どうせなら、笑っていようぜ。 作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ
良い子の皆さん、こんにちは。
私です。誰もが振り返る様な美しさを持ち、決して届く事の無い頂にて静かに咲く一輪の花。澄み渡る清涼を体現する麗女にして、移ろい色付く大自然さえも羨む程の豊かな心根の淑女にして、静謐を呼ぶ深雪ですら感嘆の声を上げる神秘を携えた眉目秀麗な乙女であるこの私、超天才清楚系病弱美少女ハッカーの明星ヒマリです。
ふふふ、1度やってみたかったのです。この語り部と言うモノを。
普段はトグロが主体で話していますからね。たまに先生が行う事もありますが、やはりここではトグロがメインなのはかわりありません。
ああ、ご心配なく。
今話している私は、あくまでも語り部を行うための存在であり、描写する人物は勿論のこと、そこでの私とも一切の関わりを持つことはありません。
え?そんなメタ的な話しをしても良いのか…と。結論からお話しますと、ダメではありませんが良くもありません。後で怒られてしまうかもしれませんね。
それはさておき。
今回は私、初春の芽吹きの様に清々しく、汚れ無き雪解け水の様に透き通る、壮麗かつミステリアスな乙女にして、運命さえも紐解き解明してみせる、ミレニアムが誇る『全知』の学位を持つ頭脳明晰なこの私、明星ヒマリが語り部を努めます。
本日、私達…私とは言っても、語り部の私ではありませんよ?先程もちらりと言いましたが、話の中の私です。良いですか?
それで私達ですが、シャーレに来ていました。
もう少し具体的に言いましょう。私は当番に、チーちゃんはトグロに呼ばれて、一緒にシャーレに来ました。珍しくトグロが当番だと聞いていたので、どうやって誂おうかと少し浮かれていたのですが…そこにいたのは、まるで下水の如く濁った性根を持つ女、調月リオでした。
“おはよう、二人とも。今日はよろしくね”
「おはよう、先生。…リオが居るのは珍しいね」
「そうね。正直、私もそう思っているわ」
いけません。出遅れました!
リオが居た驚きに押され、チーちゃんに先を越されてしまいました。
ここで流されては『全知』の名折れ、私は歌うように言葉を並べていきます。
「まあまあ、それでしたら帰れば良いのでは?小賢しい貴女の事ですし、要件はもう済んでいるのでしょう。お帰りはあちらからどうぞ、不安なのでしたら、この私が直々に案内して差し上げますが?」
“ちょっ、ヒマリ!”
「あら先生、おはようございます。申し訳ありませんが、少々お待ち下さい。今汚れを落としてしまいますので」
「トグロの代わりに当番に来たのよ。だから帰るのは仕事の後ね、ヒマリも遊んでないで作業に取り掛かりなさい」
なっ、この女ァ…
言うに事欠いて遊んでるですって?この超天才病弱清楚系美少女ハッカーであるこの私が、まるで普段からサボタージュを繰り返しているかの様な言い草。許せません。
が、しかし。
私は海よりも深く、大空よりも広い心で受け入れて差し上げましょう。この場には先生も居りますし、あまり迷惑を掛ける訳にはいきませんからね。
………んぇ、トグロの代わり?
