らしして続けた。

 

「聖杯戦争を動かしているのは、この世界の科学技術を独占していると言ってもいい大企業、コズミック・セントラル。

 調べた所、半世紀前から急激に技術革新を成しているそうじゃないか。……僕から見てもその急速な進歩、ブレイクスルーは異常と言ってもいい。ただの最新技術だけじゃない、もっと別の──技術革新の元になった何かがあると考えるのが自然だろう」

 

 我慢はならない。が、アーチャーの言う内容もまた正しくはあると、儂は理解する。

 勝利のためであるのなら……使い魔だろうと、認めるしかあるまい。

 

「……うむ。あの男が行っている聖杯戦争も、かつて魔術師が行っていたものとは違い別の科学的な『何か』で代用している節がある。お前たちサーヴァントの召喚さえも。

 得体が知れないのは確かだ。──魔術世界の裏切り者、天原煌星のせがれめ。何を隠している」

 

「サーヴァントはいい。けれど最終的に対峙するのは、聖杯戦争を科学で再現する力を持つような相手だ。

 僕の力はあくまで自分の兵をその時代の最新装備、兵器へとアップグレードする力。逆に言えば、敵がそれ以上の何かを用意していた場合には力不足は確実だ」

 

 座っていた畳から立ち上がるアーチャー。

 奴が眺める先には、暗闇の奥に鎮座する巨大な木偶の坊……いや、儂が勝利を手にするための、切り札。

 

「──僕に任せたまえ。

 例え科学で行われているとしても、聖杯戦争は聖杯戦争。つまり願望機となる聖杯と同機能を持つ何かが存在するのは間違いない。

 聖杯戦争に勝利し、聖杯を手にするのは……君だ」

 

 聖杯は儂の物──か。

 何とも甘美な響きだ。笑いを堪えずには、いられない。

 

(儂がこの組織を立ち上げたのは、未来において滅亡の危機に瀕するであろう我が一族を守るため。……いつか訪れるであろう最終的な悲願、根源到達がために……科学文明を取り除く事による魔術師全体の復興、滅亡を阻止するためだ。

 だが聖杯の力があれば──儂自らが根源に至る事が出来る!)

 

「くくくっ、……はははははっ!!」

 

 素晴らしい。やはり介入した事は正しかった。

 儂が聖杯戦争に勝利し、数世紀に渡る一族の願いを叶えるのだ。

 

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