どうせなら、笑っていようぜ。   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

88 / 93

 所謂、文学小説も読んでいました。
 文豪ってすげえよ、吾輩な猫ちゃんが好き。





赤い風のように、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽よりも

 

 

 

「いらっしゃいませ、先生。お待ちしておりました」

 

“ごめんね、お待たせ。トキ”

 

 

 

 うーん……実に平和!

 今日は珍しく仕事が少なくて、珍しく(シャーレが動くような)事件も無くて、珍しく私も体力が減ってない。すこぶる絶好調だ。

 

 …なんでだろ、ちょっと不安になってきた…… 

 

 まぁいいや。

 

 そしたらトキから連絡が来て、飛び出したんだ。

 

 

“今日はどうしたの?”

 

「説明いたしますので、とりあえず中へ」

 

“うん、お邪魔します”

 

 

 今から来てって言われたから来たけど、用件は知らないんだよね。勿論それで良いし、私もそれで飛んでいくのだけど、出来れば簡単にで良いから概要は教えて欲しいな…もしかしたら必要になる物があるかも知れないしね……一応、みんなにはそうやって教えてるんだけどね……良いんだよ?それが手間だと思って私を呼ばないより、呼んでから考えてくれれば良いんだけどね?

 

 トキに促されて家の中に入って、客間に座ってお茶を貰う。冷たい緑茶が美味しい。最近は紅茶やコーヒー、温かいお茶ばっかりだったけど、久しぶりに飲むと冷たいお茶もいいね!

 

 

「こちらのわらび餅もご一緒どうぞ、自信作です」

 

“ありがとう、いただきます………美味しい!”

 

「むふー!」

 

 

 手作りらしいわらび餅は、きな粉がまぶされていて、中に黒蜜が入ってた。これ、お土産屋さんで売ってるレベルだよ。すっごい美味しい!

 

 

「まだまだあるので、沢山食べて下さい」

 

“スゴイね!こんなに作ったの?”

 

「黒蜜を包むのが楽しくて気付いたら、それに、トグロ先輩がよく食べますから…あっ、そうでした、本日お呼びした理由なのですが」

 

“なにかな?”

 

「トグロ先輩が部屋から出て来ないので、引っ張り出すのを手伝って下さい」

 

“ん?”

 

 

 あぁ、そう言えばここはトグロの家だったね。

 ミレニアムにあるこの家は、色んな子が合鍵を持ってるらしい。前にトグロが相談してきたんだよね、何故か家にメイドが居るって。渡してないはずの合鍵を、何故かみんな持ってるって。

 ……トキ?

 

 

「それでは部屋に行きましょう。こちらです」

 

“え?部屋から出て来ないって…え?”

 

「トグロ先輩が、部屋に部屋に引き籠もってしまったのです。なんと……2日も!!」

 

“そんな!2日も!!…2日?”

 

 

 ん?トグロって、何かを集中し始めたら数日くらいは没頭するイメージがあるのだけど…?2日?この前は1週間くらい姿を見なかったけど…

 

 

「そうです。せっかく用意した食事も、おやつも食べずに。せっかく作ったのに、です。これは事件ですよ先生、緊急事態です」

 

“……ほんとに?”

 

「本当です。せっかく作ったご飯が冷めてしまった、これは大問題です」

 

 

 イマイチ納得いかないんだけど、トキが言うならそうなのだろう。

 そうしてやってきた扉の前、トグロが引き籠ってるらしい部屋がココ。大丈夫だよね?良くない実験とかしてないよね?不安になってきた

 

 私の不安をよそに、トキが扉をノックして声を掛けている。

 

 

「トグロ先輩、そろそろ出て来て下さい。ご飯の時間ですよ、部屋の掃除も出来ないので、早く出て来て下さい」

 

「……………」

 

 

「トグロ先輩!出て来て下さい!」

 

「……………」

 

 

「ふう…やれやれ、この通りです」

 

 

 

 これ、中で倒れてない?

 トグロが声を掛けられて反応しないなんて、想像出来ない。

 

 

 

“トキ、扉を破ろうか”

 

「だからお呼びしました。最高です」

 

“……ほどほどにね?”

 

「任せて下さい。イメージトレーニングは既にかんぺき〜です」

 

 

 あー…早まったかも。でも心配なのは本当だし、うん。仕方ないかな。生徒の安否確認が最優先だからね、仕方ないよ。うん。

 

 

「一度やってみたかったんです、これ」

 

「イッテェ゙!!?!??」

 

 

 トキはドアノブ、蝶番を撃ち抜いて派手に扉を蹴破った。

 中からトグロの悲鳴が聴こえた。無事だったみたいだけど、無事じゃなくなったかもしれない。ごめんね。

 

 

「え?なに、ナニゴト!?トキ?なに敵襲!!?」

 

「ご飯の時間です」

 

「あっマジ?ゴメン集中してた、軽くシャワー浴びてから行くわ。ん、先生もいたのか。一緒にメシ食ってくだろ?先食っててもイイぞ」

 

 

 そう言って、トグロは部屋を出て行った。

 

 

“えっと…出てきたね、トグロ”

 

「そうですね」

 

 

 これで解決……って事でいいのかな?