「リオ、トグロは今日来ないのですか?」
「あれ、リオもなの?私もトグロに呼ばれたんだけど…」
「それならさっき連絡があったわ。どっちも忙しいだろうから、念の為2人に頼んだって。まあ結果的に、私もチヒロも来たのだけれど」
「…あ、ホントだ。気付かなかった。まあいいか、作業を始めよう」
「その事なのだけど…チヒロ、仕事を教えてくれるかしら?」
「うん、いいよ。そういう訳だから、先生とヒマリはいつも通りで。私はリオと一緒に仕事してるから」
あれよあれよと整っていく作業指示。
流石はチーちゃんです。すぐに状況を理解して、最適な配置に振り分けていきます。勿論、私でも出来ます。当然ですとも、何せ私の頭脳はスーパーコンピューターすらも凌駕する程の超優秀な奇跡の賜物、日々進化して上がり続ける私と言う存在の価値。もはやキヴォトスにおける至宝とは、私の事であると言っても過言ではありません。
それで私ですが、私はトグロに連絡を取っていました。
だって、楽しみに…──いえ、私ではありませんよ?私と一緒に居られるのですから、トグロはきっとそれを楽しみしていたハズ。なので来られない理由を聞いておこうと思ったのです。私が、トグロと一緒にシャーレに来るのを期待していた?面白い冗談ですね、期待していたのはトグロに違いありません。
曰く、急用。とのことでした。
まあトグロの事ですからね、何か問題が起き、それに巻き込まれたか首を突っ込んだのでしょう。どうせ数日以内には帰って来るので、心配はしていません。少し居場所を特定しただけです。なぜゲヘナの、火山に居るのでしょう……?謎ですが、多分思い付きですね。考えるだけ無駄です。一応、救急用のドローンを数体送って置きましたが、決して私が心配している訳ではありません。
“いや~それにしても…”
「どうかしたの?」
“あぁいやね、今日は凄いメンバーが集まってるなと思って”
「うん…まあ、確かに。2人とも影響力あるからね」
“それもそうだけど、チヒロもその1人だよ?”
「ふふ、ありがと」
あっ!私がトグロの事を考えていたら、チーちゃんと先生が良い感じに喋ってます!おのれトグロ…許しません……
それと、リオは何をしているのですか?
「チヒロ、先生。確認を頼めるかしら?一応貰った分は終わらせたわ」
“ありがとう。助かるよ”
「……うん、問題ないかな。ミレニアムとは書式が違うから、もっと手間取ると思ったけど、さすがだね」
「慣れてるだけよ。それで、次は何をすれば良いのかしら?」
“それなら、こっちの書類を──……”
なんか馴染んでいますね…まあ書類仕事はあの女の得意とする所、この程度は苦も無くこなす事は知っています。これでも私は、あの女の能力だけは認めているのですよ。私には及ばないにしても、それに追随できる程度には認めています。
それから数刻、お昼休憩に入る前。
“お、終わっちゃった……!”
「ふふん。この私が手伝ったのですから、当然の事です」
見くびってもらっては困ります。何せ私は超天才なのですから、この程度造作も無いことなのです。たしかにずっとお話をしていましたが、手を、頭を動かしていない訳ではありません。
「媒体は違っても、データ処理に自信がある人が集まってるからね。ふんぞり返ってるヒマリも、ちゃんとやればちゃんと出来るし」
「そうね、私もヒマリを遊ばせておくのは勿体ないと思っているのだけど……」
「なんです?言いたい事があるのならハッキリとどうぞ」
「はぁ…これだからね。ほら、その辺にしときなよ」
“あはは…たしかに”
なんですか、リオ。言いたい事があるのなら言えば良いのですよ?それを聞くかは兎も角として、言い淀む様な後ろめたい気持ちでもあるのですか?どうせまだ、下らない企みでもしているのでしょうね。
チヒロも、これってなんです?これって、失礼じゃないですか?私に。
先生も先生で何を納得しているのですか!?
失礼じゃないですか?
私に。
「コホン…ま、まあいいでしょう。私は心が広いので聞き流して差し上げます。先生、こうして早く作業が終わった訳ですが…本日、他のご予定はないのですか?」
“うーん…緊急なものも無いし、今日はもう無いかな?と言うか、たまには早く終わりたい”
「じゃあ、先生さえ良ければ、一緒にお昼ご飯食べに行かない?最近、この辺で気になってるお店があるんだよね」
チーちゃんの誘いで、みんなでご飯に行くことになりました。予約は取れたそうなので、もう少し時間を潰してから行きましょう。
というのも、少し時間を遅らせて、ゆっくりご飯を食べたいと言われたからですね。チーちゃんは昔からそういう所があります。時間ギリギリで余裕が無い、なんて事になるよりは良いとは思いますが、結構ゆったりとした時間を生きています。
…その割には、いつも忙しそうにしていますが。言ってくれれば手伝いぐらいならしてあげますよ?
