吸血鬼VS陰陽師。
早くもあの戦いから二年の歳月が経った。
あの質問の中でハオは魔法の核心に迫っていく。
発動原理、呪文の応用、オリジナルスペルの生み出し方などあらゆる知識を得て、闇の魔法エヴァのオリジナルスペル『マギア・エレベア』の理論を完全に理解していた。
取り込む呪文の一つ一つで術式兵装が変わるらしいのだが、呪文の全てをエヴァンジェリンが使えるわけでも無いので、氷の魔法以外は不明のまま終わっている。
その後はエヴァンジェリンからの質問に答えていた。
元々学者気質のハオはオーバー・ソウルの研究などもしている。
同じ気質のエヴァンジェリンには口が軽くなっていたのかもしれない。
シャーマンとはから始まり、オーバー・ソウル、持霊、陰陽術などの話を次々とするハオに、未知の物を知ったエヴァンジェリンは目を輝かせていた。
その後は傷だらけの吸血鬼が回復するまで世話を焼く事となり、気が付けば二年という時が経過していたのである。
経過する日々の中で少しづつでは有るが会話は増えていく。
お互いの身の上話が一番多かっただろう。
エヴァンジェリンの愚痴にハオが『僕も同じ経験をした』と会話に乗りお互いの不幸自慢が加速する。
方や600年の間人々から避けられて来た者、方や1000年もの間心が読めるせいで最初から裏切られているような気持ちになっていた者。
長い間待ち望んだ対等に話せる相手がようやく見つかった。
あまりの嬉しさに、二人の口からは極秘情報と言っても過言でないものが飛び交っている。
エヴァは吸血鬼として世界中を飛び回り得た情報を、その中にはとある国家が震え上がるような情報まで話、ハオはシャーマンの真髄や持霊、地獄での1000年すら話していた。
「お前、想像以上にジジイだったのか! まさか私より年上がいるとは想像すら出来なかった」
年齢を聞いて驚くエヴァンジェリン。
「信じられん、そんな木が有るとは……」
願い事を叶えてしまう魔力の塊の木。
「お前の持霊あまりにもチートなんじゃないか?」
隠すはずの持霊まで話してしまったハオ。
「チャチャゼロか……オーバー・ソウルもなしに常に動き回れるとは……」
など信じられない会話が毎日の様に続いている。逃亡生活から一転、二年間お爺さんとお婆さんは森の中で平和に暮らしていた。
平和な空間で、金髪を揺らしながら吸血鬼が口を開く。
「今日の飯当番はお前だろ? 早く作れ、私は腹が減ってどうしようもない」
「少し待て、というか早く食べたいのなら少しは手伝ったらどうだ?僕だって暇じゃ無いんだ……」
「ハッ! 日頃ゴロゴロしている奴が何を言う!」
「貴様も大した変わらんだろうが! 素っ裸で煎餅を齧りながらテレビを見ている奴に言われる筋合いは無い!!」
これが老人の会話である。
実はこの二人、私生活はとてもだらしない。
魔法人形にすべて任せているため、家事全般が壊滅的なエヴァンジェリン。
基本付き人が常におり、野宿ですら上等のハオ。全知全能とはいえ生活がそう簡単に変わることはなく、今現在も自分で料理をしていることが奇跡的な光景だ。
何より致命的なのはこの二人、年の割に精神年齢が極端に低い。
悪い意味で唯我独尊の二人は、精神的な面では年相応と言っても過言ではない。
「全く、何をムキになっている?器が少しばかり小さいんじゃないか?」
だからこそ、こんな会話からお互い熱くなってしまう。
「僕が見ていられないレベルでだらしない奴に言われる筋合いはない」
「あぁそうかぁ! さては私の体に欲情したなぁ?ロリコンジジイ」
400歳差、超歳の差で間違いはないのだが、とらえ方によっては自虐にしか聞こえない。
「貧相なチンチクリンの何処に僕が劣情を催す箇所があるんだ? 万年幼女」
「下半身もゴキブリの触覚の様なその頭も反応が鈍いとは……これは本格的に末期のジジイだな!」
「もう少し立派になってから言った方が良いんじゃないか? その身長を鏡で見て悲しくならないのか? そうか、ババアは身長が縮む生き物だったな」
「何だと? ショタジジイ」
「全て事実だロリババア」
「「やんのかコラ」」
ついに二人が爆発する。
「イツモメイワクスルノハ、オレタチナンダヨナ……」
チャチャゼロがそう呟くと、人魂の様になっているスピリット・オブ・ファイアが頷いた。
「サスガハココロノトモダナ、ヨクワカッテル……」
「そこで何をしているチャチャゼロ! 早くこっちに来い、戦争だ!!」
「スピリット・オブ・ファイア、今日はごちそうだぞ! あのババアを食えるんだからな!!」
現実時間で6時間、ダライオマ魔法球の中では数カ月に渡る死闘になった。
