「……ああ、終わりました、か」
なんとか目覚めた直後、シスターフッドの参戦により完全に形勢は逆転。聖園ミカ率いるアリウスの部隊はあっという間に制圧され、黒幕である聖園ミカの敗北……という形で今回の事件は幕を閉じた。……とはいっても、私が聖園ミカと対峙したのは1~2分程度で後は補習授業部とシスターフッドに任せ、やったのはアリウスの掃討だけなんだが。なんか目覚めてから睨みつけると相手が少し怯えるんだよな、ゾンビとでも思われているのだろうか。……まあいいか、ミカは補習授業部と何か話しているらしいし、今のうちにとっととバイクの様子を見なきゃな……
少しふらつく(多分今のは疲労と傷によるものだろう)身体を叩き起こし、派手に吹っ飛ばされたバイクの方へと向かう。ていうかなんだバイクを吹っ飛ばすって、しかもぶん投げて。……やはりトリニティの首脳陣となればそこまでの力がいるのか?……あーダメだなこれ、フレームがイかれてる。内部パーツは辛うじて生きているが……燃料タンクが壊れてないのは幸いだ、爆発オチになりかねんところだったからな。……とはいえ良くてリサイクル、最悪ジャンクにすらならない廃棄品だな。ミズガルズのテスト機ではあるが、結構高く付いたんだぞ「ユキ!」……ん?
振り向くと焦った顔でこっちに一直線で走ってくる先生の姿があった。聖園ミカとの話は終わったのだろうか「無事でよかった……!」っ、いってぇ……前のように突然抱き着かれた。やっぱりこいつ、だいぶ尻軽なんじゃないか?
「……痛いです、後、先生が汚れます。主に私の血で」
「あ、ごめん……」
……どうしようもない悪癖みたいなものなのかこれ?ひとまず先生を引きはがし、ふらついているのを隠しながらなんとか顔を合わせる。……なんだよ、そんな泣きそうな顔して。お前が向き合うべきはあっちの方だろうに。
「……それでユキ、どうしてここに?」
「深夜に急に仕事が入りましてね……対処が終わってトリニティ自治区を走ってたら偶然武装集団が内部に侵入するのを見かけまして」
「……そっか、ってそれどころじゃないよ!?はやく保健室行かないと!?」
「平気ですよ、バイクの中に応急処置の道具は保管してあるはずなのでそれでさっさと手当てしてから帰ります。明日も相変わらず仕事なので」
「絶対平気じゃない、なんか目も黒くなってるし!ほら、肩貸すから!」
「そもそも事後処理が終わるまで動けませんし、貴方がやるべきは補習授業部の皆さんを合格させることでしょう……一々こっちに構っている時間あります?朝から試験なんでしょう?」
「今はそんなこと気にしなくていいの!ほら!」
「……はあ」
うざったいぐらいに手を差し出してくる先生の手を、私は伸ばした手で……
「大丈夫だって言ってるんです、貴方は貴方のやるべきことを優先してください」
「……えっ?」
思いっきり、振り払った。
「今の貴方は「シャーレの顧問」である前に「補習授業部の顧問」。後者の方が依頼である以上、私の怪我より優先すべきことであることは明白です。私にかまけて試験に間に合いませんでした、とか認めませんよ?」
「でもその怪我じゃ無茶だって!」
「シャーレの評判が落ちるようなことはできません。……それに、試験開始。何時ですか?」
「……9時、だけど……」
「はあ……現在時刻は午前3時。事後処理は間違いなくかなりかかりますし、私を保健室に連れていくのならその分先生は遅れるわけです。間に合いますか?」
「ぜ、全力で走ればなんとか……」
「なるわけないでしょうが。全力で走り続けてやっと1時間の距離ですよ?だから私ではなく補習授業部を優先してください。私情を優先して結局合格させれませんでした~とか、笑い話にもなりませんからね?仮にもあの子達の学生生活と、ついでにシャーレの評判がかかってるんですよ?」
「確かにヒフミ達も大事だけど、ユキだって私の「生徒」なんだから……!」
……なるほど、根本的な勘違いをしているか。まあいいさ、この機会に教えておこう。
「……いいですか、先生」
「私は現在SRTが閉鎖された以上どの学園にも所属していませんし、「シャーレ」部長という座もあくまで貴方がシャーレに居ない間の臨時最高責任者という役職なんです。少なくとも今の私は「生徒」ではないんですよ、さらに言えば「先生」でもない。ただの「鞘野ユキ」という名の一般人なんです」
「そんな屁理屈……!」
「屁理屈でもなんでもありません、事実です。貴方は「生徒」の味方なんでしょう?ならば今やるべきことの選択はそっちを優先すべきです」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだって!早く」
「優先順位を間違えるんじゃありませんよ!」
「っ……!?」
……「また」だ。睨みつけるだけで目の前の相手が怖気づく。前まではこんなことはなかったはずなんだが、一体どうなっているんだ。
「「生徒」の味方をすると一度決めたのなら最優先事項は変えないように、私は一人で充分歩けますし貴方の手を借りる必要はありません。つまるところ貴方の助けは必要ないんです。だから真に貴方の助けが必要な生徒に手を差し伸べてください。子供みたいに駄々をこねて私情を優先しないでください、貴方は「大人」なんですよ?」
「……」
「……ほら、行ってあげなさい。話も終わるようですし」
「……っ」
