Rusted Dáinsleif   作:暁真

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1週間経たずに此処まで来れちゃったよ(困惑)


カルバノグの兎編 VOl1
ユキとSRT


 

 

「……はあ、久々に貴方が業務に戻ったと思ったら早速リン会長代行に呼び出しを受けるとは……まあそのうち呼ばれるとは思っていましたけど……」

「いやぁ、ははは……」

「照れないでください。どうせ待ってるのは説教ですよ」

「まぁリンに怒られるのはご褒美だから……」

「頭大丈夫ですか?」

「いたって正気」

「……はあ、普段から説教をしすぎてついに頭が……」

「違うからね?」

 

 トリニティの一件から数日。私の傷は何事もなく回復し、無事補習授業部一行は学力試験に合格、晴れて退学は回避になったようだ。しっかりそっちを優先してくれて助かったよ、少なくともこれで最悪の事態は回避できた。正直アリウスがこの程度で諦めるような集団だとは思っていないが……それは奴らが動く兆候を感知したらにしておこう。まあそれはさておき、ついに先生が連邦生徒会から呼び出しを受けた。アビドスの頃は毎日のように書類の不備をわざわざあっちまで行って直していたからな……直せ直せと口うるさく言ってはいたんだが、アビドスの一件から急に仕事漬けになったことで結局直せないまま時間が経ち、不備のある書類が積もりに積もって今日の呼び出し、ということだとか。うん、残念でもないし至極当然。1回こってり絞られて来い。

 

「先に釘を刺しておきますが、今回ばかりは私は同行しませんよ。自分の失態なんだからいい加減自分でなんとかしてください。ようやく慣れてきたとはいえミスばっかりでは作業効率が全然改善しないんですよ」

「大変よく存じております……おかげでユキの髪も……」

「違います。そもそもストレスで髪は黒くなりませんし寧ろ白くなります……はあ、なんなんでしょうね、これ」

「うーん……病院行く?」

「大した影響もないので行きませんよ。それに付き添いとかいう名目で貴方にサボらせるわけにもいきませんし」

「単純に心配しただけなのに……」

 

……私の目が黒くなり、髪の毛が一本灰色になってからというものの日を跨ぐごとにどんどん灰色の髪が増えている。今はまだ日に一本程度なのだが、何かの拍子で全部染まってしまわないか心配だ……まあ特に実害があるわけでもないのだが。

 

「で、午後からでしたっけ?」

「うん、もう少し仕事を片付けたら準備しようかなって」

「わかりました、今日は珍しく仕事が少ないですし私が片付けておきましょう。リン会長代行はああ見えて多忙なので少し余裕を持たせてやってください」

「えっ、いいの?」

「どうせ連邦生徒会で書類仕事になるのが目に見えてるのでせめてもの慈悲です」

「私に信用ってものはないのかな?」

「書類仕事に限って言えば」

「真顔でバッサリ言い切られちゃったよ……」

「そういうわけでこっちは任せてきっちり怒られてくるように、ペンを忘れないでくださいよ」

「は、はーい……」

 

若干引き攣った笑みの先生をシッシと厄介払いし、改めて今日の作業に戻る。珍しく当番も居なければ仕事も少ないアビドス出張の時のような日だ。この程度の作業量なら私一人でもどうにかなるし、なんなら昼飯を食べに行く余裕もできそうだ。久しぶりにラミニタウンでも行くかな……

怒られるのはご褒美と言っていた癖に何か通夜のような雰囲気を醸し出している先生を雑に見送りながら、今日の昼食を何にするか考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりハンバーガーというのは天才の発明ですね……作業しながら食事をとれるとは効率の極み」

 

 結局案の定というかなんというか、追加の仕事が降ってきてしまったため昼食はデリバリー。左手でハンバーガーを頬張りながら右手でパソコンを弄る先生が居たら割と注意されそうな絵面を生成していた。まあ食べカスを零してないしセーフ、ということにしておこう……ん、アビドスから仕事……というか買い物の誘いが来ている。罪な奴だよあいつは。浮気性さえ治れば割と良物件だとは思うがな……さて、ハンバーガーも食べ終わったことだし作業に集中しよう。今頃あっちはきつく絞られてるだろうし、少し黙祷でも捧げておくか……先生、恨むならいい加減な作業をした過去の自分を恨むんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……割と定時には間に合いますね、まだ一人でどうにかなる範囲でしたか」

 

数時間後、最近では至極珍しいことに粗方仕事を終わらせた私はPCを落とし、久方ぶりに惰眠を貪るべく帰宅準備をしていた。……いや、もしかして先生が手直ししているであろう書類のことを考慮して少な目にしてくれたのだろうか?……いや、ないか。連邦生徒会ならともかく自治区がそんな事情を知るわけないし、偶然仕事が来ない日だったんだろう。そういうことだしありがたく……ん?

