どうせなら、笑っていようぜ。   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

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前話の空白部分です。

別で書いたせいで付け忘れました。どうせならって事で少し加筆して出しときますね。

かわいいの過剰摂取にはお気を付けて…


トグロメルトダウン

 

「コ゜ッ」

 

「あっ、あれ?トグロちゃん?おーい、おーい!……固まっちゃった、どうしよ…」

 

 

 突然の不意打ちに、トグロ(アホ)の脳は耐えられなかった。好み過ぎる顔面が、自分に向けて笑顔を振りまいている。

 コイツの脳内は今、『かわいい』に埋め尽くされた。己が消化しきれない程の『かわいい』の氾濫である、『かわいい』の濁流に自我が押し流されているのだ。認識し、理解するよりも早く『かわいい』が脳内に流れ込む賽の河原状態。トグロの脳は、持ち得る全てのリソースを『かわいい』の消化に使い出したのである。

 

 一方、眼の前でトグロがフリーズし、その対応に追われてしまうミカ。彼女も突然の出来事に右往左往していた。

 過去に同様の事が無かった訳ではない。しかし、どれも数拍ないし数秒で我に返っていた。

 それがどうだ、既に数十秒は経過しているではないか。始めはいつもの事かと穏やかに回復を待っていたミカだが、固まったまま動かないアホを前にして、次第に焦り出した。

 

 

「ふん♪ふ~ん♪」

 

 

 その時、一筋の希望がシャーレのカフェに現れた。あまり親しいとは言えない。彼女と私は、会話をする事が少ない。それでも、今は彼女だけが頼りなのだとミカは思わず声を上げる。

 

 

「ユウカちゃん!」

 

「は、はい!?何でしょうかミカさん…トグロ先輩?」

 

 

 ちょうど休憩に入るタイミングだったのだろうか、機嫌良さげに歩いていたユウカを呼び止めたミカ。混乱の最中であるミカの声は、自身が思っていたよりも大きくカフェ内に響き渡り、ユウカを驚かせた。

 しかしそんな事を気にしている余裕は無い。こちらを向き、歩み寄ってくる彼女に何と説明すべきか。ミカはトリニティのティーパーティーの一員である。いや、あったと言うべきか。どちらにせよ影響力のある生徒の1人であり、彼女の置かれている状況的にも、問題を起こすのは非常に不味い立場にある。

 

 何と説明すべきか。ミカが思考を巡らせ答えを出すよりも早く、彼女は固まったアホの姿を見た。

 

 

「え…えっとね、その…トグロちゃんが動かなくなっちゃって…」

 

「そうなんですか?トグロ先輩、起きて下さい。ミカさんが心配してますよ」

 

 

 あまり状況を理解出来ないが、持ち前の善良さと常識的思考によりアホの気付に着手するユウカ。それを不安そうに、しかしどこか安心した様に見つめるミカ。完全に固まり、反応の無いアホ。操作が狂っているのか、さっきからガンガンと壁にぶつかり続けている荷物持ちのロボット。

 この場からは、混沌が滲み出しつつある。

 

 反応を返さないアホを不審に思ったのか、少し集中して観察を試みる。すると、何やら小さくブツブツと呟いているではないか。耳を澄ませて、呟きを拾おうとするユウカ。それに気付き息を殺して静寂を保とうとするミカ。相変わらず壁にぶつかり続ける荷物持ちロボット。

 

 

…いい…かわいい…、か…わいい……

 

「は?」

 

「どうしたの?」

 

「なんか、『かわいい』って言ってます」

 

 

 どうせアホの事だ、今も何かふざけているに違いない。少なくとも、緊急事態ではないとユウカは結論付けた。そして、壁にぶつかり続ける喧しいロボットの電源を切った。

 

 固まったアホを挟み、どうしたものかと思案する2人。緊急事態ではないだろうが、無視する訳にもいかない。

 

 

「ミカさん、まずはトグロ先輩をどかしましょう。えっと…あそこのソファま──」

 

「う、うん!まかせて!よいしょっと、ソファまでだよね」

 

「一緒に……はい、お願いします」

 

 

 普段から人を動かし、自らも動く事が多いユウカはすぐに行動を開始した。そして、まだ少し動揺しているミカはトグロを担いでカフェのソファまで移動した。

 

