どうせなら、笑っていようぜ。   作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ

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 放心してたら、1日終わってる事ってありますよね


これは戦略的撤退なのでセーフ

 

 

 

 

「つ、疲れたぁぁ……」

 

 

 良い子のみんな、こんにちは。

 ワタシだ、赤蛇トグロだ

 

 

 ホドとか言う馬鹿にデカいロボットを相手に大立ち回り、その後そのままエリドゥ内のDivi:Sionのゴミ共を掃討したのでワタシは疲労困憊。でも心は元気。

 

 だと思ったかぁ…?

 

 誰がワタシを拾ってくれ、指1本動かせん。口と目だけは動くのが救いか。音声操作を有効にしておいて良かった。

 ワタシへの干渉がないことを確認したら、まずはゲマ報告だ。オーパーツ見つけたら優先して流す約束を、黒服としてる。かなり緩い契約で簡単にブッチできるが、守らないとナニされるか分かったもんじゃねぇ。

 

 

「黒服さーん、活動の止まったホドがあるから持ってけドロボー」

 

『クックック…』

 

 なんか笑い声が聞こえた気がするけど、アイツにゃこんなでいいだろう。連絡さえすれば勝手に回収してくれる。返事なんかいらん。どうせ聞こえてるから。

 

 つぎ、ワタシを回収してくれ。

 

 

「C&C、近くに居るだろ?中央タワーの裏側、ワタシが倒れて…」

 

「トグロちゃんだ!なんか元気ないねー、どうしたの?」

 

「アスナがポップしたから大丈夫だ。アスナ、ワタシを部屋まで連れてってくれ。動けん」

 

「うで怪我してるじゃん!大丈夫?」

 

「触んな!痛いんだってぇぇ

 

 

 腕に触んなぁぁ!

 笑ってんじゃねぇよ…!

 

 でも抱えてくれてありがとう。

 ついでにアスナに応急処置もしてもらった。コイツ、こんなでも有能なんだよ。伊達にエージェントやってねぇんだよ。

 

 怪我してる場所がウデなのに、なんで動けないんですか?

 説明しましょう。なぜなら、偽装神秘の反動を受けているからです。以上。

 

 多分、今から半日ぐらいはまともに動けないだろうね。

 たったそれだけ、これが低リスクと言わずになんと呼ぶ。

 

 ワタシも車椅子で移動しよう。

 ヒマリのヤツの色違いがあるからな、それ使おう。赤色で速度に極振りしたやつ。

 

 

「それじゃーみんなの所まで、いっくよー!」

 

「ちょおまっ、これ自動運転んんん!」

 

 


 

 

 

「って事があって…死ぬかと思った……」

 

“た、大変だったね…?”

 

「これから、ヒマリには少し優しくするよ……」

 

“そうだね…?”

 

 

 ワタシはね、ジェットコースターみたいな絶叫系は好きだよ。でもね?アレは違うんよ、無軌道はヤバい。

 

 制御出来ないワンコに、ソリを引かせるものじゃない。

 

 

「イテッ…AMASドローン?」

 

『…赤蛇トグロ、次は負けません』

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

 

 みんなしてビクッてしなくても良いじゃん。

 いや、急に大声出したのはワタシだけどさ、確かにふざけたけどさ。

 

 

「あっ師匠!」

 

「!?」

 

「アリスです、師匠!」

 

 びっくりした…イズナが生えてきたのかと思った…アイツ急に背後に立つからなぁ……

 

 まって、師匠ってなに知らん。

 師匠とか知らんが?

 

 えっ、ワタシなんかした…?

 

 ……え?分からん、なんで?

 なぜ?なんで?どーして?何故?

