「さて、改めてみんなお疲れ様。よく頑張ったね」
教室に戻ってはみんなに改めて労いの言葉をかける。
「ん、先生の指揮がよかった。私達だけのときとは全然違う。資源と装備に戦闘の指揮まで……大人の力ってすごい」
シロコさんが自分の指揮を褒めてくれたが、正直自分は殆ど何もやってない。多少口出ししたくらいで、あとのサポートはアロナ頼り。自分の指揮が良かったというより、アロナが優秀なだけだと思う。
「今まで寂しかったんだね、シロコちゃん。パパが帰ってきてくれたおかげで、ママはぐっすり眠れまちゅ」
「いやいや、変な冗談はやめて! 先生困っちゃうじゃん! それに、委員長はその辺でしょっちゅう寝てるでしょ!」
「あはは……」
賑やかな子たちだ。
この子達が抱えてるものをある程度知ってるからこそ、この賑やかさは奇跡なんだなと思う。
まだ、この子達は希望を捨ててない。だからこそ、僕が守らなくちゃいけない。平等を守るものとして、先生として。
「えっと、少し遅れちゃいましたが、改めてご挨拶しますね、先生。私達はアビドス対策委員会です」
「うん、よろしくね。みんなのことはさっきので把握したから自己紹介は大丈夫だよ。それで、対策委員会って?」
ホシノさん、シロコさん、ノノミさん、セリカさん、アヤネさん、この5人の顔と名前は頭に入っている。それぞれ個人のことはこれから少しずつ知っていこう。
「わかりました。では、対策委員会のことからご説明致しますね。対策委員会とは……このアビドスを蘇らせるために有志が集った部活です」
「うんうん! 全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです! 全校生徒といっても、私達5人だけなんですけどね」
「ん、他の生徒は転校したり、学校を退学したりして街を出ていったの。学校がこの有り様だから、学園都市の住人もほとんどいなくなって、カタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる始末、現状私達だけじゃ学校を守り切るのが難しい。……在校生としては恥ずかしい限りだけど……」
それぞれが対策委員会について説明してくれる。在校生が5人しかいないのは知っていたし、原作知識がなくても他の校舎の状態や街の様子を見るとなんとなく予想はつく。
そう考えると、改めてこの5人だけでこの学校を守ろうとしてるこの子達がどれだけこの学校のことを好きなのかがわかる。
「もし『シャーレ』の支援がなかったら今度こそ万事休すってところでしたね……。もしかしたら、今頃
「だねぇ〜。補給品も底をついてたし、流石に覚悟したよ〜。なかなかいいタイミングに現れてくれたよ先生」
この子達も、たった5人でよくここまで持ちこたえてくれた。
それも、この子達の努力の賜物なのだろう。
「もうヘルメット団なんてへっちゃらですね! 大人の力ってすごいです☆」
「かといって、攻撃を止めるような奴らじゃないけど」
それはそうだ。そう簡単に攻撃を止めるような相手なら、ここまで追い詰められてはないだろう。
カイザーコーポレーションがアビドスの砂漠で何かを探していて、そのためにアビドスの土地を欲しがっていることは知っている。そのためにカタカタヘルメット団を雇ったり回りくどい方法でアビドスを占領しようとしていることも。
そこまでして求めているこのアビドスに一体何があると言うのだろうか?
