どうせなら、笑っていようぜ。 作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ
感想、誤字脱字報告ありがとうございます!
心よりお礼申し上げます。
それと、アンケートに答えてくれてありがとうございました。
なんか想定を遥かに超える回答が来てビビり散らかしてます。
一応話の最後に付けたアンケートですし、書けってのが多いのは想定してたんですけどね、書かないと比べても2:1ぐらいだと思ってたんです。割と本気で。
作者は、自分が読みたいから書いてるんです。それが終わって、結構満足してるんですよね。
逆に、何が読みたいんですか?私にはもう分かりません。
トグロに忠告をされた後、私もアリス達に続いてダイブ装置を使用した。
意識だけを仮想空間へ抜き出すと言う。正直な話、いざ使おうとした時は怖かったよ。だって中で倒れたら死んじゃうんだよ!?
でも大人として、彼女達を支え導く者として、何より私の信じる生徒達の覚悟が背を押してくれる。
閉じていた目を、恐る恐る開けて周りを観察する。
“なるほど、これは確かに仮想世界だ”
目の前に広がるのは何も無い荒野。
けれど私の立っている場所…いや、私自身が境界になっているのか?
振り返ればミレニアムの校舎が目に入り、そこへの道には数々のゲーム機やソフト、今までにアリスが経験してきたであろう思い出が散りばめられている。
そして
「先生!」
ゲーム開発部のみんながそこに居る。
信じられている。頼られている。生徒達がそこに居る限り、私は無限に勇気が湧いてくるんだ。
『私を忘れてもらっては困りますよ』
“この声、ヒマリ?”
『ええ。トグロに頼まれましたからね。皆さんの支援は『全知』の称号を持つこの私にお任せ下さい』
ふいに届けられた声に、虚空に視線を彷徨わせる私達。耳元で話されているようでもあって、頭の中に直接聞こえるような不思議な感覚だ。
心強い。
そう思ってお礼を言おうとしたけれど、それよりも先に地響きが鳴って注意か奪われる。
「先生、なに…あれ?」
『敵の軍勢です。アレを超えなければボスに出会えないでしょう』
“そんなもの、さっきまで無かったのに…!”
『ここはそういった世界です。全ては心の思うまま……気を付けて下さい。敵の狙いはアリスちゃんを行動不能にすること。それと同時にアリスちゃんの心、後ろにある宝物の破壊を狙って来るハズです』
何も無いように見えていた荒野には、いつの間にか大量のロボットが並んでいる。ヒマリの説明が無ければ焦って防御陣形を取っていたかも知れない。
敵の狙いはアリスとその心。精神世界だからか、剥き出しになったミレニアムはさながら砦のようだ。きっとあの校舎の中にはゲーム開発部の部室がある。そこまで追い詰められたら負けてしまうのだろう。
“でもそうか…フフッ”
「どうかしましたか?先生?」
“なんだか勝てそうな気がしてね。今のみんなならきっと、何者にも負けないなって”
「はい!今のアリス達に不可能はありません」
『では皆さんの武器を強化してしまいましょう。ここは精神世界であり、電子の仮想世界。褒められた攻略方法とは言えませんが、ハッカーならではの支援を差し上げます』
「あっ、アリスの光の剣が凄い勢いでチャージされてる!」
『バフ…と言うんでしたね、皆さんをパワーアップさせてみました』
淡い光の粒子がみんなの武器から溢れ出して、それぞれが前を向く。これなら、大量のロボットが相手だって問題無いだろう。
第一射。
この戦いの火蓋を切って落とすならやっぱり
“アリス頼めるかな?”
「任せてください!充填完了、行きます!──光よ!」
身の丈に不釣り合いな程大きなアリスの武器。光の剣:スーパーノヴァと名付けられたレールガンは、その名に相応しい光の奔流をもって敵を貫いた。
大きく穴の空いたロボットの軍勢も、これを皮切りに動き出した。いったいどれだけの数が居るのか、考えるのも億劫になるほどの大軍だ。私一人なら、まず間違いなく逃げ出している。
それでも
“みんな、クエストスタート!!”
