山頂の部分が氷雲でも覆われた雪山。吹雪吹きすさむドラゴンスパインは今日も厳しい自然として立ち塞がってくる。
「主人公の温度ゲージがあったのも納得の寒さだぜ」
暫く歩いていると随分と開けたら場所に出た。ここは………ああ!樹のある場所か。つまり、ヒルチャールの王者がいる可能性がある。この寒さの中あんな化物と対峙したくないが………
「ちっ、邪魔だぜ」
やはりいた。面倒だが、押し通るしかあるまい。しかし、この状態でいけるか?ここはまだ山の麓。人が来る可能性など十二分にあるだろう。そうなると流石に不味いかもしれない。ここは………うし、踏ん張り所だな。
「すぅー……ふぅー……」
焦るな。落ち着け。久々の大物だ。初手を間違えるなよ。確実にダメージを与えるんだ。硬い外郭の隙間を狙う。呼吸を整えて、体に酸素を回していく。相手の機微を見極める。絶対に隙の出来る瞬間がある筈だ。
……………来る!
ザッ!……ズシャッ!
グオオオオッ!!!
王者がその威容を解き放つ。大気は震え、紫雷が走る。その格を轟かせ、脅威が迫っていると体が理解した。
だがこれで傷は付けた。浅くはない筈だ。確実にダメージは入っている。しかし見誤るな。ここで耐久したところで出血死にはならないだろう。もっとダメージが必要だ。少なくともあと三撃。絶命が欲しいなら目や臓器、もしくはあの首を狙うべきだ。
久し振りだなこの感覚は。あの時とは違う。俺はもうハンターじゃないし、狩るのはリオレウスでもジンオウガでも、ましてや黒龍なんかでは決してない。
勿論、握る武器も纏う防具も違う。あのような超常の力も、洗練された極限的な切れ味や耐久力も無い。しかし、それは相手も同じ。
どんな大型モンスターよりも幾分か見劣りするその体。雷を纏ったとしても、それは決してあの嵐を、雷神を、金雷公を越えることはない。
ならば………
迫る巨体。唸る豪腕。煌めく紫電。
しかし、そう。
「ならば避けれない道理も無い!」
突進を意図的に紙一重で避ける。襲う雷を斬撃で払い、その巨体を一刀の下に斬り伏せる。
「うおおおお!!!」
斬る。叩き付けるのではなく、斬撃を行う。いつの日か聞いた。あの大剣豪の言葉が蘇る。
海賊は言った。
『知ってるか?人間は何も切らないことも出来るんだぜ』
あの日の敗北が、あの死が俺を先へと進めた。俺は鉄をも斬れる。信じろ、俺はこいつを斬ることも出来る!
ザンッ
王の首が転がり落ちる。勝負は決した。
「はあ、はあ……俺の、勝ちだ」
終わってみれば呆気ない。
たった二撃。やり合いは三合いにて終了。十秒程度の決着だ。だがそこには俺の過去が詰まっている。こいつの歩んできた道のりとこれから歩む未来が詰まっていた。
ヒルチャールの中には呪われたカーンルイア人もいる。元人間だからどうこうとか言うつもりも無いが、こいつがもしそうだったんだとしたら、それは痛ましい事でもある。
「すまんな」
もし俺が当時居たら、そんなことを思ってしまう。
転生先も転生する時間も俺は選べない。死んだら転生するが、生きていてもいつの間にか飛ばされていることもある。別れはいつも突然。しかし、行く先々で時代が違えば助けられた命もある。考えても仕方がないが、この現象は俺に多くの幸福と、それ以上の絶望を与えていた。
だが、生き死にもまた現実。この世は残酷で取り返しなどつきやしない。時間は止まらない。人生は待ってくれない。それでも俺は進む気は無いし、死の悲しさから立ち直ったりはしない。思い出してまた泣くのだ。きっとそれで、良いのだろう。無理に進む必要など、無い。
「お前もありがとうよ」
少々武骨に感じる剣を撫でる。斬魄刀のような意思を持つ物を知ってから自分の武器には感謝を感じるようになった。こいつはゲームで言うところの星三武器にも満たない。星二武器の銀の剣と言ったところだろうか?
