魔法世界の陰陽師   作:おにぎり41

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魔法先生ネギま 第4廻

 新年を迎え、寒さがより一層強くなる中、冬休みが明ける。

 

 『麻帆良』の3学期が始まった――

 

 多くの学生が、始業のベルに間に合うよう学園に走る中、ハオは後頭部で結った長い黒髪揺らしながら学園長室へと向かう。

 

 『新学期』に胸を膨らませる学生の騒がしい声が聞こえてくるが、彼の胸中は憂鬱なものだった。

 

 『学園警備』という名の夜勤が始まり5連勤、土日の2日を挟んで今日から日勤だ。

 

 精神が肉体を凌駕するとは言え所詮は人間の肉体、生活リズムの強引な変更によりパフォーマンスが落ちる事もまた事実。『学園警備』チームの予定を聞きだし、あわよくばボイコットも考えたが――

 

 片や「警備の事ですか? 問題ありません! お嬢様の護衛も基本的には日中だけなので。何よりも『麻帆良』は安全ですから!」と微笑み――

 

 片や「私の予定か? 特にないな……それどころか、ハオ先生とチームを組んでいる間に色々と指導をお願いしたいと思っている。特に感知とか――」などと一方的に語り続けられた。

 

 『学園警備』という実践においては、中距離という二人の少女から見えやすい立ち位置に属しているため、僕の実戦での行動を食い入るように確認するようになった彼女たちには、ここ数日間辟易とさせられている状態だ。

 

 仕舞には『前鬼』と『後鬼』相手に修行をさせてください――などと言い出し、不本意ながら付き合うことになった……

 

 『ケルベロス』相手に全力を出す意味もなく、相当『巫力』を落としオーバー・ソウルを行ったハズだが、何故このような事態になってしまったのか……理解に苦しむ。

 

 目頭を押さえ、目に溜まる疲労を排除しながら学園長室の扉を開くと、二人の少女の間に見慣れた後頭部をした少年が立っていた。

 

 「おぉ、これは丁度いいところに来られましたな」

 

 ぬらりひょんの様な老人が呟くと、三人は見計らったようなタイミングで同時に振り向いた。

 

 「はぇ~、えらいカッコええお兄さんやなぁ」

 

 黒髪を揺らし、目を輝かせた少女の一人が呟く。

 

 掴みどころが無くおっとりとした話し方に、年齢に不相応な雰囲気――

 

 ユラユラと落ちる『葉』の様な態度に、青年はかつての弟を思い起こしていた。

 

 「ハオさん!」

 

 小さな思い出に浸っていると、見知った顔が大きな目を開き僕の名前を呼ぶ。

 

 「久しぶりだね、ネギ君。元気にしていたかい?」

 

 「はい!」

 

 僕の問いかけに、赤毛の少年は嬉しそうに答えた。

 

 相変わらず、僕には敬語で話すらしい。

 

 ウェールズにいる間、何度か「そこまで気を使わなくても、良いんじゃないか?」と言った事もあったが、ネカネによる一声で敬語による教育が徹底された。

 

 結果、親しい者であっても僕に対してのみ敬語で話す様になってしまい、ウェールズの家では疎外感を覚えた事もある。

 

 また、僕より付き合いの短い『タカミチ』にタメ口で話す姿を見た時には、何とも言えない『敗北感』を覚えたことは記憶に新しい。

 

 「ほっほっほっ、紹介が遅れたのう。ネギ君が担当するクラスの副担任、『麻倉葉王』先生じゃ」

 

 「ハオさんが副担任!? あれ? 僕が担任で、え、え~っと……」

 

 「直ぐ慌てるのは良くないところだ」

 

 頭に置かれた手に驚き少年が顔を上げる。

 

 「それじゃあ改めて、よろしく頼むよ『ネギ先生』」

 

 笑顔で差し出された掌に、少年の心中では歓喜と興奮が渦巻く。

 

 一歩づつ、一歩づつだが確実に目標に近づいているという実感。

 

 まだ駆け出しだが、少しだけ『ハオさん』に近づけた気がした。

 

 感情が込み上げ声が震える中、少年は力強く手を握り答える。

 

 「こちらこそ! よろしくお願いします!!」

 

 ナギ、安心して見ていると良い。お前の息子……『頭は良い』が、根本にあるものは――言うまでもないな。

 

 力強い眼差しは、かつての『クソガキ』と瓜二つだった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 『二時限目』開始のベルが鳴る。

 

 遅刻上等の自由人は、ゆっくりと担当すべき教室へ向かう。

 

 生徒の手本になるべき教師は生徒が廊下に出ていないことを理由に、欠伸をしながら長い廊下を歩いていた。

 

 目的地に到着した瞬間、視界に入ったのは『二年A組』の文字に扉に挟まる黒板消し。

 

 ほぅ……僕も随分なめられたものだな……

 

 時代錯誤のトラップに苛立ちを覚えながら、扉を開くと物体が落下を始めた。黒板消しを胸元で捕らえ、足元のロープを引きちぎり歩を進める。

 

 ロープが切れた事によって上空から滑り落ちる金属のバケツと、背後から放たれた玩具の弓矢がハオに襲い掛かる。

 