それからは時間まで、取り留めのない話しをしたり、みんな揃ってゲームを嗜んでいたので適当に起動させて遊んでみたりと、久しぶりに『何もしない』というような生産性のない時間を過ごしました。
たまには、こういう時間も悪くないですね。
お昼ご飯を食べ終えて、4人でシャーレに戻って来ました。
さて、ここからが私の話したい事。
わざわざ私が語り部を努めようとした理由です。
“すごく今さらな気もするんだけど、みんなに聞きたい事があるんだよね”
そう言って、先生が話しを切り出したのです。
その声は割と真剣味を帯びていましたが、目は楽しげに笑っていました。
ふふっ…私程にもなると、それだけで話しの内容が予想できてしまうもの。ここは一つ、先に言って驚か──
「トグロの事でしょ?この前の当番の日に、話しをはぐらかされでもした?」
“その通り!なんにも聞けなかったんだよね……”
「もう!チヒロなんて知りませんからね!」
「え、なに?」
許すまじトグロ…これは事件ですよ、許せません。帰ってきたらお説教をしなくてはいけません。手始めに、トグロの持っている端末のパスワードを全て変更しておきましょう。
あ、そうです!
良いことを思い付きました。
「ふふっ、トグロの恥ずかしいエピソードを、私とチーちゃん…業腹ですが、そこのリオも。長くトグロと付き合っているだけに多く知っています。次に合う時、世にも珍しいトグロの恥ずかしがる姿が見られますが……聞いていかれますか?」
“本来は大人として、先生として聞くべきではないんだろうけど……是非とも聞かせてほしいな!”
「そう来ると思っていました、流石は先生です。それではトップバッターは私から。…これはトグロの失敗エピソードの1つ、初めて銃を改造した時の事です───」
懐かしい話しです。
今でこそ多趣味多芸を売りにしているトグロですが、昔はてんでダメダメな不器用で弱々しいお子様だったのです。そのくせに人の心配ばかりで、いつも怪我をして帰ってくるのですから筋金入りのお人好しなのですよ。
それでトグロが初めて銃を改造する時、絶対に暴発しない、盾にしても壊れない銃を目指したのですが……ふふ…すみません、少し思い出し笑いが…ふふっ
銃自体は完成したのです。まあ勿論、素人の初心者で、材質も良いとは言えない物を使っていましたから、完成度はお察し下さい。それでも完成はしたんですよ。
試射をしようとした時、ある物が付いていなかったのですが、それが何かお分かりになりますか?
引き金?安全装置?いいえ、違います。
正解は、弾倉です。詳しく言えば、装填する為の機構そのものがついていませんでした。
完成したと見せに来たトグロに指摘した時、膝をついて項垂れていた姿を良く覚えています。可愛らしい失敗談でした。
“意外な失敗をしてるね”
「昔はかなり、おっちょこちょいだったんですよ。こちら、その実物になります」
“持ってきてたの…?”
「はい。この話をする為に、わざわざ探して持って来たのですよ。トグロに、懐かしい羞恥を思い出して貰おうと思いまして」
この手の玩具は沢山持っています。いつか誂おうと思い、大切に保管しているのです。せっかく、今日はその絶好の機会だと思っていたのに……やはり許せませんね、あることないことを先生に吹き込んでおきましょう。
「次は貴女ですよ、リオ。面白みのない貴女に、話せるだけのネタがあるのか見ものですね」
「あまり否定出来ないわね…面白いかどうかは、個人の判断に任せるわ。それじゃあ、私は最近の話しをしようかしら。これはこの前、トグロがセミナーで昼寝をしていた時、周り全ての時計を半日進めてイタズラした話しなのだけれど───」
ふふっ、んふふふ……っ…ずるくないですか?ズルですよ、リオ貴女、そんなイタズラするタイプではないでしょうに…しかも普通に面白い事をしでかしてるじゃないですか!