 分からん、分からん過ぎる。

 

 もうわけわかんねぇよ…こえぇよ……

 

 

「ししょーじゃん、帰ってたんだ。おかえり〜」

 

「トグロ先輩でしょ…」

 

「お、おかえりなさい…師匠」

 

「もう…わけ分かんねぇよ…」

 

 

 やめろよ、そんな暖かい目で見るなよ…

 

 

「リ、リオぉ〜…」

 

「これが結果よ、認めなさい」

 

「なんの結果だよ…フレンドリー過ぎて怖ぇんだよ、説明してくれよ…」

 

 

 誰か助けてくれよ…

 心当たりがねぇよ、ねぇんだよ…

 

 

“ありがとう、師匠”

 

「だから何があったんだよマジでさぁぁ!」

 

“かくかくしかじかがあってね”

 

「分からん。帰る」

 

 

 いったん帰ろう。

 それが良い、頭を冷やそう。甘い物が食べたい。疲れたし、腕痛いし、そもそも動けんし。

 

 

「先生、ちょっと真面目な話だ。ワタシとリオはいったん帰って頭を冷やしてくる。数日したら必ずミレニアムに戻るから、そん時に色々言ってくれ。オマエ等も良いな?……その、迷惑かけて悪かった。特にアリスとゲーム開発部には怖い思いさせたからな、後日、改めて謝罪させてくれ」

 

 

 ひとまずはいったん帰る。

 なんか歓迎ムードが漂ってるけど、ワタシには居心地が悪い。

 リオもそんな感じだろう。出来ればこの場から離れたいが、離れられる立場でも雰囲気でもない。

 

 

「ワタシの介護をしてくれ、リオ」

 

「それは別に構わないけれど…何があったのよ」

 

「それは秘密だ。まぁ…全身に力が入んないんだよ。喋れはするけど、マジでそれくらいしかできねぇ。しばらくすれば治るから、それまで頼むわ。」

 

「はぁ…分かったわ。それじゃあ私達は退室させてもらうわね。防衛システムは止めてあるし、タワーの物は自由にしてもらって構わないわ。詳細はトキに聞けば分かるはずよ」

 

 

 ワタシに続いて部屋から出たリオを覗き込むと、泣きそうな顔してた。

 そうだよな、今までの努力と苦労と恐怖と苦悩から開放されて、残ったのは安堵と後悔と罪悪感だけだろうからな。

 

 当初の予定では、アリスを処分したあとはセミナーを辞めて雲隠れするとか言ってたけど、ワタシが気付かないハズがないんだよなぁ…身辺整理とキヴォトスの情勢が落ち着いたら、独りで自殺するつもりだろ?

 

 させるつもりなんか無いし、そんな終り方なんて認めないぞ。せめて生きる方向で考えてくれよ。

 

 そんな訳で、現在のリオは生きる目的とか意味とかが無くなってる。見失った状態。ぶっちゃけ危険な精神状態だな、外面だけは上手いこと整えてるから、見抜いてるのは付き合いの長いワタシかヒマリぐらいだろうね。

 

 後ろを覗き見て誰も追ってこない事を確認する。

 

 

「リオはさ、このあとどうするか決めてるのかな?」

 

「…何も、考えていなかった……違うわね、何も考えない様にしていたわ…」

 

「トキはどうするつもりだよ。あの子、本気でリオを信じてるぞ」

 

「あの子はC&Cよ、私が居なくても居場所はあるわ」

 

「言うと思った〜。知ってるか、道徳ってのは暗記科目じゃないんだぞ?居場所があっても拠り所がねぇんじゃ意味が無い。戻れないとか思ってんなら引き摺ってでもセミナーにぶち込んでやるから覚悟しろ。誰が否定しようが、トキにはオマエが必要なんだ。モチロン、ワタシにとってもな。オマエの居ないミレニアムは寂しいぞ」

 

 

 ホントだぞ、覚悟しとけよ。

 セーフハウスに引き籠もるなら開けろイト市警になって突撃かますぞ。ちゃんとアリス達にごめんなさいして、横領したミレニアムの予算を返しなさい。予算会議でユウカが悲鳴上げるぞ。

