『なあユキ、やっぱ私とお前の二人じゃあダメなのかな。チームって』
『……ダメだと思いますよ。此処のチームは基本小隊制、とのことですし。わざわざ私たちを公安局から引き抜いたとはいえそこまで自由にやれるわけないじゃないですか』
『えー、やってみなきゃわかんないだろ、公安局の時も二人でバディ組んでたんだし。というわけでちょっくら直談判してくるわ!』
『正気ですか先輩……先輩!?はあ……全くあの人は……』
『あちゃー、ついにバレちゃったな、SRT。まあ今までコッソリ動き過ぎてただけで何れお披露目はするとは思ってたけど』
『……まあ私たちの存在がバレてないだけマシじゃないです?初お披露目が引き抜かれた元公安局二人、ともなればヴァルキューレの信用にも関わりますし』
『……んー、表沙汰になった以上、私たちの事も敢えてバラしちゃってもいいんじゃないか?』
『はい?』
『しつこく嗅ぎ回られないようにWOLFの存在だけをバラすんだ、詳細は秘匿して。ドラマとかでも良くあるだろ?名前しか出ない特殊部隊ってやつ』
『……いつも変な所で頭が回りますね、先輩。武器の整備とかはからっきしだってのに』
『いーだろべつにー、お前がやったほうが早くて確実だしー』
『それはそうですが単独行動とか想定してください』
『はいはい、んじゃあ私はこれから会長サマに提案しに行くけど、ユキは?』
『一応同行します。先輩の事ですからどうせ失言するでしょうし』
『んだよそれ、嫌な信頼だなぁ……』
『……キ……』
『あい……連れ……撤……』
「……」
7:30、起床。……ああそうか、昨日は先生に指示されてそのまま直帰したんだったか。さっさと引継ぎ資料を生徒会に……
『マイマスター、見たところ気分が優れないようですが……』
「別に体調に異常はない、平気だ」
『いえ、そうではなく……』
『涙が流れています』
「……?」
指摘されて鏡を見ると、何故かそこにはグラニの言う通り少量ではあるが涙を流している私の顔が映っていた。
『……何か魘されていた様子はありませんが、夢に影響されたのでしょうか』
「夢……夢、か……」
……覚えていない、というよりは思い出せない。確かに何か見たはずなのだが、起きた瞬間には朧げになっていて何れ完全に記憶から消えてしまう。あの日から夢を見る時は毎回こうだ、今の今までまともに内容を覚えていた試しがない。
「……まあ、問題ないだろう。……そうだグラニ、少しいいか」
『何でしょう』
「知っての通りこれから先生は最低数週間、長ければ月を超える出張。つまりはその間の業務は全て私が捌き切らなければならない、当然武器商人ドヴェルグとして活動するのは無茶だ」
『元より1か月ほど前から活動は休止していますが、そこまでですか』
「書類仕事だけで済めばまだマシなんだが、たまに出張が入るからな……そこで、だグラニ」
「暫くの間、お前を『ドヴェルグ』にする」
『……なるほど、わかりました』
「頼むぞ」
それから数日後、件の補習授業部とやらの一次試験が行われた、とのことなのだが……
「で、見事に第一次学力試験とやらは一人を除いてギリギリどころか余裕で不合格、おまけに合宿でシャーレには少しの間帰れない、と」
『そうなるね、ちゃんと教えてはいるんだけど……』
「正直何度も何度も言われているのに未だに請求書の数字を漢数字ではなくアラビア数字で書いてしまう貴方のことですからこれくらいは覚悟していましたよ。というかなんですか2点って、最早それわざと手を抜いてるでしょう。必要なのは補習ではなくやる気を出させる方法では?」
『ねえさらっと酷くない?』
「最早恒例行事と認識していますが。で、連絡はそれだけですか?」
『それが……突然ナギサに呼ばれちゃって、私何かやらかしたかな……?』
