魔法世界の陰陽師   作:おにぎり41

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シャーマンキング7

 「ハオ、ハオはどうした!!」

 

 宮廷内に皇帝の怒号が飛ぶ。

 

 ヘラス帝国のグレート=ブリッチへ連合の侵攻が始まっていた。

 

 「テオドラ様の命により北東戦線に向かい、2万の軍勢を消滅させたとの事です!」

 

 「何だと!?」

 

 テオがそのような事を……待機させておけと言ったハズだぞ……

 

 作戦は速度が命だ、ハオがこちらに付いたことで急いで防衛線の布陣を変更したが、まさか当の本人が北東戦線へ行っているとは……

 

 「北東戦線には転移装置があるはずだ、それを使いすぐにグレート=ブリッチへ送り込め!!」

 

 「陛下、北東戦線の転移装置は連合の手により破壊されました」

 

 「おのれぇ……ハオがグレート=ブリッチに到着するのは?」

 

 「北東戦線の準備が整い次第ですので、あと一日と12時間ほどになるかと……」

 

 帝国にあるものをすべて使ったとしても、これだけの時間が掛かる。

 

 「ええい! 鬼神兵を投入しろ!! 奴が到着するまで何としても粘れ!!」

 

 帝国の会議室は荒れていた。

 

 

 

 

 序盤こそ数の多さで優勢に進んでいた帝国軍だが、数時間には均衡が崩れ始めた。

 

 傭兵集団『紅き翼』が戦線に出てくる。

 

 彼らの力は一個大隊にすら匹敵し、連合は絶望的と言われた戦場で勝利を攫みとっていた。

 

 「「「「『雷の暴風』!!!」」」」

 

 帝国軍が数十人で魔法を放つ。

 

 標的にされた浅黒い金髪の男は、ポーズを決めながら正拳突きを繰り出す。

 

 「『羅漢拳』!!」

 

 風圧で無効化された『雷の暴風』、突き進む衝撃派に帝国の兵士が纏めて吹き飛ばされる。

 

 「ざっとこんなもんよ。ガハハハハハ!!」

 

 大声で笑う大男の背後に、一人の剣士が忍び寄る。

 

 「む?」

 

 大男が振り向くと――

 

 「余計なポーズなんてキメてるから撃ち漏らすんですよ」

 

 長い髪の男の重力玉が剣士を飲み込んだ。

 

 「アル? お前あのポーズ馬鹿にすんなよ、あれが無いとやる気が出ないんだよ!」

 

 「そういう話は終わってから聞きますから、先にあれをやってしまいましょう」

 

 アルビレオ・イマが指を指した方向には数千の軍。

 

 「ハッ、てめえはゆっくり茶でも飲んでな! 俺様が纏めて仕留めてやんぜ!」

 

 「頼もしいですね」

 

 「『来たれ』!」

 

 金髪の大男の手に一枚のカードが出現した。

 

 「行くぜ! 『千の顔を持つ英雄』、『斬艦剣』」

 

 ジャック・ラカンの傍に戦艦を斬るために作られた巨大な剣が出現する。

 

 『千の顔を持つ英雄』、如何なる形にも自在に姿を変えられるアーティファクトである。

 

 また複数の物を同時に作ることも可能な最強クラスのアーティファクトが――

 

 「うしゃあああああああ! 死にたくない奴はしゃがんでろ!!」

 

 帝国軍へと襲い掛かる。

 

 「相変わらず馬鹿げた火力ですね……」

 

 「フン、手加減はしたぜ!」

 

 山が一つ消し飛んだかのような巨大なクレーターを見下ろしながら会話をする二人の会話に割り込んで来たのは、戦場に似つかわしくない赤毛の少年だった。

 

 「あーーーーーー、俺の分残ってねえじゃん!」

 

 「遅かったですねナギ」

 

 「いや、遅かったからツイな……大体倒すのに時間かけてたお前が悪い!」

 

 指を指すラカンにナギが反論する。

 

 「こっちは残しておいてやるから楽しんで来いって言ったのジャックだろ! もうぜってー信用しねぇ!」

 

 「遅くなった」

 

 「手間取ってスマンの」

 

 「お、詠春に師匠!」

 

 眼鏡の日本刀を男に白髪の子供が到着する。

 