 

 金ならある。一括で返せるだけは用意してるから、そこは安心してくれ。

 

 

 無言になったリオと一緒にエリドゥを出て、1番近いワタシの工房に向かう。

 リオのセーフハウスでも良いけど、食いもんがショボいんだよ。栄養補給としか思ってないっぽい。セーフハウスだからそれで良いんだけどさ、コイツはどうも心の栄養補給を理解していない。

 

 にしても、この車椅子便利だな。

 まったく揺れない。しかもちょっとだけなら飛べる。

 クッションはフカフカだし、リクライニングすれば快適に寝れそう。クセになるな、これ。

 

 

「たでーま。まずは飯にしよう」

 

「先に話を…」

 

「温かいゴハンが食べたい!ワタシはまだ夜ご飯を食べてない」

 

「……フードプリンターを使っても良いかしら?」

 

「ねぇよそんなもん。作るぞ」

 

 

 トキが居ればとか呟いてんじゃねぇ。

 こちとら朝から何も食ってないんじゃ、オマエもやろがい。

 

 冷蔵庫を開けてもらって、食材の確認。

 うん、肉ばっかり。

 

 でも大丈夫、冷凍庫に小分けした野菜が眠ってるから。鍋用の野菜セットがあるから。全部入れて火にかけるだけだから。

 

 まずは手を洗います。

 

 

「トグロ?」

 

「ほらワタシ、動けないから。簡単なのにするし口は出すから」

 

「そう?これを切れば良いのよね」

 

「うん。でも包丁はヤメよう、見てて不安しかない。ハサミを使おう」

 

 

 何でカッターは使えるのに包丁は握れないんだよ、逆手に握ってどう切るつもりだ。トキの料理中、何を見てたんだよ。

 

 

「肉切ったな?ああいいから、まな板もハサミもシンクに置いといてくれ、いや何で両手がそんなに…まあいいや、手を洗ったら土鍋に全部入れてくれ」

 

「?レシピには入れる順番が書いてあるわ」

 

「見るな!」

 

「トキは出汁を用意していたけれど」

 

「調味料を信じろ!」

 

「少々って」

 

「レシピを見るな!ワタシの言葉だけを聞け!」

 

 

 リオは器用だし、任せても多分上手くは出来るだろうが…手つきが危なっかしい。

 料理、したことないんだろうな……

 

 ワタシは知ってるんだ、この手の理系はひとつまみとか少々とかにキレるんだって。ユウカがそうだったから、小数点以下いくつよ!ってキレてた。10.000gと11.215gは一緒だ、気にすんなよ。ビーカーもフラスコも使いたきゃ使えば良いが、わざわざメスシリンダー持ってくんな邪魔だ、スポイトなんか要らねぇ捨てろ。電卓はしまえ。関数なんか使わねぇから。

 

 ワタシの経験が言っている。

 リオはその系譜だ。

 

 

「よし、全部入れたな。あとは火にかけて待つ」

 

「灰汁を取るって言ってたわね」

 

「まだ出ねぇから、フタ閉めて待っててくれ」

 

 

 …これでも、メチャクチャ有能なヤツなんだよ……

 

 言う事は聞くから、鍋は自体はつつがなく完全した。

 

 

「……あまり美味しくはないわね、これ。ほら口を開けなさい」

 

「適当に作ったからなぁ~、見栄えもわりぃ。あっ待って、ちょっと冷ましアッチィ!」

 

「ワガママ言わないで」

 

「鍋から直はやりすぎだろうが!浅皿があるからそこに入れてくれ、少し冷めたら食べさせて」

 

「…ワガママね」

 

 

 あまり美味しくない鍋を食べて、ワタシが〆を雑炊かうどんかで悩んでいたんだけど。リオに片付けられた。

 

 で、真剣な表情でワタシの前に座る。

 

 