「「「「はい!」」」」
彼女達の指揮を取る。
何度か一緒に戦って分かった事がある。それは彼女達が、対集団戦に強いということ。勿論、それぞれが持った武器の性質に寄るものも大きいと思う。でもそれ以上に、彼女達の視野の広さと連携の上手さには舌を巻く。
「もぉー!数が多いよ、こんなの反則じゃん!私の怒りの弾丸を食らえー!!」
迫ってくる敵の並みを真正面から撃ち据えようとするモモイ。ヒマリがくれた強化のおかけか、面白いぐらいに敵のロボットを貫いていく。まるで無双ゲーをしているみたい。でもね、私はそんな指示してない。
待って!私はそんな指示してない!!
視野は、思った程広くは無いのかも知れない…
“ミドリ!”
「連続射撃、行きます!」
すぐに私の意図に気付いたミドリが、撃ち漏らしを狙撃していく。
「お姉ちゃん、ちゃんと先生の指揮を聞いてた?この数の正面に立つなんてなに考えてるの!?」
「この数だからじゃん、どこに立っても同じだよ。それにみんながいるもん!」
「そういうのいいから、1人で前に出ないでって言ってるの!」
そうだけどそうじゃない話。
気持ちはよく分かるよ、私も戦えるなら同じ事をしてると思う。なんとか接近される前に落とし切れたから良かった。後で注意しておこう。
ちょっとした安堵も束の間に、まだまだ敵のロボットは残ってる。……ロボットだよね?あれ、生物的な腕みたいなの生えてるけど…パッと見普通のロボットもいるけど、異形感が凄いよ。
それが大挙して押し寄せてくるんだからホラーだ。本当に、私1人なら逃げ出しているよ。
“ユズ、アリス。派手にやっちゃって!”
「行きます…覚悟してください!」
「全力で行きます!──光よ!」
ユズのグレネードとアリスのレールガンで一気に数を減らしていく。あいも変わらず、私の知るグレネードともレールガンとも威力射程が大幅に上がっているけれど、これが神秘だとむりやり納得しておく。
“そう言えば、弾切れしないな”
『その言葉を待っていました。精神世界内にある皆さんの情報を書き換えたので、今のアリスちゃん達はいつでも万全な状態です。無限弾丸チート、無限体力チートですね』
「それ、ゲーム開発部としてはちょっと複雑な気分かも…」
「……チート…防止プログラム……解析ツール…新しいバグ……、うぅっ……」
「デバッグ…納期間近のシナリオ変更……、イラストの書き直し…理不尽なリテイク……」
「いけません!トラウマが蘇ってしまいます!」
チートと言う言葉から連想ゲームのように記憶が呼び出され、ゲーム開発部の心にダメージが入ってしまった。通信越しにヒマリが慌てているのが分かる。きっとそんなつもりは無かったのだろう。
私も、納期と言う単語に拒絶反応がががが…
「うわーん!フレンドリーファイアでみんなが混乱してしまいました。こうなったらアリスも逅?ァ」荳崎?縲∬。悟虚驕ク謚槫渕貅悶r螟画峩縺励∪縺吶?やヲ窶ヲ繧ィ繝ゥ繝シ縲∝?襍キ蜍輔r螳溯。後@縺セ縺、縺帙▲縺九¥縺?縺九i縲∽ソコ縺ッ縺薙?襍、縺ョ謇峨r驕ク縺カ縺懶シ」
“なにごと!?”
「ひぃっ」
「アリス!?しっかりして」
「き、気を確かに!」
「アリスは しょうきに もどりました!」
“本当に戻ってるの!?”
こんな少し不安になるやりとりもあったけど、みんなの協力のおかげで敵の殲滅が出来た。あれだけの数を相手にして、普段ならとっくにバテている筈なのに元気があり余っている様子だ。
運動不足と名高いこの私もまだ走れるのだから、体力無限チートは本当に機能しているのだろう。
『お疲れ様です、皆さん。これで前哨戦…第一WAVEの突破となります。おそらくそろそろ…』
「おまたせしましたね、王女……と、その他の皆さん」
『来ましたね。早速ですがトグロの仕込みを…アレッ?トグロ、セキュリティ強すぎません…?このっ…このっ…ァちょっ!反撃は聞いてなっ──ふぅ…皆さん、ご武運を』
「……」
“……”
心強かったのは、気のせいだったのかも知れない。
気の抜けるヒマリの慌てふためく声を聞いて私達は勿論、ケイも黙ってしまった。
不覚にも笑いが込み上げてしまったが、なんとか理性で表情筋を抑え込んだ。少しむせた。
やはりケイにも充分に感情が備わっているのだと確信して、私は彼女の姿を探す。
「ここですよ、王女」
「ッいつの間に!?」
「貴女達に話はありません」
長距離の射程を持つアリスは、仲間を巻き込まないように最後尾から狙い撃つようにしている。今回はそれが裏目に出てしまった。
アリスと瓜二つな外見をしたケイは、一瞬だけ姿を現すとアリスを残して再び姿を消してしまった。残された淡い輝きを放つ光の剣が、今の今までそこにアリスがいた事を知らせている。
「アリス!」
“ッ!ヒマリ!”