「全員合格できなかった、という意味ではやらかしているでしょうね。……それはそれとして、何か裏がある、とは見ていいでしょう」
『裏?』
「はい、あれから何回も見返しているのですがやはり不自然に思えてならないのですよ。補習授業部という存在は」
『確かにわざわざ部活を作るっていうのはよくわからないけど……』
「ええ、そこなんです。普通補習というのは会議を経た上で該当生徒のみに追加授業を行う物です。わざわざ部活動を作ってまでやる物ではないのですよ。というか試験もやるなら追試部の方が正しいのでは?」
『なんか妙に詳しいね……』
「ええ、まあ……」
「SRTを1回留年してますから、私」
『……へっ?』
……おっと、そういえば言ってなかったな。まあ特に話すことでもなかったので話さなかっただけなのだが。……にしてもやっぱり不自然の塊だな、補習授業部とやら。
「まあそんなどうでもいい話はさっさと切り上げましょう。それでわざわざ部活動、それも先生を使ってまで『ちょちょちょちょちょ!』なんですか人が話をしている最中ですよ」
『どうでもよくないよその話!なんで今まで黙ってたのさ!?』
「なんでって、別にシャーレで活動する分には不必要な情報ですし、そもそもSRTは廃止が決定されましたから」
『違う、そこじゃなくて!』
「はい、なんでしょうか」
『……なんで、ユキみたいな優等生が留年したの?』
「……」
「……それに関してはまだお答えできかねます、そこまでプライベートを曝け出す仲でもないでしょう?」
『それはそうだけど……なんか、気になって……』
「なんかとは歯切れの悪いことを。子供みたいなことを言っても話しませんよ」
『……わかった。でもいつか聞かせてもらうからね』
「はいはいそうですね、私がその気になったら聞かせてあげますよ」
『子供みたいに一蹴された……』
「で、改めて補習授業部には裏があると見ていいという話ですが……流石にこれを話すと長くなるのでまた明日でよろしいでしょうか?」
『そうだね、そろそろ日も暮れ始めるし……ってそうだ、仕事は大丈夫なの?』
「大丈夫ですよ。なんとか定時までに本日消化分の90%は終わっています。問題は追いつきませんね、手が」
『……なるべく早めに皆を落第回避させれるよう、頑張るよ』
「そうなるといいですね、それでは一旦この辺で」
『うん、また明日連絡する。放課後までは暇だし』
「自分から言うんですかそれ羨ましいんですが、今からでも変わってあげましょうか?」
『流石に無理じゃないかなぁ……』
「冗談です、それでは」
……やっぱりきな臭いな、補習授業部。まるで落第させるために創設されたような……いや、先生の聞き伝手によると落第どころか退学だったか。普通赤点の生徒にそこまでやるものなのか……?
一旦落ち着いて考えようと椅子をデスクの反対側に回転させる……ん?今何かが突っかかった、よう、な……
「わぶっ!?」
ゴン、と鈍い音が一瞬した後、私は乗っていた椅子ごと派手に床に叩きつけられ、覆いかぶさるように大量の書類が宙を舞った。……面倒な作業が、増えた……
「ちょっとユキ、なんか派手な音が……?……し……書類の山の……下敷きになってる……」
「ひとまず助けます!待っててくださいね、ユキ!」
「ア、アリスちゃん……これ、そこまで重くないから……大丈夫、です……」
「どう見ても大丈夫に見えないんだけど!?」
「……やっぱりだめかもしれません……」
「で、案の定補習授業部には裏があったと。やっぱりというかなんというか、ここまでくると笑えてきますね」
『なんかもう、そういう星の元に生まれてきたのかもね、私……』
翌日、やっぱり補習授業部とやらには裏があったらしく。部活が始まるまでの時間に先生と情報を共有することになった。アビドス、ミレニアムに続いてこれとは、やはり先生は長期間の出張をすると何か大事に巻き込まれる運命にでもあるのか?