 

「…すごい、トグロ先輩って結構重たいのに……」

 

 

 その姿を見て、思わず零れ落ちるユウカの本音は、誰にも拾われる事無く消えていった。

 

 アホをソファに座らせて、一段落付いた2人は改めて状況の確認を始める。特にユウカは、まだ何も分かっていないのだから。

 ミカからアホが固まった時の話を聞き、自分が合流するまでを知ったユウカだが、結局の所何も分からないと判断した。

 

 

「ひとまず、先生に相談してみましょう」

 

「それが良いよね。私、呼んでくるよ」

 

 

 幸いにも此処はシャーレである。

 頼りになる大人である先生が近くに居るのだ、この場の責任者でもあるのだから話は通して置くべきだろう。

 

 カフェの出入り口から背を向けて話していた2人が振り返ろうとした瞬間、ポンッと肩を叩かれる衝撃。

 

 

“私がどうかした?”

 

「「きゃあ!」」

 

 

 まさか肩を叩かれるとは思わず。

 まさか誰かがそこに居るとは思わず。

 

 振り向けば見知った親愛なる先生がそこに。いくら先生でも、いきなり背後に現れれば驚くに決まっている。

 

 ミカとユウカは可愛らしい悲鳴を漏らして跳ね上がる。同時に、いつも銃のある場所へ手を伸ばそうとして、銃はガンラックにかけて来た事を思い出して手を止める。

 

 そうと知ってか知らずか、先生はこの場のもう1人へ視線を送る。普段であれば適当な話題を取り出しつつ、会話の輪の中に入れてくれるアホが黙ったまま動かない。何か様子がおかしい。

 

 

“あれ、トグロ?”

 

「トグロ先輩が固まってしまったんです。先生、何か知りませか?」

 

“固ま…え?どう言う事?”

 

 

 それはそう。分からない。

 分かってない人に、訳の分からない理由を聞いたとて、解決する筈がないのだ。

 

 それでも、彼の者は大人であった。生徒達から頼られる無二の先生である。見つからない光明に対しての対応だ、初めての試みだ、先生は途方に暮れた。

 

 

“うん、知ってそうな人に聞こうか”

 

 

 途方に暮れたから何もしない。そんな事が許される道理は存在しない。なので先生は、人を頼る事にしたのである。他人を頼る事が出来るのは、もはや1つの強みですらあるだろう。

 

 この時、先生の脳内には3人の生徒が浮かんでいた。

 

 真っ先に出てきたのはミレニアムのハッカー集団、ヴェリタスの部長である各務チヒロ。彼女なら何とかしてくれるであろうと言う信頼と、倫理道徳を重んじる性格による安心感。なにより、彼女なら問題行動をとらないと言う確信。

 だがしかし、今彼女に連絡を取る事は避けたい。何故なら、彼女は今日この時間、とある企業で仕事をしていると聞いているからだ。邪魔をするのは思う所ではない。

 

 次に、同じくミレニアムのハッk「超天才清楚系病弱美少女ハッカーです。ミレニアムが誇る『全知』の称号を持ち、何処までも続く様な新雪を──…/失礼、この白い問題児である。彼女はトグロの事なら何でも知っていると豪語しており、先日は聞いてもいないアホの個人情報をシャーレで延々と垂れ流していた。

 憐れトグロ。住所氏名は勿論の事、身長や体重スリーサイズに手足の大きさ、好物や最近買った私物に至るまで。プライバシーとは何かを考えさせられる1日だったと、同席していた当番の生徒は語っている。

 

 特に理由は無いが、先生は静かに、連絡する候補から彼女を外した。

 

 故に残るは1人。消去法になってしまったが、考えてみれば妥当な人選かも知れない。前者2人と同様に、そこのアホの幼馴染であり、現状ミレニアムサイエンススクールの生徒会(セミナー)の会長。調月リオである。同じくセミナーのユウカがシャーレに来ており、それでいて今日は仕事にゆとりがあると言っていた。きっと連絡が取れるだろう。

 

 先生はおもむろにユウカへ視線を移し、リオへ連絡を取ってみようと持ちかける。

 

 

「そうですね。リオ会長なら知っているかも知れません」

 

