Rusted Dáinsleif   作:暁真

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勢いで書きました。


ヘイロー無しと武器商人

「……おい……ぼけて……のか?……ーい!」

 

―――――至極不快なことに、私は毎日夢を見る。

毎日が酷く輝いて見えたあの時期、何でもできると驕っていたあの時期。

 

「……っと起きた。……さっさと……」

 

 どうせなら覚めないでと願えど、この夢は何れ覚めてしまう。

悪戯に希望を持たせるのならいっそ最初から摘み取ってしまえばいいのに、現実は残酷なものだ。

 

「……!……に飯!……!」

 

 ああ、もし一つ願いが叶うのであればもうこれ以上夢を見せないでくれ。縋ってしまう希望を与えないでくれ。

このまま続くのであれば、私は……

 

 

 

 ……いや、どうでもいいか。

どうせ私は戻れない。過去にも、正常にも。

あの日、あの時。私は「狂いきって」しまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 10:30、いつもより約2時間ほど遅れての起床。昔ならこんな時間に起きれば遅刻どころではないと慌てて出発の準備をするところだろうか。……学園はもう閉鎖が決定したのだから、気にすることでもないのだが。

 

「今日の取引先は……ああ、あそこか。ならいつも通りの時間に……暴動?」

 

 11:00、今日の予定を確認しつつネット回線をハッキングして情報収集。……どうも矯正局を脱走した一部の生徒が取引先の近くで暴動を起こしているらしい。連邦生徒会のことだからすぐに鎮圧されるだろうと思ったが、そういえば今の生徒会は会長が行方不明になった所為で大混乱に陥っていることを思い出す。……アテにはならなそうだ、自分でどうにかするしかあるまい。

 

「……最高速で向かえば30分。予定時刻は2:30。……久しぶりに身体を動かすか」

 

 回線を閉じ、少し伸びをして思考を切り替える。たかが不良生徒の集まりなら烏合の衆。自分一人で何とかなるだろう。忘れずに大事な商品をアタッシュケースに仕舞い、仕事着の黒いコートを羽織った私は仕事場である工房の扉を開けて地下へ向かう。

 

「……おはようグラニ。仕事の時間だ」

『おはようございますマイマスター。現在の時刻は11:07。マルチギミックアーセナル『ミズガルズ』及びオペレートシステム『Grani』、どちらも正常に稼働しています』

「今日の予定はデータの通り。ただ、近辺で暴動が起きてる。片付けるぞ」

『OK。戦闘モードへの切り替えはいつでも可能です』

「わかった。今日のルートはD.U3を使用。開いて」

 

 11:07、地下に格納された黒いバイク、ミズガルズに跨り、スリープ状態のサポートAIを叩き起こす。異常がないことを確認した後アタッシュケースを後部格納スペースに仕舞い、現地へ向かうために地下道のルートをハッキングしバイクのエンジンを吹かす。

 

『ルートD.U3、ハッキング完了。10分後に再閉鎖を行います。遅れないようにしてください』

「わかってる。……行くぞ」

 

 無機質なシステム音声の後モニターに表示された制限時間を確認しバイザーを展開。頭部をすっぽり覆いつくしたそれに各種情報を表示し、内部に埋め込まれるような形をしたハンドルを握り、思いっきりアクセルを握り込む。

11:09、重い金属音と共に開いた地下道への入り口をマフラーの轟音と共に駆け抜け、私は今日の「仕事場」へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見えた、あれが件の不良集団……?既に誰か応戦している……?」

『確認しました。制服から推定、ミレニアム、ゲヘナ、トリニティ、トリニティ、後一人は……不明です。ヘイローが存在しません』

「……なんで此処にいるんだそいつは、死ぬだろ」

『私にはわかりません、それはさておき、戦闘機構を起動しますか?』

「当然だ。さっさと片付けるぞ」

 

 11:39、目標地点に到着。既に交戦している生徒たちとその他一名を目視で確認するが想定内と判断。ハンドルに備え付けられた引き金を引き、ガコン、という固い音と共に横から縦へ向きを90°回転。同時にミズガルズの前方が開き、二門のガトリングが露出する。

 

「な、なんだあいつ!?」

「こっちに向かってくるよ!?あいつらの相手だけで精いっぱいなのに!」

「こ、こっちには戦車もある!たかがバイク乗り一人に……待ってガトリング!?」

 

「増援!?これじゃキリがない……!」

「いえ、あの砲門……どうやら不良集団に向けられています」

「あれは……たしか情報があったはず」

「味方……ということでよろしいんでしょうか」

 

 バイザーの集音機能で拾った声は大方私は不良集団の敵、という認識らしく、少なくとも誤射されることはないだろうと少し安心する。改めて変形したハンドルの引き金を握り、高速で接近しながら不良集団共に挨拶代わりのガトリング弾をお見舞いした。

 