 釈然としなさそうなトキは、部屋に入って机の上を漁り始めた。そうだよね、ここまで集中してるって何をしてたんだろう?

 

 

「そろそろ」

 

“どうしたの?”

 

 

 不意に呟いたトキにつられて、私が顔を上げたその時

 

 

───ゴンッ!

 

 

「あぁ、やっぱり…」

 

“えっ、えっ!?スゴイ音なったよ!??”

 

「トグロ先輩がお風呂場付近で倒れましたね。どうせたんこぶ作って寝ているだけです、心配ありません」

 

“ええ…”

 

 

 そう言って、トキはテキパキと机の上を片付けてしまった。私も少し手伝ったのだけど、置いてあったのは天気予報士と臨床美術士、繊維製品品質管理士の教本と過去問だった。

 なんでこの3つなんだろう?

 

 

「そろそろトグロ先輩の回収に行きましょう。手伝ってもらっても良いですか?」

 

“もちろん!”

 

 

 勉強道具を片付けて、机を拭いてゴミを捨て、窓を開けて換気をしてトグロの回収に向かう。

 色々出しっぱなしだから見ちゃったよ。当番の時にも思ったけど、トグロの字は綺麗だよね。勉強用に使っていたであろうノートも読みやすくて丁寧で、普段からそうしてるのが分かって少し嬉しい。

 

 ほら、私って先生だからさ。

 勉強意欲の高い子は好きだよ。多くは勉強嫌いだって言って憚らないし…私、先生だからね?戦闘指揮も問題解決もするけど、一応授業が仕事の本分だからね?みんなちゃんと勉強もしようね?

 

 なんてことを思いながらトキの後を歩いて、多分お風呂場かな?その近くまでやってきた。

 

 

「ほら、起きてください。寝るならベッドで寝てください」

 

「んん…あたまいたい……」

 

「気の所為です」

 

「そっかぁ…」

 

「先生、そっちを持って下さい」

 

“あ、うん”

 

 

 廊下でうつ伏せに倒れてたトグロを引っ張り起こして、トキと一緒に両脇を抱えて移動する。出来れば少しは自力歩いてほしいなぁ〜…あ、トグロ寝てるね。

 

 それで、トグロをどこへ連れて行くの?

 

 

「リビングのソファへ。()()を持って2階へ上がるのは手間なので」

 

“コレって……”

 

「どうせすぐに起きますから」

 

 

 なんとかトグロをソファへ移動させて、ひと息ついていた。完全に脱力してる人を運ぶのって、結構な重労働なんだよ?普段の運動不足が祟ってるなぁ……

 

 

「どうぞ」

 

“ありがとう”

 

 

 とか思ってたら、トキがお茶を持ってきてくれた。

 

 仕事(メイド)モードのトキは、本当にちゃんとしたメイドさんなんだよね。ふざけてる時との差はなんと言うか、公私がハッキリと分かれていると言うか……いや、何も悪くないよ?むしろリラックスしてもらえてると思えば、自由にしてくれた方が私も嬉しいからね。

 

 でも、こうやってちゃんとしてるのを見るのも好きだよ。

 生徒の成長と言うか、この子もきちんとやれる子なんだって分かるからね。

 

 

「では昼食の準備に取り掛かります。その間、トグロ先輩の子守りをお願いします。あ、食後にはタルトを用意していますので、今のうちから楽しみにしていて下さい」

 

 

 そう言い残して、トキはキッチンへ向かった。

 何度かご馳走してもらってるけど、リオの食生活を支えているだけあって、トキは料理が上手。と言うか、家事全般をどれも高い水準でこなせる。

 確かにC&Cってミレニアムの戦力みたいに考えてる事も多いけど、皆普段は制服通りのメイドさんなんだよね。

 

 戦うメイドってカッコいいよね!

 

 そしてソファで寝てるトグロは、なんかすぐに起きてきそうな感じで身動ぎしてる。

 そりゃぁ、思いっ切り頭ぶつけてるんだから痛いよね……大丈夫なのかな?

 

 

 

 

「んん…んぁ〜……」

 

“おはよう、トグロ”

 

「…おはよう、ございました……zzZ」

 

“あ、寝た”

 

 

 みたいな事があったけど、ソファに運んでから30分くらいかな?キッチンからいい匂いが漂ってきた辺りでトグロが起きてきた。

 

 

「ふぁ~ぁ…あ、先生じゃん。おはよ」

 

“おはよう。もうすぐご飯だよ”

 

「そっか、ん?今何時だ?」

 

“えっと…12時20分だね”

 

「なんだ、まだそんくらいか」

 

 

 ん?もしかして、何か勘違いしてる?

