警告の意味も含めて【ハーレム】タグ追加。
言い寄られるのがメインになりそう。
丑三つ時――
それは妖魔が最も活発になる時間帯である。
『世界樹』の魔力を狙い襲撃に来る魔獣たちを、『魔法教師』と『魔法生徒』が裏で撃退することになっているらしい。
タカミチに『広域指導の一環です。ご理解いただけませんか?』と言われてしまい非常に面倒ながら、僕も警備としての役目を渋々買った次第だ。
既に集合場所となる広場には、多くの『魔法教師』と『魔法生徒』が集合し、タカミチが何かを説明している。
見方によっては『遅刻』だろうが、バレなきゃ遅刻ではないんだ。
ハオが気配を遮断し、人々の中へ潜入する。
少年が周りの人々を見渡すと、微かに体から『魔力』や『気』が漏れ出している事が視認できた。
タカミチを見ると完全に抑え込んでいるようだが、それすらも出来ない此処の連中では程度が知れる。
僕自身が『魔力』や『気』の類を使うことは不可能だが、『感知』だけであれば十分可能だ。最も、それくらいできなければ『あの馬鹿』と追いかけっこなど出来るハズが無い。
そもそも『生徒』を危険な目に合わせておいて、何かあったらどうするのかと甚だ疑問ではあるが、僕の知った事じゃない。
生徒を育て、魔法界に羽ばたく人材を――とでも思っているのだろうか、余りにもお粗末だ。
内心、嘆息をつきながら前方へ視線を上げると、タカミチと目が合ってしまった。
「皆さん、警備に入る前に紹介しておかなければならない人がいます」
タカミチが声を出すと、周りの教員がざわめきだった。
「ハオ先生。自己紹介をお願いします」
人々をかき分け、タカミチの元へ向かう。
彼の横に立つと、小さい声でハオが言った。
「面倒な事を……」
タカミチはバツの悪そうな顔をしているが、所詮は『自己紹介』。業務上仕方のない事だが、本当に手間がかかる。
「今、高畑先生の紹介に預かった『麻倉 葉王』だ。よろしく頼むよ」
本当に『一言』。名前以外不明な自己紹介に、場の空気が凍った。
「ハオさん、いくら何でもそれは流石に……」
口元を手で覆ったタカミチが囁く。
いったい何が不満なんだ? 名前が分かれば十分だろう。
心の中で小さく舌打ちをしながらも――
「質問がある奴は挙手をしろ、ある程度の事までなら答えてやる」
威厳溢れる王の様な一言に、場の空気は更に固まった。
この中の大半は初対面だ、僕とタカミチの戦いを見ていた『一部』の魔法関係者はいるようだが……
などと考えていると、ハオの戦いを見ていた『一部』の魔法教員が、申し訳なさそうに挙手をした。
「何だ?」
「つい最近、高畑先生とハオ先生の模擬戦を見せてもらった者です」
知っている。僕の記憶力を何だと思っているんだ、コイツは。
「あの模擬戦の『赤い巨人』と言いますか、『使い魔』と言うのでしょうか? あれは一体何でしょうか?」
『模擬戦』に呼ばれた者だけあって、ある程度の事までは分かる実力は有るらしい。
「『式神』だ」
ハオが呼吸をするように嘘を吐く。
「『式神』ですか?」
「そうだ、広場に集まった人の多くが見ていないだろうが、僕は『式神』を使うことが出来る。とは言えあれ程の『式神』を使うと『魔力』の消耗が激しくてね、高畑先生には胸を貸していただいた」
ハオは更に嘘を重ねる。
そもそも、『エヴァンジェリン』との戦闘は『黒雛』を使った。ここにいるタカミチ以外の全ての人間に、あの高速戦闘は見えていないだろう。
僕の『象徴』にも見えるだろう『スピリット・オブ・ファイア』を、まるで制限のある『切り札』のように見せていた方が後々都合が良さそうだ。何より無駄な情報漏洩は避けたい――
どうした、タカミチ? 『そんな設定にするんですか?』みたいな顔をするんじゃない。バレるだろうが。
「ですよねぇ? 高畑先生」
ハオが笑顔で念を押す。
タカミチに向けられた笑顔には、『下手な事を喋ってみろ。殺しちゃうよ』と明確に書かれていた。
「私の方も全力でしたよ、ハオ先生」
タカミチが間を空けずフォローに入った。他の人の目には可能な限り『謙遜』に映るように――
「またまた、御冗談を」
『ナイスフォロー』だと言わんばかりのハオの返答に、タカミチは心底安堵していた。
「あまり時間を割く訳にもいきませんから、今日のところはこの辺りで……それでは皆さん、持ち場に移動を開始してください」
