どうせなら、笑っていようぜ。 作:インチネ・ズィ・マゼタルーノ
トグロのメモロビは、しっとりしてます。
しっとりしてますが、湿度は少なめなはず。
えっと、確かこの辺りだったはず……
“あっ居た。おーい、トグロ!”
ミレニアム自治区の端の方にある公園で、ぼんやりと空を眺めながらベンチに座るトグロ。声をかけても反応がないなんて珍しい事もあるんだ、なんて思いながら私はトグロの傍まで歩く。
近付く途中でこちらに気付いたトグロだったんだけど、やっぱり何時もの元気がないみたいだ。
「先生か…珍しいな、こんな自治区の端っこの、ちっちゃい公園にいるなんて」
“それはトグロを探しに来たからね。元気なさそうだけど、大丈夫?”
「んんーッ…ふぅ、ダイジョーブ」
大きく伸びてから、気怠そうに応えてくれる。
“大丈夫そうには見えないけど……ちゃんと休めてる?”
「休めてるぞ。トキとアカネにお世話されまくってしっかりリフレッシュしてる。もう2日はナニもしてないな……あぁ!今ワタシ、完全にオフモードなだけだから大丈夫だぞ」
“それなら良かった。あれからトグロの姿が見えないし、連絡も着かないから心配だったんだ”
「疲れてたのは間違いないからなぁ〜連絡とかも全部スルーしたたわ。ゴメン」
“かなりの無茶振りをさせたのは理解してるからね、ありがとう、本当に助かったよ”
「そりゃ良かった。けどまぁ、次からはアビドスの誰かには付き添ってもらってくれよ」
ほんっとうに、その節はお世話になりました!
まさか丸一日、ビナーに追い掛け回されるなんて思ってなかったと言いますか…砂漠とは言え居住区に近い場所に出てくるなんて思ってなかったと言いますか……ビナーの行動予測範囲外だし余裕っしょ!と油断してたと言いますか…………
だって仕方ないでしょう!
砂漠踏破用のバギーを貰っちゃったんだもん!
プライベートで乗り回したいじゃん!!かっこいいんだもん!!!
「終わり良ければってヤツだ。貰った公休は今日までだし、明日からはいつもどーりさ」
“それなら良かったよ、本当にありがとう”
「礼ならD.U.かトリニティ内での営業許可が欲しいな?」
“うん、ムリかな。せめてブラックマーケットから撤退してから言ってね”
「じゃあ〜……あ、ここにヒマリとリオとチヒロを呼んでくんね?ちょっとやってみたいコトが出来たわ」
やってみたい事?
オフモードって言ってたし、あまり危ない事はして欲しくないんだけど……
まぁ、呼んであげるけどさ。
この3人なら、トグロが自分で呼んでも来るとおも…やっぱり来ないかも、来ても何もおかしくないんだけど、ヒマリが今日忙しいって言ってたんだよね。トグロが呼んだら来ないかもね。
私が呼んでも来るとは限らないけど。
どうやらアロナ達が連絡を入れてくれたみたいだ、3人とも来てくれるって。
この情報を、私からは伝えずにシッテムの箱を渡す事で伝えたい。いやね、プラナがやってみたいって言うから。トグロは2人の姿が見えないし、声も聞こえないみたいだけど居る事は知ってるからね。プレナパテスの一件から、シャーレでも時々こういった伝言ゲームをやっているんだ。
まぁゲームなのはアロナとプラナだけで、トグロの方は本気らしいけどね。何とかしてシッテムの箱を解析出来ないかって四苦八苦してるよ。最近は新しいガジェットも出てきたし、今度見せてみよっかな。きっと良いリアクションをしてくれるだろう。
それで、やってみたい事って何かな?
「ん~?ちょっと待ってな……あった、ほい先生。コレ」
“写真?あっ、ちっちゃいトグロだ!”
「そ。タイミング的には確か、リオと知り合ってすぐくらいだったか?当時の写真を、今のワタシ達でリメイクしてみよっかなって。ちょうどこの公園だったしな」
“いいね!そういうのはすごく良いと思うよ!”
「だろ?最近はみんなで集まるコトも増えたし、出掛けたり遊んだりってのもするけど、よく考えたら写真とか撮ってねぇなと思ってな〜」
あれ?この子本当にトグロかな?
あまりにもまともな事しか言ってない……ハッ!偽物!
「なんだその目ぇ?言ったろ、今ワタシはオフモードなの。ムダにテンション上げたりしねぇ省エネ、ダウナーお姉さんなの」
“ダウナー、お姉さん…だと……?”
そ、そんなの認められないよ!?
だってダウナーお姉さんは少年少女呼びだし、カスみたいな嘘を流し込むし、オモチャに詳しいし、バチバチにピアスとか着けたアンニュイな女性じゃないと……
「おや、まるで想像の埒外かの様に目を丸くして。フフ…豆鉄砲は、スリングショットではなく吹き矢が発祥だったのがそんなにもショックだったのかい?かつては吹き矢による狩猟が一般的だとは、今どき小学生でも知っている事だろう?」
“あっ、あっ、そんな…!伏し目でテンションを下げれば、トグロはほぼダウナーお姉さんだったなんて……!”
「ま、ピアスとかは空けてねぇけどな。耳のはイヤーカフスだし」
“時々思うけど、トグロって人の心が読めたりするの?”
