どうせなら、笑っていようぜ。 作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ
アンケート、完全に忘れてました。
前話と同じく、読まなくていいヤツです。
一応時系列的には、46話の「まさか、そんな事が……!」の辺りです。
「さて先生、言いたい事は分かっています。ですが、それを話す前にいくつか確認をしたいのです」
トキに呼ばれてトグロの工房に行き、ちっちゃいトグロに驚き、あまりにも普段と違う様子に混乱していたら、そのちっちゃいトグロがアリスとケイに攫われ、私は謎と心配を残したままシャーレに戻って来た。
そして私を出迎えたのは、先に帰った筈のヒマリ。それもいつにもまして真剣な様子でこちらを伺っていた。
いつの間にシャーレに来ていたのか。なんて聞ける雰囲気でもないけれど、確かにヒマリの言う通り聞きたい事がある。正直、どうやって聞けば良いのか、そもそも私が聞いても良いのか分からなくて困っていた所だ。聞いても良いのなら、是非とも聞いておきたい。
“そうだね。聞かせてほしいな”
「かしこまりました。ですがコレを聞いた後、トグロへの態度を変えないと約束してください」
“約束するよ。他にはあるかな?”
「ありがとうございます。コレだけですよ。ええ、本当にコレだけですとも。…まあ、これだけの前置きをしているのですから、お察しの事かと思いますが、これから話す内容は決して楽しいモノではありません。むしろ気分を悪くする事でしょう。しかしどれも過ぎた事、終わった事。トグロはそれらを既に清算していますし、私はそれに協力しました。なので、どうか過去の事と割り切っていただきたいのです」
それは普段の悪戯好きで愉快なヒマリではなく、大切な物を守ろうとする強い人の言葉。自分ではないモノの為に戦う人の意志を持った目が、私を射抜いていた。
「…コホン。では『赤蛇トグロ』とは何者か、と言う所から話しましょう。一言で言い表すのであれば、過去の無い人。或いは先を望む人。作り上げられた仮初の人格を纏う者の事です」
“過去の、無い人?”
「始まりがあり、今がある事のだから過去がある。それは事実ですので否定は出来ません。ですが『赤蛇トグロ』は初等教育一年生、その入学式の直前に生まれ、それ以前の経歴は存在しないのです。両親も、誕生日も、過ごした場所も、帰るべき家も無い
やや抽象的な表現で語られるトグロの話。
過去が無い人。失ったのだろうか。奪われたのだろうか。なんにせよ、既に気分の良い内容ではないのは確かだ。
“……記憶、喪失…とか?”
安易に浮かんだ回答。
先の約束からして、これであれば良いな。そんな願望はあえなく切って捨てられた。
「いいえ。私としても、そうであってほしかったのですが…生憎、記憶の方は万全です」
“そっか…理由を聞いても?”
「勿論、その為に話しているのですから当然です。いい加減、私1人で抱えるに大き過ぎるのですよ、そろそろ誰かと共有したいと思っていた所です」
少しだけ、いつもの調子が戻って来たヒマリは小さく笑い、視線を宙に彷徨わせて記憶を探るように語りだした。
「それでは『赤蛇トグロ』を語るには外せない、もう1つの名前である『四棘メア』。それについてをお教えするのですが、少々注意点があります。一応、本人から聞き出した内容を元に話すのですが…あまり詳しくは教えてくれなかったので、一部私が独自に調査をして導き出した考察を交えています。まぁほぼ間違いないであろうレベルではありますが、それでもトグロに確認を取っていない以上はあくまでも考察に過ぎない事をご了承ください」
“うん、分かったよ”
「ありがとうございます。では先ずは『四棘メア』が産まれた環境ですが、所謂親ガチャ失敗と言うやつです。最低限死なない程度の世話をしていた様ですが、その内容は虐待と言って間違いありません。産まれてすぐの赤子にも関わらず食事は数日に一度、与える食事も大人用の物をそのまま適当に与えるだけ。それ以外で赤子の下へ向かう理由は暴力を振るう為、そんな状況でおよそ1年、トグロは生き抜きました」
私自身に子育ての経験は無いけれど、食べて泣いて寝るのが仕事だとはよく聞かされている。それこそ3時間おきだとか、親の寝る時間がないだとかの話だって知っている。
私の想像以上に環境が悪かった事に驚いた。
コレだけで話が終わってくれたら良かったのかも知れない。でもそうではないのだろう。なにせ、『先ずは』で始まった話なのだから。
「そのクソ親は、とうとう子供を手放しました。育てきれないと保護施設等に預けるのであればまだ良かったのですが、あろう事かそのクソ親は、子供をお金に替えたのです。今で言うブラックマーケットの更に深い場所、自身の経歴に傷が付くことを嫌ったのでしょうね、そこなら記録に残りませんから。その日から、文字通り『物』として扱われる日々が始まりました。」
“待って、その日からって…まだ赤ちゃんだよね?”
