修羅がダンジョンで冒険を求めるのは間違っているだろうか 作:赤城灯火
テンポが悪くなければいいのですが、、、
太陽が昇りきる前の朝から昼に変わる頃、俺は巨大な塔バベルの下に伸びるダンジョンに入った。
太陽が届かない洞窟が続いているのに、そこは明かりがいらないほど明るい。
しばらく小さな人型のモンスターを斬って進み、あっさり階層を5つ下った。
「初めての方はどんなに順調でも5階層までですよ。」
指をピンと立てて背伸びをして注意してくれたシルさんには悪いがこのまま進むことにした。
もう少し手ごたえがないと面白くない。
そのまま下に降り続けると、天井の高さは急に高くなり霧が立ち込めてきた。
この空気は、俺のいた山を思い出す。
暗がりに姿を隠したオーガに追い詰められたり、逆に隙をついたこともあったな。
記憶を探っているとさっそく、霧に姿をくらました複数のオークが俺の周囲を取り囲んだ。
ここはすでに9階層で、受付嬢のシルさんに言われた5階層までという忠告はとっくの昔に過ぎていた。
「今度はデカい豚が相手か。こいつの切れ味を試すのにちょうどいい。」
そうして握りしめた太刀が戦意の上昇を示すように煌めいた。
その太刀は、白い刀身に黒い刃が研ぎ出された長い大太刀。
白と黒の刀身は人の背ほども長く、通常より長い柄が伸びる。
柄に布を巻き付けただけのむき出しの拵えは、見た者に未完成であることを思わせる。
しかし、カムイが剣を構えれば、その粗末な拵えがむき出しの獣牙のような鬼気を発する。
山の頂上でオーガの親玉を倒した時に出現した片刃の太刀。
銘は祢々斬丸、文字通り”祢々”化け物を斬るための剣である。
一斉に迫るオークに合わせて、太刀をその場で回って振り抜く。
その威力は、一振りで迫ったオークすべてを真っ二つに切り裂き灰に変えるものだった。
「デカい図体の割に歯ごたえが無さすぎる。切れ味もやばいが敵が弱い。」
「物足りないが次はこいつだ。そのデカい図体は、試し打ちに丁度いい的だろう。」
そういうカムイは祢々斬丸に空いている左手を翳し、刃にバチバチと迸る白い光を纏わる。
それは雷光、幾千もの鳥の鳴き声が重なったような雷鳴がダンジョンに響く。
俺は違和感を覚えながら祢々斬丸を一閃し、雷撃をモンスターに浴びせた。
「敵は丸焦げ、威力もいつもと変わらないが、なんかもどかしいな。なんかこう、せき止められた川を見てる気分だ。」
変化の心当たりがあるとすれば、それは背中に刻まれた恩恵だろうか。
この雷は元々俺の中にあった光で、違和感があっただけで威力は前と変わらない。
刻まれた恩恵によってより大きな力の使い方が追加されたのかもしれない。
しかし、今は考えるよりも走り出す。
抱いた違和感は一つではないからだ。
「甲高い耳障りな声で俺を探してるやつがいるな。」
「良いだろう。試し切りにしても物足りなかったんだ、すぐに行くさ。」
向かった先は2つ下の11階層。
レベル1冒険者の最後の関門であるインファントドラゴンが何かを探して一つ上まで登ったのだろう。
何かに導かれたように唸る竜の様相は強化種の域を超えていた。
その鱗は光を飲み込む漆黒であり、鱗の隙間からはみ出るように緑の肉が蠢いている。
本来とかけ離れた姿だが、カムイは本来の姿をを知らない。
しかし、カムイの山で研ぎ澄まされた闘争心はその異様さをとらえていた。
「異形な殺意、今の俺には丁度いい相手だ。」
勝てるか分からないと認識しながらも臆することなく向かって行く。
◇
始まりは苛烈、爆炎の砲撃と黒い鱗を纏った太い蔦ような触手の撓る鞭撃。
