Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第三節 奇妙な同居人

 

「クスクスクス! このマンガ、実はボクも好きなのであります!

 主さまが買って来た新刊も期待を裏切らない超絶展開! ワクワクが止まらないです!」

 

「……」

 

 俺が暮らししている街のマンション。いつもなら自分一人しかいない部屋で、謎の同居人……いや人じゃない、同居サーヴァントのセイバーは大きなビーズクッションに身体を沈めて、俺が買ってきた漫画を読んでいた。

 

「……セイバーは、ずっと昔から俺と一緒にいたんだろ? その、身体を非実体にして幽霊や透明人間のようにする……霊体化ってやつで。

 その言い方からして、今までは霊体化して俺が読んでいる漫画を覗き見していたのか?」

 

「恥ずかしながら、存在を気づかれるわけにはいきませんでしたから。

 あっ! でもでも、昔から隠れてこっそりと主さまを手助けしていたのですよ? 掃除にお片付け、時々洗濯や料理もしましたし、学校に忘れ物を届けたりも。

 それと……中学校で親がいないと言っていじめていたいじめっ子達も、ボクがブチのめしておいたんです!」

 

「昔からいつの間に部屋が綺麗になっていたり、料理があったりと不思議には思っていた。

 いじめていた奴らも、何かひどい怪我をしてから急にいじめて来なくなったりしたのも、全部セイバーの仕業だったんだな」

 

 長い間、俺が知らないように色々助けてくれていたのは有り難いとは思う。実際セイバーは一緒に暮らしている間も俺に代わって家事手伝いをしたり、色々世話を焼いてくれる。勿論これまで通り自分でもしているにはしているけれど……。

 

(セイバーの世話焼きっぷりは凄まじいと言うか……何かあればすぐ世話を焼こうとする。あまり頼り過ぎると逆にダメになりそうだし、俺も自分の事は出来るだけ自分でしたい)

 

「そんなに見つめてどうかしたでありますか?

 もしや、ボクの可愛さに見とれてしまったり!? いやー! 照れるであります!」

 

 そう言って赤面した顔を手で押さえるセイバー。まぁ確かに可愛いかもしれないけれど……割と変な奴かも。

 

「色々と、考え事をしていただけだよ。

 君が昔から俺の傍にいた事も驚きだし……それに、一週間前のあの事だって。俺はいまいち感じが掴めないんだ。

 聖杯戦争──か」

 

 

 

 ────

 

 一週間前。それは技術展でガイアスの襲撃に巻き込まれ……セイバー、そしてランサー、アーチャーとそのマスター達に出会った、あの時。

 

「聖杯戦争の、監督官だって?」

 

「はい。私はギンセイ様に命じられて監督の役目を任されています。今回は未確認のサーヴァントとマスターを確認しましたので、直接会いに来ました」

 

 ガイアスを退け、セイバーはその代償にひどく消耗し、意識を失って倒れた。

 そんな中で聖杯戦争の監督官と名乗る片目隠れの女性を模したアンドロイド、ハルと対峙していた。

 まだ俺は殆ど何も分かってはいなかった。

 けれど大体の所、人とは違う異能を持った存在を使役させて何かしようとしているのは分かる。多分それが聖杯戦争。今の話が本当ならこれを行った黒幕は──。

 

「天原銀星……大企業コズミック・セントラルのトップで、この天宙市の設立者。彼がこんな事を引き起こした……黒幕だなんて」

 

 機械工学に宇宙工学、様々な分野で技術改革を起こし、人類が太陽系の半分近くにまでに進出した宇宙時代を作ったと言っても過言ではない人間。彼がこの異常を引き起こした張本人なんてすぐには信じられなかった。

 

「半分は正解ですが、アーチャーとそのマスターに関しては別です。

 テロ組織ガイアスの総帥と名乗る男は、本来のマスターに重症を負わせ腕ごと権能を強奪し聖杯戦争に乱入した、言うなれば狼藉者です。私も、ギンセイさまも対応には困っているのですが……」