「こんな消耗戦を、いつまで続けなきゃいけないのでしょうか……。ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに……」
アヤネさんの顔が不安そうな表情に変わっていく。
ヘルメット団以外の問題といえば、借金のこともだろう。どれくらいかは覚えてないが、アビドスにはかなりの借金があったはずだ。
結果的に言えば、カタカタヘルメット団のことも、借金のことも一貫してアビドスを手に入れるためにカイザーコーポレーションが仕組んだことなので、実質問題は一つとなるわけだ。
これらのことを打ち明ければ解決は早くなるかもしれないが、それでは子供たちの為にならない。
先生という立場上は、生徒の成長の為にも働かないといけないので、答えばかり教えていてはいけない。生徒たちに考えて動いて貰う、もしどうしても駄目だったらこの手札を切るくらいにしておくほうがいいだろう。
というのは表向きの理由で、実際は原作を下手に改変するわけにはいかない、という理由のほうが強い。下手に大筋を変えてしまってアビドスのことが解決できるまでに彼に接触できないなんてことになってしまっても困る。
どちらにしても、今ここであまり踏み込みすぎると、どうしてそんな深い事情まで知っているのかと、逆に不審に繋がってしまう危険性もある。
カイザーが犯人である証拠も手元にないわけだから、すぐ解決できるようなものでもない。
そう考えると、どちらにせよここで持っている知識を全開するのは得策ではない。最終手段にしておくのが懸命だろう。
そんなことを考えていると、ホシノさんが少し前に出てきて話しだす。
「といんわけで、ちょっと計画を練ってみたんだぁ〜」
「えっ!?ホシノ先輩が!?」
「うそ!?」
「いやぁ、その反応はいくら私でもちょーっと傷ついちゃうかなぁ〜。おじさんだってたまにはちゃんとやるのさ~」
この問題を解決する策を立案しようと声を挙げるホシノさんに対して、それぞれが驚愕した反応を返す。
ホシノさんはそんな反応を見て人差し指で頬を掻きながら苦笑いを零しながらも、表情を真剣な顔つきに変えて、そのまま話を続ける。
「ヘルメット団は、数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんところずっとそういうサイクルが続いてるからね~」
他のみんながこくりと頷く。
ヘルメット団はそうやってアビドスを消耗させるのが作戦なのだから、その可能性は高い。いや、限りなく100%と言ってもいいだろう。
「だから、このタイミングでこっちから仕掛けて、奴らの前哨基地を襲撃しちゃおうかなって。今こそ奴らが一番消耗してるだろうしね〜」
「い、今ですか……?」
「そう、今なら先生もいるし、補給とか面倒なことも解決できるしね~」
この子達は知らないけど、実際この選択は正解。
ヘルメット団にはカイザーコーポレーションが裏についてるので、長期的に消耗させる作戦では、確実にこっちのほうが負ける。となれば、相手が消耗してるタイミングで叩きに行くしかない。
「なるほど、ヘルメット団の前哨基地はここかは30kmくらいだし、今から出発しよっか」
「いいと思います。あちらも、まさか今から反撃されるなんて夢にも思ってないでしょうし」
「うーん……先生はどう思われますか?」
「うん、いいと思う。このまま守ってばかりだとまたジリ貧になっちゃうかもしれないしね」
ホシノさんの意見に僕も賛同する。
少し申し訳ないと思いつつも、真実は隠したままで。
この子達は、そのうち真実にたどり着く。結局は遅いか早いかの違い。
だから、先程も言ったように無駄なリスクは負わずに、子供たちが成長できる方を選ぶ。……その方があの件の情報収集の時間も稼げるしね。
「よっしゃ、先生のお墨付きも貰ったことだし、この勢いでいっちょやっちゃいますか〜」
「ん、善は急げ、だね」
「はい〜☆ それではしゅっぱーつ!」
数時間後
「敵の退却を確認。並びに、カタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊を確認しました!」
「これでしばらくは大人しくなるはず」
「よーし、作戦終了。みんな、先生もおつかれ〜」
結果から言うと、作戦は大成功。とはいっても、万全のアビドスと消耗しているヘルメット団では失敗する要素もないかな、とは思うけど。
「それじゃ、学校に戻ろっか〜」
「小鳥遊さん」
「うへ、どうしたの先生〜?」
みんな学校に戻る中、先生はホシノを呼び止める。さらに、他の子達には先に戻るように言っておいて、二人きりになれる状況を作る。
「……これを、預かっていてほしいんだ」
「……これをどうしておじさんに〜?」
先生は懐から自らの銃を取り出してホシノに差し出した。
実は、この銃はアビドスに来る前にさり気なくミレニアムのエンジニア部に作ってもらっていたもの。
本来の先生ならきっとこんな武器を持つことはなかったのだろう。でも、自分としては持てる手札は多い方がいい。
それなら、どうしてこんなことをするのか。
ホシノも、少し真剣な顔つきになり、その行動の真意を問う。
「いやぁ、護身用としてって持たされてるけど、僕としては生徒に銃を向けたくないからね」
「……ほんとにそれだけ?」
理由を説明する先生にホシノは疑問を返す。
確かに、先生の説明は納得できる。
今回の作戦も、ヘルメット団が襲撃した時も、先生は銃を出すどころか、持っていることを匂わせることすらなかった。
これまでの行動の中で一貫して、銃を使う気はないように思えた。
それなのに銃を携帯しているということも理解できる。
キヴォトスは、銃弾が飛び交うのが日常とも言える世界。それこそ、戦いを好まない・ほぼ行わないような組織の人間ですら、護身用として持っている場合が多い。銃弾一発が致命的になりかねない先生であれば尚更持っておくべきとも言えるくらい。
それなら、その唯一とも言える武器をわざわざ自分に渡す理由は?