「にしても「エデン条約」に「裏切者」ですか」
『うん、どうも「エデン条約」締結を阻止したい誰かが居るらしくて、私に探してほしいって』
「……そういうことでしたか、シャーレの力を借りたいというのは。超法規的組織であることを上手く利用されましたね」
『してやられた……とは言いたくないけど、こればっかりは請け負ってしまった私も責任があるね』
「今回に限っては先生の非は引継ぎ書類を事前に作成しなかったこと以外ありませんし、責めるつもりはありませんよ。それで「裏切者」とやらの見当は付いているのですか?」
『いやぁ全く……そもそもその「裏切り者」が何をしたのかもわかってないし……』
「……んー、そうですね。其方で裏切者探しついでにトリニティで何が起きているのか少し探ってもらえませんか?」
『言われなくてもそうするつもりだったけど……アビドスの時みたいにそっちでも探るつもり?』
「の、予定です。結局先生が帰ってこない事にはこの人手不足が解消されることはありませんし、早く帰ってこれるのならばそれに越したことはないので」
『そうだね、わかった。……でも程々にしておいてよ?この前みたいに倒れたりしたら……』
「重々承知の上です。倒れない程度になんとか頑張ります」
『……そっか。なら私はこれで、合宿の準備があるからね』
「かわいい部員が血反吐を吐いて働いている最中に呑気に青春ですか、いいものですね」
『最後の最後に毒を吐かないでくれるかなぁ!』
「じゃあ今回の一件が終わったら休みをください。2日程」
『別に強制してるわけじゃないんだけど……まあいいか。じゃあね』
「はい、ではまた……裏切者、ですか」
先生との通信を終え、補習授業部内の「裏切者」とやらについて考えてみる。あの中の一人が……いや、単独とは言っていないな、二人以上も考えられる。少しリストを確認してみよう。
1:1年生、下江コハル
正義実現委員会に所属していたが、落第の危機のため補習授業部に編入。
性格は人見知りかつ強気。戦闘力は正義実現委員会の中でも下から数えた方が早い……
少なくともテロリストとしての適性は皆無だし、素行は元から真面目よりだったようだ。裏切者の可能性は低いとみていいだろう、次。
2:2年生、白洲アズサ
転校生、転校前の学校は不思議なことに詳細不明。
補習授業部活動初日、倉庫を占拠し籠城戦を繰り広げ最終的に正義実現委員会の手によって捕縛される。
尚2年生ではあるが1年生のカリキュラムを受けている……
……ここまで怪しい要素しかない奴は初めて見たな、裏切者の可能性は正直一番高いだろう、次。
3:2年生、浦和ハナコ
スクール水着で学園内を徘徊していたところを正義実現員会によって捕縛、拘禁される。
補習授業部内では他の部員たちに勉強を教えている姿が散見されるが、本人の第一次学力試験の成績は2点。
尚言動に少し問題あり……
……わざわざ低成績を取っているようにしか思えないな。裏切者ならば疑いを晴らすために高得点を取りに行きそうなものだが……可能性は低そうだ、次、ラスト。
4:2年生、阿慈谷ヒフミ
補習授業部部長。
ティーパーティーの桐藤ナギサから寵愛を受けており、次期ティーパーティー候補とも。
成績は可も不可もなく。先生のサポートという名目で部長に任命された模様。
これといって目立った記録、特徴無し……
先生のサポートとして派遣された以上、裏切者の可能性は皆……
「……いやまて、確か彼女は何処かで……あ」
思い出した、確か彼女はドヴェルグとして先生に情報を渡しに行ったとき一緒に居た……!
それに確か覆面水着団のメンバーでもあったはず、もしあれが巻き込まれたのではなく、計画的な犯行であったのなら……
……評価訂正、最優先監視対象に変更。逐一動向を先生に把握してもらうものとする。
ひとまずはこんなところだろうか、警戒すべきは白洲アズサと阿慈谷ヒフミ。恐らくはこのどちらか、もしくは両方が裏切者の可能性が高いだろう……となれば『私』のやるべきことは一つ。
「失礼、ちょっとトイレに」
「はいはい、いってらっしゃーい。ゆっくり行って来ても構わないよぉ~」
「じゃあ私も」
「シロコちゃんはもう少し書類終わらせてからかなぁ」
「グラニ、私です」
『マイマスター、現在時刻はシャーレでの業務中の筈ですが、何の御用でしょうか』
「私の代わりに『ドヴェルグ』として任せたいことがある」
「阿慈谷ヒフミ、及び白洲アズサ。この二人について探れ」
『イエス、マイマスター』
そういえばこの作品の先生は男性、女性のどちらでも解釈できるようにしています。読者のお好きなように設定ください。
番外編、いります?
-
いる
-
いらない
-
コラボとかしろ