魔法世界の陰陽師   作:おにぎり41

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ここから物語は始まる


シャーマンキング8

 連合軍によるグレート=ブリッチ奪還作戦は成功した。

 

 連合ではナギの事を『千の呪文の男』、ラカンの事を『千の刃』と呼ぶ声が大きくなった。

 

 また、あの雷を見た帝国軍では『赤毛の悪魔』と呼ぶものもいる。

 

 一方帝国ではグレート=ブリッチ『撤退』作戦、成功と報じられていた。

 

 連合の奇襲により壊滅したグレート=ブリッチで大勢の命を救った男に敬意をこめて『森羅万象の男(エレメントマスター)』という二つ名が出来ていた。

 

 一個師団に匹敵する『紅き翼』を一人で食い止め、多くの者を救ったハオは救国の英雄『帝国の剣』とも呼ばれ、孤島一つ消し飛ばした光景を見た者からは『魔王』と恐れられた。

 

 そして、この戦果に納得が出来ない者達もいた。

 

 『試合に勝って勝負に敗けた』者たちである。

 

 「納得行かねぇ! 次は絶対当ててやる!!」

 

 「次は泣かす! 俺様を燃やした恨み絶対に晴らす!!」

 

 何処を怪我したのか分からないような赤髪と、燃やされたはずなのに髪の毛すら燃えた跡がない褐色の筋肉ダルマが騒ぐ。

 

 今日も『紅き翼』の化け物二人は元気であった。

 

 「傷に響くの……」

 

 「うぇ……また吐き気が……」

 

 「フフフフ」

 

  病室なのか、動物園なのか分からない部屋が連合のどこかに存在した。

 

 

 

 

 「大分絞られたようだなテオドラ」

 

 マントを着た少年がテーブルに足を上げ言った。

 

 「グレート=ブリッチの件は完全に妾の失態じゃ……首が飛ばなかっただけ良しとしよう」

 

 「なに、そうなったら僕が助ける」

 

 「ちょっ、調子の良い事ばかり言いおって!」

 

 トマトのようになったテオドラが大声で叫ぶ。

 

 「冗談だ」

 

 悪戯小僧のように口元が吊り上がる。

 

 「お主のそういうところが気に入らん!!――本気にしてしまいそうになる……」

 

 後ろのほうの言葉が、霞むように出てきた。

 

 「僕はお前のようなちんちくりんに興味はない無いがな!! ハハハハハハハ!!」

 

 「今の――聞こえて――」

 

 目を見開き、金魚のように口を開閉する皇女がいた。

 

 「皇女殿下はとんだマセガキだな」

 

 笑いながら部屋を後にするハオ。

 

 「そういう所が嫌いなのじゃあああああああああ!!」

 

 テオドラ、本日一発目の絶叫が第三皇女執務室に広がった。

 

 テオドラとの下らないやり取りを終わらせ、宮廷の一室で情報収集を行う。

 

 戦争と言うものの裏には必ず影がある。

 

 そこで利益を貪る者、魔法世界のゴミをこの戦争利用して駆除することが、こちらに来た目的の一つでもある。

 

 そのため騎士と言う立場は非常にありがたかった。

 

 下っ端兵士に害虫のリストアップをする傍ら、自分は町でネットワークを広げる。

 

 魂を回収できれば簡単なのだが残念ながらそうは行かない。

 

 グレート=ブリッチの戦果のおかけで顔が割れてはしまったが、最前線に飛ぶことは少なくなりある程度の時間は確保できていた。

 

 戦場に出ても苦戦する相手はいない。

 

 あの『紅き翼』が戦場に出てこないのも楽になっている理由の一つだ。

 

 聞いた話によると、あの傭兵集団は休暇中らしい。

 

 大方、バカが「俺たちにも休暇は必要だ」と騒ぎ、筋肉が後押しでもしたのだろう。

 

 もちろん集まった情報はこれだけではない。

 

 考えている間に兵士が、まとめた資料を持ってきた。

 

 「下がっていいぞ」

 

