「あー、別に何かをしてた訳じゃない。暇だから神の目でも貰えねえかと思って瞑想してんだ」
「でも瞑想したら神の目が貰える訳じゃ」
「黙れ!貰えるかもしれねえだろ!くそが!」
こっちは次の転生の時の手札は増やしておきたいんだよ。
「おお!?いきなりどうした!?」
「全く、まあ良いわ。それで兄ちゃん、あんたは?」
「俺か?俺は荒滝一斗!荒瀧派の親分だぜ!?知らないのか!?」
「………あー、あんたが噂の。まあ聞いたことはあるぜ。でもすまんね。俺は稲妻の情勢には疎いんだ」
「そうだったのか、それであんた何でこんな所いるんだ?」
「あ?あー、まあ暇だからな。散歩みてえなもんだよ。兄ちゃんは違うのか?」
別に会ったところで困らないし害はない。しかも純粋だからな。こいつは仲良くなっておいて損はないか?
「俺も、……まあ似たようなもんだな」
「そうかそうか。なら折角だから付き合ってくれ」
「付き合う?」
「最近体が鈍っちまって仕方ねえ。神の目持ってんだ。行ける口だろ?」
構えるのは名無しの剣。この世界で作り出された何の変哲もない物だ。無名だからこそのカモフラージュ。折角の機会だ。練習相手には丁度良い。
「良いぜえ!手加減はしねえからな!」
「ああ、これからよろしくな!荒瀧の兄ちゃん!」
何事もなく、平和な日常が続いている。俺は今確かに笑えているだろう。
◆◆◆
「お主、八重堂に作品を投稿してみぬか?」
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)(汚い)
この平和な日常を、終わらせに来た!(片腕無いなっとるね)
やめましょうよお!(俺の)命がもったいない!
「御断りします」
作品を、投稿?黒歴史を増やせと?この年齢になってまで俺に苦しめと?ふざけやがってえ!
「何故じゃ?」
「俳句を、読めと?」
「俳句?」
なるほどな。この人はどうしても俺を殺したいらしい。
よろしいならば戦争だ。
「というかどうしたのですか藪から棒に」
「お主最近暇をしておろう?今八重堂は人手、と言っても作者が足らぬ。ひっと作が無いのじゃ。そこでお主の出番という訳じゃな」
「そんな学は私にはございません。そもそもそのようなものを作り出す場合は適正が必用でしょう。素人が作った物は見るに堪えません。嫌悪や羞恥が襲う」
「………そこまで分かっておるのなら十分じゃろう?」
「それでもなおそう言った物しか作れない者も居るのです。そんなに言うのならばどうぞご自分でお書き下さい」
そうそう。てめえ作者でもあるんだから自分で書けや。こっちは念の修行と風呂作りと今日の献立を考えるので忙しいんだ。主婦の大変さを知れ。殺○すぞ(隠さない勇気)
「ふむ、そこまで言うのならやめておこうかのう。ところでじゃ、最近旅人が───」
「成るほ───」
とまあこんな会話を何回かこの人とはしているが、何か最近お悩み相談になってない?正直この人と関わってると色々危ないから嫌なんだけどなあ。
そう、つまりこういう状況。そら来たぞ。
「宮司様、参拝者がいらっしゃいましたよ」
「む、そうかそうか。お主相変わらず良く分かるのう」
「ははっ、私これでも狩人なんで」
あの苛まれるような終わらない悪夢の中で俺は狩人だったのだ。啓蒙が低くてもカインハーストでなくても、俺はただひたすらに狩人だった。狩人ならば気配ぐらい見切れる。上位者を越えんとするならば尚更な。
あるいはあの悪夢の中で学んだのかもしれない。上位者とは、特異な者とは、啓蒙と冒涜とは、自信がここまでの転生を繰り返して狂わないのはそれ故なのかもしれない。
人の命を大切に思い、しかし思考の片隅に追いやれる自分は狩人だからなのか。それとも………いや幾度もあんな世界は経験したのだ。これを考えるのは今更過ぎるな。
何があっても豚は許さん。
「それでは私はこれで」
「遠慮はいらぬぞ?妾の知り合いに文句は言わせぬでな」
「お相手を見てから言って下さい。九条は怖いのです。では」
そうしていつの間にか姿を消していくのはいつも通り。
八重神子は思う。この謎は知るべきでは無いのだと。知らなくて良いこともこの世にはあると。
時折見せる諦めたよう彼の目は、おぞましい星空を写しているから。
彼は未だその身に内包しているのだ。ヤーナムの悪夢を、サイレントヒルの霧と幻を、地下世界のケツイを、旧き神格とその星空を。
使用出来ずとも漏れ出す物もある。狂気と血にまみれた世界で得た物は決して小さくはないのだ。
◆◆◆
「プハア、今日も良いペンキ」
時間は過ぎるもので、俺は今正に平穏を手に入れていた。そう、何と狛荷屋に就職出来たのだ!僥倖!圧倒的僥倖!いやあ素晴らしいね。
もうお気づきだろう。鎖国令は既に解かれた。そして俺は戸籍を、身分を手に入れた。
まあつまり完全な平和を手に入れたのだ。安心して社畜として励める。今日は初仕事だ。早朝からじゃないのかと思うが初仕事だから緩めに、だそうだ。ありがてえ!ありがてえ!