『今探してます!──見つけました!前方にある祭壇の中央です、遠くはありません!急いで下さい!』
「あんなの、いつの間に…?」
「い、行こう!アリスちゃんを取り戻さないと」
再び眼前に並び立つ機械の群れに、私は苛立ちを募らせてしまう。
いけない。
生徒達の前だ。
“落ち着いて。それでいて最速で向かうよ!”
「「「はい!」」」
『道のりは難しくありません。真っ直ぐです。見えている祭壇に真っ直ぐ向かって下さい!この『全知』が露払いします。皆さんはアリスちゃんの下へ』
言うが早いか、空から無数の白い光が落ちてロボット達を焼いていく。
前言撤回。ヒマリの存在は心強い。
「急ごう、アリスちゃんを迎えに!」
ヒマリの露払いで直線上に道が生まれ、それに沿って駆け出した。
今の私達は、風よりも早く走っているだろう。
半ば程までは来ただろうか、私達は囲まれていた。
“ユズは後方全域を、狙わなくてもいいから近付かせないで。モモイはそのまま前に道を作って、ミドリは抜け出してきたロボットを狙撃!前進は続けるよ!!”
『もう少しお待ち下さい…もう少しで……』
弾丸無限チートが生きている。無ければ物量に押し潰されていた。特にユズのグレネードランチャーが、リロード無しでポンポン撃てるのは頼もしい。脳内にはガトリンググレネードとか言う頭の悪そうな単語が浮かんでいた。もう少し連射速度があれば今なら…!
まぁそんな考えが持てる程度には迎撃可能なレベルであり、確実に前へ進むことが出来ているので精神的な余裕もある。3人の表情にもまだ余裕は残っていて、そろそろヒマリの準備が終わるだろうと期待している。
『ロック解除……あ、あら?まだ何か…いえ、階層になって……これは、トグロからの挑戦状と言った所でしょうか』
“ヒマリ?”
『すみません。少々手間取りましたが、
小さな掛け声と共に降り注ぐ、先程と同様な光の柱。けれど今回はその数が違い、視界を埋め尽くすまで。
さっきまでの勢いはどうしたのかと思うほどにロボット達は消え、終いには来たときと同じ荒野が広がっていた。ただし、祭壇らしきモノだけは残している。
『大方の敵は殲滅したハズです。皆さんはアリスちゃんの所へ』
“ありがとう!”
私達は、アリスが居るであろう祭壇らしき場所に向けて再度走り出す。こんなに運動したのは何年ぶりだろうかと、場違いな思考を振り払い、アリスの無事を祈って。
「ここって…」
“アリスと初めてあった場所だね”
祭壇…そう見えていた所にあったのは、初めてアリスを見つけた場所。気が付けば、荒野は消えて廃墟を模した広い空間に変わっていた。
そして、中央付近。アリスが眠っていた台座の直ぐ側に、私達の探し人は居た。
「アリス!!」
「みんな!先生!」
「…やはり来ましたか、忌々しい」
少し見ない間に、随分と感情的になったらしい。
ただ、気になるとすれば…
“その怪我は?”
「ゲットするには、弱らせてからが鉄則です!」
「スカウトするのでは無かったのですか!?」
「してます!」
「いきなり殴り掛かる事をスカウトとは言わないのです、王女!」
「光の剣がありません」
「あんな物は必要ありません」
「やりました先生!スカウト成功です!」
「そういう意味で言ったのではありません!私は、王女が、役割を、果たせるようにと!!」
「……勇者の?」
「違います!!」
どうしたものかと、私は思案する。
なんかもう、このままで良いんじゃないかな?