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魔法球の戦闘から約2週間後、平和な一時は終わりを迎えた。
「ヘラス帝国が連合と真っ向勝負か……」
「何が起こっているんだ……?」
眼鏡をかけ新聞を読むエヴァンジェリンにハオが尋ねた。
「おっ、全知全能でも知らないことがあるのか?」
馬鹿にしたようにエヴァが笑う。
「何故かは分からんが、あちらの世界の魂を回収できなくてな……基本原理が違うかもしれん」
「ほぉ~う」
丁寧に答えるハオに適当な返事が返される。
『お前の望みを可能な限りヘラスは叶える、こちらは何時までもこの条件でお主の士官を待っている』
頭にとある言葉が思い出された。
視界に入る指名手配犯を見て――
「はぁ」
ため息が一つ漏れた。
「どうした?」
「いや、やることを思い出した。少し『魔法世界』まで行ってくる」
外にスピリット・オブ・ファイアを展開し、そのまま窓から出ようとする。
「オイ! 何を考えているんだ!! 戦争中だぞ!!」
「だからこそ行くんだ」
「……ジジイの耄碌には付き合ってられんな!」
「ああ、行ってくる」
動揺も見せないハオに焦ったようにエヴァンジェリンが言った。
「なっ!? フンッ……耄碌ジジイを外に一人で放す訳にはいかない、私も行くぞ」
慌てて椅子から立ち上がるが――
「指名手配の賞金首に付いて来られても迷惑だ、行動範囲が狭くなる」
ハオの一言で一蹴されてしまう。
「足手まといにはならない!」
「邪魔だと言っているんだ」
ハオから尋常ではない殺気が押し寄せた。
怖くはない……だがこのジジイは一度言い出したら絶対に引かない、そんな手のかかる年寄りだ。
「……ッ。はぁ……ならこれを持っていけ」
諦めた様なエヴァンジェリンから投げつけられたのは、栞のような物。
不思議そうにそれを見る少年。
「私が開発したオリジナルスペルが練りこんである。電話のような物だ、何かあったら相談に乗ってやる」
「フッ……素直じゃないな」
「お前にだけは言われたくない」
交わす言葉は少ない。
ハオが赤い巨人に飛び乗り、空へと消えていった。
「少し静かになるな……」
消えた空を見つめながら吸血鬼が呟く。
「イイノカゴシュジン?」
「何がだ?」
「サミシイノ、ワタシヲヒトリニシナイデ!トカイエバ、ヨカッタンジャナイカ?」
「お前は一回分解しないといけないようだな……」
「マテ、ゴシュジン。オレガワルカッタ、ハンセイシテル」
「死にさらせええええええええええええ!!!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
チャチャゼロの悲鳴が森の洋館に木霊した。
この二人が再開するのはもう少し後のお話である。
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ヘラス帝国 謁見の間
女性のような長い髪にマントを着た男が、礼をとることなく直立不動で佇んでいた。
「お主がここに来るとは……まさか本当に騎士になってくれるとは思わなんだ」
皇帝の口が開く。
「僕の力じゃどうしようもない事があってな。それをヘラスにやってもらう」
「望みとは?」
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの賞金首撤回だ」
「何と!?それはわが国だけでは……」
皇帝の声に焦りが出た。
よりにもよってこの戦争時に……いかに正当な理由があったにせよヘラスが『闇の福音』を懐柔したように見える。連合の武力派に正当性を持たせてしまうことになる……
支援物資すら切られてしまう可能性もある。
「他の国への体裁を気にしている場合じゃないだろう?僕を取り込まないとこの国の存在が危ういんだぞ?」
「……」
「まぁ、僕も昔の顔なじみで来てやっているだけだ。何なら連合に取り入りヘラスを滅ぼした後、英雄として権力を手に入れることも可能だ」
「ぬぅ……」
「賞金首撤回のもっともらしい証拠は僕が持っている。国が滅ぶか、不信を買うか……好きな方を選べ」
鋭い目をしたまま口元だけ三日月になり笑いかける少年。
まるで首筋に鋭い刃を当てられているようだ。
連合が取り込んだという『紅き翼』なる傭兵集団。各地で暴れ回り帝国側の被害は甚大だ。
優勢だったはずの我が軍が見ただけで士気が下がり、その攻撃力は天災にも匹敵するという。
次の最重要戦線であるグレート=ブリッチ奪還作戦にも間違いなく投入されるだろう。
投入されない場合は間違いなく帝都の奇襲に使われている。