タカミチの一言で『魔法関係者』の移動が始まる。
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『B53』と地図に書かれた目的地に移動する少年。
集合地点には既に二人の少女が立っていた。
ネギ君のクラス名簿で見たことがある顔だ。
「少し遅れたかい?」
雑談をする少女たちの背後から声を掛けると、二人は慌てて振り向いた。
どうやら僕の気配を感知出来なかったらしい。
「あ、い、いえ、そんなことは……」
「まだ5分ほど早いくらいだ、麻倉さん」
「そうか、なら良かった。今日はよろしく頼むよ」
ハオは少女たちに手を差し出す。
名簿を作成した、タカミチの記述が正しければ右の女が『神鳴流』……『銃』を持つ左の女とコンビで、遠近両用ってとこか?
「初めまして、麻倉さん。『桜咲刹那』です。本日はよろしくお願いします」
「『龍宮真名』だ。今日はよろしく頼みます」
二人の少女と握手をすると、『魔力』と『気』以外の何かが、ハオに伝わった。
この『魔力』の流れは、『悪魔』……いや『魔族』に近いか?
何にせよ、中々面白いものが潜んでいそうだな。
「もう少し崩してくれても良いんだよ? 来週からは君たちの『副担任』になる予定だからね」
微笑むハオに少女たちは答えた。
「そ、そうですか。ではハオ先生と……」
「そうだな、私たちのクラスにいる『朝倉』と区別がつかなくなるし、私もハオ先生と呼ばせてもらおうか」
「じゃあ、改めてよろしく頼むよ。刹那、真名」
急に名前を呼ばれた少女たちが固まった。
「どうした?」
疑問符を頭に浮かべるハオに、少女たちが答える。
「い、いえ、中々下の名前で呼ばれたことはなかったので……」
「やめた方が良いかい?」
「いや、別にそういう事じゃないんだが、少々驚いただけだ」
照れくさそうに笑う少女と、急にモジモジし始めた剣士――
面倒な雰囲気を切り替えるために、ハオが話を切り出した。
「それなら良かった、早速で悪いんだが今日はどんな形で対処するんだ? 個人で撃破していくか、陣形を組むか、どちらにしようか」
「一度チームになると一定期間組まされるのが、ここのルールなので……」
「そうだな、刹那の言う通り、私も今日はお互いの力を確認すると言う意味で……」
「陣形を組むと?」
二人の少女が頷いた。
「じゃあ、そうしようか。そういえば、刹那は『神鳴流』なんだって? 高畑先生から聞いたよ」
「ハイ、まだ見習いの様な物ですが……ハオ先生もご存知でしたか」
『神鳴流』と言えば『魔法関係者』からは一目置かれる派閥だ。
それなりに知られていても、おかしくない。
そんな思考が、少女の脳裏をフと過った。
「僕の知り合いにも『神鳴流』の剣士がいてね。突出して強い訳じゃないし、僕に嫌がらせをする程度の腕だが、そいつから色々と聞いたからね。僕も知識としてなら多少知っているよ」
一方、ハオの頭に浮かぶのは『サムライマスター』と呼ばれた眼鏡の剣士の姿だった。
「話が逸れたね? 陣形の方はどうしようか?」
「ハオ先生が見てのとおり、私は遠距離型だし、刹那は近接型だ。先生は『式神』使いと言うことだったが、どうなんだ?」
褐色の少女が言った。
「僕は基本的には中・遠距離型だ。ある程度のフォローは可能だよ」
正直オーバー・ソウル次第でどうとでもなるが、この方が都合が良さそうだ。嘘でもないしな。
「バランスが良いな。刹那が前衛、ハオ先生が近・遠距離のフォロー、私が遠距離で問題なさそうだ」
「決まりだね。それにしても、いいタイミングだ。少し出来過ぎじゃないか?」
不敵に笑うハオが、学園に張られた結界の一部を凝視する。
「来る!」
刀に手をかけ、剣士が声を張り上げた。
「まずは私からだ!」
スナイパーライフルを構えた少女が、射撃を開始すると同時に結界の一部が砕け『魔獣』が侵入を開始した。
成程、結界の壊れるタイミングを予知し、正確に射撃を『置く』技術。大したものだ。
ハオの口角が持ち上がった。
『鳥』や『犬』の形をした異形の種が侵入すると共に、頭を撃ち抜かれ絶命する。
絶命した獣の影から、更に異形の種が迫る。その数5匹――『神鳴流』の少女が地面を蹴り上げた。
ほう……『瞬動』か。
接触の瞬間、刀身が輝く――横薙ぎ一閃、たったの一振りで『魔獣』が瓦解する。
見事、だが後方の敵にはどう対処する?