フッ!鋭い呼気を吐き、瞬時に爆炎から距離を取り、鞭撃を叩き払う。
それでも、殺意は止まらない、炎と激しい鞭撃を持って殺意は迫る。
耳をかすった鞭撃が右耳をを削り落とし、聴覚を伝って脳を激しく混ぜ返す。
神経に鞭で打たれたような衝撃が走り、思考は止まった。
そして、眠れる修羅が目を覚ます。
攻撃を躱す足は加速し、振るわれる剣も加速する。
思考を停止した脳から送られる命令はただ一つ。
『敵が死ぬまで剣を振れ』
止まることなく押し寄せる殺意のすべてを、目覚めた修羅が切り払う。
たとえ思考が止まろうと、体に宿る闘争心は加速していく。
弾き、躱し、すり抜け切り裂く。
時に血が舞い、炎が身を焼き、それでも切り裂く。
レベル1の冒険者の最終ステージを大きく逸脱した苛烈な攻防は加速を続け、両者を新たなステージに押し上げた。
「ホシ、ホシイ、キレイナ、ヒカリタベ、タイ、タベサセテェェエエ!!」
叫ぶだけだった化け物が欲望を発した。
形を明確にした殺意は、連動するように逃げ場を奪っていく。
どんどん距離を離され、攻撃をかすらせることが増えていくカムイは、空間を埋め尽くす破砕音の中に微かな声を拾う。
鈴のような懐かしくも心地よい響き、決してこの甲高い耳障りな喚き声ではない。
『泣かないで、一緒にいるよ、だから唱えて』
かつて、遊んだ友がいた。
しかし、友は突然いなくなった、一粒の光を残して。
それからは、山の頂上に光がある気がして登り続けた。
友を求めて山を登り、襲い来る鬼の首を飛ばし続けた。
迷子みたいに戦い続けた。
その蓄積された経験は、恩恵を刻まれステータスとして整えられた。
垂れ流しだった滝はせき止められ、ダムとなって水門を構えられた。
開き方は遠き友が囁いてくれた。
【この手を零れた光は白く、残る白さは褪せることなし、欠けたこの身は手を掲げ、白い彼方へ我を導く。】
腰だめに構えた太刀を両の手で握り、雷光は迸り、千の雷鳴が響き渡る。
さらに勢いを増す殺意を前に、最後のスペルキーを唱え、破壊の雷撃が轟いた。
【カムア・スレイン!】『ガァァァァ、ホシイィィィィ!!』
拮抗は一瞬、爆炎はかき消され、黒い殺意は白い雷光に切り裂かれ、走る雷は灰も残さず焼いていく。
「剣を取った理由を忘れてたよ。ありがとうセレス。」
友の名前を思い出した。
この時、恩恵を自覚し、俺は冒険者になった。
闘争の理由を取り戻した。
背中が熱い、これまでの経験は俺の血となり肉となった。
俺は冒険を求めて下へ下へと走り出す。
◇
何かに呼ばれてる気がして来たら、すごい戦いを見た。
私はモンスターが憎い、モンスターを殺して得るのはあんしんだけ。
でもあの人は違った。
モンスターに挑み、何かを手に入れた顔をしてた。
「あれが冒険者?」
人が初めて冒険者になった瞬間を見たのだろうか。
母の風と父の剣が熱くなる。
背中が熱い、リヴェリアに包まれて頭をなでられた12階層のことを思い出す。
「すごい、戦いだった。あれは誰?」
「アイズ!勝手に先行するなとあれほど言ったはずだ。」
フギュン、可愛らしい悲鳴がこだまする。
「いきなり魔法を使って駆け出すとは何事ん?なんだ?この破壊の後は?この魔力の気配は?一体ここで何があった。」
「倒さなきゃいけない奴がいた。でも倒された。」
「今日はダンジョンが騒がしい。」
怪訝な顔をした都市最高の魔導士は小さな手を取り踵を返す。
「帰ろうアイズ、目的のインファントドラゴンがいない。残る意味もないだろう。」
いつもなかなか帰ろうとしない金髪金目の幼女は、茫然とした様子で大人しく手を引かれてダンジョンを後にした。