「えぇ、まだ生後1年の赤ちゃんです。それも栄養状態が良いとは言えない状況ですね。まぁ、せっかく買った商品がすぐに壊れてしまうのは勿体ないと思ったのでしょう。しばらくは丁寧に扱われていた様でした。この辺りはかなり詳細に記録が残っていましたので、話す内容に間違いは無いと思います」
あまり調べたくは無いけど、他にも同じ様な目に遭った子が居ないかを確認しておかないといけない。
私のやる事リストの最重要項目に、人身売買の撲滅を入れた。
「流石に、まだ幼すぎる子供に、過酷な仕事は与えられない。なんて都合の良い事はありせんでした。1人で歩ける程度に成長し体調が安定してすぐに待っていたのは、人の悪意と暴力でした。都合の悪い事に、最初にトグロを買った客が払った金額は、コレまでに掛けた金額を上回ってしまったのです。言ってしまえば用済みです。元が取れてしまったのですから」
ここで話を区切ったヒマリは、静かに呼吸を整える。
きっと、どこまで話すべきかを悩んでいるのだろう。いつもトグロに遠慮なくプライバシーを垂れ流しているけれど、超えてはいけないラインはしっかりと見極めている。多分、それ以上いかないように垂れ流しているのかもしれない。
「それからさらに3年間ほど使われていたのですが…流石に耐えきれなかった様で、トグロは逃げ出しました。幸いにも上手く抜け出したらしく、遥々ミレニアム自治区にやってきたのですが、運の悪い事に銃撃戦に巻き込まれてしまったのです。その後担ぎ込まれた病院で検査した所、銃痕だけでなく全身に酷い痣や火傷、骨折。内臓に至っては傷付いていない場所が見当たらないと聞いているだけで痛みが伝わる最悪のオンパレード。緊急入院です。…さて、私の居る病院に同年代の子がやってきたらしいので見に行きましょうか。そんなノリで私はトグロと出会ったのですが、その話は置いておきましょう」
“そんな事が…”
「当時のトグロは…その、かなり闇の深い少女でして、私がなんとかしなくては!とアレコレ世話を焼いていたのです。その1つがトグロと一緒に考えた『赤蛇トグロ』と言う新しい名前なのです」
“…そっか……”
「先生、まだ終わっていませんよ?」
辛過ぎる『四棘メア』と重過ぎる『赤蛇トグロ』の話を、なんとか消化しようと深呼吸をしていたら、ヒマリが信じられない事言い放った。
“…うそ、でしょ……?”
まだあるの?
もう聞きたくないんだけど…次トグロに会う時、いつも通りの態度で居られる自信がないんだけど…
「一区切り、と言う意味ではいいタイミングでした。実際、8年ほどは何も起こらなかった訳ですから。名前の変更には私も関わっておりましたし、『四棘メア』と『赤蛇トグロ』が情報として繋がらない様に細工をしたので、油断していました」
初めにヒマリが言っていた初等教育一年、これが私の知る小学生だと考えると、再びトグロに何かがあったのが8年後、中学生だろうか。こうやって聞くとかなり最近の出来事に思えて心配が勝る。
「その頃にはチーちゃんも、…リオも居ましたし、トグロはウタハと一緒にロボットを作っていた時期ですね。それで、何があったかと言いますと…トグロが誘拐されたのです。コレを知っているのは、おそらく私とその後の処置をしたお医者さんだけのハズです」
“誘拐って…あのトグロが?”
「……戦う様になったのは、これがきっかけでしたから…」
トグロが誘拐されるって、まだ小さいならともかく、最近のトグロならわざと捕まったとしか思えないんだよね…
そんな気持ちがうっかり口から溢れた私を、全力で殴り飛ばしてやりたい。ヒマリが、本当に辛そうな顔をして教えてくれたから。何かを思い出しているのか、強く握り締めた拳が震えている。
数秒ほど経てば、落ち着きを取り戻したヒマリが言葉を続けてくれる。そうだよね、ただ聞いているだけの私なんかよりも、トグロ本人は勿論、トグロを大切に思っているヒマリの方がつらい話だもんね。ごめんね。
「申し訳ないのですが、詳細は語りたくありません。先生自ら調べてください。なのでここはざっくり言いますね、過去の口封じに来た相手に捕まって、当時を思い出す様な仕打ちに、成長した身体だからこその責め苦が追加されました。…トグロは、過度なセクハラや下ネタ等を苦手にしていますので、それで察してください」
“……それって、そういう事なの?”