 

 ユウカが端末を取り出して自身の所属する部署のリーダーへ連絡している時、落ち着きを取り戻したミカは役割が無く暇なので、固まっているアホの頬を突いたり頭を撫でてみたり擽ってみたりと、割と好きにしていた。

 

 

『はい、セミナーの調月リオよ。…ユウカ?どうしたのかしら?』

 

「トグロ先輩の事でリオ会長に聞きたい事があるんですけど、今少しお時間いいですか?」

 

『トグロの?構わないわ、聞かせてちょうだい』

 

 

 数コールを経た後、頼りに綱が繋がった。

 ユウカは事前に話す内容を脳内でシュミレートし、スムーズに簡潔に、それでいて確実に相手へ伝わる様な丁寧さでリオへ現状を伝えた。

 

 それを受けたリオは数秒、黙り込むように考えてから言葉を発した。

 

 

『まず結論から言うわ。トグロはこのまま放っておいて大丈夫よ、長くても1時間もすれば正気に戻るわ』

 

「はぁ~…良かった、リオ会長が言うのなら問題ありません。ミカさん、これで安心できますね」

 

「ホントだよ、心配したんだからもう!」

 

“大事じゃなくて良かったよ”

 

 

 各々が一安心だと胸を撫で下ろし、朗らかな雰囲気が流れる。ユウカもミカも、心配かけやがってとアホを突いていた。

 

 

『それで、こうなった理由よね。聖園ミカさん、顔を見せてくれるかしら?』

 

「へ?私?別にいいけど…」

 

 

 不意に他校の生徒会長から名指しされ、しかも顔を見せろと言われたミカの心境は如何に。だが事の発端が自身であると自覚している彼女は、大人しく前へ出る。

 通話はそのままにユウカが端末を操作し、所謂ビデオ通話に切り替える。流石にミレニアムと言うべきか、その端末は現行最新モデルであり、ユウカの為だけの改造が施された一品物であった。

 

 

『フム…なるほど。聖園ミカ、貴女が原因で間違い無さそうね』

 

「…えっと、…」

 

『ああ、悪い方へ考えなくても構わないわよ。そうね…貴女がとても美しい容姿をしていると、むしろ胸を張るべきかしら?』

 

 

 新たに投げ込まれた謎である。

 頭上に、再びクエスチョンマークが顕現し始める。3人がよく分からないと顔を見合わせている中でも、リオは気にせず言葉を続ける。

 

 

『簡単に言えば…貴女が可愛かったから、トグロの脳がそれを受け止めきれずにフリーズしてるのよ。たしか昔ヒマリが……そう、思い出した。『Toguro Meltdown(トグロメルトダウン)』と呼んでいたわ』

 

“ブフッ…”

 

 

 泥酔して路上で眠りこける人の姿を連想した先生は、思わず吹き出した。ユウカは何となくアホの脳が溶けたんだなと解釈し、ミカはよく分からないなりに言葉の響きから意味を受け取った。

 

 そんな様子を他所に、リオまだまだ話を続ける。

 

 

『それにしても…確かに整った容姿をしているわね、トグロがあれだけ話すのも理解出来るわ』

 

「トグロちゃんが?何て言ってたの?」

 

『トリニティにとんでもない美少女が居たと聞いているわ。トグロがトリニティに足を運ぶようになってすぐだったから……多分、4年前くらいからかしら?』

 

 

 突如明かされる事実。

 このアホ、結構前からミカを知っていた。

 

 つい最近まで、顔が好みだと言われて、自分の事は二の次だと思っていたミカ。本人に聞いてみれば顔だけなら会いに来ないとのたまう。確かに嬉しかったが、アホの性格的にその場だけの戯れ言だろうという疑念が晴らせなかったのだ。

 

 その言葉が、第三者によって事実だと知った彼女は

 

 

「へ、へぇ~…そうなんだ〜…そうだったんだぁ……」

 

 

 普通に照れていた。

 

 何せ今まで自分に言われていた、『かわいい』だと『綺麗』だの『好き』だの全ての言葉が、本当にそのままの意味である可能性が高いと気付いてしまったのだ。

 

 何も知らない馬鹿だから『かわいい』

 