 3本か――

 

 『八百万の神』が存在する『旧世界』では、神羅万象全ての物に微粒子のような『巫力』がある。

 

 更に人間の敵意、この場合は『悪戯心』とでも言うべきものが入っているならば、それは小さな『巫力』にもなる。そして、この程度の感知など青年には朝飯前――

 

 『超・占事略決、巫門遁甲』

 

 青年は目配せをすることもなく、紙一重で全てを回避した。

 

 余りにも異常な光景を目の当たりにし、数名の生徒達が立ち上がる。

 

 生徒の一人が声を上げようとした時、ハオの声が教室に響く。

 

 「着席!!」

 

 『大戦期』を駆け抜けた英雄による、力の籠った一言に生徒全員の身の毛がよだつ。

 

 無論、全力の威圧ではないのだが温室で育った子供たちには十分だった。

 

 立ち上がろうとしていた生徒が脱力したように滑り落ちる事を確認すると、ハオがゆっくりと口を開く。

 

 「誰だ? こんな下らない真似をしたのは」

 

 たった一言で、体感重力が倍になったかの様なプレッシャーを受けた生徒が一斉に目線を落とす。

 

 唯一顔を上げているのは、青年がババアと呼ぶ少女のみである。

 

 周りを見渡すが、誰も目を合わせようとしない。

 

 ニヤニヤ笑う顔に殺意を覚えるが、今は『副担任』としての振る舞いが最優先だろう。

 

 小さく嘆息を漏らすと、青年が言った。

 

 「まぁ良い、犯人捜しで時間を割くつもりはない。初犯という事で多めに見てやるが、次からは覚悟しておくように」

 

 教室が静寂に包まれる。

 

 威圧しすぎたか? これでは授業を進めるどころではない――

 

 「そういえば自己紹介をしていなかったな。今学期から君たちの『副担任』兼『社会科』を担当することになった『麻倉葉王』だ。質問があるものはいるか?」

 

 大体女生徒の場合は色恋沙汰について聞いてくるものだ、雰囲気を和らげるには丁度いい。

 

 嫌な雰囲気を打破しようと青年なりに考えた結果ではあるが、教室は静寂に支配されたままであった。

 

 「……無いようだな。では教科書の104頁を開け、授業を始める」

 

 少しだけ憂いを帯びたように聞こえなくもない言葉だが、生徒たちにとってはそんな余裕もない。統率された軍隊のように、一斉に教科書を開く。

 

 ハオの『授業(絶対王政)』が始まった。

 

 授業が進められる間に、少しづつではあるが教室に張り巡らされた『緊張感』が和らぎ始める。

 

 基本的に分かりやすく、学生の集中力を切れさせないため授業の中で休憩時間も導入されていた。

 

 あれ? 変なことしないと凄く優しい先生なんじゃないかな?

 

 誰しもがそう思った瞬間、事件は起きた。

 

 奴らだ――

 

 「真名……見たか? ハオ先生のあの動き」

 

 「あぁ……背後から飛んでくる弓矢を、視認もせずに全て回避するとはな」

 

 隣り合う二人の女学生が顔を寄せ、小さな声で会話を始める。

 

 「しかも、矢の本数まで正確に把握している様だ」

 

 「正気か!?」

 

 チームを組む剣士の一言に、真名は大きな声を上げてしまう。

 

 「そこ! 私語は慎め!」

 

 ハオからの注意も、女学生にとっては対した意味をなさない。

 

 数分間の沈黙の後、先ほどよりも更に小さく口は動いていた。

 

 「何故そんなことが分かる?」

 

 質問に対し刹那が答える。

 

 「私にも一応読唇術の心得くらいはある。少なくともあの瞬間、ハオ先生の口は『3本か』と動いていた」

 

 「ほぅ、では刹那お前はどう見る?」

 

 「不可能では無いと思うが――」

 

 「莫大な『魔力』を使う……か?」

 

 刹那が小さく頷くと、真名が考察を述べた。

 

 「なるほど、全身から無理矢理『魔力』や『気』を放出し続け、その範囲に物体が侵入したことを感知するなら可能だろう。だが矢が放たれた瞬間には口が動いたのだろう? ザっと目算しても3mは離れている。あんな下らないものにも反応するとなると、常時放出していると読むのが的確か――だが、そんなことをすれば『魔力』など直ぐに枯渇するだろう?」

 

 「そうだ何よりも……」

 

 「『魔力』や『気』の類を感じなかった――か?」

 

 目を見開いた刹那が顔を向ける。

 

 「何をそんなに驚く? 私もそれくらいは見えている。だが、背後の矢の本数までも分かるとは……「おい」」

 

 男性の声が聞こえた瞬時に、二人の目線が教壇へと流れる。

 

 「忠告はしたぞ?」

 

 脳が警鐘を鳴らすが、時すでに遅し。

 

 ハオの右手が消えた瞬間、目の前に『チョーク』が出現した。

 

 空気抵抗が極限まで減らされるようドリルの回転が掛かった物体は、少女たちの額に吸い込まれた。

 

