どうせなら、笑っていようぜ。 作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ
パヴァーヌが始まるちょっと前の話です。
ホントはもっと早く書くつもりで、ネタだけはあったんです。まったく筆が進まないし、かなり短くなっちゃった。
でも結構満足してます。
良い子のみんな、こんにちは。
ワタシだ、赤蛇トグロだ。
今日はね、ゲヘナの端っこにある病院…個人経営の診療所に来てるぜ。名前は
大きめの一軒家って感じで、特に看板とかも出てないから、知らなきゃ誰も来ない外観をしてる。
ちなみに、もっと分かりにくい裏口から入ると、小さい喫茶店になってて5人掛けのカウンター席がある。
診療所の医者が、趣味で喫茶店やってるって感じだな。
まぁヤブでも闇でもないが、患者が軽症だとそいつ放り出して喫茶店でコーヒー淹れてるタイプの不良医ではある。
そんでもって何より重要なんだが、そのクソ医者が、ワタシにとってはマジもんの恩人であるってコトだな。
恩人ガチャに失敗したと言ってもいい。
「あ、
「機翼のメンテ。どうせ簡単にしかしてないだろ」
「もうそんな経ったか…時の流れは恐ろしいねぇっとホイ」
「投げんな、丈夫でも精密機器だぞ。ん、結構使い込んでんな…戦闘でもあったか?」
「慰謝料と治療費をふんだくってやったわ」
肩甲骨辺りに背負ってる機械の翼を外して、投げ渡された。この程度で壊れる構造はしてないが、結構な精密機器だから止めてほしい。
動くには動くが、いい機会だしバラして調整するか。
「ちょっと時間取るがイイか?」
「え、ダメ。私のトレードマークだもん」
「キッツ…いい歳して『だもん』とか言ってんじゃねぇよ」
「は?ぶっ飛ばすぞクソガキ、医療ミスすんぞ」
「なんつー脅しだ、クソ医者が。仮にもトリニティ出身の元お嬢様じゃねぇのかよババア」
「フッ…大人ってのはね、知らず知らずに汚れていくもんなのさ……」
そんなのをヨソに勝手に机の上でバラして部品を並べる。どうせ
手元を横から覗き見られながらの作業だが、こんな環境にはもう慣れた。一言二言の会話を続けながらさっさと終わらせる。
オーバーホール込みで、だいたい3時間くらいか。問題ないな。
「ん、オーケーオーケー。おーい!終わったぞー!」
「今行くから待ってな」
さっきまで隣りに居たのに、知らん間におらんくなってたわ。多分、奥で仕事してたんだろうな。
白衣をその辺に放り投げながらやって来て、そのまま機翼を持ち上げた。まあまあ重いんだけど、コレ。慣れた手付きで背負って固定してる。
この人、昔事故って翼を失くしてるんだよ。今でも背中にデカイ傷跡が残ってる。失くす前の写真をみせてもらった事あるんだけど、赤茶色で大きい、モッフモフな翼だった。そして、この人救護騎士団の制服着てた。なんでも、当時は副団長だったらしいぜ?
で、失くしてからはずっと羽無しで生活してたんだとさ。
「ん〜コレコレ!実に馴染む!」
「そりゃあ良かった」
さてと。
要件も済んだし、顔も見れた。
そろそろ帰るか。
「待ちなさい」
と思ったら、呼び止められた。
まぁ…はい、うん。
大人しくしよう。
「ほら言ってみな、何を悩んでるんだい?だから来たんでしょう」
「…ごめん、言いたくない……」
「はぁ…あんたって子はまったく…じゃあ聞かないよ。いいね?」
来るべきじゃあなかったかなぁ…
顔見るまではすぐに帰る気だったんだけどさ、なんていうかこう…足が動かなくなっちゃってさ。
しょうがないじゃん、この人は特別なんだ。ちゃんとワタシを見てくれる人なんだよ、無条件で甘えられる人なんだよ。
まぁ…ね、だからと言ってソレに甘えるつもりもないけどな。ワタシにとっては特別だが、この人にとってはそうじゃないだろうし。
「話す気無いんならそれでいい。…はぁ、そこ座ってな」
待合室のソファに座らされて、…え、放置?