 

「……」

 

「まぁ構いません。カナタ様は正式に登録されてはいませんがサーヴァントのマスター。聖杯戦争に参加する権利はありますが。どうしますか?」

 

 ハルから聖杯戦争と参加するかどうかと聞かれる。けれどそう聞かれた所で今の状態で答えなんて出せるわけがない。まず聞くべきは……。

 

「その前に聖杯戦争とは何なのか教えて欲しい。何も知らずに参加だなんて、決められるわけがない」

 

「……それは失礼。確かにこれまでの参加者にも、聖杯戦争がどのような物なのか説明は行っていましたね。では簡単に説明しますね」

 

 彼女は右目から覗く、精巧な機械仕掛けの赤い瞳を俺に向けて言葉を続ける。

 

「対戦式高次エネルギー収集プログラム──聖杯戦争は高次元に存在する精神体を(エーテル)エナジーで形成した身体に宿す事で、現実にも存在する半実体として人為的に生み出したAエナジー人型構成体『サーヴァント』同士を戦わせる事で、敗れたサーヴァントの精神体を回収、収集し莫大なエネルギーへと変換する事を目的にしています」

 

「サーヴァントは高次元に存在する意識体……よく分からないな。そんな話聞いたことがない」

 

「何と言えばいいのでしょうね。人類の集合的無意識、記録による影響を受け生まれた強いイメージ的存在、またはシンボル……魔術世界では『英霊』と呼ばれているようですが。

 故に人類史で名を残した偉人、傑物、さらには神話的存在などを元にした高次意識体。その分身を仮初の身体に宿し、現実世界に存在し続けるための楔、依代となる人間──マスターがいる事により実存することを許された存在です。

 最も、カナタさまのサーヴァントは我々が生み出したものではないイレギュラーですので、生い立ちは異なるかもしれません。ですが……少なくともAエナジーにより構成された肉体と、存在維持に魔力を必要とする点、存在としては同じものだと私は定義しています」

 

「……」

 

「理解出来ないのも当然ですよ。この世界には知られていないだけで超常的な事象はいくらでも存在していました。先程の説明もその超常事象を無理に解説しようと試みたものですので、はい。一部の人間はその一部を『魔術』として定義し、科学とは別の体系を独自に構築して来たとの事ですが

 ギンセイ様の父、コウセイ様は元はそうした魔術体系を学び、会得した『魔術師』の一人。ギンセイ様もその知識を知り、本来は魔術師が行っていた儀式、聖杯戦争を再現したのです。

 ……少々話しすぎたかもしれませんね」

 

 本当に訳がわからない話だ。こんな時代にオカルト紛いの話をされたって。……でも。

 俺はいまだに意識を失ったまま、目を覚まさないセイバーを見る。正体なんて分からない。だけど俺のために戦って、助けてくれた存在だ。放ってはおけない。

 

「聖杯戦争とやらは一応そう言うことでいい。後はこの……セイバーをどうにかしてくれ!」

 

 俺はハルに向かって言った。彼女も意識を失っているセイバーに目を向けると。

 

「魔力の使い過ぎですね。聖杯戦争のような強い契約ではなく、これまでは何かしら簡易的な契約でカナタ様から微量な魔力を得ていたのでしょうね。

 本人さえ気づかないくらいに」

 

「はぁ? 俺はセイバーと会うのは初めてで、そんな契約なんてした覚えは……」

 

 俺の反論に構わず言葉を続ける。

 

「まぁ構いません。セイバーは魔力の不足で倒れているのですから、カナタ様が多めに魔力を送れば目を覚まします」

 

「俺は普通の人間なんだ! 魔力を送る術なんて知るわけないし、大体どうすればいいのか方法もないだろ」

 

 そんな事、何をどうすればいいか分かるわけがない。するとハルは──。

 