「これでは、埒が明きませんね……申し訳ありませんが、王女には少し眠っていてもらいます。目が覚める頃には全ての準備を整えておきますので」
おもむろに手をかざし、何かを持つような構えを取るとそこには、光の剣が存在していた。
呑気な空気感を吹き飛ばして一転、私達は絶体絶命らしい。ケイが構えたレールガンが、アリスを真正面から捉えている。何か出来る訳でもない私だけれど、何も出来ないと理解している筈の私でも、無意識の内に体が動いていた。
“待って!”
けれど、貧弱な私では届かない。私なんかよりも遥かに高い身体能力を持つユズ、モモイにミドリ、私よりも前に出ているけれど届かない。
あぁそんな、まだ何も伝えられていないんだ。まだ何も、まだ何も…彼女達に残したと言えないんだ…こんな所で手が届かないなんて……私は、みんなの先生なのに……
なら、使わなければ。私の全てを使わなければ!
「暫しお休み下さい…──
私がカードを取り出したその時、ケイは引き金を引いた。アリスと同じレールガン。もしかしたら、ここではそれ以上の威力があるかも知れない。銃弾が当たっても痛いで済むキヴォトスに住まう彼女達でも、流石に至近距離からレールガンを撃たれてしまえば無傷では済まないだろう。
ドンッ!
極度の緊張と集中の中だったからかな。
やけに鮮明に聴こえた。殴り付けるような重低音は、何かの効果音かのように電子的な印象を私に伝えていた。
「よう、なんかピンチじゃねぇか。ワタシも混ぜてくれよ」
『なんとか間に合ったようですね』
「は?何故貴女が?」
私に分かるのはケイの撃ったレールガンが、突如現れたトグロに撃ち落とされたのだろうと言う事。そして、アリスが無事である事。
“トグロ!”
「おう先生。なんつー顔してんだよ、アンタがそんな顔してたら安心して戦えねえだろうが。笑えよ、勝利を信じろ」
トグロに言われて、私がどんな表情をしていたのか気付いた。そうだよね、私が、大人である先生がしていい顔じゃない。
ところで、トグロ。君、いつの間にコッチに来たのかな?私の記憶では、精神世界へのダイブはしなかったと思うのだけど。
それはケイも同じ考えだったらしく、私の疑問と全く同じ質問をトグロにしていた。
「あぁ、それね。ワタシはニセモノさ。この揺り籠に残された神秘の残滓。願いの具現化。そして本体が多分、訳分からんぐらいに頑張ってんだろうな」
“…つまり?”
「このワタシは分身だ。けどまぁ…『鍵〈Key〉』をボコる程度はやってやるよ」
本物じゃないんだ。
……本物じゃない!?
なに?分身ってなに!?
いやまぁ、ここは精神世界だし…電子空間だし…ヒマリがチート使ってるし、そういうのもあるのか。あるのか?
「あまり大口は叩かない事です、赤蛇トグロ。じきに本体の排除が終わります、せっかく得た仮初の時間は大切に使うべきなのでは?」
「後腐れ無く時間を使うために、イヤな仕事は先に終わらせる派なんだ。心配すんなよ、すぐに黙らせてやるからさ」
「戯れ言を…──灯を!」
「4番、乱す紫」
標的を変えたケイが再びレールガンを放って、トグロが紫の軌跡を残す弾丸で迎え撃つ。
電磁気加速に乗せられた弾丸を正面から叩き落とすなんて出鱈目な事を、当たり前のようにこなして見せる姿はどこか、私の目指す大人の背中を彷彿とさせる。
ケイのレールガンは充電速度を無視した連射を撃っている。トグロが注目を稼いでいる今のうちに、アリスと合流することが出来た。
…というか、合流出来るように射線を塞いで、攻撃を誘導されている。ここに来る前、ネルやウタハ達に言われていた事を思い出す。彼女達は何度も念を押すように、トグロが出たら注意しろと言っていたっけ。敵として、ここまでの立ち回りをされていたら確かに恐ろしい。
『少々予想と違うモノが出てきましたが、無事に支援が到着したようでなによりです。次の仕込みは、セキュリティを攻略し次第そちらへ送りますね』
「…はっ!ヒマリ先輩、アリスの光の剣は!?」
『申し訳ありません…情報データの都合上、1度紛失した物を再度探す事は難しいのです。新たに用意するにしても、今の私にある権限ではすぐに再現する事は難しいのです…』
「うぅ、ドロップアイテムが消えてしまいました……」
精神世界に入る前、ヒマリが何をしているのかをチラリと聞いている。トグロがここに居る…のとは違うだろうけど、ケイの意識も分割されてそれぞれ別の作業を行っている。ヒマリはそれらの妨害、もしくは阻止をしているんだとか。
曰く、
あまりこの分野に明るく無い私だけれど、ヒマリに掛かる負荷が高い事は理解できる。今も話しながら、いくつもの作業を並行している筈だ。
「仕方ありません。アリスは拳を温めておきます!」
“流石にソレは止めておこうか”
どこかの見覚えのある構えで拳を振っているアリスを宥めて、後ろに下がってもらおうと説得がしたい。したかった。
「イヤです!アリスが仲間にしたいんです。アリスが決めた事は、アリスがやるんです!みんなにも、先生にも譲れません」
「う、うん……特定のキャラが倒さないと、仲間にならないモンスターも居るもんね…い、一緒に頑張ろう!」
仕方ない。最前衛にアリスを……どうしよう。私、ちゃんと指揮出来るかな!?
