性格のモデルも一部の人の神様でした……
目に光が入り、ハオはゆっくりと目を開ける。
「ここは、一体何処なんだ?」
グルリと周りを見渡してみるも、木、木、そして木。どうやら森に出たようである。
風が、触覚のように伸びた艶やかな二本の前髪とマントを揺らすが、誰からも返答はない。
左手を開き閉じる小さな動作で、自身に肉体があることを確信した。
シャーマン・キングになって以降、肉体を必要とせず地球に存在する全てのものとなっていたため、この感覚自体は久しぶりのものである。
それにしても――
「僕の知識に無い星だと……? 太陽系以外の場所か、まさか平行世界などという馬鹿げた所に飛ばされた訳ではあるまいな……」
思考に徹するがやはり答えは見つからない。
「まぁ良い、まずはこの星の探索と行こうか。オーバー・ソウル『スピリット・オブ・ファイア』」
ハオが空中に手をかざすと背後に五つの火の玉が出現した。
炎を抑えるような鋭く細かい岩が付いた赤い足、炎を突き破って出てきたのは鋭く刺すことしか出来ない先端が輝く指、顔に逆三角形の模様が描かれ、頭から鳥居の柱が生えたような赤い巨人が出現する。
「さぁ、行こうか」
赤い巨人の手に乗り、ハオは空中へと翔び立つ。この時刻をもって世界最強の陰陽師が行動を開始した。
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スピリット・オブ・ファイアを使い上空から散策するうちに、良いことなのか悪いことなのか、ハオの持霊であるグレート・スピリッツの中に魂が還る。太陽系の生き物、主に地球では有るが入ってくる知識は前世のものと大差はない。
唯一疑問があるとすれば、『気』と『魔力』と呼ばれるものであった。
この世界に転生し数時間程度でしかないのだが、回収できた魂は二万に届く勢いで増え続けた。その中の一つに『魔法使い』と言われていた人物のものがある。
その魔法使いの記憶を辿る内に、巫力とは全く別な形態で使用されている『魔法』と言われるものの知識、『気』というものの使い方の理解が深まっていく。
魔力は外部から補充するもの、気は自分の中のエネルギーを燃やすようなもの。
成程……『巫力』の性質的には『気』に近いものかもしれない。オーバー・ソウルを発動するためシャーマン各自にあるMPのようなものが『巫力』であるのだ。外部から補充できる『魔力』とは似て非なるものである。
しかしながら、過去自分がジャーマンキングになった時点ではあるが、地球上に『魔力』というものは存在していなかった。有るとすればオーバー・ソウルであり、魔法のような現象も何かしらを媒介に、霊を宿し使うことが出来るレベルである。
ハオであれば、酸素を媒介に炎の巨人を出現させている。剣を媒介に侍の霊を宿し戦う少年もいた。
『気』も有ることには有ったが額でレンガを粉砕する程度であり、魔法使いの記憶に有ったビームのように出すものでは決してなかった。
この魔法使いの記憶に有ったのは、全て地球上で観察された事である。
「おかしい……一体地球で何が起きている?」
スピリット・オブ・ファイアの移動速度を上げ進む事30分、とある街が見えて来た。
『魔法』というものは、奴の記憶を辿る限りでは一般人に秘匿されていた。
「厄介ごとになっても面倒だな……ここで降りるとしよう」
街の近くの森に着陸しオーバー・ソウルを解除する。街に向かおうと歩を進めるが――
「何だここは? 仮装大会……違うな生き物? 精霊もいる」
視界に入るのは二足歩行する獣、体中が水で出来た精霊もいる。
馬鹿な……あの魔法使いの記憶にこんな物は無かったはずだ……クソッ! 一体どうなっているというんだ?