 「これで大体は拠点を落とした筈なのですが……」

 

 「帝国軍の士気が下がらんの」

 

 「何かしらの奥の手があるかもな」

 

 「ハッ、どんなのが来ようと俺様がぶっ飛ばしてやるぜ!」

 

 「次は俺だ! お前は引っ込んでろジャック!!」

 

 「あんだと? 先にお前をぶっ飛ばしてやろうか?」

 

 「上等だコラやってみやがれ!」

 

 「おい二人とも!」

 

 詠春が二人を止めに入ると、アルビレオが呟いた。

 

 「来ますよ!」

 

 大規模転移魔方陣が輝く。

 

 転移魔方陣から現れたのは8体の巨人、名を『鬼神兵』

 

 「まさかあれを投入してくるとはの……」

 

 「それだけ帝国側も本気だということですよ」

 

 「8体か思ったより多いな、こっちは五人だぞ」

 

 「三体は残ってしまうのぅ……」

 

 「「俺様のもんだ!!」」

 

 ナギとラカンの声が重なる。

 

 「ジャック……お前さっき俺の分取ったろ?」

 

 「てめえが遅いからだ」

 

 「あんだよ?」

 

 ナギが露骨に不機嫌な顔になり

 

 「あぁ?」

 

 ラカンも熱くなる。

 

 「二人とも、熱くなる相手が違いますよ」

 

 「早いもの勝ちにすれば良かろうに……」

 

 ナギに師匠と呼ばれた少年ゼクトが口を開くと、ラカンとナギの姿が消えた。

 

 「オラァアアア!!」

 

 「くたばれぇえ!!」

 

 ラカンが拳を振り抜き、ナギが巨体を蹴り上げる。

 

 「オイ、何抜け駆けしてんだよジャック! 俺様より先に倒す自信がないのか?」

 

 「俺の眼にはお前が先に飛び出したように見えたがな!」

 

 「幻覚だな」

 

 「お前もな」

 

 他愛もない会話の中、2体の鬼神兵が男たちの攻撃により空中でピンボールのようにバウンドし続ける。

 

 「しまいだ! 『ラカン右パンチ』!!」

 

 「終わりだ! 『雷の暴風』」

 

 「「次!!」」

 

 ラカンとナギの大砲のような一撃が鬼神兵を消し飛ばす。

 

 「あの二人、随分と気合い入ってますね」

 

 重力玉を周囲に展開し、右手、左足と次々と圧縮をかけ消滅させていくアルビレオに――

 

 「こっちも負けてはおられんの。どれ、いつもと違う魔法障壁の使い方を見せてやろう」

 

 仕留める直前ののゼクトが答える。

 

 「俺が一番遅れてるな……ペースを上げようか」

 

 眼鏡の剣士はエンジンがかかった。

 

 「『来たれ』『千の顔を持つ英雄』!」

 

 「吹き飛びやがれ!『千の雷』!!」

 

 ラカンの周りから無数の剣が出現し、鬼神兵を串刺しにしていく。

 

 腕を落とし、足を斬り裂き、胴体は無数の剣が風穴を開ける。

 

 一方ナギは、雷の塊が鬼神兵を飲み込み跡形もなく飲み込む。

 

 「「ラストオオオオオオ!!」」

 

 「百重千重と重なりて走れよ稲妻、『千の――『斬艦剣!!』』」

 

 ナギの詠唱が完成しそうなタイミングで、ラカンが『斬艦剣』を投げつけ鬼神兵の上半身を消し飛ばした。

 

 「てめえええええええええええ! またやりやがったな!!!」

 

 「あんちょこ読んで詠唱してるやつの方が悪いんだよ!呪文ぐらい覚えろ、それでも魔法使いか!」

 

 「ぅ、うるせぇ! 関係ないだろお前には!!」

 

 「だから俺に獲物とられるんだよ!!」

 

 「それにこのメモ帳はな……絶対に手放せねぇんだよ」

 

 ナギが何かを思い出すように呟く。

 

 「じゃあ諦めるんだな、ハハハハ!!」

 

 「なろぉ……」

 

 ナギの顔が歪む。

 

 ナギがラカンの顔を見上げると、遠く後ろに赤い巨人が見えた。

 

