難産だったけど や っ た ぜ 。
「……はあ、これだから海灯祭はムカつくぜ」
幾つもの光が空へと舞い、英雄を祀る為の祭典は佳境に入っている。そんな中、大衆酒場で一人の酒飲みがごちる。誰も彼もが幸せそうに笑う中、その男は一人だけ不満げに酒を呷っていた。
「む?……ほう、海灯祭に怒りがあるとは。少し、その話を聞かせてくれないか?」
「ああ……?」
喧騒に揉まれて霧散し、幸せに書き消されて誰の耳にも届かない筈の言葉。しかしそれは、偶然にも誰かに拾われ生き長らえた。酒飲みの男の対面にこれまた男が座る。
しかしこの二人に似通っている部分など男性という、人型の生命としての根幹のみだろう。身なりも様相も全く違うと言える二人。
片や凛とした雰囲気に端正な顔立ち。その気品を感じさせる振る舞いには、もはや崇高な何かを錯覚してしまう。
茶褐色の服装に身を包み、髪は黒に近い茶色に、毛先が琥珀色へと退色している。長い髪を一つに纏めているがこの璃月では珍しいことではない。
しかし一方はどうにも映えない。お世辞にも良いとは言えない顔。酒で潰れたその姿は酷く滑稽に見え、その仕草にはどこか疲れが見え隠れしている。身なりはそれなりに整えているようだがどうにもパッとしない。しかしどうやらそれが似合うような地味な呑んだくれだった。
「何の用です?」
「ここまで人々が幸せに過ごす中、こんな所で不満を漏らす者も珍しいだろう。少々気になって話を」
「ああ、そういうことではなく、貴方は往生堂の客卿でしょう?」
多少居住まいを正した男。しかし完全には酔いは抜けていない。赤らんだ顔だが正気を取り戻してもいるようで、少し胡乱げに眺めている。
「なんだ、俺を知っているのか」
「ええ、これでも往生堂の社員ですから。お会いしたことはありませんでしたが客卿の方には失礼の無いように、と申し付けられております」
「ふむ、なら尚更だ。取り敢えず聞かせてくれ」
「………いや、そんなことを言われても、しょうもない話ですから。貴方のような方に話せる内容では……分かりましたよ」
「ああ、そうしてくれると助かる」
どうやらこの二人は初対面でありながら関係があるらしい。しかし、その関係性故に酒飲みはあまり良い顔をしていない。やりずらそうな表情を浮かべながらまた酒を呷った。
「やはり祭りというのは楽しい物です。誰もがその雰囲気に当てられ気分を良くする。中には例外もおりますが、それでもここに来るような奴らは基本笑顔でしょう。そんな時だからこそ親しい人と仲良くなりたいものでしょうから」
「ああ、そうだろうな。ここから見渡す限り人と人とが笑い合う姿が多い」
「ええ、まあつまり、言ってしまえば羨ましいんですよ」
「羨ましい?」
「妬みや僻みです。恋仲の人間と愛し合える、素晴らしいことでは?」
「成る程な。ならお前も作れば良い」
何でもないように話す男に対し、酒飲みは話ずらそうに言葉を紡ぐ。内容が内容なだけに躊躇いが現れていた。
「あー、………人は中身と言いますが、しかしその中身を見るのにも関係性が必要だと私は思うんです。そしてその関係性を築くならある程度の時間を過ごす必要もあります。………それは私にとって、少々難しいんです」
「ならば諦めるか?」
「もう諦めたから悲しいんです………。それにしても、何故こんな所に?貴方と飲みたい方も多いのでは?」
「何、俺にもそれを選ぶ権利はあるというだけだ。時にはこうやって飲む酒も良いものだ」
「そうでしたか。けど、どうやら私は酔いが回ってしまったようで。ここらでお暇させていただきます」
千鳥足になりながら足に力を込めて立つ男。地面を確かめるかのように安定しない足取りで去っていく。
「ああ、分かった。確かに、あまり情緒を考えない飲み方は感心しないな」
「ええ、本当に。ああ、そうだ、一つだけ」
「どうした?」
去り行く背中を向けたまま、酒飲みは男へと声を発した。
「来年の海灯祭はあなたにとって、とても素晴らしいものとなるでしょう。ですからきっちりと、全てを終わらせてきて下さいね」
「何故それを……いや、お前は」