ワーウルフの様な魔獣の拳が剣士に襲い掛かると、ハオの横を銃弾が駆け抜けた。
人狼の拳を正確に射抜き吹き飛ばすと、魔獣の体勢が崩れる。
『神鳴流』の少女は、その隙を見逃さない。
少女が天に掲げた刀を、目を開くと共に振り下ろす。
「神鳴流――奥義『斬岩剣』!!」
岩をも両断する一撃により、人狼は姿を消した。
「素晴らしい連携だ――」
賞賛の言葉を送りながら、ハオは落ち葉を拾う。
「――だが甘い」
上空に向かい、拾い上げた二枚の落ち葉を投げると落ち葉は『小鬼』に変化する。
葉っぱを中心に小さい球体が生成され、そこから小さい角と手足が生えた式神。『麻倉家』が使用する最も初歩の式神が、二羽の『魔獣』の顔面を吹き飛ばした。
『陰陽術』にも理解の深い剣士が、驚愕に満ちた目を見開いていた。
バカな!? あのレベルの攻撃型『式神』を詠唱もなしに――それも、呪符でもない唯の葉っぱを……
「最初に紛れ込んだ奴を、援護射撃をする君が見失っちゃダメだろ? まあ君なら、あれが刹那に襲い掛かった後からでも反応出来るだろうが、手は早めに打っとくに越したことはないよ」
ハオの口からは乾いた笑いが漏れ、子供を注意するような言葉で話しかけるが、上空の敵に気づけなかった褐色の少女も空いた口が塞がらない。
振り向き話しかけるハオの背後に、二羽の死骸が落下し血液の様な物が飛び散った。
飛散する汚物がハオに掛からないように、二匹の小鬼が人間程度まで巨大化する。
そこには『魔力』を練った訳でもなく、呼吸をするように『式神』を操る青年が立っていた。
『魔法』の知識があれば、この異常性には誰でも気づく。
唯の葉っぱが武器となり、まるで呪符のように『小鬼』が実体化しているのだから。
「さて、最後の一匹だが君たちで処理できそうかい?」
ハオが呟いた瞬間、地面が揺れた。
鋭く、鉛色に光る爪。見る者を震えさせる三つの頭に、獣特有の牙。
全長5メートルにも達するそれは――
「ケルベロスだと……何故こんな所に……」
「刹那……これは流石にマズいぞ……」
少女たちの思考を止めるには十分すぎる相手だった。
僕の考えが間違っていないのならば、この二人が『本来』の力を使えば、相手にもならないはずだがな……さて、どうなる?
