大豊訓練生「え!?俺がC&Cコールサイン05!!??」   作:西中タニシ

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1話

「ああ...俺も...」

 

目の前の独立傭兵との戦闘に破れ、コクピット内が爆炎に包まれる。

もう助からない事を悟りながら、それでももがくように目の前のモニターに映るACに手を伸ばす。

 

「コールサインが欲しかったなぁ...」

 

かつて自分が憧れたAC部隊を思い浮かべる。

伸ばした手は何もつかむことはなく、そして自らの体も炎に包まれた...

 

...

 

...

 

...

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

爆炎によって真っ白になった視界。

焼ける体。激痛。

それらによって出た叫びは爆発する機体にかき消されることは...無かった。

 

「あれ?え?は!?」

 

気がつくとベットの上。

外からは優しい陽の光が差し込み、鳥のさえずりが聞こえ、朝の訪れを伝えている。

 

「へ...?ゆ...め...?」

 

さっきまでの戦闘が噓のように。戦場から離れ、日常に返ってきたかのように。

寝起きのせいか体が重いがどうにか自分の腕を見る。焼けた跡はない。怪我の形跡も...

ここで自分の身の違和感に気づく。

 

白い。腕が白いのだ。

真っ白というわけではない、色白な肌になっている。

自分は訓練の関係で肌は訓練生の中でも焼けている方だったはず。

それがまるでこれまで一切日光を浴びてこなかったかのような綺麗な色白さ。

 

腕の細さも異様だ。鍛え上げた筋肉はどこへやら、簡単にへし折れてしまいそうな細さだ。

 

これではまるで少女...

 

「少女!?あれっ声ェ!!!???」

 

甲高い声が響く。よくよく聞くと自分の声ではない可愛らしい声が自分から出ている。

慌ててベットから飛び起きて自分の姿を見る。

明らかに自分の趣味じゃない可愛らしいパジャマ姿、そして脚部を見ることを困難にさせている上半身の二つの大きな膨らみ。

近くにあった手鏡を手に取る。そこにうつるのは長い黒髪が綺麗な少女の姿。

頭のてっぺんには天使の輪っかのような光が浮かんでいる。

 

「噓...だろ...?まだ夢を...?」

 

鏡に移る少女の顔が青くなっていく。動揺で手鏡が手から滑り落ちる。

慌てて拾おうとするがその前にある思考がよぎる...

 

(ここどこだ...!?)

 

自分の姿が異様な事に困惑しすぎて気付かなかったが、自分が今いる部屋も知らない場所だ。

見知らぬ壁、見知らぬ家財道具、見知らぬベット...

学生時代を思い出しそうな勉強机の上には漫画に小説、見知らぬ可愛らしいキャラクターのグッズ...まるで女学生の自室のような...

グッズにまぎれて拳銃とその弾丸らしきものが置かれており異彩を放っていたがそれを気にする余裕はなかった。

 

徐に、机の上からカード状の物が落ちる。

よく見ると学生証のようだ。

『ミレニアムサイエンススクール学生証』と書かれた学生証に鏡で見た自分の顔と同じ証明写真が貼られている。

名前は...

 

大豊(ダーフォン)!?...いや違うな、この名前は...」

 

大豊(おおとよ) ココ』

と名前の欄にそう記載されている。学年欄を見るに1年生であるようだ。

 

今の自分と同じ姿をした証明写真の張られた学生証。

 

自分は学生になったのか?

ルビコンで大豊の訓練生でテスターACを運ぶ任務を任されていた【自分】はどうなった!?

ここはどこだ!?ミレニアムってなんだ!?自分の身に何が起こっているんだ!?

 

「俺は...!?ここは...!?ルビコンじゃない...!?何が...起こって...!?」

 

この状況を一切理解することができない。混乱に混乱が重なり、思考が徐々に定まらなくなっていく。

そして頭痛のような痛みが頭を襲い、体が重くなり、そのまま意識が遠のいていくような感覚が襲う。

そのまま地面に倒れ意識を手放す。

最後に見えた光景は今の自分の姿に似た少女らしき人物が慌てている様子だった。

 

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「はい...そうです...わかりました。とりあえず意識が戻るのを待ちます。」

 

「やっほ~カリン!!リーダーは何て言ってた!?」

 

褐色で長い黒髪のカリンと呼ばれた少女がスマホをメイド服にしまい込む。

そのアスナの名を呼んだアッシュグレーの長髪をなびかせた同様にメイド服の少女がニコニコしながらスキップしてアスナに近づく。

 

「意識が戻るまで待機だそうですアスナ先輩」

 

「やっぱりそうなっちゃうかぁ~、ま、いいんだけど!新人ちゃんの寝顔も拝めたし!」

 

アスナと呼ばれた少女はニコニコとした表情のままウキウキとした様子でアサルトライフルをくるくる回している。

それを見てカリンは自分より大きいライフル銃を杖代わりに眺めている。

 

「ご機嫌な事で...」

 

「そりゃあそうでしょ!!」

 

カリンがやれやれと言った表情をしている中、目を輝かせるアスナ。

 