「さてと……そろそろ聞かせてもらっても良いかしら?トグロは、いつから…何を企んでいたの?」

 

「甘い物が食べたいんだけど。……それ、はぐらかしても良いヤツ?」

 

「話しては、くれないの?」

 

 

 おぉう待て待て、せっかく腹ふくれたのに。

 とうとう本格的に罪悪感と向かい合い始めたな。今にも泣きそうになってんじゃん。

 

 

「時間は、あるな……そうだなぁ〜あれは、リオがオーパーツの解析で、ヒマリが特異現象の探求で、それぞれがキヴォトスの滅亡を予測した日のことだ。」

 

「それって……」

 

 

───ああ、今から10だか11年ぐらい前の話だ。2人とも話してはくれなかったけどさ、結果ありきならそれなりに調べられるからな。ワタシなりにあれこれ考えたもんさ。

 

 ワタシがマゴマゴしてるうちに、ヒマリとリオでキヴォトス滅亡を阻止しようと動き出したよな。珍しく足並み揃えてさ、長くは持たなかったらしいけど。

 丁度そん時、ワタシから声掛けたろ?

 

 兵器は見付かったかって。

 リオはやり過ごしたけどさ、ヒマリは面白いぐらいに狼狽えてくれたおかげで確信が持てた。

 途中で完全にヒマリが手を引いたよな。ワタシも一緒にって誘われたよ。オマエもだろ。

 

 ったく、気に食わないクセに無視出来ないアイツらしく、適当に屁理屈こねくり回してさ。

 2人そろって手を引くなら、それこそヒマリの言った通りキヴォトスを出るって決めるんならそれでも良かったよ。ワタシは。

 結局ヒマリは奇跡を願ったし、リオは気付かずにスルーしてたけど。

 

 だからワタシはそん時に決めたんだ。

 

 未来を用意してやろうってさ。

 悲痛な顔して進むオマエ等を見てられないが、頑固者共は言っても止まらないからな。だったら、ワタシが、その先を用意してやるってな。

 

 そんで暫くは風見鶏をしながら、それぞれの計画に加担したわけだ。

 ヒマリはまだ良かったんだよ、全てか無。そのための味方も自力で確保した。クソガキだが、コミュ力はあるからな。能力は高いし意思も強い、付いてくるヤツは多かった。

 

 問題なのはオマエだ、リオ。大多数の幸福を目指すのは良い。むしろ現実的に考えればそれが1番だ、ワタシでも分かる。効率、実現性、安全性とかを考えればそれが最適解だろう。

 

 が!そこからだ、そこからが問題なんだ。

 大多数の幸福は、言い換えりゃ小数の不幸。示しを付けるのに自分がそこに入るのは仕方ねぇけどさ、ワタシが認めたくなかったんだよ。

 

 それにだ、オマエ、誰にも頼らなかったろ?

 確かにさ、オマエほど頭良いヤツも少ねぇし、理解されるのも難しいだろうが、居ないわけじゃない。ハナから諦めて独りで進めやがって。

 

 ワタシに声掛けた時、リオなんつったよ。

 部下だぁ?ざけんな、せめて同格であれよ!

 ワタシを頼れよ!

 全部全部1人でやろうとしてさ、ワタシにぐらい遠慮せずに巻き込めよ。そんなに信用できないか?

 

 まぁ、リオが頼れないって考えてるのも分かるけどさ。

 ワタシが下位互換なのは事実だし、そんときは手札も少なかったからな。

 

 それに、友達を巻き込みたく無かったんだろ?

 計画実行後、自分は居なくなるから。

 

 ワタシじゃオマエ達が導く答えには辿り着けないけどさ、オマエ等が何を、どう考えるかぐらいは分かるよ。長い付き合いだ、リオは優しいからな。

 

 まぁなんだ…結局はだな、ワタシは大切な友達に泣いてほしくなかったんだよ。そんだけさ。そんだけの為に、走り回ってたのさ。

 

 ……いつから、何を、だったな。

 

 答えよう。

 10年ぐらい前から、オマエ達の笑顔を守りたかった。 

 

 この答えで満足か?

