ブルーアーカイブ 〜平等の幸せを求めて〜   作:眠り狐のK

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2ヶ月ぶりらしいです、はい


22話 選択前の最後の夜

 あれから、アビドスに戻ってみんなで話し合い、一旦は落ち着くために今日は解散することになった。

 まぁ、一気に返済するお金が増やされれば仕方もないことだけれど、PMCの施設に侵入するなんてシロコさんが言い出したときは分かってたとしても少しひやっとした。

 ともあれ、無事に場は収まり皆解散、その放課後に僕とシロコさんとホシノさんだけが残った。

 

「うへ、シロコちゃん、まだ何かやることがある感じ〜?」

「……先輩、ちょっといい?」

「うへ、おじさんとお話したいの〜? いや〜、照れるなぁ〜。でもさ、今日は色々あって疲れたし明日にしようよ。内容は大体分かってるしさ」

「……ん、わかった」

 

 シロコさんは目を閉じて頷くと僕の方を見てきた。まるで後は任せたと言うかのように。僕は、その何回か見た視線に頷く。それを見たシロコさんは鞄を持って教室を出ていった。

 

「うへ、先生やるねぇ? 私の可愛いシロコちゃんといつの間に目と目で意思疎通出来るようになったの〜?」

 

 僕は黙って鞄の中から1枚の紙を取り出すと、それを見たホシノさんは少し硬直する。少し前に、シロコさんから受け取ったホシノさんの退部届だ。

 これを受け取った時の僕は冷静だった。ホシノがいつか退部届とともに姿を消し、黒服の所に行ってしまうということ事態は知っていたからだ。だからこそ、退部届を受け取ったときに感じた感情は驚愕ではなく納得だった。これを見つけたからシロコさんは怒っていたのかと。それと同時に「どうせなら1から10まで全部教えてくれてたらよかったのに」なんてどうしょうもない部分に苦笑いを浮かべていた。

 

「うへ!? ……もしかしてシロコちゃん? 流石に先輩の鞄漁るのは駄目でしょ〜、ちゃんと叱っておいてよ〜?」

「うん、まずはこれの話からしようね」

「……逃してくれはしないよねぇ〜。じゃあさ、ここで話すのもあれだしその辺散歩でもしながら話さない?」

 

 僕はホシノの提案にこくりと頷いた。そして二人で教室を出て廊下を歩き出した。

 

「けほっ、けほっ……うわぁ、ここも砂だらけじゃ〜ん。ま、仕方ないけどねぇ……人数が足りてないし、砂嵐が減ってくれればいいんだけど……」

「でも、ずっとみんなで守り続けてきた学校なんだよね」

「そりゃあね、私達の学校だもん。……砂漠化が進む前はもっと大きくて力のある学校だったなんて言われてるけど、おじさんにはそんな記憶も実感もなくてねぇ〜。最初からめちゃくちゃで、ちゃんとしたところなんてなかった」

「それでも守り続けてたんだから、それだけここが好きなんだよね」

「……そうかもね。そのお陰でシロコちゃんやノノミちゃんやセリカちゃんやアヤネちゃんにも出会えた訳だし」

 

 ホシノさんは頬を人さし指で軽く掻くように答えた。

 そう、それこそが生きる者誰しもがもつ平等な権利。何かを好きになることも、それを守りたいと思うことも、平等に誰もが持つ感情。それを守るのが僕の役目。

 

「先生、正直に話すよ。私は2年前から変なやつらから提案を受けてた」

「もしかして、カイザー?」

「正解、といってもその話をして来たやつの正体は知らないんだけどね。なんとなくぞっとするやつで、あの理事ですら恐れているように見えた」

 

 黒服か。本来生徒の敵として存在するゲマトリア、生徒達の幸せを考えて危険な芽は摘んでおくべきなんだろうけど、今回に限って僕はそれをしないことを既に選択している。

 ゲマトリアは、生徒を守るために倒すのではなく、生徒を守るために利用する。今はそれが出来るだけの手札がある。

 この手札……契約はゲマトリアにとっては現状結ばなくてもいい契約ではある。でも、ベアトリーチェならともかく、その他の彼らであれば十中八九乗ってくる。だって、この契約こそがゲマトリアにとっての一つの大きな危険要素を排除する最初で最後のチャンスなのだから。ゲマトリアにとっての危険要素であり、生徒にとっても危険要素、その排除に僕が協力する、それが黒服に持ちかけようとしている契約。

 

「そういえば、この前もあったなぁ〜……。私がアビドスを退学して、向こうに行けば借金の半額を負担するって。当時の私は私がアビドスを去ったら崩壊するって断ってたけど、今じゃそれしか方法が思いつかないのもあってね、ちょっとした気の迷いというか……」

「その人は……」

 

 その提案をした人物が誰なのかはよく知っている。でも、敢えて知らないフリをする。ここで下手に怪しまれて計画が狂っても良くない。

 

「そいつは、『黒服』って名乗ってた。誰かに付けてもらって、気に入ってるんだってさ」

「黒服……」

 

 付けてもらった?