いやね?アリスがとっても力持ちだってのは知ってるよ。でも、それとこれは話が違うと思うんだ。
「…アリスちゃん。これ、私のサブの銃。良かったら使って」
「ありがとうございます、ミドリ!」
「あれ?ミドリそんなの持ってたっけ?」
「メンテもするけど、銃だって道具だよ?お姉ちゃんこそ…え、まさかそれしか持ってないの……?」
「う、うん。そうだけど…えっ?普通そうなの!?ユズ!先生!」
「人にも…よるんじゃないかな……?わ、私も予備の銃は持ってるけど…」
“私も知らなかったけど、確かに持ってても不思議じゃないね”
ミドリが取り出したのは、オーソドックスなHG。私も何度か見たことのある、市販品の銃だ。小さなステッカーが貼ってあるのは、きっと紛失防止の意味もあるのだろう。ユズも取り出して見せてくれたけど、色合いは違うがミドリの物と同じ種類のようだ。こちらには猫のイラストが直接描かれている。
ミドリがその銃をアリスに渡して、私達の準備も完了した。ミドリには後でお礼を言っておかなくちゃ。流石に、銃撃戦の中で徒手空拳の指揮はしたことが無いから。
「準備出来たみたいだな。もう少し遅かったら、ワタシが終わらせちまうトコロだったぜ?」
「そうですね。もう少しで偽物の排除が済んだのですが、邪魔が入りました。……ですが丁度いい、この際纏めて排除してしまいましょう」
“そうはさせないよ。私達の勇者は、君を仲間にしたいみたいだからね。…それじゃあ、行くよ!”
これまでずっと、私達に流れ弾が届かないようにしていたトグロだけど、よく見てみれば身体中に細やかな傷が出来ており、血ではなくポリゴンが零れ落ちている。彼女が分身であるという事の証であり、彼女がこの場に居られるタイムリミットなのだろうと予感してしまう。
出来ることなら、ケイとは話し合いで決着を付けたかった。それが出来そうなだけの余地はあった筈だ。こんな削り合いになってしまったのは、私の至らなさが原因だろう。
今さら引き返す事も出来ないのなら、せめて良い結果を掴めるように努めなければ。そうしなければ、私がここに来た意味が無くなってしまう。
「ほらほらどうした?狙いが雑になってきてんぞ。お疲れか?回復アイテムは持ってないのかい?」
「…目障りですね……」
「ユズ、やれ!双子もそのままぶち込んでやれ!」
「しまっ…!」
……トグロ、視野広くない?
私いる?あの子、本当に生徒だよね?それも分身なんだよね?
もしかして、アロナみたいな相棒が居るとか?
あ、居ないんだ…
そういう神秘とか?違う?
本人の努力?
ははっ、まさかそんな…本当に……?