 一言伝えると、兵士が深々と礼をし去っていく。

 

 一息ついた後、資料に目を通し始めるとハオの眼が鋭くなる。

 

 「ついに尻尾を見せたか『完全なる世界』」

 

 ハオが嗤う。

 

 帝国、連合の中枢にまでいるのか……

 

 となるとオスティアの王女が連合と帝国の調停に失敗したのも、戦争を長期化させるために僕や『紅き翼』が前線に出なくなったのも、こいつらが原因だな。

 

 戦況がグレート=ブリッチ以降不利になり、押し込まれているのに僕が出る事は殆んど無い。

 

 戦況を一転させるのは僕にしかできない。

 

 しかし、そのおかげで帝国側の要注意人物は炙り出した、じゃじゃ馬皇女にもある程度は報告している。

 

 「『完全なる世界』の存在を至急報告しないとな……」

 

 僕もこちらの世界では情報が少なすぎて動けない。

 

 まとめて星一つ消してしまえば終わる話だが、そういう訳にはいかない。

 

 報告用の資料を作成していると、部屋の戸が鳴った。

 

 「何だ?」

 

 扉越しに聞き返す。

 

 「緊急招集です。今すぐ会議室までいらして下さい」

 

 尻尾を掴んだこのタイミングでか……嫌な予感がするな。

 

 「分かった、すぐに向かう」

 

 資料を隠し会議室へ向かう。

 

 会議室の扉を開けると、帝国でも上にいる人物が一堂に会していた。

 

 テオドラ達皇族を始め皇帝、大臣が机を取り囲む。

 

 資料で見た汚い奴らもチラホラいる。

 

 「遅かったな」

 

 皇帝が口を開いた。

 

 「申し訳ございません」

 

 大臣達が煩くなるのを見越してあえて敬語で話す。

 

 普段とは違う言葉遣いに皇帝はムズ痒そうな顔をしていた。

 

 「良い、突然で悪いがハオにはここへ飛んでもらう」

 

 皇帝が地図に示した場所は過去に連合から奪った重要拠点。

 

 しかしながら転移魔方陣は完成しておらず、移動にはそれ相応の時間が掛かる。

 

 「ここに連合が奇襲を掛けるという情報が入った。情報が確かではないためそこまで兵を割く訳にもいかぬ、少数精鋭で行ってもらう」

 

 資料に載っていたゴミ虫数名の眼が嬉しそうになる。

 

 人の心が読めないのがここまで不便な事だとは……必要ないと感じていた『霊視』能力をこれほど恋しく思ったことはない。

 

 少数精鋭で、どのような状況になるか分からない奇襲に対応する。

 

 状況としては非常に厳しい。

 

 僕の力は周知の事実、その僕を嵌めれるほどの罠があると言うこと――この僕に対応できるとなると『紅き翼』か裏で牛耳る『完全なる世界』の上層部……

 

 「分かった、行くことにしよう」

 

 「待てハオ、流石にそれは危険すぎる!お父上もご再考を……ここで我が騎士を失う事態になってしまっては全帝国軍の士気にも影響します」

 

 焦った様子でテオドラが言う。

 

 「騎士を信用するのも主の務めでは?」

 

 口を挟む大臣にテオドラの目つきが鋭くなった。

 

 「テオドラよ、これは『勅命』である。お前が口を出すことは許さん」

 

 皇帝の言葉にテオは言葉を失った。

 

 「気にすることはない、結果は変わらないさ」

 

 「だがの!」

 

 「僕を誰だと思っている?」

 

 会議室の空気が静まりかえる。

 

 「部隊が用意出来たら知らせろ。それまで僕は部屋にいる」

 

 会議室を立ち去るハオをテオドラは只々見つめていた。

 

 

 

 

 部屋で待機していたハオに声が掛かったのは約3時間後、用意された300人の精鋭部隊――ハオが情報収集に使った優秀な者達で組織されていた。

 

 この部隊を率いて地図に示された地点に向かう。

 

 常に龍種に跨った20人ほどの偵察部隊を先行させた。

 