 僕は、その細かな部分に引っかかりを覚えた。僕の記憶の中では、その呼び方を最初にしたのはホシノであるはず。それを、黒服が気に入って使うようになった、そうじゃなかったっけ。

 僕が覚えてないだけなのか、それとも彼以外のイレギュラーが存在しているのか……いや、今はそんなことはどうでもいいだろう。

 少し考え事をしてると、ホシノは目の前で退部届をビリビリっと破り捨てた。

 

「……うん、もう必要ないかと思ってさ。正直、こんな話をしてもみんなに心配かけちゃうだけだし……っていっても、隠し事するのもよくないよね。明日、みんなに話すよ」

「小鳥遊さん……」

「あ、そうだ。先生、ちょっといい?」

「なにかな?」

 

 ホシノは黙って付いてくるように僕の手を引いた。少し歩き、着いた先は射撃場だった。

 

「はい、これ」

「これは……」

 

 手渡されたのは一つの銃。アビドスに来た時に、ホシノに預けた僕の銃だ。

 

「先生はもう信用できない大人じゃないし、返すよ。その代わり、それ撃つところ、見せてよ」

「……」

 

 それは、ホシノが初めてこの世界で見せてくれた信頼の眼差し、そして初めてのお願いだった。

 僕は黙って的を見る。銃を構えて、10発の弾丸を撃ち込む。

 

「……10発中8発命中、内5発は中心……先生、もしかして銃撃ったことあるの?」

 

 キヴォトスにおいて銃撃戦は日常茶飯事。しかし、キヴォトスの外は違う。ホシノはキヴォトスの外のことはほとんど知らないだろう。それでも、キヴォトスの外の人間はヘイローを持たず、銃弾一発すら致命的になる、それだけの情報があれば、キヴォトスの外でもキヴォトス同様に銃弾が日常的に飛び交っているなんてことは考えづらいだろう。だからこそこの疑問が出てくるのはなんとなく理解が出来た。

 

「いや、ないよ」

「それなら、少し練習すればここでも戦えるようになるかもねぇ〜。……生徒と同じ身体を持ってれば、だけどね〜」

 

 ホシノはいつものゆるっとした雰囲気で微笑むと背を向けた。

 

 

 

―――アビドスの生徒達をよろしくね―――

 

 

 

 この先の事を知っているからなのか、その背中からはそんなメッセージが伝えられたような、そんな気がした。

 明日のホシノの行動からして、この感覚はきっと気の所為じゃない。だからこそ僕の行動は――

 

「せ、先生……?」

「それはまだ小鳥遊さんが持ってて」

 

 僕はホシノから返して貰った銃を再びホシノの手に握らせた。

 

「元々、今のところそれを使う予定はないから、信用できる小鳥遊さんに持ってて欲しいんだ」

「でも…………いや、うん、わかった」

 

 ホシノは渋々といった感じで銃を受け取った。きっと心の中では、黒服のもとへと行く決断をしようという中で、受け取ることに抵抗があるのだろう。でも、信頼の目と共に握らされたそれを突き返すことはできなかったのだろう。

 使う予定がないというのは嘘。

 一度だけ、使うつもりでいる。でも、今はホシノに持っていて貰わないと困る。

 だから、こうする。こうすれば、黒服の居場所もすぐに分かるしホシノも助けられる。最低限決戦の準備は出来ているから、あとはゲマトリアに契約を取り付けて、その技術を借りる、それが第一の目標。

 本来なら、もっと早く黒服の居場所を突き止めて、契約を結ぶことも可能だった。でも、同時進行でアビドスの件も解決に向かわせられるこのタイミングを敢えて選んだ。

 準備をするための時間を確保する為も込みではあるけど、あの選択をする決断をした上でこの道を選ぶあたり、僕がみんなを幸せにしたい気持ちは変わらないのだなと思った。

 