熱くなる頭を急激に冷やし、思考をまとめる。シャーマンに一番求められるものは、強靭な心と冷静な頭。これが無ければオーバー・ソウルは脆くなるが、そのシャーマン全ての頂点に立った少年の思考回路は尋常ではなかった。
突然知らない土地に飛ばされた人間なら暫くは混乱するであろう状態を、少年は一秒も掛からず平常心へと戻る。
まずは情報が無いと動くに動けないか……殺してグレート・スピリッツに入れてしまうのが一番手っ取り早いのだが――
『母は常にあなたの隣にいます』
この言葉が頭から離れない。シャーマンキングになってまで探した母の魂は、自分の力では見つけることは出来なかった。また死後、母に会えなくなるのではないか……と思うと迂闊な行動は出来なかった。
愛情に飢え、しかし人の心が読めてしまうため愛情を真っ先に切り落とした1000年間の苦しみは、人が理解するのは困難なことである。
仕方がないな、だが他に情報を手に入れる手段となると洗脳……これも認められないだろう。
金を握らせて聞き出すか、ここで人が死ぬのを待つか……
今入ってくる情報は全て自分の住んでいる場所を地球と思っている者ばかりだ。
だが、地球にこのような人外を見た記録を持つ魂は存在しない。
今の僕には非常に厄介な事に肉体がある。
となれば、当然考えられるのが『衣・食・住』の問題だ。
衣は今あるものでしばらくは持つだろう。
住がないのは唯一兄として蘇った時代に野宿ばかり繰り返していたため、どうという事はない。
しかし最低限の食は必要だ。
やはりどの道、金は必要か……何か手っ取り早く稼げるものは――
とある公告が、ハオの目に飛び込んだ。
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「さぁ、本日もやってまいりました拳闘大会! 今日から始まる拳闘大会トーナメントに殴り込みの挑戦者が現れました! そしてそれを迎え撃つは二人!!」
猫のような獣人の眼鏡をかけた、女性司会者が叫んだ。
「まずは無謀な挑戦者の入場だーー!! その名も、ハオーーー!!」
長く女性のような艶やかな髪、両耳には星が大きく印されたイヤリング、両手にも星が描かれたグローブを、レゴブロックのようなブーツを履いた少年が入場する。
客は拳闘士には見えないその格好に、声援を送ることすら馬鹿らしいと考えているようだ。
「もちろん挑戦を受けるのはこの二人、その重力は全てのものを押し潰す魔族のシャドウ! 燃えるたてがみ、熱い心、炎の上級精霊フレイム! 前拳闘大会の準優勝の二人だぁあ!!」
先ほどとは打って変わって観客のボルテージが上がる。声の暴風が吹き荒れた。
そんな中、少年はただ一人静かに口を釣り上げる。
「この二人に挑戦者は一人でどのように戦うのか!? さぁいってみましょう! 試合開始ィ!!」
司会の声とともに上半身が馬の人間が動く。
「まずは腕試しだ坊主! 『魔法の射手、火の三矢!!』」
三本の火矢が少年に向かうが、空気を歪ませながら出現する大きな赤い手によって阻まれた。
「やるじゃねえか坊主! 次は俺の番だ!」
ピエロのような仮面をした黒いローブの男が声を上げるが、ハオの思考はそこにはなかった。
オーバー・ソウルに多少なりともダメージが入った?
おかしい、オーバー・ソウルを破るにはオーバー・ソウルをぶつけるしか無い筈だ……となるとこの『魔法』というもの、やはり巫力に近い性質があるのか?
『気』も確かめておきたいが、十中八九同じような結果にはなりそうだ。
「『2倍重力』!! どうだ坊主? 動けないだろ!」
自慢げに吠えるピエロを気にも留めず、ハオは思考を走らせ続ける。
なるほど……確かに体は重くなった。だが――
「僕自身もっと強大な重力場を作れるからね。自分の重力のコントロール位は何の問題もない」
少年は笑顔でそこに立っていた。
「君たちの力はこんなものなのかい?」
馬鹿にしたように笑いかける少年に、ピエロの男が再度攻撃を仕掛ける。
「舐めるなよ小僧! 年季の違いを見せてやる『50倍重力』」
刹那、闘技場が潰れる。正確には砂埃が吹きあがり、少年の立っていた場所のみが圧縮された。
会場に悲鳴が木霊する――
「舐めたことを言うからだ、ざまぁないぜ!」
ピエロの男が汗を流しながら声を上げるが、砂埃の中のシルエットは消えない。
「ハハハハハハ、ちっちぇえな」
砂埃が晴れると共に、少年の嘲笑が響いた。
「な、なんだと!? 何故あの重力で立っていられる!?」
動揺を隠し切れない相手に対して、ハオは語りかける。
