龍樹との激戦。
あの戦いから十数年の時が経過していた。
魔法世界の拳闘大会を騒がせたあの最強の拳闘士はスーツを着こなし、追いかけっこしていた。
「またサボったな糞ガキ!」
「へっへ~ん、捕まえれるもんなら捕まえてみやがれ!」
赤毛の少年が森の中を野生動物のように動き回る。枝を足場に次の木へ飛び移る動きは人間の技では無かった。
「言ったな?」
ハオのスイッチが入った。足に気を集中し、空中で足場を作り『入る』
「ちょ、ちょ! 子供相手に虚空瞬動はダメだろ!!」
「知ったことじゃない! 覚悟しろ阿呆!!」
「ぎやああああああああああああああああああ!!!」
森に悲鳴が木霊した。
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拳闘大会を終えた後、大金を手にしたハオは世界を旅していた。
その途中に無数の魂がグレート・スピリッツに還り、知識へと還元されていく。
気の扱い方、魔法の原理、呪文の種類、そして何よりも『魔法世界』と『旧世界』というものの存在だ。
この人外のような生き物が多く生息するのが『魔法世界』、僕の知識に入って来るのは『旧世界』からもたらされた情報が全てだ。
何故『魔法世界』の知識が入ってこないかは依然として不明である。
ならば先に『旧世界』に行った方が良いかもしれない。
『魔法世界』の住人は『旧世界』に行くことは出来ないらしいのだが、僕はこの世界の人間ではない。関係のないことだ。
手続きを済ませ『旧世界』に飛ぶとまた森の中であった。しかし、こちらの知識なら全ての生き物の知識がある。
「イギリスか?」
金を大量に使い『魔法世界』で用意させたこちらの戸籍。魔法が主体の向うの世界で偽物を作ることは非常に簡単であった。
しかし、数年の旅と偽造品の戸籍で路銀が底をつきかけている。
本職の魔法使いでも気づけないような偽物の戸籍を作るのに莫大な費用を投じてしまった。
「何かしら稼ぐ方法を考えないとな。宝くじの確率を操作するか?」
『母は何時もあなたのそばにいます』
ダメだ、何か母上にウケるような職業を……グレート・スピリッツを活用して何か作るか?イヤ、人間どもは技術を取り合って争いすら起こす。
教師とかはどうだ……?そうだこれだ!
驚くほど短絡的な思考だがこれが起こった事の全てである。
その後、教員採用試験に全教科満点で文句なしの合格。魔法の素養も有ったためイギリスのとある学校に在籍することとなり十数年。
老けない教師として魔法学校の七不思議の一角まで登りつめた。
歴史の授業と広域指導員を兼任している。
初等部と広域指導員は本来全くと言っていいほど関係ないものなのだが、この学校がとある問題児を抱えた事によるものだった。
遅刻、サボり、素行不良。教師全員が手を焼いている人物が、生徒から最も好かれているという名目でハオに押し付けられる。
外面と容姿が良く保護者からも殆んどクレームが入らないハオは、他教師が妬みの感情を持つにはこれ程にない格好の的であった。
教頭を筆頭としてどれだけの人間に殺意を覚えたか分からない。母上の言葉がなければこの学校の大半の教師は、グレート・スピリッツの中に居たであろう。
今日から押し付けられたクラスへと乗り込む。
「初めまして皆さん。今日からこのクラス担当になったハオ・アサクラだ。一年間よろしく頼む。では早速授業に移る「えぇ~もっと先生の自己紹介してくれよ」」
声を上げたのは赤毛の少年。
コイツか……
「何が聞きたい? ナギ・スプリングフィールド」
「聞きたいのは俺じゃなくて皆だよな?」
ナギが質問をクラスに譲った瞬間、マシンガンのように質問が飛んできた。
「好きな食べ物は何ですか?」「先生何歳?彼女いる?」「どこに住んでるの?家近い?」などだ、挙げればキリがない。
面倒な事になったとナギの方を見れば、馬鹿にしたような顔でこちらを一瞥した後教室を脱走した。
なるほど――これは教育が必要だな。
眉間がヒクつきそうになるが、それを隠し律儀に質問に答えた後授業を始めた。
授業が終わるとすぐさま教室を出て、バカの探索を始める。
どこだ? どこにいる……?