 偵察部隊からの情報をもとに、帝国内の領土であっても姿が確認されやすい荒野型のルートを止め、一週間かかるが木々が影を作る森林ルートを選択する。

 

 スピリット・オブ・ファイアを使えば一日もかからない距離だが、300人の精鋭をここで切り捨ててしまうのは余りにも惜しい。

 

 馬車のような物の中でハオが揺れながら考える。

 

 帝都を出てから約5日……目的地は近い。

 

 しかし、ここまでは妨害らしきものが全くと言っていいほどない。

 

 大臣達が策に嵌めようとするならば、小さい妨害すら一つもないのは流石に変だ。

 

 帝都を出る前に兵士達の眼を確認も行ったが、濁った眼をしたものは一人もいなかった。

 

 「何も問題は無いかい?」

 

 近くに居た兵士に馬車の中から尋ねるが、変わった事は特にないと返される。

 

 「先行部隊にも確認をとれ、嫌な予感がする……」

 

 「ハッ!」

 

 胸に拳を当て礼をとった兵士が、手で電話の形を作り偵察部隊と連絡をとるが異常は見当たらない。

 

 しかし、数時間後状況は激変した。

 

 「こちら偵察部隊至急ルート変更を!黒いフードを被った男が!?うわあああああああああ――」

 

 「どうした偵察部隊!? 応答しろ! 応答しろ!!」

 

 偵察部隊から入った緊急事態を伝える声が消えた。伝令を受けていた兵士が焦る。

 

 事前の決まりで、先行部隊からのルート変更提案は全滅の意味を持つことにしているのだ。

 

 「全軍止まれ、別ルートへ速やかに切り替える」

 

 森の中に馬車から降りたハオの声が通る。

 

 隊列を維持したまま兵士が指定されたルートの中へ入っていく。

 

 これで暫くは持つはずだが、龍種部隊を失ったのは痛い……

 

 別ルートを進むハオたちの中で一人の兵士が異常に気付く。

 

 「オイ! 何だあれ!?」

 

 兵士が指で示す方向を目線で追うと、空には黒い釘のような物が見えた。

 

 「魔法障壁を展開しろ!!」

 

 黒い釘に嫌な予感を感じたハオが叫び、精鋭部隊が魔法障壁を展開する。

 

 300人近い人数が織りなす多重魔法障壁は、結界のように小さな魔法障壁のドームを作った。

 

 『紅き翼』の攻撃も多少は凌げるようなものが出来上がるが、いとも簡単に黒い釘が障壁をすり抜ける。

 

 「お前たちは知り過ぎた――」

 

 はるか上空から声が聞こえた後、兵士の一人を釘が貫通した釘が地面に埋まる。被弾した兵士は、桜が散るように消え去った。

 

 そう、魂ごと――

 

 消える兵士を視認したハオが、あまりの異常事態に目を見開く。

 

 バカな!? 肉体を消し去っても魂が消滅するには一定時間必要だ。それは『旧世界』の生き物にも共通したルール。

 

 北東戦線で多くの者を葬ったが、あの時とは全く違う。

 

 あの時は確かに魂の様な物があった……魂とは少し異なるものであったが『旧世界』でいう所の魂に近い性質を持ったもの。

 

 それが確かに『視えた』

 

 しかし、今のは何だ? 刺された兵士の存在が否定されるような感じ。

 

 元からいなかったような状態にされる。

 

 グレート・スピリッツをオーバー・ソウルした時の僕に近い力……

 

 「スピリット・オブ・ファイア!!」

 

 ハオが赤い巨人を呼び出し釘を弾く。

 

 この釘、僕には影響がない?

 

 飛来する無数の釘を完全に弾くことが出来ず赤い巨人の体に当たるが、オーバー・ソウルにはナギの全力でもない拳以下の乱れがない。

 

 弾き損ねた釘が兵士を貫き跡形もなく消滅させていく。

 

 やはりか! この釘……一定の者にしか効果がないな?