「聖杯戦争に参加する正式なマスターとなるのなら、魔力を必要な分だけ送る事が可能になります。……ええ。たったそれだけ、簡単です。

 それにもし参加しないとしても、それはそれで構いません。ガイアスの一件も含めて聖杯戦争には幾らかの危険がありますし、参加などせず元の平穏な日常に戻る事も可能ですので。

 ただ…………一つだけ」

 

 彼女はセイバーの方に視線を向けながら、俺に告げた。

 

「もし参加しないのであれば、サーヴァントの回収はさせて頂きます。

 今はサーヴァント同士が戦い合う聖杯戦争の最中。共にいる限り巻き込まれるリスクもありますし、それに、我々が製造したものではないイレギュラー……どのようなものか詳しく調べたいですから」

 

「……っ」

 

 思わず躊躇した。

 当然こんな訳の分からない事、関わる気なんてあるわけがない。けれどそんな事をしたらセイバーがどうなるか……。

 

「どうしますか? カナタ様」

 

 本当に意味が分からない。巻き込まれるなんてごめんだ、けれど……。

 

「参加すれば……セイバーを目覚めさせられるし、手も出さないんだろ」

 

「はい。サーヴァントである以上、聖杯戦争に参加するのであればそちらを優先しますので。

 正式にカナタさまのサーヴァントとして認め、私は監督に徹するまでです」

 

 そう言う事なら──もう、仕方ない。

 

「参加、するさ。その聖杯戦争とやらに」

 

 ハルは了解を示すように小さく頷くと……。

 

「承知しました。では──こちらを」

 

 スーツの懐から彼女は小型の、注射器のような機械を出した。

 

「何だよそれは?」

 

「聖杯戦争に参加するための簡単な措置です。──中には簡単な身体改造を行うナノマシンが入っていまして、注入することで貴方の体内に人工的な回路を構築すると言いますか。

 簡単な話、サイボーグにすると言う意味です、ええ」

 

「はぁっ!? 冗談じゃないぞ!」

 

 俺の戸惑いすら気にせず、相変わらず落ち着いた様子でハルは続ける。

 

「まぁまぁ。心配しなくても身体に害は一切ありませんので安心してください。それに回路のおかげで貴方の生体エネルギー……魔力をサーヴァントに送れるのですから。

 聖杯戦争に参加するのでしょう? それなら──」

 

「ああっ! 分かったよ! 勝手にしろよっ!」

 

 こうなったら自棄だ。俺はシャツの袖を上げて、ハルに右腕を出した。

 

「感謝しますカナタ様。害はありませんが、少しだけチクッとしますよ」

 

 彼女はそう言って注射器のようなものを俺の腕に──刺した。

 

「──つぅっ!!」

 

 鋭い痛みを感じる。それに身体全体に何か侵食される感触も……くそっ、何だよこれは。

 思わず右手を見ると、手の甲に何か赤い模様みたいな物まで浮かび上がる。あのタケルと名乗った少年、ガイアスの総帥のものと同じような赤い三画の図形模様。俺のは五芒星形の星を象った赤いアザだった。

 痛みはしばらくして収まった。ハルの言う通り身体には何も異常はない、手の甲のアザを除いては。

 

「おめでとうございます。これでカナタ様もサーヴァント・セイバーのマスターとして──聖杯戦争の参加者です」

 

 こうして俺は聖杯戦争に巻き込まれる事になった。──日常とは異なる、非日常に。

 

 

 

 ────

 

(……と、言ってもな)

 

 あの事から一週間、聖杯戦争と言った所で俺の日常は特に変わることがなかった。

 それこそ同居人、セイバーと一緒に暮らすことになったくらいで。別のサーヴァントとマスターと遭遇する機会もない。

 俺はおもむろに右手の甲に浮かび上がる、三画で形作られた星型のアザ──『令呪』と呼ばれるものを眺める。

 