 「お前もまだまだだなジャック! まだ残ってんぞ!!」

 

 虚空瞬動で一直線に赤い巨人へ向かう。

 

 「何だと!?」

 

 ラカンがふざけながらナギの飛んだ方向を見ると、どこかで見たことがあるような巨人がいた。

 

 本能的に恐怖を察知したラカンの眼が見開き、思考が高速化する。

 

 どこだ……どこで見た……? 戦争中……いや違うもっと前だ。

 

 奴隷時代か? そうだ、このあたりだ……それももっと昔、初勝利? その少し後か……

 

 思い出したものは串刺しにされ燃え上がる龍樹。

 

 脳裏に蘇るのは、聞いたことも無いような声で吠える龍樹。

 

 悪魔のように笑う『最強の拳闘士』と呼ばれた男。

 

 「こいつは俺がもらった!」

 

 「ナギ! 全力でぶっ放せ、そいつはやべぇぞ!!」

 

 ラカンの焦った声に、他のメンバーが頭の上に疑問符を浮かべる。

 

 「言われなくてもそのつもりだ!! 『千の雷』!!」

 

 ナギの最強魔法『千の雷』の直撃を受けた煙の中から若い声が聞こえた。

 

 「ちっちぇえな」

 

 

 

 

 グレート=ブリッチへの侵攻が早まったことを聞かされテオドラは焦っていた。

 

 この者一人を到着させるため時間稼ぎに投入された『鬼神兵』。

 

 父上の評価がそれほどまでに高いとは――

 

 ハオを見つめながらテオドラは考える。

 

 妾もあの光景を目にしなければこのような評価はしなかったが、帝国軍の総力をもってしても相手になるかは分からぬ。

 

 転移魔方陣も破壊され物資も人材も送れぬ。

 

 「随分と難しい顔をしているな」

 

 「ヒッ!?」

 

 後ろから突然声を掛けられ、小さな体が飛び上った。

 

 「お、驚かすでない! ちょっと集中しておっただけじゃ!!」

 

 「その紙は指令文だな? 皇帝からか?」

 

 テオドラに命令を下せるのは皇帝ぐらいしかいない。

 

 「そうじゃ、一刻も早く体制を整えグレート=ブリッチへ向かえとの事じゃ」

 

 「ほぅ……じゃあ僕は先に行くとしよう」

 

 手を振りながら立ち去ろうとする少年に、テオドラが口を開く。

 

 「待たぬか! まだ物資も人材も整っておらぬ!」

 

 「そんな事している間に犠牲は増えるぞ?」

 

 「分かっておる! だからこれ以上犠牲を出さぬためにもだな!!」

 

 「だからこそ僕が行く。ここに居る者が前線に行ったところで死ぬだけだ」

 

 「だからと言って!!」

 

 「姫を守るのが騎士の仕事と聞いたが?」

 

 涼しい顔で笑いかける少年にテオドラの顔が熱くなる。

 

 「……ハッ!?」

 

 気か付いた頃には少年は赤い巨人に飛び乗っていた。

 

 「お、おい待たぬか!!」

 

 「それに、大きな船でゆっくり移動するつもりはないんだよ」

 

 赤い巨人が飛び去り流れ星になった。

 

 「少しは主の言うことを聞かんか!!」

 

 テオドラの叫び声は虚しく響く。

 

 高速で雲を切り、ハオがスピリット・オブ・ファイアでの移動を始めてから6時間半。

 

 激戦区であるグレート=ブリッチが見えて来た。

 

 鬼神兵が子供のような扱いを受けている中、ハオはさらに上空から戦力を分析していた。

 

 重力使い、障壁に絶対の自信を誇るもの、神鳴流の剣士、変幻自在に剣を作り出す筋肉、そして見知った馬鹿面――

 

 これが『紅き翼』か……確かに破格の強さを持った傭兵軍団だ。

 

 それにしてもあの馬鹿がここまで強くなっているとは……数年のうちにオーバー・ソウルを隠し切れなくなるとは思っていたが、ここまで強くなるとは予想外だ。

 

 そんなことを考えているうちに、巨大な剣が鬼神兵の上半身を消し飛ばした。

 

 これは本当に面倒な事になりそうだ……

 

 バカ面がこちらを見上げて来た。

 