住処もしっかりと手に入れたので俺はすっかりこの生活に馴染んでいる。旅人なんかは今何をしているのか。もしかしたらもうスメールかもしれないな。
スメールは……まあ関わりたくないな。言ってしまえばあの国のストーリーを俺は忘れているのだ。俺は自分に記憶保護の魔法を掛けてはいるが、それを開発したのは最近*1なのだ。それ以上前の話は抜け落ちていることもある。
全てではないが、スメールは所々抜けている。本筋は分かっても細かいところが定かじゃない。そんな状態で巻き込まれたら堪ったものじゃない、というのが持論だ。
さて、初出勤なので早めに出ようと支度を始める。基本プライベートでは地味な感じだが、仕事じゃそうはいかない。身なりやマナーに気を付けていきたい。これでも俺は真面目なのだ。礼節はわきまえている。
それなりに動きやすい服装に着替え髪を少しセットする。さて、行こう。
「おはようございます!今日から宜しくお願いします!」
「おはよう、元気があって良いねえ。じゃあ今日は先輩について回って貰うよ。綺良々ちゃーん」
「はーい、あれ?この人は……?」
「今日から入る新人の田中君だ。先ずは先輩について貰おうと思ってね。という訳で今日は頼めるかい?」
「成る程、分かりました!綺良々です、よろしくね!」
「田中です、宜しくお願いします!」
何か派手っぽい服装の人だなあ。うーん、あ、確かプレイアブルキャラに居たか?あー、分からん。やっぱ稲妻以降の記憶が定かじゃねえな。まあ良いさ、危険人物じゃないなら知らない方が良い。その方が対人として健全だ。
てかあれって尻尾だよな?二つの尻尾、猫の足………猫又かな。八重神子もそうだし、稲妻なら妖怪ぐらいいるか。しかも神の目かあ。絶対プレイアブルだな。俺が知らねえか忘れたか、どっちなのかはもう分からねえな。
「ねえ」
「はい、どうしました?」
「もしかしてさ、神子様と知り合いだったりする?」
「それは……八重宮司様のことですか?」
「うん、何回か見たことあるような気がして……」
「知り合い……そうですね。あの方とは以前から話すことがあります。綺良々先輩もですか?」
「うーん、私にとっては凄い方かな」
「凄い?」
まあ確かに凄くはあるが、それ以上に性悪感が否めない狐としか思えないぞ?
「うん、私って猫又っていう妖怪なんだ。神子様はそれはもう凄い大妖狐なんだよ。だから私にとっては憧れに近いかも」
「成る程。憧れですか。何か先輩はかっこいいですね」
「かっこいい?」
「ええ。憧れがあってそれに進んでる人ってかっこよくありませんか?」
「うーん、そっか。ありがとう。それじゃ今日は」
配達表には何個か届ける所が書かれている。成る程これからはここを見て動く訳ね。
「まずは神里家かな。ついてきて!」
「はい、お願いします!」
彼女を背を俺はてきとうな速さで追いかける。これ配達ってのが難しいよな。梱包具合によっては最悪の事態もありそうだよなあ。運ぶ時になったらちょっと考えるか。
◆◆◆
「はあー、そろそろお昼にしよっか」
「分かりました」
「どこか食べに行く?それともお弁当持ってきた?」
「あー、先輩はどうするんです?」
「私は今日は弁当用意してないんだよね。何処か食べに行こうかな」
「じゃあ、ご一緒して良いですか?」
女性ってのがネックだが……まあ先輩と仲良くなっておいて損はない。コミュニケーションが苦手なら愛想良く、出過ぎた真似をしないのも重要だが顔を覚えて貰うのも重要だ。
本当に、世の中人間関係が物を言う。最後の最後で何度裏切られたことか。愛想良くなければ世界を救ったって石と不満を投げられるだけだしな。俺は詳しいんだ。
「うん、じゃあ行こう!」
「はい」
ついたのはそこら辺に並ぶ屋台の一つ。どうやら天ぷら屋らしい。猫なのに熱い物は大丈夫なのかという疑問が残るがまあ無視しよう。昼から天ぷらなんて豪勢だなあ。稲妻は良いねえ。何でも屋台がある。ここは楽園だったんや………。この李白の目を持ってしても……
「おっ、綺良々ちゃん!久し振りだねえ、今日はどうする?」
「うん、お久し振りです!私は海老とイカで!田中君は…」
「レンコンと玉ねぎいけますか?」
「あいよっ!それで二人はどういう関係なんだい?」
「田中君は今日入った新人なんです!」
「これからよろしくお願いします、大将」
「おうっ!………よし、お待ち!」
出てきたのは黄金色の衣を纏った野菜達。いやあ良いねえ。塩や醤油を掛けて食べれば最高だろう。
早速玉ねぎから口に運ぶ。出てきた汁で体に幸せが満ちていく。ほのかな甘味と旨味が合わさりザクザクとした食感の衣。熱々だからこそ両立出来るのだ。染み出る油が美味しさに拍車をかけている。
「どうだい……って聞くまでも無かったな」
「え……あはは。いやあつい美味しくて」
「ふふっ、凄い笑顔!田中君天ぷら好きなんだね!」
「そりゃ美味しい物をたべるのは誰でも好きですから」
「おいおい嬉しいねえ」
美味い物は良い!これは真理だ。俺はどんなクソみてえな状況でも美味いの為に生きてきたまである。泥水啜ってでも生きるのはこの瞬間にありつきたいからだ。やっぱそう簡単にこの世界じゃ死ねないな。
「大将、もう一回玉ねぎと、貝類お願いします!」
「あいよ!」
そういえばと思い先輩の方の様子を伺う。あー、やっぱり猫舌なんだろう。結構念入りに冷ましてるわ。俺もまあまあ猫舌だがこの人はもっと酷いらしい。
「お待ち!」
「ありがとうございます」
ま、美味けりゃ何でも良いわ!
実はスチームバード社や狛荷屋が原作の時に出てきたことを田中は忘れています。こっちに来てからへー、そんなのあるんだあ。みたいな感じで知りました。