「一線は超えていないはずですか、少なくともそういった行為を強要させられていました」
“…………”
んー…………
……んんん……、……
「…せい!先生ッ!」
“ハッ!…私はいったい何を!?”
いけない、我を忘れる所だった。
大人として恥ずかしい、まさか生徒にこんなところを見られてしまうとは…
「先生、落ち着いてください。報復なら既に終わっています。今のキヴォトスに、怒りをぶつける相手はもういませんし、怒ってもトグロは喜びません、むしろ困惑するでしょう。…それに先程も言いましたが、既に終わった事です。今先生に話しているのは、過去にこんな事があったのだと、ちょっとした雑談の延長に過ぎません」
“それでも!私は心配だよ”
「ふふっ、トグロの代わりにお礼を。心配してくださってありがとうございます。ですが、ご安心を。もう清算は済んでおりますから。それでも心配なのでしたら、これからもどうか…いつもの様にトグロと接してください」
ふと、ヒマリが繰り返し、既に報復は終わった。清算したと言っているのが気になった。
やられたらやり返すっていうのがキヴォトスの主流なのは痛いほど理解したけれど、流石に相手が居ないとはどういう事か?
“えっと…その報復とかって、文字通り消したとかじゃないよね…?”
「あら?うふふふ…さて、どうでしょう?」
キョトンとした顔をした後、心底面白いと言わんばかりに笑うヒマリに薄ら寒い物を覚えつつも、相手の自業自得なので追求はしない。
私が同じ立場なら、きっと同じ様な対応をするだろうから。
「以上がトグロの過去になります。これらを元に調べれば、更に詳細な情報は出てくるでしょう。勿論、それなりに隠されているので、簡単ではない筈ですが」
“そっか…うん、うん。分かったよ。話してくれてありがとう”
「流石に、いくら私がトグロの特別であり最高の幼馴染であるとしても、1人で抱え続けるのは大変でしたので…先生、聞いてくださって、ありがとうございます」
素直に感謝を受け取れないけれど、きっとヒマリも苦しかったのだろう。私では話を聞くくらいしか出来ないけれど、それで楽になるのならいくらでも聞くよ。
落ち着き、思考がある程度まとまりだすと、やおら気になってくるのは、ヒマリ以外にコレを知っているのか?という事。調べれば出るとは言っているのだから、トグロと特に親しいチヒロとリオはどうなのだろうか?
「おや、チーちゃんとリオは知っているのか?とでも言いたげですね」
“そんなに分かりやすいかなぁ…私”
「ふふっ、私は超天才清楚系病弱美少女ハッカーですよ?この程度はお茶の子さいさいです」
ヒマリの雰囲気が軽くなり、いつもの調子を取り戻すように笑う。やっぱり、笑っている方が魅力的だよ。仕方ないと割り切る事は難しいけれど、コレからの君達が幸福であるように、笑っていられるように全力で尽くそうと、改めて思う。
「その疑問ですが、私には分かりません」
“そうなの?”
「ええ、聞いた事がありませんので。まぁ…卒業後か、成人後にでも話そうとは思っていますが、既に知っているかは分かりません。意外でしたか?」
ヒマリなら話していそうだなとは、正直少し思っていた。まぁでも、軽々しく話して良い内容ではないのも確かだ。それに当事者はトグロだし、本人の承諾も必要だろう。むしろ、本人の許可を得ずに聞いてしまっても良いのか、今さらながら不安になってきた。
でもトグロは、絶対に話してくれなさそうだし…
「さて、話したい事も話せました。幸いにも、日常に支障が出るようなトラウマは残っていないらしいですし、コレと言った手助けは必要ありません。ですが何かあった時、トグロの事を助けて欲しいのです。あっでも、普段の態度はそのままでお願いしますね?トグロは、過度に気を使われるのを嫌がりますから」
“勿論!私はみんなの味方だからね。ヒマリも、何かあったら私を頼るんだよ?”
薄々ね、薄々だけど思っていたんだ。
トグロから話を聞くべきだろうか…?でもこんな話を、今さら聞かれるのも、応えるのも嫌だろうし…どこまで踏み込んで良いのか、慎重に考えるとしよう。
「あっそれと、先生。するなとは言いませんが、トグロへ下ネタを振る頻度はもう少し減らしていただけると嬉しいです」
“ぅえ゛?な、なんのことかな?”