 あっ先に言っとくが、アレコレ手札増やしたり調べモノしたりってのは、当時からワタシの趣味でもあるからな?そこは間違えるなよ。好きでやってるから、変に気負う必要はねぇ。せいぜい方向が偏った程度だが、充実した趣味活動だ。今後も続けるつもりのな。

  

 

「……」

 

「ははっ、想像以上に重い思いってか?暴露ついでに言うが、ワタシは幼馴染達。リオもヒマリも大好きだよ。友達のためならワタシは、神サマだってしばき回してやる」

 

「……トグロは、私の計画の結末を予測出来ていたの…?」

 

「ある程度はな。アリスがAL-1Sのままなら成功してたと思ってるが、AL-1Sがアリスになった事で破綻したと考えてる。リオ、オマエはヒトの意思を、心を、甘く見過ぎているよ。特に、あの先生が向こうに付いてた時点でコッチは詰んでたんだよ。変数なんてもんじゃない。式の外側、前提から崩されたからな」

 

 

 考え込んじまったよ。

 こうなると長い。リオの悪癖だな。

 

 

「ワタシは少し寝る。勝手にどっか行くなよ?書き置きとかもナシだからな」

 

 

 アラームを1時間ぐらいで良いか。

 寝る。

 疲れてるし、寝るのは余裕だ。

 

 それよりも、多少でも1人で考える時間がいるだろ。自分なりに答えを出してご覧よ。

 

 

 

 


 

 

 

 

「あら、お目覚めのようですね」

 

「……なんで?」

 

「トキちゃん1人では大変だろうと思いまして、私も先輩方のお世話に参りました。勿論、リーダーやご主人様には話してあります」

 

 

 目が覚めたら目の前にアカネがいた。

 

 なんかコイツに懐かれてんだよなぁ。これに関しちゃ心当たりがあるから何も言えねぇ。だったらネルの方に行けば良いのに…キッカケになった時に一緒に居たじゃん。むしろネルの方が付き合い長くなってるハズだろうに。

 

 まあ、それはそれとして。

 居るのは助かるから良いや、トキはリオ専属だからワタシの扱いはぞんざいだし。世話してくれるならぜひしてくれ。ワタシは、だらけられるのならだらけるぞ。

 

 

「あれ、リオは?」

 

「あちらの部屋に籠もっています。少し考える時間が欲しい、との事です」

 

「じゃあ、そこの壁の穴は?」

 

「返事が無く、トキちゃんが心配していたので空けました」

 

「アカネが?」

 

「壁だけを崩すのは大変でした。随分と硬い素材を使用されているのですね」

 

「……苦労して作ったからな…」

 

 

 なにしてくれてんだ…

 起こしてくれれば鍵渡すのに…この爆弾魔がよぉ……

 

 だいぶテクニカルに破壊してくれやがって、中の骨をキズ付けずに壁だけを壊すとか中々やるな。ってかそれ出来る頭があるならマジでワタシを起こせよ、何で勝手に壊してんだよ……

 

 

「あー、ワタシはどれだけ寝てた?」

 

「私が来た時にはすでに、それから2時間程でしょうか。移動時間等を考慮すれば、凡そ4時間程度だと思います」

 

「なるほどな、だったらそろそろ動けそうだ。そういえばトキは?」

 

「トグロさんが目を覚ましたら、きっと甘い物を欲しがるだろうと言って買い出しに向かいました。そろそろ…ほら、噂をすれば」

 

「ただいま戻りました。メモに書かれていた茶葉が入庫していなかったみたいだったので、タワーに置いてあっ…──おや、起きていらっしゃいましたか。トグロ先輩のクレジットで豪遊してきましたので、お土産をどうぞ」

