フランスに飛んだハオは授業をこなしながら、日々の生活を送っている。
そしてフランス国内では奇妙な噂が飛び交っていた。
『闇の福音』がフランス国内のどこかに滞在していると。
魂の回収が滞りなく進む中で、『闇の福音』の情報はどの魂も一定量持っていた。
『魔法世界』に関係のある者は真祖の吸血鬼、多額の賞金首。一般人は吸血鬼だと、お伽噺のように伝承されている。
この世界で600年近く生きているのであれば、是非とも接触をしてみたい。
魂から情報を集めているとはいえ、こちらの世界に来てから十数年、過去の情報も100年分程しか正確なものは分かっていない。
空を飛ぶ昆虫、生息する植物、全てを使い探索が終わるまで約3カ月。
フォンテーヌブローの森に彼女の隠れ家があった。
早速ハオは足を運ぶ。
見渡す限りの森林、黒い大きな門、小さな一軒家。
「悪の親玉が居るとは思えないような貧相な家だな……」
「貧相な家で悪かったな」
ハオの首筋に魔力で出来た剣のような物が当てられる。
こいつだな、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
金髪、紫の瞳――ナギと大した変わらない体系。
「何者だ?」
少女の言葉に威圧感が乗せられた。
「お前の知識に用がある」
「どこの人間だ?」
「機関などには所属していないが?」
まともな受け答えにも吸血鬼は耳を貸そうとしなかった。
「恨むなら自分の運命を恨むんだな」
こんな下らないやり取りをしながら、過去多くの者が言い寄って、そして裏切られた。
もう、慣れてしまった――
悲しそうな表情をしたエヴァンジェリンが、手の刀を振りぬくとハオの頭が飛んだ。
切り離された首から噴き出す鮮血、返り血が少女の金髪を染めた。
「ここに来たのが運の尽きだったな、まぁ来世で頑張れ」
何事もなかったように家に戻ろうとするが――
「随分なご挨拶だな」
地面に落ちた生首が喋った。
本来ならば命はない状態なのだが、血反吐をたれ流し、されど猛禽類が獲物を見るような視線がエヴァンジェリンを貫く。
絵画のような金髪を揺らしエヴァが急いで距離をとり、魔法障壁を展開する。
見据える先には、生首。その背後に火の玉があった。
死体だと思っていた体の後ろから赤い手が出現し、生首を摘み力の入らない体に付けられ再生した。
生死すらも超越したシャーマンキングは、魔力でまとめて消し飛ばすか肉体を封印しない限りこの世から消えない。
もっとも魂が消滅する訳でもないので、気か魔力で魂ごと吹き飛ばすしか方法はないのだが、魂の知識に疎いこの世界の生き物は知る由もない。
「貴様、何者だ?」
あまりの異様な光景に吸血鬼が目を細め尋ねた。
「シャーマンキング」
返された答えに、エヴァの思考が加速する。
シャーマン?霊媒師か何かか?
「それにしても派手にやってくれたね、これは少し教育が必要だな」
薄笑いを浮かべ少年が言う。
「やれるものならやってみろ……ゴキブリ頭」
長い前髪からGの触覚をイメージしたのであろう少女が言った。
「いい度胸だ! やれスピリット・オブ・ファイア!!」
かの生物と同列に扱われたことで、シャーマンキングともあろう者の頭に簡単に血が上る。
冗談のようなやり取りの中でも、エヴァンジェリンは冷静に敵の戦力を分析していた。
あの巨人はマズい、本能がそう言っている――
迫る巨人の攻撃に、エヴァの対応が一瞬送れた。
鋭い指が腕を掠め、傷口から炎が溢れ出す。
「ッ!?」
急いで傷口を氷で固め、発火を防ぐが隙を見つけた巨人の攻撃は止まらない。
先手を取られてしまったため瞬動、虚空瞬動を使い避け続けるのがやっとだ。
完全に後手に回ってしまったな……どうする?