 自分では手を汚さないから『綺麗』

 

 能力がなくて扱いやすいから『好き』

 

 染み付いた癖のように、言葉の裏を見ようとしていたのが馬鹿らしく思えて仕方がない。悪意を持っていたのは自分自身ではないか。

 トグロの事を、本当に信じても良いのかも知れない。そう思えばなんだか気恥ずかしくなってきた。アレ?私、今までトグロちゃんに何て言った?とか考え出して止まらない。

 

 

『トグロの後ろにある荷物、多分貴女達の物よ。食べ物だろうから、食べながら待つことをオススメするわ。起きるまで、まだ掛かりそうだもの』

 

「そうなんですか。では遠慮なく」

 

“わーい!”

 

「えっ、いいのかな…?」

 

 

 比較的アホの扱いに慣れているユウカと、餌付けでもされているのかと思う先生の2人で容赦なくアホの荷物をひけらかしていく。するとリオの言った通り、綺麗にラッピングされ各人宛に付箋が貼られた何か発見。自分の名前が書いてあるのなら、それは自分の物だよね。と言う理論を展開したユウカが包装を剥がすと、中には美味しそうなフルーツタルトが。

 

 

「……私のもあるかなー?」

 

 

 やらかした事は数あれど、生まれも育ちもお嬢様のミカである。いや、それはお嬢様とか関係ないだろう。他人の荷物を、許可も無く勝手に漁るとは何たる事か。ミカの良心は悲鳴を上げている。が、好奇心には勝てなかった様だ。

 

 アホの荷物の中には同じ様な包みがいくつかあり、その中には先生とミカ宛の物もあった。

 

 この場はシャーレのカフェスペースである。

 主に休憩スペースとして使用されている。飲み物は勿論、意外にも取り揃えられている食品自販機。何処ぞの天才が熱を上げて開発し、何処ぞの美食家が味に難癖を付けた末に完成した、無駄に美しく、無駄に美味しく、無駄に種類豊富な自販機が並んでいる。

 そんな無駄に高性能な自販機をスルーした先生は、3人分の飲み物を用意してテーブルに並べ始めた。もう完全に寛ぐつもりなのだろう。

 

 

“いただきまーす”

 

 

 あれよあれよと整っていくティータイム。主に先生のゴリ押しにより、ユウカとミカも席についてタルトを食べている。

 

 

「ん!美味しい!これ、何処のお店の物でしょうか」

 

“トグロの事だからトリニティのかな?”

 

『トグロの手作りよ』

 

 

 まだ通話が繋がっていたのか!?

 驚く3人。切り忘れていただけである。

 

 それより、アホの手作りだと?嘘を吐かないでくれ、どう見ても素人のクオリティではないだろう。

 

 

『器用なのよ、トグロは』

 

「「“あぁ~”」」

 

 

 それだけで伝わるアホのイメージ。

 その姿が想像出来てしまうくらいには、否定する事ができない。むしろ納得の方が強い。

 アイツなら、大抵の事は出来そうだしやれるだろうの印象が強過ぎるのだ。エプロン姿など似合いそうもないのに、想像したら妙にしっくりくる。そんな印象がないくせに、何故か出来て当たり前だと思ってしまう自分が嫌だ。

 

 絶妙に乙女心を刺激され、絶妙な敗北感を味わった2人は、後日お菓子作りに精を出すことになる。

 

 

「トグロメルトダウン」

 

“プフッ…止めてよミカ、フフ”

 

 

 何かがツボに嵌まった先生は、今日1日からかわれる事が確定した。ユウカは何が面白かったのか分からない様だ。多分それでいい。

 

 

 こうしてアホ(トグロ)が目を覚ますまで、まったりゆったりした時間が流れる事になったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 




小話のモチベーションが下がっています。
そんな時もあるよね。読み直したら満足しちゃったり、面白くなかったり、途中で飽きちゃったり。

多分、もう数話で更新しなくなるかも?
一応、数話の書きかけがあるのでそれらだけは書き上げるつもりです。

なんも思い付かないから、参考までに……

  • トグロだけの小話
  • 本家イベント
  • オリジナルイベント
  • 先生視点
  • 別キャラ視点
  • よく名前の上がるキャラとの小話
  • その他
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