「だってC&Cに新人、『コールサイン05』の娘が来る事になったんだから!!後輩がふえるんだよ!?」

 

「...その新人が自室で意識不明で倒れていたってなって大騒ぎしてるんですよ...」

 

カリンがどこからともなく取り出したファイルに目を通す。

 

「大豊ココ...C&C配属初日にやってくれるな...」

 

『○月×日 C&C配属 大豊ココ コールサイン05(ゼロファイブ)』

 

カリンら資料に目を通しながら溜息をついた。

 

--------------------------------------------------------------------------------------------------

「...はい...ですので......生には...えぇ、流石に....」

 

誰かの話し声で目が覚める。

またもや知らない天井だ。薬品の香りから医務室か何かなのだろうか。周りはカーテンで仕切られていて外の様子は見えなかった。

 

やっぱり悪い夢を見ていた、奇跡的に爆発するACから救出されたのだ...と考えたかったが視点を下に向けるとやはりさっき見た男には無い胸部の大きな二つの膨らみが見えた。

 

思わず溜息をつくとカーテンの向こう側聞こえていた声の主がそれに気づいた様でカーテンがゆっくりと開かれる。

 

「気がつきましたか?」

 

ピンク髪に学生服の様な看護師の様な、どちらの要素も取り込んだ様な格好の少女が開いたカーテンから姿を見せた。

頭には鏡で見た自分と同じ天使の輪っかの様な物、そして背中には羽が生えているのが異様さを放っている。

 

「...天使?」

 

「えっ!?...もしかしてまだ意識が朦朧としているのでは...」

 

うっかり思ったことをそのまま口に出してしまい目の前の少女を困惑させてしまった。

困惑しているのがパタパタと羽の動きに出ている...飾りでは無い様だ。

 

「す、すいません...ちょっと今の状況に混乱してまして...」

 

「そうでしたか。無理もありませんね...意識を失って、気がつくと知らない天井に知らないベットなんて状況はあまり無いでしょうし...」

 

それらしい言い訳で乗り切れた様だ。

 

「自己紹介がまだでしたね。トリニティ学園、救護騎士団所属の鷲見セリナと申します。」

 

「トリニティ...?」

 

「あ、所属は確かにトリニティなんですけど、今日はミレニアムの医療施設にボランティアで来ていまして...」

 

セリナと名乗った少女からはトリニティ学園というまた違った学園名が出てきた。救護騎士団という組織は名前的に救護活動を行う医師の組織なのだろうか。

正直現状何が起こっているのかわからない中新たな情報に頭が痛くなる。

 

「大豊ココさん、貴方は寮の自室で錯乱して倒れたと寮の生徒さんから連絡があり、こちらの医務室に運ばれたんです。」

 

「...」

 

セリナは自分を見てはっきりと学生証に記載されていた名前を呼んだ。

つまり今の自分はルビコンで大豊所属の訓練生では無く『知らない学園で学園に所属する女生徒』になってしまっているという事で間違い無いのだろう。

自分が知る限り様々な星に人は移り住んでいるといえど天使の輪っかをつけた人類なんて聞いた事もないしそんなインプラントが開発されたなんて話も聞いた事がない。

おそらくここらルビコンではないし、自分の知らない『異世界』というやつなんだろう。

 

(なんてこった...こんなの漫画かアニメでしか見た事無い状況だぞ!?)

 

なんかもう色々混乱要素が多すぎて逆に冷静になってくる。

 

「あの〜...黙り込んでしまっていますけど大丈夫ですか?どこか痛んだりしています?」

 

セリナがこちらの顔を覗き込む様に見ながら声をかける。声や表情から心配の色が見える。

訓練生時代に医務室にいた医師や看護師も良くこんな感じに患者に向き合ってた事を思い出す。

 

しかし今はその時よりもよっぽど状況は深刻だ。

今すぐにでも現状を全て説明したいところだが

『自分は貴方達とは違う世界の住人で、男だったが気が付いたら少女になっていた』

なんて説明して信じてもらえる気がしない。

精神が錯乱してるとしか思われない気がするし、最悪精神科的な施設に監禁されそうな気がする。

少なくともルビコンでそんな話すれば速攻で星外に追い出されるだろう。

だが今いる世界のことが何もわからないのも現状であり、これをどうにかする必要があった。

 

「あの、すいません...」

 

「何でしょう?」

 

「実は...自分が何で倒れたのかわからなくて」

 

「...なるほど」

 

「自分が誰なのかも思い...出せないんです...」

 

「ふむ...なるほd...えっ?」

 

セリナが綺麗な二度見でこちらを見る。

現状自分の事もこの世界の事も何一つわからないのは事実だ。嘘は言っていない。

 

「辛うじて学生証から名前は確認できたんですけど...」

 

「確認って...何も思い出せないんですか?」

 

目の前の少女の表情が変わる。

医療従事者としてのスイッチが入ったのだろうか。善良で優しげな表情が少々険しくなる。

 

「...すいません」

 

「あ、謝らないでください!!貴方のせいではないんですよ!...でもどうしてこんな事になってしまったんでしょうか...」

 