おっふ、変な声が出ちゃった。
ちょっと待って言い訳させてほしい。トグロってネタにはネタで返してくれるし、レスポンスも早くて軽快。しかも踏み込まないラインは見極めてるし、一緒にいる他の子達を蔑ろにもしない。取り敢えず話を振っておけば、勝手に周りを巻き込んで場を円滑に回してくれる。接しやすいタイプな子なのも相まって、まるで友人の様な気安さで話せてしまうんだ。つい、口が軽くなってしまう。
あと、その…普段高笑いしながら遊んでるトグロが、下ネタを振った時一瞬だけちょっと嫌そうな顔をするからさ…なんと言うか、見てて楽しいと言うか…
「いえ、責めるつもりはありませんのでご安心ください。チーちゃんを見て下さい。この前、トグロに何を仕掛けましたか?」
“はッ!…水で、溶ける服!”
「先生がトグロを選ぶのでしたらそれでも構いませんが、チーちゃんがトグロを恋愛的な意味で狙っているので…幼馴染としてチーちゃんを応援すべきか、家族としてトグロは渡さないと言うべきか…ふむ、悩みますね」
“大いに悩んでほしいのだけど、今の話は聞かなかった事にしても良いかな?”
「まぁ…チーちゃん程露骨でなければ、本人も気にしないと思いますが」
トグロ、苦労してるんだね…
私も何度か目の当たりにしてるよ。チヒロって、トグロには割と遠慮のないイタズラを仕掛けてるからね。トグロも注意したり怒ったりすれば良いのに、困った様に笑って許しちゃうから。
私か注意すべきなのか…大人が言って良いものなのか、ちょっと自信が無いんだ。考えてみてよ、それセクハラだよねって言うって事は、それをセクハラだと認識してるって事だからね?本人達がそう思って無かったら、私がセクハラしてるみたいになるんだよ!?
あと実は、トグロがかなりモテる子なのも知っている。最近はトリニティの子からも話を聞くときがある。多いのはミレニアムだけどね。特にトグロやウタハはかなりの気があってね、私は見た事が無いのだけれど、前に何かのイベントで2人が男装していたらしくて、かなりの人数の脳を焼いたらしい。
トグロって、距離感も近めだし、下級生の子とか緊張して喋れなくなるって聞いたよ。黙っていればクール系の美人だしね。黙っていれば。喋ったら喋ったですごく褒めてくれるホストみたいだけど。
本人は怖がられてるんだと思ってて、ちょっと気にしてるらしい。面白いからみんな真実を黙ってるんだって。私も黙ってるし、聞かれても答えないよ。面白いもの。
「ふぅ…先生、何か飲み物を頂けますか?少々話し疲れてしまいました」
“少し待っててね、お菓子も食べる?”
「頂きましょう」
さっきまでの緊張感は、お茶と一緒に流れて行った。
暗い雰囲気のままで居たくはないし、そのつもりで話を終わらせたのだろう。そして結局はもう終わった事で、今さら蒸し返すのも本人に悪い。トグロが気を使われるのは望まないってのは、私にだって分かっている。
でも、トグロには少し優しくしよう。
過去がどうこうじゃない。
あの子はたぶん、これからもっと苦労すると思うんだ。こう…人間関係とかで…だってあの子、平気な顔してナンパしに行くんだもん。出会う子みんなを口説こうとしてるんだもん。
そのうち刺されるんじゃないかなぁ…そうならないように、私も先生として出来る限りのサポートはするからね。一緒に防刃ジャケットとか探そうね。
「よ、先生。ヒマリから昔ばなしを聞いたんだって?アイツ、ヒトの事をペラペラ話しやがってよぉ…でもまぁ先生ならそれ聞いても悪いコトにはなんねぇだろ。それくらいは信用してるさ。そんなに気にすんなって、確かにアレな話だが、ワタシはワタシだからな。今さらそんなコトで気を使われても困っちまうぜ」
狙ってる?狙ってやってるの?
もし素でやってるなら、ややこしすぎるよ。
大丈夫なんだよね!?
もう、どうしたら良いのさ!
「てか、ワタシよりもヒマリを気にかけてやってくれよ。アイツ、ああ見えて身体が弱いってのをけっこう気にしてるからな。あんまり遠出とか出来ないし、出来れば頻繁に会いに行ってほしいんだ」
もう…この子は……
…この子達ときたらもう!もうッ!
分かったよ。
こうなったら全部任せてよ!
私が全部をどうにかするからね!
具体的には、その…なんかイイ感じに!!
イイ感じに頑張るから!覚悟しといてね!!!
ホントはね、グラスホッパーの話みたいに頭カラッポの小話を1つ2つ同時に投稿して、中和したかったんですよ…でもね、なんにも思い付かなくて…
そんな訳なので、どーでも良い話でした。
また気が向いたら小話を追加しますね。
なんも思い付かないから、参考までに……
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