 ほぅ、僕を見つけたか……可能な限り気配は消したつもりだったんだがな。

 

 何か呟きながらこちらに突撃してくる。

 

 「言われなくてもそのつもりだ!! 『千の雷』!!」

 

 目の前が光に包まれる。

 

 ハッ……オーバー・ソウルを使わなかったあの時とは違う。巫門遁甲の前では搦め手のない呪文など無意味、そして何よりエヴァンジェリンから多くの魔法知識を吸収した僕に対しては余りにも――

 

 「ちっちぇえな」

 

 目の前の煙が晴れた時に、赤毛の少年が目をこれでもかと言わんばかりに開いていた。

 

 「ハ……オ……兄……さん?」

 

 「何ボサっとしてやがるナギ!!」

 

 ラカンの怒号が聞こえたと同時に、縮地を使ってナギと距離を詰めたハオの蹴りが腹部に入る。

 

 「ゴフッ……」

 

 髪の毛と同じ色の血液が吹きだす。

 

 口の中に鉄の味が広がった。

 

 「チィ!」

 

 ラカンがハオの顔面を捉えようと拳を振るうが、大きな巨人に掴まれる。 

 

 筋肉ダルマの頭に過るイメージは龍樹が燃える光景。

 

 「ヤベッ!」

 

 急いで手を振り切りナギの元へ駆け付ける。

 

 「なに油断してやがる!」

 

 「余りにも驚いちまってな……体が固まったぜ」

 

 ナギが目の前の敵を確認する。

 

 「あなたがそこまで動揺するとは珍しいですね」

 

 背中に手を当て治療するアルビレオが呟く。

 

 「大丈夫かナギ!?」

 

 「アルが治療してくれてるからな、問題ないぞ詠春」

 

 「知っているのかナギ?」

 

 「はい、師匠。俺の魔法学校の先生です……」

 

 「そんな生易しいもんじゃねぇぞアイツは」

 

 「ジャックお前も知ってるのか?」

 

 ナギが呼吸を整えて話しかける。

 

 「数々の拳闘大会を圧倒的な強さで優勝を掻っ攫って来た俺様が、最強と言われない理由がある」

 

 ラカンの眼付きが鋭くなる。

 

 「目の前のアイツが『最強の拳闘士』だからだ」

 

 『紅き翼』の警戒が跳ね上がる。

 

 ラカンの強さは『紅き翼』のメンバーが一番知っている。

 

 唯一あのナギと互角に戦った人物、世界最強を名乗ってもおかしく無い様な人物が、額に玉の汗を掻きながら拳を震わせているのだ。

 

 「拳闘大会のエクストラステージ、今ではエキシビションマッチだが、それが始まった原因が奴だ……理由は単純、奴の強さが分からなかったから運営は更に強敵を用意した」

 

 「強敵?」

 

 詠春が首を傾げる。

 

 「龍樹だ……」

 

 「何じゃと!?」

 

 「しかもあれは試合なんてもんじゃ無かった……あまりの力の差に龍樹ですら一方的な試合だった」

 

 「バケモンだとは思っていたが、兄さんそこまで化け物だったのかよ……」

 

 回復を終えたナギが立ち上がり言った。

 

 「話は終わったかい?」

 

 「ああ終わったぜ兄さん、けどな……一発は一発だから殴らせてもらうぞ!」

 

 「当たればの話だ」

 

 ハオの威圧感が増大する。

 

 「来るぞ!!」

 

 ラカンが吠えた。

 

 赤い巨人が空中を駆け抜ける。

 

 「『最大魔法障壁』!!」

 

 白髪の少年が腕を突き出す。

 

 「甘い」

 

 スピリット・オブ・ファイアの拳が多重魔法障壁を粉々に砕いていく。

 

 「何じゃと!?」

 

 「まずはお前からだ」

 

 赤い指が白髪の少年を貫く。

 

 「ゴハっ!?」

 

 少年の口から大量の血液が漏れる。

 

 「ゼクト!!」

 

 アルビレオが七つの重力玉を投げつけた。

 

 赤い巨人は空いている手でそれを握りしめ、燃やす。

 

 「な!?」

 

 アルビレオの顔が驚愕に染まる。

 

 「驚いている暇はないぞ?」

 