「しねぇよ。表情、目線、動作、話し方、直近のスケジュール、何考えてるかってのは、そっから推測すりゃあ大抵分かんだろ」
“普通はそこまで分からないと思うけど”
「あと、オタクって生き物はみんな思考回路が似てるからな。ダウナーお姉さんって聞いてイメージした姿と、ワタシの外見との差異なんて考えるまでもねぇ」
……ここまで人の考えを読めるのに、普段は同席してる子の聞き役だったり場を回す側なんだよね。
読めるからなのかも知れないけど、殆どの子と上手くやってくれるから、気難しい子が当番でも合わせて予定を入れやすいんだ。すごく助かってるよ。
こういう事ばかりを普段からしてるから、トグロに憧れる子が増えるんだよね。
悪くはないけど、そのかっこいい普段と同じくらいロマンとか言ってふざけ倒してるからなぁ……その素晴しい洞察力と気遣いを、マイナスの問題行動で打ち消してるよね。この前なんてワカモと一緒に改造した大型戦艦で暴れてたし。
“トグロってさ、その3人と幼馴染なんだよね”
「まあな。イイだろ?」
“何か仲良くなるきっかけとかあったの”
実は気になってたんだよね。
言ったら悪いけど、トグロって他の3人とはタイプか違うから、どんな経緯があったのかな?なんとなく皆からエピソードを聞いてはいるけど、トグロ視点は聞いた事がないんだ。
「なんだったか……リオと知り合ったきっかけは、調べ物を手伝ってもらったんだっけな。元々、ヒマリと同じくらいアタマの良いヤツってのは知っててさ。調べ物のタイミングでヒマリが居なかったから、近くに居たリオに声掛けたのがきっかけだったな」
おお!
リオから聞いたのと同じシチュエーションだ!
長い友人同士が、知り合ったきっかけをお互いに覚えてるって、何か良いよね。
「そんでコッチの質問にきっちり答えてくれてさ、そっからよく話すようになったんだよ。で、昔のリオって今よりもっと純真っていうか、心がキレイな真面目な子って感じでさ、チョー可愛かったんだよな!今でもかわいいトコあるけど、チビっ子リオちゃんはチョーかわいかったんだよ!」
“うんうん”
知ってはいたつもりだったけど、トグロのスイッチを入れちゃったかも知れない。
だって今、捲し立てる様にリオの良い所を、当時のエピソードと一緒にずっと話してる。
“トグロ、今度はチヒロと知り合った話も聞きたいな”
「…──で、そん時のリオが……ん?チヒロか?チヒロはすげぇ単純で、
どうしよ、途切れない。
これは話を振った私が悪い……えっ?私悪いかな?こういうのを聞くのは何も苦痛にはならない。むしろどんどん話してもらって聞いていたいのだけど、何か様子が怖いというか…目が血走ってる様な……
あ、もうすぐ3人が到着するんだ。
“ヒマリは?ヒマリとはどんな感じだったの?”
「ヒマリ?ああ、初対面は最悪だったぞ。2〜3ヶ月くらいはマジの冷戦だったな。今となっちゃ笑い話だよ。まあアイツは好きとか嫌いってモンじゃないしな、ワタシにとってヒマリは、そこに居るのが当然の存在だし」
えっと、コレだけなんだ。
コレだよって言って良いのか、中身はものすっごく詰まってるけど。
ある程度トグロを知っていれば分かるけど、この熱量が日常の振る舞いにはほとんど乗らないってのもスゴいよね。
「先生?急に呼び出したりして、どうかされたのですか?まさか、休暇中のだらけたトグロの下らない戯言に踊らされ、超天才清楚系美少女ハッカーであるこの私、明星ヒマリの貴重な時間を費すおつもりですか?許しませんよ、トグロ」
「なんでだよ、イイじゃん別に。どうせヒマリも暇だろ?ヒマヒマのヒマリンだろ」
「なっ…!たとえ私が愛嬌溢れ礼節整ったいたいけな美少女だとしても、ヒマヒマではありません」
「余計な装飾してんじゃねぇよ…っと、リオとチヒロも来てくれたんだな!写真撮ろうぜ!」
なんの事か分かってなさそうなチヒロとリオに経緯を説明を説明している内に、さっき見せてもらった写真の位置へ移動していたトグロとヒマリが呼んでいる。
“4人とも、撮るよー!”
カメラを向けた先では、ブランコに座ったヒマリの真後ろに立ったトグロが、チヒロとリオの肩を組んで引き寄せる4人の集合写真。
不機嫌そうなヒマリ、困ったように笑うチヒロ、きょとんと不思議そうなリオに、満面の笑みを浮かべたトグロ。しっかりと表情まで再現してるね。
“それじゃあもう1枚、みんな笑って!”
でもそれとは別に、全員が楽しそうに笑う新しい写真。
出会ってから今まで、沢山の思い出を増やした新しい写真。
その写真を4人が覗き込んで笑い合う姿を見て、私は先生をやってて良かったと思ったよ。だってこんなにも幸せそうな光景を間近で見られると、私もつられて嬉しくなってしまうからね。
この後、呼び出した3人を見送って、トグロと2人に戻った。
「先生、今日はありがとう。こんな良い写真まで撮れたしな」
「こうして、みんな笑顔で集まれるのは……先生が居てくれたからだろうな。ワタシだけじゃ、こんなにも上手くは行かなかったと思う」
「だから、先生。本当に……本当に、ありがとう」
そりゃ先生が居なかったら、√失望か√雑魚のバッドエンドだろうからね。
なんも思い付かないから、参考までに……
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