「僕は自分の重力くらい自由に操れると言っただろ?何を不思議に思うことがある」
少年の立つ場所には何も被害はなく、しかし少年の周りは堀のような状態であった。
「だが、あの重力場で……」
「あの程度だ、間違えるな」
ハオの持霊グレート・スピリッツは地球上で起こったこと、地球の歴史をすべて記録している。原始の宇宙で、後に地球になるものが見た高重力場はブラックホールであった。50、100、300倍の重力であろうと無駄である。ブラックホールの重力は地球の約14億倍、文字通り桁が違う。
「『魔法』については十分わかった、もう終わりにしよう。出ておいで……オーバー・ソウル『スピリット・オブ・ファイア』」
ハオの背後に現れたのは5つの火の玉。それらが線で結ばれ星の模様が完成すると、火球を突き破り赤い巨人が出現した。
「お前も火を使「おい! あれはやべぇぞ!!」」
ピエロの話を馬が遮る。
彼も火を使う精霊、さらに上級精霊である。ゆえに相対する赤い巨人の異質さをすぐに理解した。
あれは俺たちで言うところの『神』に近い精霊だ、間違いない。いくら俺たちが魔力で炎を使い対抗したところで間違いなく無駄だ。上級精霊の俺で火そのものであっても、あれは火という概念そのものなのだ。俺たちが指から出す火と、この世に存在する全ての火――勝敗は見えている。
「あんな舐めたこと言われて黙ってられる訳ねぇだろ!」
重力の弾を自身の周りに展開し少年めがけて突撃しようとした瞬間、彼の眼前に赤い巨人の大きな手が迫る。
「だからやめろと言っただろう!」
「うるせえ……てめえも早く援護しやがれ……」
赤い巨人の手に握り絞められたピエロだが、その口は動いていた。
魔人という生き物はそう簡単に絶命する事はない。
ハオが愉しそうに笑った。
生命力だけは大したものだな、だが――
「燃えろ」
ハオの一言の後、ピエロの断末魔が上がった。
握り絞められた手の中から溢れ出した炎が全身に回る。
熱量により呼吸をすることは許されず、声にならない叫び声が上がり続ける。
馬の精霊はただ立ち尽くすだけだった……
火の上級精霊の俺でもあの火力を上回るのは無理だ。全力の『奈落の業火』でもあの火力は出ない……しかもあの少年の顔、まだまだ全力ではないだろう。
これでも彼らは歴戦の拳闘士である。ピエロの方も頭に血が上っていなければ冷静に判断していたに違いない。
「まいった、俺たちの負けだ……」
馬の震えた声が聞こえた。
オーバー・ソウルをそのまま消滅させ、ピエロが地面に落ちる。
地面から物体が落下した鈍い音が聞こえると、会場が歓喜の声を上げる。
少しやり過ぎたか……?
昔の彼からは考えられない事を思考しながら、ハオは闘技場を後にした。
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その後、ハオはトーナメントを破竹の勢いで突破していく。
たった一人で多くの敵を蹴散らして行く姿はまさに圧巻。八百長疑惑も上がったが、初戦に対戦した二人が表だってハオの実力を認めたため、騒ぎ立てる者もいなくなっていた。
繰り返された圧倒的な試合、そして今の彼の目の前には二つの物体が有る。
燃えてゴミのようになっている者と、串刺しにされている者。
前回優勝者のペアから『降参』の声が聞こえた。
「決まったあああああああ! 無名の殴り込みだった彼が優勝を決めたああああああ! チャンピオン・ハオの誕生だあああああああ!!」
観客は拍手を送る。
実況もやけに騒がしい。興奮するのも無理はない、ハオはこの大会無傷で乗り切っていた。拳闘史上初の光景であるが、激しい戦闘がなく一瞬で決着するため、観客にはイマイチ強さが伝わらないのだ。そのうえ、インタビューにすら答えず去って行くため何があったかも分からない。
観客から見てみれば、何か知らないけど勝ってるような状況である。
そのため運営側は莫大な資金を積み、ヘラス帝国側へとある要請を送り拳闘マニアの現皇帝は、彼の実力が分かるならと要請を快諾した。
そして実現したのが――
「これよりチャンピオンのハオ選手にはエクストラステージへと進んでいただきます。日程と対戦相手は後日お知らせします! お見逃しなく!!」
こうして拳闘大会は一応の幕を閉じた。
にじファンの時はオリ主と五大精霊も居たんですけどねwww
設定メガ盛りで扱いきれなくなったでござるwww
そして、この闘技場での二人は二度と出てこない。
呪文のラテン語部分は、ルビ打つのめんどくさいからボツでオナシャス。