教室、食堂、グラウンドと探したものの気配すらない。
バカと煙は高いところに上るか……
まだ屋上は見ていなかったな。
屋上へ行ってみると案の定問題児がいた。
「おい、何をしている?」
「見て分かんねぇのかよ。寝てるに決まってるだろ」
「何故寝ているかと聞いているんだ」
「んふ〜、それはね……」
赤髪の少年がニヤリのしながら自分の口に指を当てる。
「お・し・え・な・い」
脳内の何かが切れる音がした。
「俺の事捕まえられたら教えてやるよ!」
ナギは一瞬にしてハオの背後をとる。
10歳にも満たないガキが『瞬動』だと!?
「じゃーな、セ・ン・セ」
ウインクをして目の前から消える赤髪の少年。
僕にここまで舐めた態度をとった奴は初めてだよ……
絶対に捕まえてやるぞ糞ガキ!
とは言え流石にオーバー・ソウルをあのガキに晒したくはない。
ならば、僕も『瞬動』を使って鼻っ柱を叩き折ってやる。
それからというもの、ハオのトレーニングが始まった。
毎日の様に取り逃がし、苦い思いをしても『瞬動』は完成するまで決して使わない。
そんな日々を送る内に、グレート・スピリッツにある知識をフルで活用し、『瞬動』『虚空瞬動』『縮地』の領域まで登りつめた。
そして再び屋上で合間見える。
「今日こそ覚悟してもらうぞ糞ガキ」
「今日は捕まえられると良いな、先生」
屈託の無い笑顔を見て、何も知らない人なら可愛いもんだと言うだろうが、ハオの目にはそうは映らない。
オーバー・ソウルを使わないとは言え、ここまでコケにされ続けたのは生まれて初めてなのだ。
目には炎が灯る。
一方ナギは全く別な事を考えていた。
むふふふふ、今日もサラッと撒いてみますか!
この兄さん本当におちょくり甲斐があるよな!
「それじゃあ、また何時もの様に!」
『瞬動』に入る。
が
目の前からハオの姿は消えていた。
次の瞬間、首根っこを掴まれ持ち上げられる。
「流石にもう見飽きたよ、その拙い瞬動は」
ナギの目が大きく開く。
「舐めんじゃねぇ!」
体を捻り裏拳を繰り出す。
ナギ自身、自分の攻撃がどれだけ凶悪な物かは理解していたつもりである。
大人ですら一撃で沈めれる身体能力。
分かってはいたが、10にも満たない子供で有るのもまた事実。
体は勝手に動いていた。
しかし何時もの振り抜く感触はない。
顔面へ向けて振り抜く予定であった左手は、あっさりと掴まれていた。
「なろっ!」
次は足で攻撃を繰り出そうとしたその瞬間、体が浮いた。
放り投げられたのである。
空中で受け身を取り、華麗に着地し相対する者を見ると――
何時もとは違う顔で声が掛けられた。
「僕に手を出すとは……相応の覚悟は出来ているんだろうな?」
ナギ・スプリングフィールドは生まれて初めて死ぬ思いをしたと後に語る。
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あれから一年、その後のナギと言えば――
「兄さん、兄さん! 今日も組み手やろうぜ!!」
暇さえあれば顔を出しに来ていた。
問題行動は減ったのだが、その分の負担が全てハオに降り注いでいる。
元々は肉体強化が目的でオーバー・ソウルを使わない様にしたのも事実ではあるのだが、正直付きまとわれると鬼ごっこの時の数倍はウザい。
しかもこの才能の塊は日に日に強くなっていく。
この前たまたまサボっているのを発見し、教育的指導を加えようとし鬼ごっこになった時が良い例だ。
森を使った立体起動、着地硬直が見えない程の瞬動に対応するため、空中から攻めようと虚空瞬動を使った事がある。
ナギ自身、虚空瞬動がどの様な物かは知っていたであろうが、見るのは初めての筈だった。
たった一回、その一回で翌日からの組み手では虚空瞬動が導入されていた。
僕自身、そこまで体術が出来るかと言えば、その様な訳でもない。
とは言っても現役拳闘士の中でなら、そこそこの相手までは体術のみで戦える自信はある。
スピリット・オブ・ファイアを狙わないで僕自身を狙う攻撃が拳闘大会中もあった訳で、ある程度の体術訓練は必要だった。