いつの間にか男は人混みに消えていた。声だけが響き、どうにも不思議な現象が続く。
「大丈夫です。私は全てを知り得てはいませんから」
この妄言は果たして、的中したと言えたのだろうか。しかしただの酒飲みに見えた男もまた何かを知っていたのだろう。
璃月の魔神オセル復活。実にその半年前の話だった。
◆◆◆
「まじかよ……」
この璃月に来てもう一年程経つだろうか。何も変わらず、何も起こらない。問題無く続く生活が日常になりつつあったある日、その報せが届いた。
「情報は確かか?」
「ああ、実際に城内で生活してる奴の話じゃ、騎士団と話す金髪の旅人を見たらしい」
モンドに金髪の旅人の来訪、そして龍災の発生。その情報が以前に雇った宝盗団から届いた。俺はすぐに璃月を飛び出しモンドに向かった。なりふり構わず力を使って、一時間もかからずにここまで到着していた。
ここはモンドの森にある小屋。ここで宝盗団の頭と一名の頭の回る団員に生活して貰っている。他の奴らは普通に働いて貰い情報収集兼資金調達を行っている。
「よし、ならこのまま生活を送ってくれ。ただし、無闇に危険に突っ込むなよ。恐らくだが、これからモンドは危険状態に入る」
「なに?おい、それは本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ、問題無い(妙なイケボ)」
「そ、そうかなら」
「大問題だ、一番良いのを頼む(1敗)」
「はあ?おい、それは本当に大丈夫なのか?」
ま、旅人が解決するし何とかなるっしょ(鼻ほじ)
「あまり良い状況とは言えないな。このまま行けばファデュイやアビスの思惑も入り交じる可能性がある。西風騎士団、ファデュイ、アビスの三つ巴は混沌を極め、天から現れる風魔龍、それを御さんとする風神の激突。つまり……」
「つ、つまり……?」
「モンドは滅亡する!!」
ΩΩΩ「「「な、なんだってー!!」」」
周りにいきなり出現した驚き顔の男達。本当どこから現れてるんだろうなこれ。
「どこから出てきやがったこいつら!?」
「おい!さっきから何かふざけてないか!」
「西風騎士団は、先の時代の敗北者じゃけえ(マグマは炎を焼き尽くす系大将)」
「あ、消えた」
「どうなってるんだ……なあ、本当にモンドが滅ぶのか?」
どうやら流石にふざけすぎたらしい。旅人が来てテンションが上がってしまったようだ。これは旅人が悪い。俺は悪くない(裸エプロン先輩リスペクト)。
いやしかし本当に来るのか。こう遂にって感じだな。まあ何もなければ俺には関係無い話ではあるんだが。
「いや、そんなことはない。それよりもだ、城の方で生活してる連中とかはもう良いかもな。このまま行けばこの生活も終わり。お前らの仕事も終了だ」
「そうか……これで終わりか」
「まあイレギュラーが起こったらそうはならないが……まあ大丈夫だろう。これが終わった後の生活は考えておけよ?」
「ああ、分かってる。モンドまで来れたんだ。このまま行けば身を立てることも出来るからな」
実際、恐らく何も起こらないだろう。俺自身そこまで重要キャラと関わっていない。何も変わらない筈だ。さっさと旅人には稲妻を解決して欲しいもんだ。
こいつらも良くやってくれた。これが終わった暁には餞別でもやろう。
「なあ、あんたは何でこんなことをしようと思ったんだ?」
「気になるか?」
「………ああ。これまでずっとあんたの目的が見えなかった。これに何の意味があるってんだ?」
別にこいつらなら話半分に聞き流すだろう。酒を飲みながらどうでも良いことを語る。だからきっと、こいつらには話してしまうだろう。
「なら、いつか話すさ。その頃にはきっと、もう全部終わってるだろうが、きっと面白い英雄譚さ」
「よく分からねえが、じゃあそのいつかを待ってるぜ」
「ああ、その時は酒でも飲もう。こういうのはそうであるべきだ」
「へえ、そりゃ美味そうだ」
そうして時間は過ぎていった。翌日の仕事は上機嫌にこなせたので最高の1日だった気がする。旅人には114514点あげたいところだ。
因みに旅人は生えてる方だった。やりますねえ!