量産品ではある。しかし良い品だ。しっかりと職人が手ずから打った物だ。それなりに強く出来ている。俺がこの世界に来て手に入れた相棒だ。逆にこれ以上ともなると高い。星5武器とか最早何処にあるのか不明だしな。
ま、それを見るのは今になる可能性もあるかもしれないが。
「そろそろ出てきたらどうです?」
白亜の申し子、無から有を生み出す男、西風騎士団のかかえる天才が俺を影から見ていた。
出てきたのは少しゲームとは違う顔。まあゲームから現実に変わったんだ。そういうこともある。しかし依然イケメン。俺が切望してやまない顔を彼は持っていた。
「まさか気付かれるとは思って無かったな」
「あんたは?」
一応聞いておく。全然知ってるけど初対面だからな。そこら辺はもう慣れている。
「僕の名前はアルベド。君は?」
「俺の名前は田中。それにしてもアルベド……ねえ。もしかしてあんた西風騎士団の?」
「ああ、それも知っているのか。僕は確かに西風騎士団に所属している研究者だ」
よし、自己紹介終了。後は流れに身を巻かせれば良いだろう。それにしても本当に力を使わないで良かった。アルベドとか本当に見られたらマズイからな。
ジンにでも報告されたらそれこそ危険分子として排除される可能性もある。九死に一生を得た気分だぜ。
「成る程、いやあ、これは申し訳無いことをしました。西風騎士団の方なら安心ですね」
「ああいや、僕も陰で見ていて怪しかったから良いよ。それにしてもどうして僕に気付いたんだい?」
そりゃあまあ
「雰囲気、ですかね?」
「雰囲気?成る程」
いや今の何処に納得する要素があるんだよ。まあ、本当に雰囲気としか言えないから何とも悲しい話しではあるんだが。
「それにしても君はこんなところで何をしていたんだい?」
「ああ、ドラゴンスパインを越えようと思いまして」
「へえ、この山を………まあさっきの実力を見るに、確かに無理ではないのかもしれないけどね」
いやまあさっきのはけっこう全力なんで一体一体やってると疲れるんすけどね。
「ありがとうございます。アルベドさんは……やはり研究の?」
「ああ、今は少しスケッチをしているんだ」
「成る程、スケッチですか。俺には絵心なんて無いので分かりませんが……物事の特徴なんかを捉えたりするのには使えたりするん、ですかね?」
「まあ、そうだね。色々絵に書くと分かりやすいんだ。………興味あるかい?」
「え?ええまあ。そりゃありますけど……」
うーんちょっと予想外の反応だな。まあこの顔と話してて不快になることなんて無いだろうからな。いやまあ嫉妬は全然するけども。こちとらイケメンとかなったことないから憧れるけどね。チー牛フェイスの切な悩みやね。
「じゃあ付いてきてくれるかい?僕の研究室に行こう」
え?まじ?
◆◆◆
男同士、密室、雪山の下、何も起きない筈も無く、とはならない。いや実際問題現実でそれは有り得んのよ。
別にボーイズラブは否定せんよ?俺も嗜むくらいはある。時にはアリだなあ程度には思ってるさ。好みでは無いけど時々読みたくなる感じのあれ。けどじゃあ自分もやりたいとはならんのよ。だってさ、あれはイケメン同士がやるのが良いのであって俺とイケメンとじゃ気持ち悪すぎて吐くわ。
……ま、俺じゃそういう雰囲気になることは一生ないだろう。勿論女性ともな。一生童貞ってのはツラいぜ。トホホ
ん?お!
「おお……これは!」
凄いなこりゃ!めちゃくちゃ上手い!成る程。これが天才ってやつか。本当にこういうのは何でも出来そうだなこの人。
描かれていたのは恐らくこの雪山から見たモンドだろう。色彩が綺麗に描かれたその風景は描いた者の才を物語っている。日の光も、森の風景も、何もかもが違和感なく描かれていた。
「お気に召したかい?」
「いや、そりゃもう!凄く綺麗ですね!」
いやぁ、良いもんをみせて貰った!こんなこと出来る人間が世の中にはいるんだな。俺も絵を描くのは好きだがこんなのには到底及ばない。比べるのも烏滸がましいってやつだな。
がしかし、見せて貰った手前申し訳ないが今の俺の手持ちじゃあお礼出来るものが無い。こんな世の中だ。現代日本とは違う。何かをして貰ったら返すのが普通だ。慈善事業程怖いことも無いからな。ここは出世払いか、若しくは何かを手伝わせて貰うとしようか。
「すいません、今渡せる物の持ち合わせが無くて、モラもまあ、少しならあるんですけど足りないというか……」
「それで?」
何か目がキラキラしてるような?いや気のせいか?この返答は間違えちゃいけないような気がする。ジンとは違う圧を感じる……。
「何か手伝えることとかありませんか?もしくはまた今度ここに来るので、その時に返すような形にしたいんです」
「分かった。じゃあちょっとやって欲しいことがあるんだけど」
「はい」
さて、要求系かあ。ちょっと怠いが、まあ甘んじて受け入れよう。ここに来れただけ幸運というものだ。そもそも何で案内して貰えたんだ?アルベドは基本的に人と距離を取る筈なんだが。
「君の剣技を見せてくれないか?」
「え、えぇ?」
どういうこと?まあ良いけども。
「そんなことならやりますけど、でもそれってどういう?」
「いや、少し剣を振ってくれるだけで良いんだ」
「オッケーです。じゃあ今やっちゃいます?」
「うん、宜しく」
何だか良く分からない要求だが、まあ本人が満足ならそれで良いか。ちょっと要領を得ないが、まあつまりは集中して振れば良いんだろう。剣で魅せる技術は持ち合わせてないし、そんな高尚な物でも無いんだけどなあ。元々こういうの苦手だけど、気合い入れるしかないだろう。
「こういうの、得意じゃないんで、まああんまり期待しないで下さいね?」
「ああ、分かった」
本当に分かってるんだろうか?まあ後はやるだけだ。集中しよう。
剣を振るのなんていつぶりだ?素振りなんてこっちに来てからやってなかった気がする。そんなことしてる暇も無かったんだ。訛ってるだろう。衰えてるだろう。しかし、命の取り合いにそんなことは通用するか?勝たねばならないのだから、生き残らねばならないのだから。ならば、今を全盛期にするんだ。簡単じゃない。しかしやるしかない。
思い出す全力。抉じ開ける新たな領域。これは殺しだ。流儀も型も存在しねえ。振るえ、その為に。
腕を上げて、下げた。空を切った感覚は何も掴めず、失敗したように思えてしまう。これで良かったのか?