 

 

 目の前に広げられたのは大量の洋菓子。

 いや、食いきれねぇよこんな量。日持ちは…するな、流石メイド。消費期限が順番にバラけるように買ってきてやがる。

 しかもミレニアムにある高級店のヤツじゃん。その怪我で入ったの?ドレスコードとかはないけどさ、勇気あるなオイ。

 

 アカネの口振りからして、コイツが考えて買ってきてくれたんだよな。まったくかわいい後輩だよ、コイツも。

 

 

「おう。ありがとな。さっそく」

 

「駄目です。今の時間は知っていますか?もう少ししたら朝ご飯です」

 

「じゃあケーキを朝ご飯にしよう」

 

「駄目です」

 

 

 くっそ、目の前にあるのに……!

 体が動けば齧り付くのに……!

 

 

「おあずけは可哀想なので、トグロ先輩にはこの飴ちゃんをあげましょう。感謝して口を開けてください」

 

「あーん。……塩梅味…求めてる甘さじゃねぇ…」

 

 

 しょっぱ甘い。

 違うんだ、ワタシは純粋に甘いお菓子が食べたかったんだよ。分かっててこれ出しただろオマエ。目の前のケーキをよこせよ。果物でも良い。

 

 

「トグロさん」

 

「なんだい?」

 

「あの穴、どうにかなりませんか?少々、気になってしまい…」

 

「アカネが開けたんだろうが!……ったく、物置に迷彩衝立がある。誤魔化せはするから、取りに行くぞ」

 

 

 なんでワタシはメイドにボケられるんだ?

 メイド部のヤツ、距離感近くね?困らないから……多少の迷惑なら許容範囲だから良いけど。

 

 メイド部ならカリンがかわいいよ。

 小憎たらしいヤツ等と違って、素直で良い子なんだアイツ。

 

 

「アカネ先輩。見て下さい、空飛ぶ靴です!」

 

「凄いですね。あら?こちらの箒は…」

 

「それも空を飛べます!」

 

「自由か!?」

 

 

 ほら、目を離せばワタシの作品達で遊び始めたぞ。

 靴は前にトキが欲しがってからあげた。戦闘には耐えられないから、ホントに遊ぶ用のやつ。箒はワタシが魔女のコスプレした時に作った。

 車ぐらいのスピードが出せるぞ。結構楽しい。全部で8本あるからレースも出来る。

 

 作ったは良いが、どうせ飛ぶならワタシはボードに乗りたい。エアライドしたい。

 

 

「アカネ先輩。こちらをご覧ください」

 

「なんでしょうか、これは」

 

「なんの変哲もないこのコイン。弾いて飛ばせばあら不思議」

 

「まあ!」

 

「高濃度の催涙ガスが部屋中に……トグロ先輩、中和剤はどこにありますか?」

 

「バカがよぉ!!使ったコインは何色だ!?」

 

「ピンクと赤……大変です、涙が止まりません!」

 

「ケホッケホッ…これ、喉にもきてませんか?」

 

「3番の棚の左の扉!青いフタのビンを割れ!早く!」

 

 

 キレて良い?

 この煙、若干比重が重いせいで車椅子のワタシが1番被害出てるんだけど。涙と鼻水と咳が止まらないんだけど。

 

 ヤベェ、息できねぇ……

 

 早く中和終わってくれ……

 

 

 

 

「はぁぁ〜……はぁ…はぁ…死ぬかと思った…」

 

「まさかこんな事になるとは」

 

「まだ喉に残ってます…ところでトグロさん、これ買い取れたりしますか?」

 

「やるよ…あげるから、何も触らないでくれ……トキもだ!」

 

 

 友達が家に来て嬉しい子供かよ、なんでもかんでも見せようとするな。いやまあ良いけど、使う前に被害を考えてくれ。

 

 ……そうか、ワタシがそらせば良いのか。

 