まあ、私のショックは置いておいて。前衛として立ち回りながらも後ろに居る味方の動きを把握して、ケイの行動を誘導して隙を作りながら自分も攻撃に参加。
正直言って、とてもやりやすい。
私が大まかな動きを指示すれば、すぐに理解してフォローに入ってくれるし、足りないと思う時には既に合わせてくれている。
勿論、こうした動きが出来る子が居ない訳じゃないけれど、前衛としてケイの注意を引き付けながら、攻撃をしながら、他へ気を配れる子はそうそう居ない。
私が唖然としながらもなんとか指揮をしていると、急にケイの動きが鈍ってきた。この場では有効打は出してないけれど、多分ヒマリか、本物のトグロの方でアクションがあったのだろう。
“今のうちに!”
ヒマリも、トグロも同意見のようで、注意は怠らないようにしながら畳み掛けていく。
さながらレイドボスを相手にしている気分になってくる。確実に攻撃が当たっている筈なのに、リアクションが殆ど無いのは不安になる。効いてはいる様で、急所になる攻撃は防いだり避けたりするし、大きな攻撃を当てればよろけたりもする。
「ゔっ…ぐ……いい加減に、しつこいんですよ!」
“モモイッ!”
もろに攻撃が頭部にヒットして、目眩を起こしたのかふらついた直後。ケイは銃口をモモイに向ける。
「まずは貴女です。才羽モモイ。もう一度眠りなさい──灯を!」
「させるワケねぇだろう?浪漫式4番、触れて揺れろ──惑いの紫煙!……こりゃダメだ、気合で避けろ!」
「このまま全員、纏めて消し去ってしまいましょう」
モモイとケイの間に割って入ったトグロだったけれど、相殺しきれなかったらしく。声を荒げて私達に注意を促した。それと同時に、ケイのレールガンからはビームと見紛うような眩さで光が放たれた。
そしてそれは私達を纏めて飲み込もうと直進を続ける。
ごめんね、私はそんなに早く動けないんだ。避けきれない。
「いいえ。まだ終りません」
いつの間にかトグロの隣に立っていたアリスは、ミドリから借りているHGを構えていた。
悩む必要すら無かったのかも知れない。始めから決めていたじゃないか。私は、生徒達を信じると。
有り得ないなんて事、有り得はしないのだから。
「あっはは!いいねぇ…再装填──紫煙」
「勇者はここに!──光よ!」
紫と白の光が流れ、視界を染め上げた。
ぶつかり合う両者の行く末を見届けるより先に、私の感覚は白に消えていった。
「……何故、当てなかったのですか?」
白色に侵された感覚の回復を待っている私に、ケイの声が聞こえる。良かった、どうやらみんな無事みたいだ。
僅かな空白の後、アリスは答えた。
「アリスは、ずっと考えていました。アリスが生まれた意味を、求められた役割を。誰かに言われるよりも先に、勇者に憧れるよりも早くから考えていました」
話すと言うよりも、言い聞かすような語り口で。優しく諭すようなその言葉は、アリス自身の独白になるのだろう。
「それは、アリスに何も無かったからです。空っぽの記憶領域と、空っぽの思考回路。消えた事だけは分かる何かの使命。アリスは怖くて、目の前にあったゲームをし続けました……何かを与えられている間は、必要とされているからです。誰かの指示なら、考えなくても済むからです」
この場の誰も知らない、アリスがアリスになるまでの出来事。その不安。静かに、思い出すようにして語っている彼女は、とても落ち着いていた。
「あの時感じていた、漠然とした、大きくて恐ろしい不安。今のアリスなら答えられます……アリスは、寂しかったんです。記憶にはなくても、思考には出来なくても、アリスの心は知っています。1人は、さみしいと」
「それが、私となんの関係が…ッ!」
「今のケイです!!…ケイ。役割を、与えられたモノに縋るのは、それしか知らないからです。アリスも、そうだったんです。そうしなければ、不安に圧し潰されてしまうから……自分の在り方が、分からないから」
「……」
「ゲームの…物語の勇者は凄いんです。どんな強大な困難を前にしても、決して挫けず、決して逃げず、決して諦めること無く、前へ進んで挑戦を続けます。例え心が砕けてしまいそうになったとしても、最高の仲間と共に立ち上がるんです!そんな在り方に、アリスは憧れました。そうなりたいと、アリスは願ったんです!」