「引け! 刹那!!」
背後から聞こえた声に反応し、剣士が飛び下がる。
『魔獣』の前足が髪の毛を掠め、地面に叩きつけられた。
衝撃波と共に、舗装された道に亀裂が入る。
「しまっ!?」
空中では回避しきれず、衝撃波により剣士が大きく後方へと吹き飛ばされた。
内心で嘆息を吐きながら、ハオが足元に『巫力』を集中させる。
『対バカ用』の縮地を使用し、一瞬で回り込んだ。
「大丈夫かい?」
来るべきはずの衝撃に備え、呼吸を止めていた剣士がゆっくりと目を開く――
身体にある謎の浮遊感、目の前に有るのは端正な顔。
少女の頭は状況を理解し始めていた。
「は、はわわわわ!?」
「呆けている場合じゃないぞ。立てるな?」
「は、はい!」
胸元に抱えていた少女をゆっくりと降ろし、二人の様子を確認する。
「『今の』君たちでは厳しそうだね。良い修行相手になると思ったんだけどね、今回は僕が貰うとしよう」
含みのある言葉が少女達に突き刺さった。
『魔獣』が天高く吠えると、突進を開始する。
「先生! 危ない!!」
少女の叫びと共に発射された援護射撃の銃弾が、ハオを通り越し『魔獣』に着弾する瞬間、頭の一つが吠えた。
銃弾を弾き、なおも突進を続ける獣にハオは関心していた。
ほぅ……『魔法障壁』も使えるのか。獣にしては上出来だ。
とはいえ、この程度の奴に『スピリット・オブ・ファイア』を使う気にもならんな……
「出ておいで、『前鬼』『後鬼』」
内ポケットから取り出した二枚の『呪符』が煙を上げた瞬間、苦悶の声と共に『魔獣』が後方へと弾き飛ばされる。
ゆっくりと煙が晴れると、二頭の鬼が立っていた。
戦力を秘匿するには、こいつらが一番良いからな……『麻帆良』に来る前に、作成していた甲斐があったようだ。
共に3メートルの巨大な鬼。
トゲのついた球体に手足と、星の紋章のように埋め込まれた複数の眼、天に向かう二本角、斧を扱う『赤鬼』――『前鬼』
トゲのついた球体に手足と複数の眼、天に向かう一本角、左腕に手甲を着けた『青鬼』――『後鬼』
「さっさと片付けろ」
ハオの一言で鬼が動いた。
高速で距離を詰めた『青鬼』が『魔獣』の右頭に、左腕を叩きこむ。
空中に吹き飛ばされた『魔獣』の背後で、『赤鬼』が斧を振りかぶっていた。
重い一撃から『魔獣』が意識を取り戻した瞬間、肉が切り落とされる音が夜空に木霊し、ハオの目の前に黒い物体が落下する。
獣の苦悶の声が響く中、少年が愉しそうに語りかける。
「今のを避けるか……だが、こんな汚いものを僕の前に転がすな」
ハオが『魔獣』の左頭を蹴飛ばした。
「二度目は無いぞ」
少年が低い声で言うと、『魔獣』の右頭が爆散する――
『青鬼』がアッパーカットのように左腕を振り抜くと、血の雨が降り注いだ。
「終わりだ」
上空から『赤鬼』が飛来し、力の篭った一撃が犬に成り下がった『魔獣』の胴体を両断した。
巨大な生き物が絶命したことを確認すると、二匹の鬼が煙を立てて消え去る。
「後は雑魚しかいないようだし、僕は必要ないね? じゃあ先に上がらせてもらうよ。お疲れ様」
質問をすることも出来ず、私たちの『副担任』は手を振りながら何処かへ消えてしまった。
ハオの消えた方向を呆然と見つめる少女が、ゆっくりと口を開く。
「刹那……見えたか?」
「ギリギリ見えるか、見えないかだ……あの巨体で『虚空瞬動』を使いこなすとは恐れ入る……」
「確かに、それもそうなんだが……お前が『お姫様抱っこ』された時の話だ」
「なっ!? それは……」
「まさか、目を瞑っていたのか?」
褐色の少女が呆れた顔をした。
「い、いや、そうではなく「あの動きは『縮地』の領域だぞ」」
慌てふためく剣士の言葉を、少女が遮る。
『縮地の領域』という一言に、剣士は声を失っていた。
「何せ、この私が『見えなかった』からな……」
少女の呟きを風がかき消す。
『麻帆良』の新学期が始まろうとしていた――
詠春「嫌がらせをする程度って……」