いやまぁなんも言うつもりがないんだし、どうしようもないのは分かる。少し休ませてもらおう。実際、けっこう疲れてるからな。
「うわクッサ!室内でタバコ吸うんじゃねぇ」
「いいんだよ、私の店だからねぇ」
「医者の不摂生だ」
「違うね。医者だから不摂生が許されるのさ」
ケムリを引き連れて戻って来たわ。
この人のせいでタバコの匂いに慣れちまったよ、売ってる場所も買い方も全部教えられた。そしてワタシには吸うなって言うんだからワケ分かんねぇよ、お酒も同じだ。この人、酒もタバコも必要なタイプの大人だから。
コーヒー淹れてきたのか。
どうやってんのか知らんが、この人が淹れるコーヒーはめっちゃ不味いんだよなぁ…
紅茶はちゃんと美味しいのに、コーヒーは不味いとか呪われてんだろ。なのにコーヒー党って、可哀想に…
「お前達には言った事があるよな。悩んだら、目の前の選択肢が気に食わなかったらどうするかってのを」
「あぁ〜うん、アンタの口グセだもんな」
「お前が納得してるならそれでいい。…改めて言おう。お前みたいな奴はな、何をしても、どうしたって後悔して思い残して未練を引っさげて行く筈だ」
何度も聞かされてるんだ。
この人のこのスタンスに救われたワケで、コレに引っ張られてワタシは生きてると言ってもいい。
「クソったれなこの世界。
どうせなら、笑ってねぇと勿体ないだろう?」
「何回聞かされたと思ってんだ、もう忘れられねえよ」
コレ、聞かされすぎて染み付いちまった。
もはやワタシの座右の銘にもなってるぞ、かんべんしてくれよ。マジでガキの頃から聞かされてるんだ、コレを知らなきゃもっとマシな人間になれたかもしれねぇのに。
「何度でも聞きな。我儘を通せる程強くないんだからねぇ」
「チッ…」
一言多いな。
でも事実だからなんも言えねぇ。
あと、ケムリをコッチに向かって吐くのヤメロ。
「それで、あんた死ぬ気じゃないだろうね?」
「死にたくは、ねぇな」
そりゃあ死にたくはない。当然だ、ワタシにだって、まだやりたいコトは沢山残ってる。何もかもが途中のままで終わりたくないないさ。
でも、どうしてもソレが必要なら、どうしても避けられないのなら、そこで終わらせる覚悟はしてる。
ワタシにとって、コレは人生を賭けるに価する挑戦だと思ってるからな。
「……だったらいいさ。怪我したら金持って家に来な、指差して笑ってやるよ」
「あぁ…そうなったら、頼むわ。………ありがと」
「ヒハハッ!よしよし、休みたくなったらいつでも来い。ウチは基本的に開けてあるからな」
久しぶりに、誰かに励まされた気がするな。
ワタシも大人になれば、大人になれるんだろうか…?
この人の在り方は、決して万人にウケるモノじゃない。本人が好かれようとしてないってのもある。でもこの在り方が、ワタシにはすげぇ心地良かったんだ。分かりやすく雑な扱いで、それでもちゃんと見てくれてるのが嬉しかった。
知っていても、感付いていても。
何も言わず、無理に聞かない優しさに、今も昔もワタシは救われている。
「そろそろ帰るわ。じゃあな、ノヅチさん」
「ああ、
もう大丈夫だ。
もともと覚悟自体は決まってたから。
ここで何を言われても行動は変わらないだろう。
別に応援されたワケでもなく、説教されたワケでも、背中を押されても、止められたワケでもない。
けど確かに、助けてもらったよ。
ワタシは充分に救われた。
だから、もらった分を配りに行こう。
ワタシなんかよりもずっと、救いが必要なヤツに。
いちおう、タイトルを回収する話でした。
ですが、どちらかと言えばトグロは『クソったれな世界』の方のフレーズをよく使いますね。
理由は一応あるんですが、それはそのうち…書けたら書きます。
なんも思い付かないから、参考までに……
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