 

「はい、こちら連邦捜査部シャーレ」

『ごめんユキ、緊急事態!』

「……あのですね、先生。何回目になるか忘れましたが私に連絡したいときは個人の携帯にですね」

『あっごめん……ってそんな場合じゃなくて!』

「はいはいなんです、仕事が終わらないとかそういうのですか?」

 

 

『「SRT」の生徒が公園を占拠してデモを起こしてるって……!』

「……はい?」

 

……なるほど、仕事が少ないのは嵐の前触れだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グラニ、何か情報は?」

『既に制圧に向かった公安局の隊員は壊滅状態とのこと、現場の指揮は局長の尾刃カンナが務め、先生も合流済みです』

「……カンナ、か」

 

 

 先生から「SRTの生徒がデモを起こしている」と連絡を受けた私は相手が相手、ということもあり一旦自宅に戻って装備を整え、いつものように地下道をバイクで移動する中グラニを通じて現場の様子を探っていた。……尾刃カンナ、「鞘野ユキ」の記憶上では知っている。まあ上手くやれるだろう。

 

「もうすぐ地下道を抜ける、正体秘匿のために通信は此処までだが、占拠しているSRT生徒の情報はないのか?」

『現場の情報によれば占拠しているのは一個小隊。部隊名は『RABBIT』とのこと』

「……知らん名だな、1年生か」

『恐らくはそうかと、そろそろ通信を切ります。マイマスター、ご武運を』

「ああ、手早く終わらせよう」

 

 地下道を抜けると同時にグラニとの回線を切り、早めの現着を目指して最高速で公道に合流し駆け抜ける。……この分なら2~3分で着くな。さっさと合流してしまおう。

デモが起きているからかヴァルキューレによる交通規制が敷かれているおかげで特に遅れる、ということもなくスムーズに目標地点に到達し、先生とカンナが話している近くでバイクを止める。

 

「来たね、ユキ」

「ええ、連邦捜査部シャーレ部長鞘野ユキ。現着しました」

「……!?」

 

待っていたよと言わんばかりにどや顔をする先生と私の名前を聞いて呆気に取られているらしいカンナの前でヘルメットを外し、備え付けたアサルトライフルを装備してバイクを降りる。

 

「……久しぶりですね、カンナ。まさか局長にまで上り詰めているとは」

「……『先輩』こそ変わりないようで……いや、なんですかそれ、カラコンとメッシュでも入れました?」

「残念ながら地毛だしカラコンも付けてません。原因は不明です」

「……は、はあ」

 

……やっぱりこの変化、こういう知り合いと再会するときには少し不便だな。今度元の眼の色のカラコンでも買うか……

 

「……あれ、二人は知り合いなの?」

「ユキさんは元公安局の先輩です。まさかシャーレの部長になっているとは思いもしませんでしたが」

「先輩!?」

「ええ先生、私は元々公安局に居たんですよ。2年の時にSRTに引き抜かれましたがね」

「初耳……」

「そりゃあ話してませんし」

 

デモの真っ最中だというのに呑気だなこいつ、制圧の算段付いてるのか?

 

「……先輩が戦力になるというのなら先ほどの先生の自信も頷けます。まさかSRTで腕が鈍ってたりなんかしませんよね?」

「ご冗談を、これでもSRTの上澄みだったんですよ。過去の栄光ですが」

「確かに貴方と『ホムラ先輩』が燻ってるイメージはありませんね、あの人は今何をしているかはサッパリですが……貴方だけでも百人力です」

「……っ」

 

『先輩』の話が出た途端先生の顔が少し歪んだ……ははあ、さてはコッソリ調べたな?篝ホムラについて……まあどうでもいい。篝ホムラはあの事件で死んだ、それだけのことだよ。それ以上の意味も、何もないんだ。

 

「それで先生、突入の算段は付いているのですか?」

「うん。ユキ、任せていい?」

「……貴方は私を便利屋だと思っていませんか?まあいいですが」

 

だろうと思った、まあこの中で一番SRTのやり方を熟知してるのは私だからな。下手に色々付けられても邪魔なだけだ。

 

「……まさかとは思いますが、先遣隊を単騎で?いくら先輩が元SRTといえど……」

「相手は名も知らぬ1年生らしいですが、SRT式の教育を受けているというのなら対処法も自ずとわかります。安心して任せてください。生活安全局の皆さんは私が突入ルートを確保した後、侵入してください」

「わかりました!生活安全局、出動します!」

「いやキリノ、私たちが動くのこの人が露払いをしてからだからね……?」

 

……本当に大丈夫なのか?