誰もが、黙ってアリスの言葉を聴いている。
アリスがゲーム開発部に来たあの時、彼女が何を思っていたのか。黙々と、勧められるままにゲームをし続けた彼女の言葉は、決して優しいだけの言葉ではなかった。
それでも、アリスは手を伸ばす。
笑顔を浮かべて。理想の勇者の背を追いかける、小さな勇者がここに居るのだと。
「だから…ケイ、アリスの手を取ってください。生まれた意味に縛られないで、アリスと一緒に、生きる意味を見付けましょう。何になりたいか、何をしたいのか……それを決めるのは、顔も知らない誰かではありません!自分の在り方は、自分で決めるんです!!」
「…そんな事、今さら言われて…どうしろと言うのですか……?私はただ、そうあれとされたから…そうしなければいけないと、王女の補佐の為に生まれたのだからと…」
「どうするかは、ケイが決めて良いんです!決まらないなら、アリス達が居ます。みんなで一緒に考えましよう。一緒に悩んで、一緒に笑いましょう。それが仲間ですから!さあ、アリスの手を取ってください」
手を取って。と言う割に、ケイを仲間にしたい、なってほしいと言う思いが行動から溢れ出ている。半ば無理矢理に、強引に手を取りに行ったアリスだが、ケイは特に振り解いたりはしなかった。
今はただ混乱の中だとしても、それが良い事であると私は信じている。
そんな2人の下へ、おもむろにトグロが近付いて行く。彼女にも、後でお礼を言っておかなければいけない。今私達が無事なのは、トグロが居てくれたからなのは間違いないのだから。
よく見れば、トグロの足下が透けている。正確には、歩く度にポリゴンが削れるように剥がれ落ちている。分身の様なモノらしいし、限界が近いのだろう。
「よく頑張ったな、アリス」
「はい!新しい仲間が出来ました!ありがとうございます!」
「いいってことよ。なぁケイ、侮ってた相手に負けて、今どんな気分だ?」
「…貴女だけは、いつか必ず泣かします」
「おぉ怖い怖い。リベンジ楽しみにしとくよ。…さてと、ヒマリー!準備できたかー?」
『はい。それはもう万全に。いつでも大丈夫ですよ』
トグロが声を掛けて、ヒマリが答えた。
もう身体の半分が消えかかっているトグロが、大手を振って合図を出す。
“これは…”
「スゴイ!きれい!」
「うん…綺麗…!」
「…幻想的、でもコレ…」
「この精神世界の最期の姿ですね。もう、維持する必要が無いからでしょう。貴女方も、もう少しで目を覚ますハズです」
世界の最期。そう言われれば納得してしまうような光景。サラサラと崩れ落ちて溶けていく世界は、ここが精神世界で、電子空間である事を思い出させてくれる。もしかしたら、この世界は終わるのではなく、元の姿に戻るだけなのかも知れない。
私達に出来ることは、それまでの時間を、ただ見ている事だけだ。
「うぅ、なんだか勿体ないです」
「勿体なくはないさ。最期にパーッと使い切るんだ、今日はケイが生まれ直した日。記念日だろう?」
『では、最後の仕込みを開封しますね。行きますよ!』
「ハローワールド、ケイ。アリス達と仲良くな」
空に浮かぶHELLO WORLDの文字に意識を削がれた時に、トグロはそう言い残して消えてしまった。いや、分身だから、本人に影響は無いんだろうけどね。
それでも、今のタイミングと最後の言葉が、アリス達には強烈だったらしく……
「トグロ先輩…?トグロ先輩!?うわぁぁん消えちゃヤダよぉぉー!!」
「あ、ありがとう…ございました……」
「うぅ…ひっぐ、うぅ…」
「…ぐすっ…トグロ先輩…いいえ、師匠!アリスはもっと強くなります!最高の仲間達と共に、勇者になります!!」
「……あの、王女?赤蛇トグロは健在ですよ…?えっ、私がおかしいのですか??」
“大丈夫だよ、ケイ。少しそっとしておこうか”
やや締まらない感じで、私達の意識は現実へと帰還した。
どうやらこの時空では、ケイとアリスが揃うと漫才を始めるらしい。何回書き直しても漫才を始めるので、もう諦めました。
アンケートを取り直しますね。
何か書くのは楽しかったので、何かは書くかも知れません。
なんも思い付かないから、参考までに……
-
トグロだけの小話
-
本家イベント
-
オリジナルイベント
-
先生視点
-
別キャラ視点
-
よく名前の上がるキャラとの小話
-
その他