(あの後、監督官のハルが色々と教えた。……この令呪も、マスターとしての印であると同時に絶対的な命令権を行使するものらしい。

 三画分、つまり三回は自分のサーヴァントの命令を強制が出来るみたいで、彼女は強力な力を持つサーヴァントに対しての安全装備みたいなものだと言っていたか。もし危害が及びそうになった時には……これを使って無理やりサーヴァントに自害させるようにとも)

 

 自害──つまり自ら命を絶たせる事さえ強いられるほどの力が令呪にはある。それほどサーヴァントは危険な存在と言うことなんだろう。実際、俺は間近でそれほどの力を見た。こう言う機能が必要なのも分かる。けど、少なくとも俺のサーヴァント、セイバーは大丈夫そうな気がする。

 

「──あっ! お召し物のお洗濯は終わったみたいでありますね。取り込んで乾燥機にかけておくであります」

 

 向こうで俺の服を洗っていた洗濯機が、丁度洗濯が終わったアラームが鳴った。セイバーはぱっと席を立って洗濯機の方へと向かう。

 

「洗濯までしてくれるのは嬉しいけれど……下着の方は自分で洗うから、置いておいてくれたよな?」

 

 確認のためにセイバーに言うと、天真爛漫な笑みとともにこう返された。

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫でありますよー。ボクはマスターの全てを慕っておりますので、心配無用であります!」

 

 堂々と言われて思わず頭を抱えてしまう。同時に、ここまで悪気がないと逆に清々しいとまで思ってしまう。

 

(そう言う問題じゃあ……ないんだけどな)

 

 あれで男女性別が分からない分、逆に厄介でもある。俺の複雑な思いをよそにセイバーは颯爽と洗濯物を取り込みに行ってしまう。

 

(まぁ、確かに妙な同居人だ。けれど一緒にいるのも悪くない……かも)

 

 少しだけマイペースだけれど、一途に俺を慕ってくれる、愛らしくて世話焼きな同居人。聖杯戦争だなんて物騒なものがなければまだ良いんだが。

 

(全部で七人のサーヴァント同士の戦い。他のサーヴァントを全て倒し、最後の一人になるまで勝ち残らなければならない。それが聖杯戦争と言うプロセス。その為に用意された存在、いくら姿は似ていてもAエナジーで形作られたモノ、人間ではないとハルは言っていた。

 けれど人間と同じように心と感情はある。……ようは人殺しみたいな真似をしないといけないんだろ? 正直やりたくはない)

 

 けれど、断ればセイバーがどうなるか分からなかった。それに聖杯戦争と言う事は他のサーヴァントからも狙われる事を意味していた。

 ハル曰く彼らも知らない『イレギュラー』のサーヴァント。確かにセイバーは友好的だけれど、肝心の自分自身のことははぐらかして、あまり教えようとはしなかった。……ついでに自分の性別も。

 無理やりにでも聞き出せばもしかすると──。けれど今はそこまでする必要はないと思っている。セイバーは俺に友好的で、何より命の恩人だ。

 

(あの襲撃の時、俺の命を救って俺のために戦ってもくれた。

 なら俺も出来る限りの事はしたい。聖杯戦争なんて御免だけれど、せめてセイバーは守りたい)

 

 まぁ、セイバーと違って全く非力な、ただの人間に過ぎない俺がそんな事を思うのは変かもしれないけどな。

 

(ハルはこんな事も言っていた。聖杯戦争に最後まで勝ち残れば──望む願いを叶える権利が貰えると。

 何でも願いが叶えられるなんて、マンガじゃあるまいし。大体俺は自分の願いを叶えるために今頑張っている所だ。宇宙に行くために、宇宙航行士になるために勉強して、努力して来た。

 俺にとっては今更だし。あーあ、冗談じゃない)

 

 俺は部屋のマットに仰向けになって、一人天井を見上げる。

 

(今日は日曜で明日からまた学校、戦争とは無縁の日常。せめてこれが続けば良いんだけれど……な)

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