見て下さい。チーちゃんなんて笑いすぎて過呼吸になってますよ。
「その、ちょっと魔が差したのよ……」
「んんっ!ふふっ、ちょ、止めてよ…ん、ケホッケホ…!」
「楽しんでもらえてる様で良かったわ」
“そ、それで?じゃあ今もトグロはもしかして…?”
「流石にそれは無いわ。でも、しばらくはそのままだったわね」
“あっはははははは!”
なるほど、だからあの日は……いえ、リオ貴女、本当に何をしているのですか、そんなイタズラするタイプでしたっけ?まぁ別に構いませんけどね、私の方が総合的に凄いので。『全知』なので。
そして次はチーちゃんの番ですよ。
「これ以上の面白話はちょっと自信無いかな…だから代わりに、今日トグロに会えたらやろうと思ってたイタズラでも教えようかな。多分、かなり可愛いトグロが見れると思うんだよね」
“可愛いトグロ…気になるね”
「「トグロは可愛い
……まさか、こんな事で意見が一致するとは…不覚。これもそれもトグロがいけないのです。許す事など、出来るはずもありません。ギルティ、有罪ですよ。
「………、まあ良いでしょう。それで、何をするつもりなんですか?」
「簡単だよ。トグロに水着だって言って、普通に下着でも渡してみようかと思ってる。ちょうどこの前、一緒にどっちも買ってきたんだよね」
「聞いてませんが!?」
「言ってないし」
ズルいですよ。何故誘ってくれなかったんですか!
やはりトグロには罪を与えるべきですね、これは天罰です。
今、靴の中に小石が入り込む呪いを掛けました。
それにしても、割とえげつない事しますね。
トグロ、それは普通に恥ずかしがりますよ?
チーちゃんはそう言うと、持ってきていた荷物から小さな包みを取り出して先生に渡していました。
えっ、持ってきていたのですか。
まさか先生のいる前でそれをしようと…?
良いですね、全力で困らせてやりましょう!
“えぇ…う~ん、でもなぁ…”
「何を唸っているのですか、先生。ご安心ください、この程度のイタズラで、トグロは怒りませんよ」
“そうじゃない……!そうじゃないんだけど、んん~”
「そうそう。日頃振り回されてるんだから、これくらいはやり返さないとね」
「取り敢えず、シャーレにカメラを設置しておけば良いわよね?」
「ちゃんとダミーを混ぜるんですよ?トグロは無駄に鋭いんですから」
「分かっているわ、本命は別よ」
ここまでくればもはや、先生の意志は関係ありません。そもそも何に悩んでいるのやら。トグロならこれくらいしても問題ないと言うのに…
あと気になったのでトグロに渡す水着を見せてもらいました。面白みのない普通のビキニでした。そりゃあ下着と入れ替えるのですから、似ている物になりますよね。ガッカリです。
こんなのに気付かないのか?ですか…ふむ、いい質問です。
トグロは、多分気付きません。なぜならトグロは私達を疑わないからです。水着だといって渡せば、なんかちょっと変わってるな~ぐらいで普通に着ます。そして、間違いなくそれを見せに来ます。
「それじゃ、イタズラする日を決めよう。次にトグロがシャーレに来る日は……っと、ちょっと先か」
“来週、チヒロが当番の日に呼ぶのは?”
「いいね、そうしよう。でも全員揃ってると流石に怪しむかな、2人には撮影したデータを送るって事でいい?」
「構いませんよ」
「私もそれで構わないわ」
こうして、トグロへの日頃の仕返し計画は立てられました。
それと、先生はここ数日まともに眠れていないそうなので、早めに解散して休んでいただく事にしました。働き詰めは良くありませんからね、適度な休息は、効率を上げるのですよ?
なんですか?仕事を増やしている?私が?
ちょっとなに言ってるのか分かりませんね、多分トグロが悪いんですよ。
一方その頃、トグロは溶岩のサンプルを採取していた。どこかの某便利屋4人と一緒に、灼熱の中働いていた。
そして、めっちゃ熱い小石が靴に入って、足の裏に軽い火傷を負ったらしい。
なんも思い付かないから、参考までに……
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