話が終われば先生は苦虫を噛み潰したような顔で聖園ミカとの話を終えたらしい補習授業部の元へと向かっていった……ああ、これでいい。私を優先してしまうようになっては困るんだ、何れ私は「シャーレの部長」でも「鞘野ユキ」でもなくなる、そうなった時にお前がちゃんと一人で全部できるように書類の書き方とか色々教えてるんだ。……別にそんなことをする義理はないが、私の目的のためにシャーレを使った対価としては充分だろう。さて、さっと応急手当を済ませよう。この程度の傷なら1日あれば平気、治るまでの仕事は多少効率は落ちるだろうが保健室送りで仕事が溜まるよりはマシと考えれば許容範囲。うん、何も問題はない。
手早く包帯を巻き、一応の応急手当をすませた私は事後処理に付き合うべくバイクを起こしてシスターフッドの元へと向かう。多分これは証拠品として使われるだろうし、私から自由に使って構わない節は伝えておいた方がいいだろう。
「……シスターフッドの方ですね?まずは謝罪を、緊急時とはいえ許可も取らずに校内へ侵入してしまいました」
「あ、確か貴方は……って、何ですかその傷!?謝罪とかは今はどうでもいいので早く保健室に……!」
……近くに居た生徒に適当に声をかけただけなのだが、先生と同じように傷を心配されてしまった。応急手当はしたので先ほどよりマシの筈なんだが……
「応急手当は済ませたので平気です……それで、この後事後処理や事情聴取があるでしょう?」
「は、はい……ひとまずはそうなんですが……」
「このバイクは証拠品として自由に使って構いません。完全に壊れたので直せませんし……私も罪に問われそうですがね」
「……貴方は今回の事件解決に多大な協力をしてくれました。礼こそ言えど罪に問うことはありません」
「……そうですか」
「それに貴方は「シャーレ」の部長と聞きました。シャーレは自治区内での自由な活動が認められています、余計罪に問うなんてことはできませんよ」
「はは、そうでしたね。失礼しました」
ああ、そうだ。これが普通の反応なんだ、私は「生徒」なんかじゃない。「子供」でも「大人」でもない。ただの、抜け殻だ。
「……それでなんですが、私は事情聴取が始まるまでどちらで待機していればいいですかね。最悪座ることさえできればなんでも……」
「さ、流石に重症者をそのまま事情聴取なんてできませんよ!?また後日聞かせていただきますし、今は早く治療を……!」
「応急手当は済ませたのでそちらの手を煩わせることはありませんよ。では、私は一旦帰らせてもらいますね」
「え、ええ!?待ってください、せめて保健室に―――――!」
制止するシスターフッドの前にバイクを安置し、外へと歩き始める。……おっと、そろそろ虚勢を保つのも限界か。バレないうちにとっととおさらばしよう。
「っ……なんとか、此処まで来れた……」
トリニティの学区内を後にし、帰還用の地下道までたどり着く。バイクが壊れたので行きと同じくこれを使う羽目になったが、なるべく監視カメラを避けてきたしこの通路がバレることはないだろう。……ああ、疲れた。少し座ろう、10分くらい休めば普通に歩けるようになるはずだ。……それにしても、どうなったんだ私の身体は。先生からは目が黒くなっただわ、睨みつけるだけで人が怖気づくわ、まるでTVアニメとかでよくある不思議な力に目覚めたみたいじゃないか。……帰ったら自分の顔を確認してみよう、どんなことになっているのや『マイマスター、お迎えに上がりました』ら……うん?
「……グラニ、なんでこんなところに?」
『その怪我ではまともに動けないだろうと判断しての独断です』
地下道の奥からドヴェルグ……に扮したグラニがミズガルズに乗って現れる。改めて見ると私とほぼほぼ区別がつかない。素体技術も進歩したもんだな……って、そんなことを考えている場合じゃないな。
「……大丈夫だっての、歩け……っ!?」
『言わんこっちゃありません……マスター、一つ質問をよろしいでしょうか』
「なんだ、グラニ……」
立ち上がろうとしたときに痛みで思わず座り込んでしまい、グラニの助けを得てなんとか起き上がる……珍しいな、グラニが自分から質問するとは。何か私に異常でも起きたか?
『その、私の記憶間違いでなければなのですが……』
『マスターの髪は、全て白髪だったと思うのですが』
「……は?」
『……ひとまず自分で見てもらった方が早いかと』
グラニに言われて端末のカメラ機能を起動し、自分の顔を確認する。うん、先生の言っていた通り目が黒くなっている……な……あれ?
「……どういう、ことだ……?」
『……やはり見間違いではなかったようですね』
……一本、たった一本ではあったが、右目側の毛が灰色に染まっていた。何故だ?ストレスであるのならもうこれ以上毛が白くなることはない、ならばどうして……まさか。
「
『……ひとまず帰還しましょう。考えることは後からでもできます』
「……そうだな、頼んだぞ、グラ、ニ……」
『マイマスター、貴方は少々無茶しすぎです。たまには休むのも仕事ですよ』
消えゆく意識の中、グラニに覆いかぶさるような形でミズガルズに跨り地下道を後にしたところで。
限界だったのか、私の意識はそのまま途絶えてしまった。
・先生
ユキの事を「生徒」と思っている。
・ユキ
自分を「生徒」とは認識していない。
番外編、いります?
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いる
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いらない
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コラボとかしろ