万全の警戒態勢を敷いてはいるが、相手も手練れ……100%の保証はない。
本来ならば龍樹もグレート=ブリッチの防衛へ投入するべきであるが、帝都の守りが薄くなり奇襲に対応することも出来ない。
しかし、このタイミングで龍樹を完封できる男が士官すると言っているのだ。
戦力としては喉から手が出るほど欲しい。
ここで断ってしまいこの男が連合についてしまえば、ヘラスの滅亡は確実……
「ぬぅ……分かった」
「賢明な判断だな」
「だが、それはお主が結果を出してからだ」
「良いだろう」
「追って連絡する、オイ部屋に案内してやれ」
「はっ!」
畏まった様子のメイドが現れた。
メイドに付いて行き部屋に案内される。
「こちらです。それでは私は失礼します」
メイドが去っていく様子を見ながら扉を開ける。
目に飛び込んできたのは巨大なシャンデリア、王侯貴族が座るような椅子に、机に盛り付けられた果物。
拳闘大会の賞金でもここまでの物は揃えられないな……
などと下らないことを考えながら椅子に座っていると、バタンと言う音と共に勢いよく扉が開いた。
「お主が妾の騎士か!!」
元気の良い子供の声にハオの呼吸が止まる。
皇帝のような角と浅黒い肌、金髪の長い髪をした少女が飛び込む。
シャーマンキングですら理解が追い付かない。
「誰だお前は?」
口から必死に言葉を絞り出す。
「妾か!? 妾の名はテオドラ! テオドラ第三皇女じゃ!!」
何だこのハイテンションなガキは……
「ぬぅうう!妾にも遂に騎士が出来るとは……感無量じゃ!父上には感謝せねばな!!」
「誰が誰の騎士だって?」
現実を受け入れきれないハオ、過去シャーマンキングになった者にはまるで見えない。
昔のハオなら有無も言わさずこの少女を焼いていただろう。
しかし、こちらの世界に来て数十年、丸くなりすぎたその性格は彼の弟が見れば度肝を抜かすほどとなっている。
「お主が妾の騎士じゃ!」
人差し指を突き刺し胸を張る。
聞いていないぞあのジジイ!騎士とはアイツの騎士じゃないのか!?
「いったい何を――「それにしてもお主本当に強いのか?子供みたいな成りをしおって、我が軍の騎士はもっと筋骨隆々な男共だぞ……」」
人の話を聞こうともしない。
「……」
「言っては悪いがお主あまり強く見えんぞ……」
人は見かけで判断してはならないと教わらなかったのか?
「まぁ良い、結果を出さないとこちらの望みも叶わないらしいからな……僕は何をすれば良い?」
「フム……明後日の父上はグレート=ブリッチ戦まで温存させよと言っていたが、妾自身お主の力がよう分からん。父上のように信用することも出来んしな……」
「何をすれば良いと聞いているんだ」
「そうだの、グレートブリッチとは逆方向ではあるが北東戦線に飛んでもらおうかの……北東戦線で結果を出すことが目標にしておこうかの」
「良いだろう、地図を渡せ」
こちらの世界の魂が回収できていないのは非常に不便だ。
死者も多く出ているはずなのに、全くと言っていいほど魂が回収できない。
この戦いで世界の謎が分かると良いのだが……
「これじゃ」
地図が手渡されると同時に廊下に出て、外へ向かう。
「ちょ、ちょっと待たぬか! 何をしておる!?」
「ここへ向かうつもりだが?」
地図を手で叩きながら答える。
「まだ他の兵が揃っておらぬ!」
「必要ないな」
「死ぬだけじゃぞ!!」
必死に止めようとするが、そう言っている間に中庭に出てしまう。
「死ぬ訳がないだろう? 僕にはこれがある」
ハオが顎を動かした先へ視線を送ると、炎と共に騎士のように膝を折る赤い巨人が出現した。
「これは……一体……?」
「スピリット・オブ・ファイア。僕の使い魔みたいなものだ」
「いや、そうは言っても相手には対軍魔法が有るのじゃぞ!?どうにかなるとは思えん!!」
テオの忠告に耳を傾けることなく、ハオがスピリット・オブ・ファイアに差し出された手に乗る。
「知ったことじゃないな」
「待て! 待たぬか!」
物凄い風と共にスピリット・オブ・ファイアが飛び立った。
「何を考えておる……だ、誰か! 誰かおらぬか!!」
大声で叫ぶテオドラに廊下に侍女が反応する。
「如何なさいましたテオドラ様?」
「今すぐ妾に与えられた部隊を編制せよ、北東戦線に向かう!」
「かしこまりました」
何を考えておるのだ……
妾の騎士になった途端殉職でもされた日には、ただでさえ年齢が低いと言われ騎士がおらぬのに、もっと人が寄り付かなくなってしまう。
早急に手を打たねば……
・
・
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「随分押し込まれているな……」