 瀕死のゼクトがアルビレオに投げつけられた。

 

 アルが急いで体勢を整えゼクトを捕まえ相手を見ると、赤い巨人の『茶色い』拳が眼鏡の剣士に迫っていた。

 

 『回避――出来――マズ――死――』

 

 眼鏡の剣士が頭を回転させるが、状況を打破する方法が見当たらない。

 

 「でぇりゃあああああああ!」

 

 ナギが赤い巨人の殴り飛ばす。

 

 鈍い金属音が響いた。

 

 「大丈夫か!? 詠春!!」

 

 「すまない、助かったナギ……」

 

 「どぉって事ないぜ!」

 

 プラプラと手を振るナギに

 

 「ナギ! その手は!?」

 

 詠春が驚愕する。

 

 「派手に魔力で強化したつもりなんだけどな……思ったより硬かった」

 

 真っ赤になった手を握りしめながら状態を確認する。

 

 「戦えないなら下がってても良いぜ?」

 

 「馬鹿言えジャック! 兄さんを倒すのはこの俺だ!!」

 

 状態を確認する『紅き翼』に声が聞こえる。

 

 「この攻撃で三人は戦闘不能にする予定だったんだけどな……」

 

 鋼のようになった巨人に乗るハオが喋る。

 

 「あれは――陰陽術か!?」

 

 拳が目の前で変わったのを思い出した詠春が言う。

 

 「陰陽術?」

 

 「ああ、あの巨人の様子とナギの状態から考えればだが……予想が正しければ奴は火・水・土・金・木の属性に変化する」

 

 「それであの状態が『金』って訳だ」

 

 「どおりで硬い訳だぜ」

 

 ラカンにナギが続く。

 

 「やはり知っていたか『神鳴流』の剣士。日本で退魔の力に優れていると聞いて嫌な予感はしていたが、僕の五行をあの一瞬で見切るとは見事。バレる前に消すつもりだったのにな……あの攻撃を邪魔されるとは思わなかった」

 

 殺気を向けられた三人の呼吸が乱れる。

 

 「オーバー・ソウルに近い性質の攻撃を生身で繰り出す『神鳴流』。魔力バカに気合いバカの三人か――」

 

 この三人相手に巫門遁甲と陰陽五行で戦うのは余りにも厳しい。

 

 馬鹿二人に五行を知られなければな可能だったのだが……まぁ良い。

 

 「僕も少し本気を出そう」

 

 戦場の気温が変化した。

 

 「甲縛式オーバー・ソウル『黒雛』」

 

 少年が炎に包まれた瞬間、巨人のエネルギーが圧縮され、マントを『媒介』に黒い鎧が構築される。

 

 「変身した!?」

 

 「馬鹿言ってる暇はねぇぞナギ! あれはやべぇ!」

 

 「赤い巨人のエネルギー全てがあの小さな鎧に凝縮されているのか……?」

 

 「まずはお前からだ『神鳴流』」

 

 ハオの背中のブースターが点火されると、詠春の後ろにハオが回り込んだ。

 

 「速えッ!!」

 

 「詠春!!」

 

 「そう何度もやられてたまるか! 『斬魔剣・二の太刀』!!」

 

 振り下ろされる剣を、マントの中から伸びた黒い腕が掴む。

 

 「実物は初めて見たがこれほどとはな……」

 

 太刀筋を見切ったハオは、その『気』の複合量から性質までも察していた。

 

 成程、弟の二段媒介の剣が小さくなったようなものか……素晴らしい剣術に噂に違わぬ技術だ。

 

 「しまっ――」

 

 「詠春!!」

 

 ズドンという鈍い音と共に、もう片方の黒い拳が詠春の腹部に内臓をかき分け押し込まれる。

 

 眼鏡の剣士の体がくの字に折れ曲がった。

 

 「障壁小僧は瀕死、重力使いは治療中、『神鳴流』も沈んだ。残りは馬鹿二人」

 

 「舐めんじゃねぇ!!」

 

 ハオの顔面を捉え消し飛ばす勢いので、筋肉の塊が迫る。

 

 余りにも単純だ。巫門遁甲――

 

 迫る気を正確に読み取り、顔を少しスライドさせ紙一重で回避する。

 