その練習も兼ねての組み手だったハズなのだが、この調子で強くなると追いつかれる日も数年以内だろう。
オーバー・ソウルもどこまで隠せるか分かったものじゃない……
「にしても、ハオ兄さんは本当バケモンだよなぁ……俺相当強くなったハズなんだぜ!?」
そんなこと僕が一番分かっている。そしてお前の魔法戦闘の才能は化け物なんて次元じゃない。
「って言うか、どうしたらそこまで強くなれるんだよ?」
「地獄で千年修行すれば良いんじゃないか?」
「ハハハ、そりゃ強くなれそうだな!」
笑顔で返事をされる。
こいつ信用してないな……
「なあなあ、そんな兄さんが本気出したらどれ位強いんだ!?」
「そうだな……太陽系位は消せるな」
「タイヨーケー?」
「宇宙の事だ、勉強しろ馬鹿」
「うわっ、ひっでぇ! 教師が生徒に言うセリフじゃないだろ。あーあハオ兄さんのせいで今日の宿題やる元気が無くなりました!!」
「あんな簡単な宿題もやる元気が無いなら、組み手なんて出来たものじゃないな」
「やる気復活! 今日も元気に勉強だ!!」
「分かったら戻れ、そろそろ昼休み終わるぞ?」
「おうよ! じゃあ放課後行くからな!」
「宿題終わらせてからにするんだぞ、ってもういないのか……アイツ本当に分かってるのか?」
元気良く去っていく少年を見ながら、再び仕事に戻ろうとしたとき背後から声が掛けられる。
「ハオ先生、少しお時間を頂けますかな?大切なお話があります」
振り向くとそこには眼鏡をかけた教頭が立っている。
「話とは?」
「ここでは問題がありますので、校長室まで是非……」
「分かりました」
職員室から出て教頭の後に付いて行き、校長室の前まで辿りつく。
教頭がドアを叩いた。
「私です」
「入りたまえ」
「失礼します」
「おお、来てくれたかハオ先生」
「私に話とは?」
「まあ座ってくれ」
促されるまま、ソファーに腰を掛ける。
「早速だが本題に入る。フランス魔法学校から優秀な人材を送ってくれとの話があってな、語学・知識に強い君に白羽の矢が立ったと言うことだ」
「随分と急な話ですね」
「すまないな……」
校長が頭を下げる中、ハオは視線を教頭へと移動させる。
この目……昔よく見た目だ。権力に執着し、人を蹴落とし上に上がることしか考えていない。1000年前、京の都で僕に取り入ろうとした奴にそっくりだ。
コイツが原因か。
かと言って権力にこだわる必要もない、この世界は既に僕の手の中だ。こんな人間相手にするだけ時間の無駄だろう。
「それで、何時からフランスに行けば良いんです?」
「来週の月曜日からで頼む。これから準備しなければならない事たくさんがあるだろう? 今週いっぱいは有給と言う扱いにする、少しゆっくりしたまえ。それと、飛行機はこちらで手配する安心してくれ」
「お心遣い感謝します、それでは……」
校長室から出た後、しばらく廊下を歩くと赤髪の少年がこちらに向かってくる。
「組手やろうぜ兄さん!!」
「宿題は終わったのか?」
「後でやる!!」
全く……この馬鹿は――人を明るくさせる才能も有るかもしれないな。
「ちゃんとやるんだぞ」
ハオが微笑んだ。
「分かってるよ!」
グラウンドを抜け、いつもの練習場である森の中へと到着する。
到着するとナギが開口一番――――
「なあ兄さん! 今日俺が一発でも兄さんに攻撃当てたらお願い聞いてくれよ!」
「お願い?」
「ああ、来週の日曜日は俺の誕生日だ!てなわけでプレゼントくれ!!」
どんだけ図々しいんだこのガキ。
「良いだろう、当てれたらな……」
「うっしゃーあ! 燃えてきたぜ! 行くぞ兄さん!」
ナギが構える。
「来い」
目の前からナギの姿が消える。
ッ!?瞬動の入りが見えにくくなってる!?まだ動きは見えるが、これ以上のものを瞬動で要求するならば『縮地』の域だ……10歳のガキが縮地一歩手前とは、一体どんな成長速度だ――
背後から迫る拳を避け足を払い転倒させようとするが、ナギはそこで踏み切った。
回転踵落とし!?