北東戦線の上空に到着したハオが戦場を見ている。
「連合の軍勢2万に対しヘラスは3000と言ったところだな」
転がっている死体の量から見るに、物量の差に気が緩んだヘラスが連合に押し込まれた形だ。
「醜いな……人とはこれほどまでに醜い」
ハオの眼が細まった。
とはいえ、あの皇女に実力を示さねばこちらの要求も通らない。
「仕方がないやるか……」
天の使者のように地上に降り立つ。
帝国軍の盾となるように立ち塞がる赤い巨人に戦場の時間が停まった。
「ヘラス帝国が連合に告げる――死にたくない者は撤退せよ」
北東戦線の全体に響いたその一言に連合が固まる。
当たり前と言えば当たり前なのだが、連合は2万の軍勢、帝国は残り3000である。あと少し押せば落ちるような砦側から聞こえたのは撤退勧告。
ここで撤退する者など一人もいなかった。
そしてその選択は本来であれば正しいことである。援軍に来たのがこの男でなければの話だが――
連合から返ってきたのは『多くの罵声』。
「力の差も分からないのか……」
呟くハオの言葉は、瞬時に罵声に飲み込まれていた。
僕がここまで言っているというのに……人間どもはやはり愚かだ。
「目標赤い巨人、各自全力で『魔法の射手』を射出せよ!連合の力を見せてやれ!!」
北東戦線本部の伝令に連合側の士気が上がる。
ハオに向かうは300万の『魔法の射手』。
「火生土、土生金」
外れた『魔法の射手』が地面に落ち、砂埃が煙幕のように広がった。
中では巨人にぶつかる数百万の矢、金属に当たるような音がしたが、これでは跡形もない。
戦場にいる誰もがそう確信した。
煙幕の中から、砂埃を払うように鋭い金属の矢が水平に射出された。
突如飛来した金属の矢に、連合軍1000人近くが犠牲となった。
「やったらやり返される」
鋼のような色になった、傷一つ見当たらない巨人の手に乗る少年が呟く。
「金生水、水生木、木生火」
巨人が呼応するように鋼から水へ、水から木になり、木から元の赤色へと変わる。
その瞬間、刺さっていた鋼の矢が炎へと変貌した。
「「「ああああああああああああああああああ」」」
燃え上がる炎に悪魔のような悲鳴が上がる。
「最終通告だ――死にたくない者は撤退しろ」
地獄のような光景を見て震え上がる兵士に、司令部から伝達が下る。
「対軍魔法『千の雷』によって敵を殲滅せよ!!」
多くの魔法使いが呪文の詠唱に入り、魔力不足の者は時間を稼ぐためスピリット・オブ・ファイアへ攻撃を繰り出す。
「忠告はしたぞ……その炎1200℃の高温、大自然の力その身をもって体感するがいい!!」
スピリット・オブ・ファイアの腕が液体のように変化し、泡を吹き始める。
「『マグマ・アッパー』」
小さい声でハオが言った瞬間、スピリット・オブ・ファイアが天に向かって拳を振り抜く。
噴火した右腕から大量の溶岩が地上へ降り注ぐ。
バケツを逆さまにしたように流れる溶岩に、2万の軍勢はなすすべなく飲まれる。
「ハッ、ハハハ……ハハハハハハ!!!」
戦場には少年笑い声が響いた。
帝国側の兵士は目の前で天変地異が起こるのを見て『神の力』だと震え、連合側の生き残りは速やかに撤退していった。
しかし、ハオの疑問は解決しない。
可笑しい、目の前で大量の命を奪ったハズだ……ならば何故スピリット・オブ・ファイアに食わせる事が、いやグレート・スピリッツにすら戻ってこない。
「何が起こっているんだ……」
不確定要素が判明しないままヘラス軍の防衛は成功した。
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砦から離れた場所でハオの様子を見ていたテオドラは言葉を失った。
何じゃ……あれは……
あのような力、一個人が手にするような力ではない。
自然の驚異がそのまま形になったような攻撃。
「これが父上認めた騎士の力か」
空いた口が塞がらなくなってしまったこの少女は知らない。
グレート=ブリッチ奪還作戦がスパイからもたらされた情報と違い今日奇襲を受けること、この地の転送装置が連合の手によって壊されていた事を……
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「まさか……ハオ・アサクラがこれ程とは……」
長く深い黒い布を被った者が遠くの岩陰から、この様子を見ていた。
母上ポイント
初期値:100
龍樹を焼いた:-20
学校の先生になった:+10
吸血鬼と仲良くなった:+20
大量虐殺:-60
0になると怖いことがあるとかないとか(適当)