 

「トキ、オモチャ箱は自由にしてくれ。けど試験品には触らないでくれ」

 

「いえ、いまので懲りましたので」

 

 

 ああそうかい。

 なら良いよ。許すよ。

 

 そうだよ、衝立取りに来たんだったよ。

 

 

「アカネ、そこに見えてる衝立がそうだよ。側面を下から上に撫でてみてくれ」

 

「こうですか?」

 

「おう。したら少し待っててくれ」

 

 

 よしよし、起動を確認。

 あとは十数秒で周囲と同じ柄に……うん、いいね。

 

 なんでこれ作ったんだっけ?

 まあいいや、今使えるし。

 

 

「まあ、リオちゃん。お部屋から出られたのね」

 

「引き籠もりみたいに言わないで」

 

「いや、割と本気で出て来ないんじゃないかって思ってたからさ…ついホンネが」

 

 

 リビングに戻るとリオが居た。

 多分、自分なりの答え合わせをしたいんだろうね。

 

 良いとも、何でも何度でも応えようじゃないか。

 

 

「改めて、トグロには聞きたいことがあるのだけれど……先に私の結論から言うわ」

 

「聞かせておくれ」

 

「何度考えても、私は間違った事をしていないわ。その結果、周囲からどう思われるかは関係ない。やろうとした事は正しい筈よ」

 

 

 それはそう。

 ワタシも同じ考えだよ。

 でも、それでもって続けるんだね。

 

 

「過程、方法を間違えたのも事実。私は、未来を望んでおきながらそこを歩む人の存在を考慮しなかった……」

 

「うん。続けて」

 

「先に全てを説明して了承を得るべきだった。先に協力者を募り助力を得るべきだった。何よりも先に、誰よりも信用出来る貴女達に、助けを求めるべきだった……」

 

「そうしてくれれば、ワタシだけじゃない。きっと先生やアリス達だって協力してくれたかも知れないね」

 

「だから…私の出した結論は、誰にも相談しなかった事が間違っていた。ヒマリは…難しいかも知れないけれど、トグロやC&C、セミナーに先生、話をする…程度はしても良かった、と思う……」

 

 

 まあね、リオの答えに、ワタシは正解なんて出せないんどけど。

 それはリオも知ってる事だし、今さら指摘することでもない。求められているのは正誤じゃなくて、賛否だろう。

 

 だからワタシも、ワタシの答えを応えよう。

 

 

「そうだね。その答えは正しいんじゃないかな。でも、いまいち納得しきれないってところか。だって、合理的じゃないからね。そもそも人の心を推し量ろうってのが傲慢な考えだと思うから、合理で物事を進める事に異論は無い。ワタシは、それが正しいと思ったからリオに協力したわけだからね」

 

「それは、矛盾しているのではなくて?」

 

「うん。してる。ヒトなんて、そんなもんだよ。心のままに動けば破滅するのは当然だけど、だからって合理で全てが片付くわけじゃないのも事実だ。まぁ、そもそもリオを否定するつもりはサラサラないからね。反省は必要だと思うけど」

 

 

 なにさ、なにが不満なんだい?

 リオと先生達の会話を全部聞いたわけじゃない。それでもあのヒト達は、リオ自身を否定したりはしなかったと思うんだ。リオのやり方、考え方には反対したけど、求める結末には理解を示したんじゃないかな。

 

 キヴォトスに未来を、それは決して否定される願いではないからね。

 

 

「私は失敗した、間違えたの……否定してよ。これじゃあ私は、どうしたら良いの…?」

 

「どうしたらって、そんなの簡単さ」

 

 

 おいおい、最初にするべき事を忘れてるんじゃないのかい?ヒトに迷惑をかけたらどうするか、そんな答えは1つしかないと思うんだけど。

 

 

 

 

 




 それはもう、どうしようもないんですけどね

なんも思い付かないから、参考までに……

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