 さっきもそうだったけど、絶対に時間を忘れてるよね。黙っとこ。

 

 

「トグロ先輩、おはようございます。ご飯の準備が出来ましたので、テーブルを拭いて食器を並べて下さい」

 

「オッケー!先生は座っていてくれ、すぐに準備する」

 

“よろしくね”

 

 

 

 起きてすぐに動き始めた。どんな料理なのか知らないだろうに、聞きもせず手早く食器を取り分けてくれる。一度キッチンに入ってたし、その時に見たんだろうね。

 

 こういう聞くまでもないような、細かい確認とかの気遣いが出来るのがトグロの良い所だよね。減ってきた消耗品の補充とか、使用前と後の掃除とか、乱れた書類を整えたりとか、飲み物を用意したり片付けたりね。誰でも出来るし、意識すれば簡単な事なんだけど、誰かがやってくれていると助かるちょっとした一手間を、毎回必ずやってくれるんだ。本人曰く、やって当たり前らしいけど、その当たり前はとても大切で特別なものだと思うよ。

 

 

 そしてすぐにテーブルに料理が並び始めたのだけど……

 

 

「多くない?ワタシのだけ」

 

「食べ損ねた分も持ってきました」

 

「食べ、損ねた……?」

 

 

 トグロの前には沢山のお皿に山盛り料理が!

 私も山海経で似たような光景を見た様な気がする!

 

 

「やれやれ…トグロ先輩は()()()も部屋に籠もっていたのですよ?これくらいは食べて下さい」

 

「…何……だと……」

 

 

 トキ、嘘は良くないよ。

 あえて注意はしないけど。

 

 

「あまりにも引き篭もるので、心配して先生まで駆けつけたのですから。あまり迷惑をかけないようにお願いします」

 

“まったく、心配したんだからね?”

 

「マジか!?2週間も!!?やべぇ…ミカとの約束すっぽかした!ユウカから書類も頼まれてんのに…え、ヤバ……マジ?マジに2週間も??」

 

「はい、大マジです。何名かこの家まで足を運んで下さったのですが、トグロ先輩が部屋から出て来なかったので…残念ながら……特にノア先輩は何度も来て下さいましたよ」

 

「なにぃ!?」

 

 

 あまりにも自然に嘘を吐くものだから、ちょっと面白くなってきてしまった。仕方ないから私は黙って見ておこう。

 

 私は、嘘を言わないけどね?

 ただ黙ってるだけだからね、セーフ!

 

 

「少々お待ちを…──もしもし、ノア先輩。トグロ先輩が部屋から出て来たので報告を、と思いまして。ええ、ええ、代わります…トグロ先輩、どうぞ」

 

「代わってワタシだ。ごめんなノア、家に来てくれたんだって?気付かなくてホントーにごめん!なんの用だったんだい?……うん、分かった。今すぐ向かうからな」

 

「あっ!待って下さい!先にご飯を食べてからです!」

 

「いただきます!!」

 

 

 すごい。

 ノアまで巻き込んで嘘を吐き続けてるよ…あの感じからして、ノアも乗っかったんだろうなぁ……あの子もわりと面白い事が好きなタイプだよね。かなり頼りになる子なんだけど、こうやってふざける側に回ると手強そうだ。と言うか、こうなる事を見越してノアに連絡したよね?

 

 さて、トグロもトグロで、今日の日付を見れば良いのに一向に見る気配がない。まさかトキが嘘を言っているとは思ってないのだろう。この子は意外と、純粋だったり生真面目な所があったりするからね。時々こんな感じでイジられているのを知っているよ。

 

 

「はぁー…まんぷく……」

 

「まだデザートが残ってますよ」

 

「ゔっ!食べ…る、れない……アトで食べる」

 

 

 食べ切れたんだ、スゴイね。

 これが若さなのかな……私くらいになるとあまり量が入らなくてね…食べられるうちは食べた方がいいよ、特に油物とかね。山盛りの唐揚げとか、見るのは良いけど食べるのは…

 

 ま、私も食べるんだけど。

 だって美味しいし、せっかく生徒が作ってくれた物を残すなんてありえないよね。

 

 

 

“ごちそうさま。美味しかったよ”

 

「ふふん、そうでしょうそうでしょう。デザートはすぐに食べられますか?」

 

“私も、もう少し後で貰おうかな”

 

「かしこまりました」

 

 

 

 トグロが大慌てで家から飛び出して行くのをトキと一緒に見送って、一息ついてからデザートも食べて、食後の心地良い眠気に包まれながらシャーレへ帰る。

 

 ああ、なんて今日は平和なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後の夕方に、トグロからお怒りの連絡が来た。

 

 いや、こんなにも気付かなかったんだ…もっと早く気付くと思ってたから……あの、ごめんね?

 

 当番に来てたミカが笑い転げてたよ。

 聞けば、慌てたトグロからの謝罪の連絡が来て、それに悪ノリしたらしい。息を切らせてトリニティに来たトグロは、サクラコから今日の日付を知らされて気付いたらしい。

 

 みんな、悪い方に機転が利きすぎじゃないかな?

 私も存分に笑ったけども、面白かったけども!

 

 

 

 

 





 
 でもそれ以上に、魔王だったり、指揮官だったり、ドクターだったり、決闘者だったりしてました。

なんも思い付かないから、参考までに……

  • トグロだけの小話
  • 本家イベント
  • オリジナルイベント
  • 先生視点
  • 別キャラ視点
  • よく名前の上がるキャラとの小話
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。