「間に合わな……っ!?」

「なっ、数発貰っただけで!どんなかいぞぉ!?」

「ま、待って来ないで!?止まれぇ!」

 

 接敵するまでに構えていた数人を軽くあしらい、怯えて足がすくんだ者を思いっきり轢いて急停止し、飛んで行ったのを見ながら不良集団と応戦している生徒たちの間に割り込む。

 

「……」

 

 忘れずにバイザーのボイスチェンジャーを起動しながら右ハンドルを前に引きミズガルズの外部フレームを展開、備え付けられた複数の銃器の中から一番使い慣れたアサルトライフルを掴んで即座に威嚇射撃を行う。

 

「今すぐ静まるならこれ以上の攻撃は行わない。早く矯正局へ帰ることだな」

「何勝手にこの場を仕切ってんのよ!そもそも貴方一体何者!?」

「……ありました。キヴォトス都市伝説の1つ、黒いバイクを駆る謎の人物……」

「都市伝説!?実質何の情報にもなってないじゃないそれ!」

「都市伝説……?」

 

 

 即座にミレニアムの制服を着た青髪の生徒に突っ込まれるがまあ知ったことではない。こちらとしてはとっとと騒ぎを収めて仕事をしたいのだ。……にしても都市伝説とは、中々にこの姿は目撃されているのだな、もう少し隠密行動を心がけるべきか。

 

「そっちには何故居るかわからないヘイロー無しの人間が居る。早く帰るべきだな」

「生憎こちらにも事情があるのです、聞けない話ですね」

「そうか、どうなっても知らんぞ」

 

 一応の警告はさらりと断られたがまああいつが勝手に死ぬ分にはどうでもいい。昔なら身を案じていただろうが……まあ、うん。それはそれ、これはこれ。あの不良集団どもは威嚇射撃に怯むこともないし、とっとと片付けてしまおう。

 

「それで、ひとまずは味方、ということでよろしいのですね?」

「利害の一致だ。好きにしろ」

「わかりました、それでは」

 

 トリニティの……確か、あれは正義実現委員会だったか?の制服を着た生徒の質問にさっさと答え、再びハンドルの引き金を握ってアクセルを吹かし、不良集団にガトリングをバラ撒きながら突撃を行う。しかしたった数発貰っただけで戦闘不能とは思ったより柔い。これなら手早く終わりそうだ……ん?

 

「見えた!例の黒バイク!」

「照準構え、ってー!」

 

 ビルの前に陣取った戦車がこちらに砲塔を向けている、あれは確か……クルセイダー1型だったか?……うん、余裕だな、照準はブレてるし、停車位置は余りにも無防備だし、まるでなってない。そもそもミズガルズにまともに照準が合わせられると思っている時点で浅はかだ、とっとと終わらせてしまおう。

 

「ぜんっぜん当たらないんだけど!?」

「ワカモは何処に行った!?」

「マズいマズいマズい!?こっちに突進してくるよあいつぅ!」

 

 前方の雑兵どもは生徒たちに任せ、とっとと指揮を折るべく戦車に向かってアクセルを思いっきり踏み込む……おっと、このガトリングでも凹みはすれど貫通はしないか。腐っても戦車、丈夫なことだ。ならばこちらも相応の火力を使わせてもらうとしよう。

 

「グラニ、操縦は任せた」

『わかりました、オートパイロット、起動します』

 

「や、やっぱり戦車には手足もでな……待って、なにあれ!?」

「グレラン……にしては、でか……」

「全然照準が合わない!どんな改造してんだよあのバイク!」

 

 操縦をグラニに任せ再び外部フレームを展開。折りたたまれたグレネードランチャーを組み立て、弾頭を装填して慎重に狙いを定める。……とはいえそこまで慎重になる必要があるのだろうか。どうせ死にはしないのだ、何処に撃っても問題はあるまい、うん、ないな。

 

「照準合わせ、3,2,1……GO!」

「撃ち落とせ!どうにかしないとマズいぞ!?」

「そうは言われても装填が間に合わないよぉ!」

 

 バーカ、わざわざ装填が始まるタイミングを狙って撃ったんだこっちは。間に合う訳がなかろう。

射出したグレネードは綺麗に直撃、クルセイダーの装甲に大穴を開けた。欲を言えば面倒だし砲塔も破壊したかったが、まあ内部を狙えるだけでも充分だ。ランチャーをフレームに仕舞い、立ち上がってクルセイダー内部の生徒たちにアサルトライフルを構える。……見事に慌てふためいているな、ただの的だ。

 

「そ、装填!そうてんぅ!?」

「車長!そ、装填しなきゃ、んみぃっ!?」

 

「……呆気ないな」

『全員片付いたようです。オートパイロット、解除』

 

どうやら後ろも片付いたらしい。結局あのヘイロー無しは生きているのだろうか。死んでたら死んでたで後味は悪いが、まあ仕方ないことだと割り切ろう。

 

……

 

…………

 

なんだ、生きてたのか。随分と悪運が強いことで。折角だし挨拶くらいはしておくか。

 