「攻撃を避けてばかりでは倒せないぞ?ロリババア」
エヴァの中で何かが切れた。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック、氷の精霊17頭、集い来りて敵を切り裂け、『魔法の射手、連弾・氷の17矢』」
赤い巨人に向かって17本の氷の柱が迫る。
しかし巨人はいとも簡単に全てを払いのけ、指で突き刺そうと攻撃を繰り出す。
「ワンパターンだぞ!! 『最大多重魔法障壁』」
曼荼羅のような魔方陣が出現したが、巨人の攻撃は止まらない。
真祖を守る多重魔法障壁が何事も無かったかのように砕け散る。
「チッ! 化け物め!! 来れ氷精、爆ぜよ風精、弾けよ凍れる息吹!! 『氷爆』!!」
冷気と氷の爆発で、スピリット・オブ・ファイアの体がよろめく。
そして先ほどの『魔法の射手』が方向を変え、ブーメランのように赤い巨人の背後から迫る。
「私がただの魔法の矢なんて打つわけがないだろう! そして本体にもおまけだ!リク・ラク ラ・ラック ライラック、集え氷の精霊、槍もて迅雨となりて、敵を貫け、『氷槍弾雨』!!」
召喚獣と本体への同時攻撃だ、どう対応する?
吸血鬼がニヤリと笑みを浮かべた。
無数の氷の雨がハオに降り注ぎ、赤い巨人は氷の柱に襲われる。
「巫門遁甲」
氷の雨の中にハオの進むべき方向が見える。
「避けたか! だがこっちは疎かになったな! 来たれ氷精、闇の精、闇を従え吹雪け、常夜の氷雪、『闇の吹雪』!!」
エヴァの手から放たれた吹雪と暗黒がスピリット・オブ・ファイアを飲み込む。
あまりの魔法の威力に、ハオの目が見開いた。
マズいな、オーバー・ソウルが破られる。
「スピリット・オブ・ファイア!!」
ハオが叫ぶと、嵐の中を赤い巨人が直進する。
所詮はオーバー・ソウルだ、巫力は落ちるがまた展開すれば良いだけ……
奴はオーバー・ソウルを知らない、刺し違えてでも一撃を入れればこっちが有利になる。
「まだ、抵抗できるのか!!」
吹雪の中を迫る赤い巨人に、真祖の吸血鬼ですら驚嘆した。
エヴァの脇腹を鋭い爪が掠める。傷口から湧き上がる炎の痛みに『闇の吹雪』が止む。
私がダメージを受けているだと!? 先ほどの掠り傷もまだ治りきっていない。
「最強種、真祖の吸血鬼ということである程度は想像いていたが、貴様も龍樹と同じようだな」
「何?」
龍樹と言う言葉にエヴァの眉間に皺が寄る。
「魂が滅びない限り再生し続けるのだろう?なら話は簡単だ、その魂を直接焼くまでだ」
狂気の笑みを浮かべた少年が言った。
ハオの隣にスピリット・オブ・ファイアが再度出現する。
「シャーマン……なるほどなこれは確かに危険だ。ならばこちらも全力でいかせてもらおう……」
「今までは全力じゃ無かったとでも言うのか?」
金色の髪を靡かせ、空中に舞う。
「当り前だろう!リク・ラク ラ・ラック ライラック、契約に従い我に従え、氷の女王、疾く来れ静謐なる千年氷原王国、咲き誇れ終焉の白薔薇、『千年氷華』!! 解放・固定、掌握! 術式装塡「千年氷華」術式兵装『氷の女王』!!」
手に固定された魔力の塊が、握りつぶされる。
魔法を取り込んだだと!?やはり僕の知らない知識を大量に持っていそうだな。
エヴァの背中には氷の羽が生えた。
「本番はここからだぞ!」
吸血鬼の速度が一気に上がる。
自分に迫りくる敵の姿は、世界のほとんどの人間が捉えられないだろう。
スピリット・オブ・ファイアを盾の代わりにしようとするが、蹴り飛ばされ飛んでいく。
五大精霊を蹴り飛ばした!?冗談じゃない……
眼前に拳が迫る。
魔力を取り込んでいるのだ、その状態で攻撃を繰り出すのならば魔力の流れを読むのみ。『巫門遁甲』で対処は容易だ。
「今のを良く避けれたな」
攻撃の速度を上げ続けた状態で、エヴァが呟く。
「お前が遅いんだよ吸血鬼」
「ならこんなのはどうだ? 『凍てつく氷棺』!」
掴まれた腕から氷が発生し、氷の棺に閉じ込められそうになる。
「スピリット・オブ・ファイア!」
飛ばされた赤い巨人を呼び戻し、氷を溶かし切った。
「まだだ! 『こおる大地』!」
無詠唱でこれだけの魔法を打ってくるか……
森自体が氷の世界に閉じ込められたようだな。
地面から生えてくる氷柱を巫門遁甲で避け続けるが、身体能力の問題でスピードが上がる氷柱を避け続けることは長く続かない。
目の前の敵が、隙を見逃す事はなく追撃がかかる。
「そぉら、『氷神の戦鎚』!」
空中から巨大な氷の塊が、吸血鬼の手と連動するよう頭上に落ちてくる。
間に合わないな――
「燃やせ、スピリット・オブ・ファイア」
赤い巨人が再度盾になるよう入り込み、氷を溶かしにかかる。
「それを使ったな?」
氷のように冷たい声が、極寒の地になった森に響く。
「『氷爆』!」
ハオの腹部に冷気の塊が直撃する。
吹き飛ばされる相手と消滅する赤い巨人を確認しながらエヴァはさらに続ける。
「『冥府の氷柱』!」
巨大な氷柱が無抵抗の少年を襲う。
距離は十分とった――仕上げだ!