◆◆◆
「分かりました。少々お待ち下さい」
「ありがとうございます。白朮さん」
「いえいえ、医者として当然の行為ですから。それにあなたに来て貰うと助かるんです。七七が怯えませんから」
七七か。いやああの子はちょっと困る部分があるんだよな。俺としてはあの子を呼び捨てにするかちゃん付けするかで悩むんだよ。呼び捨てはなんか怖いし、ちゃん付けも犯罪臭がするというか……ま、現代の価値観とこっちのは違うんだから気にしなくて良いとは思うんだけどな。
「ああー、まあ堂主のあれは私にはどうにも出来ないですかね……。すいません」
「いえいえ、大丈夫です。それにしても、田中さんが来るなんて久しぶりですねえ」
この白朮は璃月の薬屋『不ト盧』の店主。結構善良な方だから信頼も高いし顔も良い。死が嫌いだから死について探求している頭の良い人だ。個人的には声に胡散臭さを感じてはいるが、まあ大丈夫だろう。
「ああ、実は一年前まで璃月を離れていたんですよ。少しモンドの方まで行ってたんです」
「ああ、成る程。モンドのお土産はそういう……最近になって帰って来たんですか」
「そうなんですよ。ちょっと色々ありまして。というか確かに帰って来てから不ト盧には寄ってなかったですね。白朮さんと会う機会は何度かありましたが」
「それだけ薬が必要でないということですから、それに越したことは無いでしょう」
「はは、確かに」
そう、この人とはもう何年も前から知り合いだ。まあ薬が必要な時にはここに来なきゃいけないから当たり前だが。璃月に帰って来てからも何度か会っている。多少は仲が良い程度で落ち着いている感じだな。
「そういえば、七七さんは今どこに?」
こうやって結局さん呼びになってしまうが、これもかえって変なんだよなあ。
「今は少し出払っています。必要な物がありまして」
「そうでしたか。うっかり堂主と出くわしたら、まあ御愁傷様ですね……」
そう、こんな時に限って胡桃も出掛けている。うーん、嫌な予感しかしねえな!
「彼女も七七と仲良くしようとしてくれているだけなので、あまり言うのも良くないですしね」
「それもそうですね。悪気が無い……と言ったら違うんでしょうが堂主ですしね。」
「あまり上司をそういう風に言うのは……」
「でも事実なんですよねえ」
「「はははっ」」
「すいません、白朮さんはいらっしゃいますか?……え」
む、誰か来たみたいだ。声からして女性だが、どっかで聞いたような……?まま、ええやろ別に。
「あっ、じゃあそろそろ」
「ええ、こちら薬になります。説明書もこちらに。ありがとうございました」
「はい、また来ます」
警戒を緩めていた。白朮に警戒を読み取られたら困るから、自然体でいようと努めた。数分だから、不ト盧だから、そして、
その思考は、全てにおいて間違いだった。
決定的に、俺は間違えた。
「あ」
夕日のような双眸が俺を見ている。
「な、なんで」
彼女の声が酷く明瞭に響いている。
「…………」
青い髪が風に揺られて靡いていた。
「戻ってきてたんですか、田中さん」
甘雨、考えうる限り最悪の状況がそこに映っていた。
いやあ、熱が切れてしまいました。まあ頑張って参ります!