まあ俺の気は晴れたが。少しはこういうのも悪くない。落ち着いて冷静にやるのなんて戦闘時は難しいからな。少し取り戻せたというか、成長した気がして良いわあ。
「どうでしたかアルベドさ、ん?……えーっとどうしたんです?」
何かめっちゃガンギマってるんだけどこの人。怖い!怖いって!え、何?何かした俺?今何を体験したのこの人は!誰か助けて!
「あ、アルベドさん?」
「あっ………す、すまない。少しぼーっとしていた。ありがとう、参考になったよ」
「さ、参考?あーまあ満足して戴けたなら良かったです。じゃ、じゃあ俺はこれで!」
もう怖いこの人!こんなところにいられるかっ!俺は部屋(そんなものはない)に戻らせてもらうっ!
「あっ!待ってくれ!」
「えっ、はい。どうしました?」
「その、良かったらまた見せてくれないかい?」
ええ……ほんともう怖いて……。
◆◆◆
「ふぅー、よし、ここら辺で良いか」
俺は宙に体を投げ出す。俺は遂にやりきった。
「さらばドラゴンスパイン!第三部完!」
いやあ、良いね!最高だ!
俺は遂にドラゴンスパインを踏破し、山をある程度の所まで降りた後風の翼でドラゴンスパインを離れていた。
「ばーか!ばーか!ざまあみろー!ドラゴンスパイン、敗北決定!ドラゴンスパインは、先の時代の敗北者じゃけえw」
いやこんなこと言ってると本当に赤犬に怒られそうだなー。あいつ恐かったもんなー。
ドラゴンスパイン旅人が謎を解き明かして挑む場所だ。色々なギミックがあるし逆にそれらを解く訳にもいかなかった。つまりお助けギミックを使う訳にはいかなかった。
まあ、神の目が無いと話しにならないんだけどな。ふざけやがって!旅人はどうしてあれらのギミックを使いこなせるんだ?
本当に最悪だった。俺が魔法を使えたりしなきゃ死んでる。それにあそこちょっとステージギミック的に殺意が高過ぎる。害悪ステージ過ぎるんだよなあ。ゲームの頃もイラついたわ。
今まで苦労させられたドラゴンスパインをやりきったことで俺はハイに近い状態だった。鬱憤を晴らすようなその姿は正にクソガキ。しかしここは空の上。飛行旅の真っ只中。見られる心配なんて万に一つも無いわけで。俺は解放感に酔しれていた。
◆◆◆
やっとたどり着いたぜ璃月港!
いやー良いねー!気分は上々↑↑~~フゥ~~↑↑
俺はもうターンとかしちゃいながら璃月港の門まで足を進めていった。
「はい、大丈夫です。ようこそ璃月港へ!」
「ありがとうございま~す」
いやー長かったあ。いや本当にここまで長かったぜ璃月港。何日もかけてここまで来たんだ。先ずは宿を取らねえとな!
──────
「………おい、さっきの人どっかで見たことないか?」
「ああ、俺もそう思ったんだが、まあ思い出せないなら気のせいだろ」
「そうか?いや、確かに見たことあるような……」
──────
いやあこの活気!懐かしいねえ!
それにしても、これからどうしようか?冷静に考えて何もやりたいことがない。出来れば狛荷屋に就職したいもんだが、まあ今は鎖国中だしなあ。
スチームバード新聞社なんかもありだが、記者のようなガッツや意地汚さを俺は持ってない。それに忙しいからな。却下だ。
「となると………あそこ……いやそれは無いな。まじで無い。一番無い。ないないない。やっぱ冒険者しか………いや?待てよ?」
そうだ!あそこがあるじゃねえか!そうとなったら善は急げだ!待ってろ党首!
璃月。契約の国での生活が始まった。
分かるだろう?みんな大好きあの方登場です!(噂を聞いただけのにわか)