 

 

 

 ――いや、違うね

 

 

 

 

 ――だからこそ、僕はあの決断をしたんだった。

 

 

 

 

 

 


 

 翌日の早朝、いつもの教室内でホシノは一人、改めて書き直した退部届を見つめながら呟く。

 

「……みんな、アビドスをよろしくね」

 

 この時間なら誰も登校してこない、そんな時間にホシノは登校していた。その表情は少し寂しそうに、最後の日常の風景を眺めていた。

 ホシノはこれから、黒服の所に行く。ホシノはもうこの手を使う他なかった。増え続ける借金、そこに引き上げられた莫大な利子。このままでは、本当にアビドスが潰れてしまう。それだけは絶対に避けなくてはいけない。後輩達を守るのは自分だ。本当はこれからもずっと守っていきたかったが、それは叶いそうもなかった。

 現状を打破するには、黒服と契約して莫大に引き上げられた利子を何とかしてもらう。可能なら借金もある程度減らしてくれたら幸運、それしか方法はないとホシノは考えた。

 唯でさえ、利子を返すのもなんとかな状態の今、利子を引き上げられてしまっては長くは持たなくなってしまう。でも、それさえなんとかできればアビドスはまだ生き残れる。そうすれば…………あとは先生がきっとなんとかしてくれる。その為に、ホシノは自分の全てを差し出す覚悟を決めていた。

 

「……先生」

 

 ホシノは、一つの銃を取り出して呟いた。それは、先生から預けられた銃。

 結局、あの後先生に銃を返すことは出来なかった。もう、ホシノはアビドスからいなくなってしまうというのに。このまま手紙と一緒に置いていこうかとも考えたが、信頼してる自分に持っていて欲しいという先生の言葉がそれを引き止めていた。

 

「昨日は、楽しかったなぁ……」

 

 昨日の夜のことを思い出しながらホシノは一人呟く。

 あの後も、暫く先生と話し合った。何気ない雑談をし、アビドスの話を、後輩達の話をして、最後の楽しい時間を過ごした。特に、「アビドスのことは僕に任せて、小鳥遊さんは安心して待ってて」と、自分に預けられた銃はそのお守りでもあるのだと、最後にそう言ってくれたのは嬉しかった。でも、その言葉の真意はわからない。純粋に考えれば、今のアビドスの状態に対する言葉であると考えられる。しかし、本当にそうなのであれば、もっと早くにその言葉を口にしているはずなのだ。そう、/対策委員会のみんながいたタイミングで/。敢えてあのタイミングで、ホシノの二人きりのタイミングでホシノだけに伝える必要がないのだ。だとすれば、恐らく他に理由がある筈だ。例えば、/ホシノがこの選択を取ることを確信しているからこその言葉だった/とか。

 

「うへ……露骨すぎたかなぁ」

 

 思い返せば、あのタイミングで銃を返そうとしたことだったり、初めて自分自身の心で先生にお願いをしたことだったり、自分が居なくなる直前であることが推測できる行動はあった。それらが、退部届を破り捨てた後の出来事であるのだから、そう考えてもおかしくはない。

 

「……ごめんね、先生」

 

 ホシノは静かな教室で先生に謝罪した。先生はきっとこの選択を望んでいない。だからこそあの言葉を自身にくれたのだと感じていた。その先生の想いをこれから裏切ろうというのだから。

 先生に任せれば、奇跡が起こるかもしれない。もしかしたら、何とかなるかもしれない。でも、『このまま先生に任せる』ことと『引き上げられた利息と借金をある程度何とかしてから先生に任せる』だと、どちらの方が上手くいくか、考えるまでもなく後者の方が可能性は高いだろう。そもそも、この問題自体、本来は今は亡き先輩からアビドスとその後輩達を託された自分が何とかするべき問題なのだ。だから、ホシノはこの決断を変えることはない。

 

「みんな……さよなら」

 

 教室を出ていったホシノの言葉は最後まで静かな教室に響くのみ、当然その言葉が届くのは教室に残された退部届とみんなに宛てた手紙がみんなの手に渡ったときだろう。

 

 

 

「……小鳥遊さん」

 

 

 

 事前にホシノの行動を知り、隠れて様子を見ていた大智先生以外には。

 




次回から本格的に原作と展開が変わっていきます。
もっと更新頻度あげたーい!(願望)
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