「リク・ラク ラ・ラック ライラック、契約に従い我に従え氷の女王、来れ、とこしえのやみ、『えいえんのひょうが』!! 全てのものを妙なる氷牢に閉じよ、『こおるせかい』」
ハオの周囲の気温が一気に冷え込み絶対零度となる。体にまとわりつく冷気が氷になり氷柱の中に少年は封印された。
「首を切り落としても死ななかったからな、『おわるせかい』で粉々にしても生きている可能性が有るが、これなら何も出来まい」
鼻を鳴らし、少年を封印した氷に近づく。
氷の中の少年と目が合った瞬間だった。
『ちっちぇえな』
エヴァンジェリンの脳内に少年の声が響く――
目を見開き再び距離を取ると、氷が解け始めた。
「な、なんだと!?」
解けた氷の中から現れた少年が語り掛けてくる。
「今のは流石に危なかった。二度も『オーバー・ソウル』を崩し、僕にこれを出させるとは大したものだ」
あれはさっきまでの巨人か?何故そんなところに?
マントのど真ん中で腹部を守るように、先ほどまでの赤い巨人の顔が有る。
マントの中からは先ほどまでの赤い巨人の手が伸びており、背中にはライターのようなブースターが着いていた。
真っ黒なその姿はまるで鎧。
「甲縛式オーバー・ソウル『黒雛』」
ハオが呟く。
甲縛式オーバー・ソウル、それはシャーマンの到達点。
攻防一体の鎧を身に纏い戦う姿は、シャーマンの完成形である。
「今度はこちらから行かせてもらうぞ!」
強敵と会いまみえたことによる歓喜の声が、少年から発せられた。
背中のブースターに炎が灯り高速で距離が縮まる。
「この氷全てが私の領域だ!簡単に近寄れると思うなよ!!」
手で氷を操りハオに向けるが、鎧には傷一つつかない。
「衛星砲の爆撃にも、核兵器ですら傷つけられないこの『黒雛』にそんなチンケな氷が通用すると思うな!!」
氷を弾きながら、溶かしながら迫りくる『黒雛』に攻撃が通らないエヴァンジェリンが焦り始める。
何なんだあの鎧は!スピード、火力、防御力と先ほどの赤い巨人の比ではない。
「チッ! 『闇の吹雪』×16」
今までの経験の中で、これ程まで全力を出したこと戦う者同士ないことだった。
「効かないと言っているだろう!!」
巫門遁甲と甲縛式オーバー・ソウル使う今の少年に、攻撃を当てれる者などいない。
マントの中から黒い腕がエヴァを捕獲しようと迫るが、合気道の容量でそれを逸らし更に上空へと退避する。
「さっきまでの威勢はどうした?逃げているばかりじゃないか」
「調子に乗るんじゃない!」
一言で空中に矢を出現させ、手を振り下ろし、雨を降らす。
秒間3000本の氷の雨を、回避し、弾き、掴み、溶かしながらもう一方の手を伸ばし攻撃を加えていく。
常人には、いや、熟練の兵士でも何が起きているか分からないような攻撃のぶつかり合いの中、エヴァンジェリンの体には火傷の痕が目立つ様になってきた。
傷が治らない……これはマズイな。
「一体何を考えている。どこにそんな余裕が有るんだ?」
黒い手に掴まれたエヴァの右手が燃える。
「ああああああああああ!」
自ら右腕を切り落とし距離をとった時には、背後から声がした。
「良い判断だ、それなら再生するだろうな」
肋骨から嫌な音がした。
足が振り抜かれ、地面に落下する直前――
「まだ寝かせないよ」
下に回り込んでいた少年の黒い拳が腹部に直撃し打ち上げられる。
大量の血が口から逆流した。
「終わりだ」