紙一重で攻撃を避けるが――
「詠唱は終わったぜ!」
ナギの掌に黒い文字の羅列が見える。
その呪文は!?
「くらえ!『雷の暴風』!!!!」
実体化した呪文に『巫力無効化』は無理だ、なら使うべきは――『巫門遁甲』
『巫門遁甲』は敵の巫力を読み取り進むべき方位を見極める術。
魔力にも応用が効くのは『巫力無効化』と共に剣闘大会で実験済みだ。
本来は避けるための技ではないのだが……
相手の魔力の流れを読み取り、暴風の中で進むべき道が見える。
「兄さんは化け物だからな……何やっても驚かねぇが、これはさすがにオカシイだろ!」
無傷で『雷の暴風』を直進してくる姿に流石のナギも若干引いた。
「チックショォ――――!」
ナギが素手で突撃してくる。
魔力の流れを読んで受け流せば――馬鹿な、魔力を纏ってない!?生身で『雷の暴風』の中を突き進むとは死ぬ気か!?
「もらったぁぁぁぁぁあああああああ!!」
ナギの体には大量の切り傷が生まれ、そこから血が噴き出すが直進はやめない。
目の前に迫る拳、急いで顔を反らすが――
頬に拳が掠った。
「あ、当たった……」
ナギ・スプリングフィールドの意識はそこで途絶えた。
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まさか『雷の暴風』に生身で飛び込むとは……自分の魔力で放ったとはいえ限度が有るだろう。
全く世話をかけさせる。
あの後ナギを病院に運び、それらしい理由をつけ治療させた。
あの中に飛び込んで実際は軽傷だと言うのだから、驚きを隠せない。
魔力のコントロール不足のため、一度に大量の魔力が放出したため気絶しているような状態らしい。
来週の月曜から登校は可能のようだ。
「それにしても、僕に一発当てるとはな……オーバー・ソウルを使わなかったとは言え、龍樹ですら出来なかった事をやってのけるとは……」
病院の一室で寝たままになるナギに語りかける。
「約束通り誕生日プレゼントは用意しておこう」
病室を出るハオの顔には優しい笑顔があった。
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「ハッ!? 完全に寝過ごした!!」
ナギが覚醒と共に飛び起きる。
病室の机には丁寧に梱包された箱があった。
手に取って見ると、リボンに紙が挟まっていた。
『ナギへ
誕生日おめでとう。馬鹿なお前には参考書の方が良いかと思ったが
長く使える物にした。カンニングペーパーにしたら殺す。次に会うの
を楽しみにしている』
「お!? この字は兄さんのだな! むふふふふ、素直じゃないんだから!!」
ビリビリと乱雑に梱包をとき、箱を開けるとそこには手帳のような形をした物があった。
「ダンディだけどさぁ……俺が求めてるのはこういう物じゃないんだよ!! 何かこうさ……今俺たちの中で流行ってる物とかどうして察してくれないかなぁ、あの人は!」
病み上がりだというのに、地団太を踏むナギを見る看護師の顔が大変なことになる。
「大体、次会うのってどういうことだよ明日会うじゃねぇか」
今日の日付を確認したナギが呟く。
「もっと早く起きてれば、好きなの勝手もらえたのに……まぁ良いか、帰って寝よ」
その後、家に帰って有言実行した彼であるが、翌日その顔に血の気は無かった。
「え~ハオ先生はフランスに転勤になりました」
入って来た教師が教壇に着き、第一声そう言った。
「「「「「え~~~~~~~~~~~」」」」」
多くの生徒から不満が漏れる中、ナギの手は震えていた。
蘇ってくる一年間の記憶。あまりにも突然の別れ。
10歳の子供にはあまりにも衝撃的な事だった。
「聞いてねぇよ……バカヤロウ……」
メモ帳を握りしめた彼の声は震えていた。
陰陽師(物理)
この世界観で瞬動使えないのはヤバイと思った(小並感)