 ラカンの腕に重ねるようにマントから伸びた黒い腕が横から顎を打ち抜くと、声もなくラカンの焦点がぶれた。

 

 「残りはナギだけ――」

 

 目の前で崩れ落ちる男の眼に光が戻る。

 

 戦艦をも吹き飛ばす『黒雛』の一撃を急所に受け、なおも意識を保つとは――

 

 「見事だ」

 

 蹴りを放とうとする褐色の男の体を、飲み込むように黒い手が包み込む。

 

 「燃えろ!」

 

 最強種も魂すら焼く炎がラカンの体に走る。

 

 「グアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 人の肉が焼ける匂いがする。

 

 黒い手から力が抜けると、燃える男が海へと落下していく。

 

 落ちた場所からは蒸気が上がっていた。

 

 「ジャック!!」

 

 目の前の敵を警戒しながら下に向かって叫ぶナギに、黒髪の少年が嗤いながら言った。

 

 「ちっちぇえな」

 

 「うあああああああああああああああ!!」

 

 赤毛の少年が突撃してくる。

 

 攻撃を避けつつハオは考えた。

 

 このスピード、この威力……巫門遁甲のみであれば僕は負けているだろう。

 

 全力とは言わないまでも、甲縛式でなければ僕の顔面は今頃ない。

 

 たった3年程度でオーバー・ソウルを殴り飛ばす強さだ……このまま順調に行けば、馬鹿の到達点は『エヴァンジェリン』さえ追い抜き、僕も甲縛式で全力を出すことになる領域だろう。

 

 あの馬鹿がここまで上って来るとはな……

 

 舞うように猛攻を避け続けるハオ。

 

 一発でも当てようと攻撃の手を止めないナギ。

 

 一方的なクロスカウンターのように首に伸びた黒い手が、ナギを締め上げる。

 

 「終わりだ『紅き翼』」

 

 「一発入れるまで終われねぇよ……」

 

 締まる首から無理やり声を上げ、殴りかかった拳を開いた。

 

 血液の味がする口をナギが開く。

 

 「『千の雷』」

 

 ハオの思考が一瞬止まった。

 

 バカな――いつ詠唱を!?

 

 力のない言葉とは裏腹に、ナギの魔力が凝縮した魔力が流れる。

 

 術者の強大な魔力により「万の雷」のような状態となった光輝く魔力の塊の中で、ハオは静かに微笑んだ。

 

 「強くなったな――ナギ」

 

 

 

 

 グレート=ブリッチを包み込んだ轟音に半壊状態の帝国軍は撤退を始めた。

 

 しかしながら連合の追撃は続く。

 

 「ハハハハハ! ちっちぇえな!」

 

 黒い鎧を纏い自由自在に上空を舞う男が、次々と敵の魔法を落としていく。

 

 撤退までもう少し時間が掛かるな……

 

 戦場を見下ろしながら考える。

 

 オーバー・ソウルが不安定だ。

 

 原爆・水爆にすら耐えるこの鎧に不意打ちとは言え、ここまでダメージを入れるとは完全に予想外だった。

 

 しかし、嬉しくもある。

 

 人の成長を見るのがここまで良いものだとはな……僕の弟の成長は随分と時間がかかった……

 

 あの馬鹿が『葉』くらいの年ごろには、僕がいないシャーマンファイトなら優勝を狙えるかもしれない。

 

 シャーマンキングとなった自分に追いつけるかもしれない才能に、周りの空気を一瞬で変える人柄をハオは高く評価していた。

 

 「ハハハハハ!今日の僕は機嫌が良い!貴様らに本当の力というものを見せてやる!!」

 

 高笑いをしながら、連合軍の拠点である孤島に狙いを定めた。

 

 「『鬼火』!!!」

 

 背中のブースターから射出された炎弾が、グレート=ブリッチ付近の孤島を消し飛ばし、砂埃と水蒸気が煙幕となり帝国軍の撤退を援護する。

 

 魔法世界の地図はこの日一部修正が必要となった。




ハオが甲縛式を使う程のレベルの14歳。バグやで…
この戦闘もっと引っ張れば良かったw

なお、人の成長を喜ぶ事でポイント回復するも、大量虐殺と孤島消滅によりハオの株価はストップ安の模様。
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