ブースターの形をしたライターが上空に殴り飛ばされたエヴァンジェリンに照準を定める。
「『鬼火』」
蝋燭から射出されるのは超高炎弾。
触れるもの全てを無に帰し、山の一つや二つ簡単に消し飛ばす悪魔のような技が空へと向かって飛んでいった。
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今回の戦闘での収穫を思い返しながら、寝かせた吸血鬼の様子を見ていた。
一つ、甲縛式オーバー・ソウルの反応速度が格段に上がっている事。これは僕自身瞬動から縮地まで会得したこと。死ぬ事でしか強くならないシャーマンが己の肉体を強化することは殆んど無い、精神面での修業が殆んどだ。また甲縛式まで使いこなすシャーマンが体を鍛えた事例が無かった事も、この事が広まらなかった理由の一つだと結論付ける。
二つ、甲縛式を発動しても霊力が擦り減らなかった事。これはグレート・スピリッツを持霊にしたことが原因だろう。すり減った霊力も最終的に還る場所はグレート・スピリッツだ、ならばグレート・スピリッツから供給すれば良いだけの話である。それに魂だけでも一日何億と言う量が還ってくるのだ、素霊状態の五大精霊も一日あれば完成体になる。
「武術でも始めてみるか?」
独り言を呟くが、即座にその考えを否定する。
この肉体が出来る範囲の事など分かりきっている。ナギとの組手中に気や魔力を試しては見たが、この世界の武道家のような量も無く瞬動に使う分で一杯一杯、魔力に関しては欠片も無かった。
巫力がある分上手くこちらの世界のような体にはなっていないらしい。
「う、うぅん」
寝ていた吸血鬼が目を覚ます。
「起きたか?」
「なぜ殺さなかった?」
敵意がないことを感じ取ったのだろうか、冷静に質問を投げかけられた。
「気まぐれだ、強いて言えば殺す価値すら無いと思っただけだ」
そんな訳がないのである。この真正のツンデレは自分の思っていることを素直に口に出せない。
ハオが戦闘の中感じ取ったのは、孤独。
誰も信用できず、裏切られる日々を過ごした者がするような目。
グレート・スピリッツにあった記憶からしても、この吸血鬼は迫害にあっていた。
誰も信用できないまま600年生き、そして多くの者を殺めたその姿は過去の自分を見ているようだった。
「言ってくれるな」
「事実だ、それよりいくつか質問がある。拒否権はない」
棘がある言い方を吸血鬼はサラリと流した。
「抵抗するだけ無駄だろう? まさか私より強い奴が居るとは思わなかったからな」
エヴァンジェリンから乾いた笑いが漏れた。
「僕も龍樹より強いとは想像していなかった。強くても同じくらいだとな……」
「ん? 待て今お前何て!?」
自分と同じ最強種と戦ったことが有るかのような口ぶりに反応したが
「質問するのは僕だ。それが終わって暇なら聞いてやる」
「ああハイハイ分かったよ、そうがっつくな少年? モテないぞ」
外見からは似合わない妖艶な笑みを浮かべる幼女。
「聞かれた事にだけ答えろ。まずはだな――」
ハオの尋常ではない量の質問に、辟易としながらエヴァンジェリンが答えていった。
こうして今日も一日が過ぎてゆく。
蘇生やってみたけど、この設定どうすっかな……
いざとなったら魔力の流れと巫力の流れ違うって事にして、ハオ専用にするかな(迷走)
S・O・F
攻撃手段:指、拳、火
なんだこの物理アタッカー