先生の指揮能力は確かにすごい。謎の力で自分達に情報を流したりしてるし、今回の作戦では、どこからかバリアを展開して先生に飛んでいった銃弾を防いでたりもした。
ホシノ自身の予想としては、先生が手に持ってるタブレット端末。あれを使って指揮やバリアの展開を行っているのだと想像している。
もしかしたら、自分達に見せてない攻撃手段もあるのかもしれない。
だとしても、この行動の意味が理解できない。
持ちたくないのなら、シャーレに置いてくればいい。
万が一のために近くに置いておきたくての行動なら、しっかりしててあまり前線に出ないアヤネや、この中で現状一番先生に対して信頼を置いているシロコとかに任せるほうがまだ適任だろう。
誰でもいい中から選ばれたのならまだしも、わざわざ自分を名指しで、しかも他の子に知られないように二人きりになってまでやる理由がわからない。
だから、その理由を確かめるための問い。
そして、その問いに対しての先生の回答は
「―――もちろん。だからこの学校の代表で、信頼できるホシノにお願いしたいんだ」
―――嘘だ。
絶対に、それだけの理由のはずがない。
確かに、自分は対策委員会の委員長という肩書はあるが、自分を選ぶ理由それだけのはずがない。
信頼できる相手なら他の子でもいいはずだ。わざわざ他の子に隠してまで自分を選ぶ理由にはならない。
そもそも、ホシノ自身は先生のことをまだ完全に信頼しているわけじゃ……
(……まさか)
ふと、ホシノの頭に一つの仮説が思い浮かぶ。
自分をわざわざ選ぶ理由は、委員長だからでも、信頼してるからでもなく、この中で一番先生を信頼できてないからだとしたら?
それを、先生に見抜かれているのだとしたら?
それなら、わざわざ二人きりになるのも、自分を選ぶのも、説明がつくのではないか?
先生のことを警戒していることは他のみんなには話していない。
先輩として、後輩たちを守らなくてはいけない。だからこそ、先生がほんとに信頼していい大人なのか、警戒心を悟られないように見定めていた。
もし、それを見抜いた上で自分に銃を差し出しているのだとしたら、その意味は……
その考えが正しいのか確認するためにホシノは無意識に、少しの動揺を隠しながらも口を開ける。
「……生徒とはいえ、会ったばかりの子に命を預けるようなことして大丈夫?」
「生徒だからこそ信頼してる。もし、それで僕が小鳥遊さんに撃たれることになるなら、それは仕方がないよね」
その一言は、最早全ての答えと言っても過言ではない言葉だった。
つまり要約するなら、先生の言葉は……
―――もし、信頼できない大人だと思ったら、撃っても構わない―――
ということなのだ。
その言葉に、ホシノはどう反応すればいいのか困惑する。
正直、この行動だけでこの人は信頼してもいいんじゃないかとまで、ほんの少し思ってしまった。
だって、騙すためだとして、ここまで命を預けることができるか?
今まで自分たちを騙した大人たちはここまでのことをしようとしていたか?
答えは否、ここまでしてくれた大人なんていなかった。寧ろ、自分が先生の立場だとしたら、ここまで相手に生殺与奪の権利を渡すような選択を取れるのだろうか?
この大人はほんとに信じてみてもいいのではないか?
ホシノの中に、先生を信じたいという心が芽生える。でも、後輩たちに万が一のことがあると、と考えるとほんとに信じてもいいのか、と思っている部分もある。
ホシノは少し考えて選択する。
結論を今すぐつける必要はない。
先生は、これからもアビドスの為に手を貸してくれると言うのだ。だから、これからの先生を見て、決めれば良い。
もう二度と、
だから、ホシノが選んだ選択は……
「うん、わかった。しっかり預かっておくよ」
ホシノは、先生から差し出された銃を受け取って、大切にしまった。
新情報
この世界の先生は武器を持っている
本編の先生は、基本的に戦わないので銃は持ってないですが、大智先生は持っちゃうほうの先生です。
といっても、生徒に向ける気はなく、性格上持てる手札は持てるだけ持っておきたいっていう人なので持ってるだけでもありましてですね。
でもです、生徒に向ける気はないということは、生徒以外には向ける可能性はあるんですよね。
これからの展開が楽しみですね
あと、大人に騙されていっぱい苦労してるアビドスのみんなには幸せになってもらわなきゃ
特にホシノ
アビドスとか後輩たちを守ろうと必死に頑張ってるんだから、報われないとね
だからいっぱい甘やかして幸せにしなきゃ。ユメ先輩の分まで幸せにならないと天国でユメ先輩が安心できないじゃん?(???)