「……悪運が強いな、ヘイロー無し」

「私にもちゃんと名前があるんだけどな……」

「どうせもう会うこともあるまい、ヘイロー無しで充分だ……この先に用があるんだろう?さっさと行け」

「……ありがとう」

 

なんだこいつ、ぶっきらぼうに接してるのに普通に会話をしてくる。余程人間が出来ているのか?……まあいいか。私の仕事はこれで終わりだ、とっととおさらばしよう。

 

「……あ、そうだ」

「なんだ」

 

離脱しようとしたところでヘイロー無しに呼び止められた、もうこれ以上用もないだろうに。

 

「……君の名前、教えてくれないかな」

 

なんだこいつ、もう会うことはないだろうって言ったよな?……まあいいか、どうせ会わないんだし、名前くらい。

 

「……はぁ」

「そうだな、私は……」

 

「ドヴェルグ」

「武器商人のドヴェルグだ、覚えなくていい」

 

「……うん。手伝ってくれてありがとう、ドヴェルグ」

 

「覚えなくていいと言っただろう。ではな」

 

 律儀に礼を言ってきた。……よっぽど人間が出来ているのだな、眩しいよ。

……現在時刻は12:05、余裕で間に合うな。昼食でも食べるか。

忘れずにハンドルを横に戻しガトリングを収納してから、私はその場を後にした。

 

『あの人間、解析しておきますか?』

「……そうだな、一応頼む」

『わかりました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から先に言えば、今回の取引もいつものようにトラブルなく終了した。正確に言えばトラブルになりかけたのを暴力で黙らせた、というのが正しいか。当日になって値引き交渉とか通るわけないだろ全く……

すっかり暗くなったD.Uシラトリ区を走りつつ、そういえばとヘイロー無しの解析をグラニに頼んでいたことを思い出した。

 

「グラニ、結局あのヘイロー無しについてわかったか?」

『はい、あの人物は連邦捜査部、『シャーレ』なる組織の顧問……通称『先生』だそうです』

「シャーレ?」

 

聞きなれない名前だ、連邦生徒会にそんな組織があったか?

 

『超法規的機関とのことで、キヴォトス内の全自治区における自由な行動が認められているとのこと』

「……馬鹿げてるな、ヴァルキューレ涙目だろ」

 

あのヘイロー無しがそんな権限を?笑い話にしても程があるだろう。

 

『具体的な活動は本日就任したばかりらしいのでわかりませんでした。ただ、シャーレは部員を学園問わず募集しているらしいですね』

「……逆に胡散臭いな、それ」

 

学園問わず?本当にバカげてる。超法規的機関にただの生徒を招く馬鹿など……

 

「……」

『どうしました?マイマスター』

「……いや、少し思いついたことがな」

 

ああ、そうだな。学園問わず、ということなら、乗ってやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、私は仕事着ではなく学生服に袖を通し、昨日と同じようにD.U.シラトリ区を訪れていた。

 結論から言えば、『シャーレ』は使える。私の夢、私の願望のために。あのお人好しのヘイロー無しの部下という立場は少々癪だが、それと引き換えに手に入るのが自治区内での自由な活動とくれば余裕で御釣りが来る。少なくとも無関係のまま、という選択肢はない。

 昨日クルセイダーを撃破した広場に立つビルを見上げる、どうもここが『シャーレ』とやらの本部らしい。(クルセイダーは綺麗に片付けられていた、当然か)申し訳程度の警備をパスし、ヘイロー無しがいるであろう部室へと足を進める。明かりは点いているし、多分いるのだろう。

 

「すいません、シャーレの部室はここで合っていますか?」

 

さも今日初めて来たかのように声を出して扉をノックし、恐らく業務中であろうヘイロー無しを呼ぶ。この時間帯ならそろそろ休憩といったところだろうか。

 

「はい、そうですけど……君は?」

 

予想通り、ヘイロー無しはすぐに扉を開け、私を出迎えた。随分と無防備なことだ、私がテロリストだったら大変なことになってたぞ。

 

「部員を募集している、ということなので、申し込みに来ました」

 

鞄から後はサインをするだけの書類を取り出し、ヘイロー無しに手渡す。記した名前はかつて捨てた本当の名前だが、バレるまでの繋ぎくらいにはなるだろう。

 

「『元』SRT特殊学園3年生、鞘野ユキです。これからよろしくお願いしますね」

 

私の目的のために、よろしく頼むよ、ヘイロー無し。

 

 

 

 

 




気が向いたら続きます。

『ドヴェルグ』
キヴォトスの裏社会でその名を轟かせる武器商人。金さえ払えばどんな相手にも望んだ通りの武器を拵える天才。都市伝説の黒いバイク乗りの正体。

「鞘野ユキ」
ドヴェルグがかつて捨てた名前、『シャーレ』に入部するにあたって都合よく再利用することにした。

番外編、いります?

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