 

「では先生、行ってきます。恐らく仕事を放り投げてきたのは察しているので帰ったらお話が」

「あれはリンが代わりにやってくれるって……」

「そんなんだから何時まで経っても書類も報告書もミスばっかりなんですよ」

「せ、正論……」

 

……仕方あるまい、やるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こちら『WOLF2』、配置についた。これより陽動及び侵入ルートの確保を開始する」

『……ユキ、それ何?』

「SRT時代のコールサインです、万が一傍受された時の動揺を狙っています」

『……そっか、ユキは「SRTの英雄」だしね』

「昔の話です。それでは……よし、やるか」

 

 シャーレ部長としての服からSRT時代の制服に袖を通した私は先遣隊の公安局が壊滅したポイント……恐らくは狙撃手が潜伏していると思わしき場所の木陰に潜んでいた。現場の弾痕を見るに狙撃地点は……あの辺りか。なら、まずは燻りだす。

用意してきた武装の中から煙幕弾を取り出し、割り出した狙撃地点近くへと投擲、反応を待つ……咳が聞こえたな、あそこか。

 

「と、とにかく状況の報告を……!」

「隙だらけです、もう少し潜伏する努力をするように」

「へ……?」

 

無防備に咳き込み、通信を試みていた狙撃手を発見し、背後を取って数発。……やはり1年生だな、全体的に動きが甘い。基本は出来ているが応用がてんでダメ、と言ったところだろうか。

 

「WOLF2、狙撃手の無力化に成功、続いて侵入ルートの確保に移る。生活安全局の二人にGOサインを」

 

 念のため手錠をかけて無力化した後、簡潔に通信を済ませて彼女らが占拠しているらしい公園へと歩を進める。……ははあ、あいつらが「RABBIT小隊」ね……狙撃手が既に無力化されてるとも知らずに言い争ってるな。もう少し危機感を持ったらどうなんだ、普通連絡が途絶えたらすぐ臨戦態勢に入るべきだろうに。……恐らくは座っている方がオペレーター、ならばそっちを詰めている奴から先に……いや、同時に仕留めるか。

 

「……ん?ねえ、なんか聞こえない?」

「まさか、もしそうなら進軍速度が速すぎ……」

 

「現場で無駄話をする時間はありませんよ。試験なら余裕で不合格です」

 

グレネードランチャーを一発見舞うと恐ろしいくらい綺麗に爆風が模様を描き、晴れたころには先ほどまで言い争いをしていた二人が伸びていた。これで3人、残りは小隊長のみか。

 

「WOLF2、オペレーター含む2人の無力化に成功、並びに侵入ルートを確保。残存戦力各位は公園内に突入、生活安全局は引き続き小隊長と思わしき者の確保を」

『ユキ、恐らく最後の一人は……』

「わかっています、予測地点へ移動します」

 

狙撃手と同じように無力化した後、万が一に備えて生活安全局のフォローに回る。……にしても先生はどうやって此処までピンポイントな位置予測ができるんだ?書類すら壊滅的なあいつに此処まで高度な計算ができるとは思えないが……まあいい、作戦が終わったら聞くか。……あれか、本当に居たぞ。どういう理屈か知らんがあいつはこと戦術指揮に置いては天才らしいな……

小隊長の進行ルートを予測し、生活安全局の生徒が外した場合に備えていつでも強襲できるように潜伏するが「め、命中しました!?!?」……どうもその必要はなかったらしい。

 

「お疲れ様です、生活安全局の皆さん。これで全員の無力化が完了しました」

「おおう、誰かと思えばシャーレの部長さんか。同じ制服着てたから新手かと思っちゃったよ」

「……流石に作戦の説明は聞いていたでしょうし判別はできますよね?」

「やはり努力は実を結ぶもの……」

「……あのー、早く拘束を……」

「あー、ありゃもう少し夢心地だね、こっちでやっとこう」

「……そうですね」

 

小隊長と思わしき生徒を拘束した後、侵入ルートを突入してきたヴァルキューレの残存戦力に後輩達を引き渡した私はひとまず先生達の元に帰還するべく帰路へと走るのだった。

 

……なあ後輩、どうしてデモまでしてSRTの閉鎖に抗議なんてしたかはわからないが、これだけは言えるよ。

 

 

 

 

 

自分が思い描く『正義』なんて組織の中にはないんだって。

 

 

 

 

 




・鞘野ユキ/篝ホムラ
共に元公安局でカンナの先輩。SRT創設時に二人揃って引き抜かれた経緯を持つ。

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