セリナはまるで我が身に起きた事の様に考え込み、カルテの内容を読み返し始めた。

ルビコンでは珍しい、善良で真っ当な医療従事者なんだと分かると少々申し訳無さが出てきた。

 

「...心配して見にくれば記憶喪失だぁ?プレッシャーにでも負けたんじゃねぇだろうな!?」

 

唐突にセリナの後ろから明らかに機嫌の悪そうな怒鳴り声に近い声が飛び込んできた。

セリナの後ろからセリナより小柄なオレンジ髪の少女が顔を覗かせる。メイド服らしき衣服の上にスカジャンという奇抜な格好に両手にサブマシンガンを手にして不機嫌そうな表情から明らかな『ヤバさ』を感じ取ることができた。

 

「ね、ネルさん!?患者はまだ意識を取り戻したばかりなんです!!まだ面会は...」

 

「ウルせぇ!!元々な、今頃この『新人』を迎え入れて依頼に向かうところが...自室で意識を失ってた上に記憶まで失ってるだと?...ふざけんじゃねぇ!!お陰で依頼はお流れにするしか無くなった!!コイツはな、『C&C』に配属初日に泥を塗ったんだよ!!!」

 

「...」

 

ネルと呼ばれた少女の怒号にあまりの勢いにセリナも何も言う事ができない様だ。

どうやら今の自分は、今日新しい組織に配属されその活動に参加するはずだった。

それが自分が倒れた事により組織の活動が行えず...それをネルは怒っている、そんな状況か。

 

怒りの理由はわかる。

しかしこっちもこっちで訳の分からない事が起きているのだ。色々と勘弁してほしい。

 

「ケッ、言うこと無しかよ。お前にC&Cを名乗る資格は無ェ...そもそも私は新人なんて迎える気なかったんだよ。それを先生はよぉ...」

 

こちらに吐き捨てる様に言い放った後、ブツブツと言いながら部屋を出ていくネル。

 

「ネルさん...気持ちはわかりますが患者相手にそこまで言わなくても...大丈夫ですか?」

 

「はい...問題ないです。」

 

まるで嵐が過ぎ去ったかのような感覚。

恐らくそれはセリナの方が感じていただろうが。

 

「あまり気にしないでくださいね。とりあえず今は休んでいてください。記憶の方は後々対応していきましょう。私は別の医務室に向かいます。他の患者さんに対応していますので何かあればベットのコールボタンから呼んでくださいね。」

 

「わかりました、ありがとうございます...」

 

セリナは優しい笑顔を向けるとそのままどこかに行ってしまった。

休んでてください。そう言われた物のさっきまで気を失っていたのだ、眠気もない。

ふとベッドの横に目を向けると小さなカバンが置かれていた。自分の私物だろうか。

開けてみると未開封の小さな封筒とスマホ、後は財布らしき物と、自分の名前を確認したあの学生証があった。

 

スマホを取り出してみる。

スマホは運のいい事に指紋認証でロックが解除できた。ネットにも繋がっている為情報収集もできそうだ。

 

スマホを置き、封筒を手に取る。

封筒には学生証にあったミレニアムの紋章とその横にはある組織名が記載されていた。

 

「...?」

 

『シャーレ』と言う組織が何なのかは分からないが、学園の紋章の横に書かれる以上、何か大きな組織なのは察する事ができた。

 

封筒を開けてみると書類と学生証と似た身分証明書が出てきた。

書類には小難しい事が書かれていたが要約すると『ミレニアム学園メイド部への配属を命じる』とミレニアムの『セミナー』と呼ばれる生徒会と封筒にも名前があったシャーレという組織からの指示書だった。

 

「メイド部って...」

 

思わず口に出る。

自分が学生だった頃にそんな名前の部活なんてなかったし、大豊社内でそんな話を出せばそういう夜の店と勘違いされそうだ。

 

ふとネルと呼ばれた少女のことを思い出す。

確かスカジャンの印象が強かったがその下に着ていたのはメイド服だったはず。

そしてネルは『C&C』という組織名を口にしていた上に彼女の手にはサブマシンガンが握られていた。

 

メイド部っていうのは名前だけでもしかしてとんでもないところだったりするのだろうか。

 

書類を封筒に戻し身分証の様なものに目を通す。

たしかに『Cleaning&Clearing』と記載がある。これを略して『C&C』と呼称するのだろう。

だが身分証には学生証と同様の自分の顔写真が貼られているが、名前の記載がない。

代わりにあったのは

 

「コールサイン...『05』...」

 

読み上げてからその身分証をベットの上に落とし天を仰ぐ。

 

あぁ神様。

たしかにルビコンでコールサインが欲しかったと言いました。

ですがあれは大豊の協力会社のベイラムの専属部隊『レッドガン』に配属したかったのであって、知らない世界で少女にされて変な組織に配属されてまで欲しかったわけではないんです...

 

「なんてこった...」

 

大豊所属の訓練生、もとい大豊ココの絞り出す様なか細い声は静かに医務室に響くのだった。

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