 マズ――避けれな――魔法障――

 

 少女たちの脳裏に思考が過った時、教室には銃声のような音が響き『チョーク』が粉末へと変化した。

 

 「二度目は無いと言っただろう?」

 

 低い声が漏れると、二人の女学生の頭が鈍い音と共に机に沈む。

 

 他の生徒が音を上げた張本人を確認すると、その指先からは煙が昇っている。過去、赤毛の九歳児に命中するまで繰り返された淀みのない動作は、現在に至るまで多くの不良生徒を黙らせるハオの『伝家の宝刀』へと昇華していた。

 

 「保健委員!」 

 

 「はい!!!」

 

 力強い一言に反応した少女が、涙目になりながら勢いよく立ち上がる。

 

 「申し訳ないが、その二人を保健室へ連れて行ってくれないか?」

 

 少しでも、生徒の気持ちを落ち着かせようと教師は顔も声も穏やかに言うが、教室内の緊張感は何一つ変わらなかった。

 

 「一人じゃ大変だろうから……委員長、手伝ってあげてくれるかい?」

 

 「わ、分かりました……」

 

 普段は優雅に立ち回る『雪広あやか』も異常事態に脳の整理が追い付かず、震える声で答えるのが精一杯のようだ。

 

 「それじゃあ少し休憩にしよう。すまないが二人とも、よろしく頼むよ」

 

 少女達が軽く会釈をしながら、教室を出て行った。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 終業のベルが鳴る。

 

 「起立、礼」

 

 日直の一言と共に――

 

 「「「ありがとうございました!!」」」

 

 統制のとれた号令に、ハオが満足気に応える。

 

 「はい、お疲れ様」

 

 教室の扉を開き廊下に出て一息吐くと、後ろの方から名前が呼ばれた。

 

 「ハオ先生!」

 

 立っているのは三人。小さな体躯に三つ編みをした少女『綾瀬夕映』、頭頂部から二本のアホ毛を生やした眼鏡が特徴の『早乙女ハルナ』に――

 

 「どうした、のどか。何か質問かい?」

 

 目元まで伸びる前髪が特徴の『宮崎のどか』が立っていた。

 

 「あ、あの、その」

 

 『テオ』や『ナギ』は普段通りだったハズだが……どうやら『麻帆良』の人間は名前で呼ばれることに慣れていないらしい。

 

 髪の毛のせいで視線は分からないが、頬から判断するに熱でもあるのではないか? と言うぐらい紅潮している。

 

 ハオの視界に愉しそうな顔をする眼鏡の少女が映ると、全身に悪寒が走った。

 

 『早乙女ハルナ』か――僕の直感が正しければコイツは『敵』になる。

 

 特段この少女が人間的に嫌いという訳ではない、だが尋常では無いくらいの嫌な予感がする。何が起きようと僕が敗ける事はないだろうが……こいつは今消しておかないと大変な事になる――

 

 いや待て、一介の人間に何が出来る? 僕は何を警戒している? 馬鹿馬鹿しい!

 

 思考を切り替えた青年が、少女へ向き直る。

 

 「あ、あの、この前はありがとうございました!」

 

 あぁ、そういえばそんな事もあったな。

 

 身の丈に合わない本を運ぼうとして、階段から転落した少女がいたことを思い出す。

 

 「あれから、無茶な量を運んでいないだろうね?」

 

 「は、はい」

 

 冗談交じりに応えるハオに、少女は照れくさそうに始終俯いていた。

 

 「そうか、それは良かった。じゃあ、僕はそろそろ戻らせてもらうよ」

 

 数歩進んだところで足が止まると、何かを思い出したように青年は振り返る。

 

 「あぁ、そうだ。目元が見える髪型の方が、僕は似合ってると思うぞ」

 

 無邪気に微笑んだ青年が、小さく手を挙げながら去って行く。

 

 「のどか、どうしたんで――ハルナ! のどかが失神してるです!!」

 

 「のどか、しっかりしろ! のどかぁぁぁあああ!!」

 

 何かが倒れる音がしたがそんな事はどうでも良い、せっかく新しい玩具が手に入ったんだ――

 

 青年が閉じていた手を静かに開くと光が集まる。常人に不可視の光は、彼の掌でゆっくりと球体へと成長を始める。

 

 魂が圧縮され『人魂』へと変化し自我が芽生えた頃には、青年は凶悪な笑みを浮かべていた。

 

 「さて、この『地縛霊』……どうしてくれようか?」

 

 三日月の様な口角で笑う青年。身体の自由が利かない状況で不穏な言葉を聞かされた『人魂』は、目を丸し大きく口を開き震えるだけであった。

 

 『相坂さよ』――地縛霊歴60年の少女はハオとの出会いを、『認識された喜び』より『想像を絶する恐怖』の方が大きかったと後に語る。




~『ある日の紅き翼』~
詠春「『二の太刀』!!」

敵「ぎゃぁぁあ!!」

ナギ「詠春の二の太刀ってさ、どっかで見たことあると思ったら兄さんのチョーク投げだったわ」

詠春「え?」

ナギ「あれも魔法障壁貫通したっけ……」

詠春「は?」
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