 

 とは言え消滅効果が無いだけ、生身の僕に当たれば重症だ。

 

 仮に死んだ者の魂を操る効果があるとすれば、その力にグレート・スピリッツで干渉出来るかも怪しい。

 

 だがこの場で一番戦えるのは、間違いなく僕一人だけだ。

 

 「あの黒いのは僕の獲物だ。全軍、釘に触れずに撤退しろ」

 

 スピリット・オブ・ファイアの火力を上げ、空気中の燃える酸素が釘に乗り移る。

 

 「逃がすものか……」

 

 上空にいたフードの男が呟くと、地面に刺さっていた釘が爆ぜる。

 

 爆風の範囲内にいた兵士たちが、言葉も発することなく散る。

 

 両足が吹き飛び、転んだ者の頭部には釘が刺さった。

 

 突如体が吹き飛んだ者もいる。

 

 爆風に飲まれ、左半身を失った兵士が涙をこぼしながら訴えた。

 

 「ハオ……様――」

 

 「消えろ人形」

 

 消え始める兵士の胸を黒い釘が貫く。

 

 黒い釘と謎の遠距離魔法により、精鋭部隊は消え去った。

 

 「ゴミ共め……」

 

 黒いフードにマントを羽織った男が言う。

 

 しかし、男が見下ろすとそこにハオの姿はない。

 

 魔法使いのローブに包まれた、顔が見えないフードの下でも驚いていることが伝わってくる。

 

 先ほどまで下にいたと思っていたハオは、黒い鎧を纏い突如目の前に現れた。

 

 フードの男の顔面を吹き飛ばそうと、鋭い手が向かう。

 

 体を捻り紙一重で回避する男を、薙ぎ払われる黒い右手が追撃する。

 

 「『最大魔法障壁』」

 

 展開されるのは『紅き翼』の白髪少年を軽く凌駕する多重魔法障壁。

 

 7割ほど砕いたところで黒い右手が止まる。

 

 『魔法世界』盾が『黒雛』の攻撃を防ぎきった。

 

 砕けない魔法障壁を確認したハオが冷静に距離をとる。

 

 「随分調子に乗ってくれたな。覚悟は出来ているんだろう?」

 

 ハオの声が低くなる。

 

 「この私の魔法障壁をここまで簡単に砕くとはな。正面から戦うのは止めにしよう」

 

 身構えるハオにフードを被った男が嗤う。

 

 「何がおかしい?」

 

 「今回はその鎧の力が見れただけでも良しとしよう、こちらの目的は達成した」

 

 男の足元に転移魔方陣が出現する。

 

 「貴様ッ――」

 

 「『完全なる世界』はどこにでもいる。私を追う暇が有るならば帝国の現状を確認するべきだ」

 

 予想される事態にハオの動きが固まる。

 

 「さらばだ」

 

 魔法使いの姿が消えた。

 

 

 

 

 「主よお怪我は有りませんか?」

 

 本拠地に戻った黒いフードの男の前に、同じような顔をした白髪の少年達が膝を付いている。

 

 「問題ない、奴の力は全て把握した。次はあの黒い鎧もろとも消し去る」

 

 あの一瞬ですべてを見切った男がフードの中でほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 帝国に戻ったハオに待ち受けていたのは異常事態であった。

 

 300の精鋭部隊を壊滅させた責任、情報統制された中で奇襲を受けたことによるスパイ容疑。

 

 そして、オスティアへ交渉に向かった行方不明の第三皇女テオドラとの関連性。

 

 魔法封印空間の檻に閉じ込められたハオは、スピリット・オブ・ファイアを使い帝国を脱走する。

 

 オーバー・ソウルにダメージを入れる事は出来るが、魔法と巫力は全くの別物だ。

 

 ハオ相手にその力を封印する力は無かった。

 

 脱走したハオには『完全なる世界』に忠誠を誓った大臣達により多額の懸賞金が掛けられる。

 

 『紅き翼』と一人の『陰陽師』が共同戦線を組むのに、そこまでの時間は必要としなかった。




テオドラの扱いが雑な件www

扱いどうしようかな……
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