Rusted Dáinsleif   作:暁真

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まさか1週間で17話も更新できるとは……



ユキと「正義」

 

 

「んー、なんというか……保護観察というよりは釈放された囚人が社会復帰するための補助みたいなことしてますね、我々」

「まあ、あの子達も望んでやっているわけじゃないから……地雷も頑張って撤去してくれたらしいし、少しずつ良くはなってるんじゃない?」

「良いといえば良いんですが……聞きましたよ、素直にドラム缶を貰えばいい話だというのにわざわざ深夜にこっそり貰おうとした挙句泥棒と間違えられて銃撃戦に発展したんでしたっけあの子達?」

「うーん、やっぱりまだ他人を信じ切れてないっぽいから……」

「笑い事じゃありませんよ先生。まだ穏便に済んだだけいいですが、もしも何処かに襲撃をかける様なことでもあれば監督責任は全て処遇を任されたシャーレに行くんですからね?少しは危機感を持ってください」

「それはわかってる。だからもう少し心を開いてもらおうと思っていろいろやってるんだけど……どうも空回りしちゃってて」

「はあ……ま、私ができることはもうないでしょうし後は頼みますよ先生。仕事はこっちで済ませておきますから」

「本当ありがとうねユキ……」

「平気です。最近はエデン条約締結が控えてることもあって他自治区からの仕事や書類も少ないですし、久々に貴方がアビドスに行っていたときくらいののんびりペースです。当番の生徒達も必要ないくらいなので安心してください……一部の人たちは先生目当てで来てますけど、随分と手を出したんですね」

「だからなんでそんな邪推するかなぁ!?」

「普段の勤務態度からですが」

「酷い……泣いちゃう……」

「はいはいご勝手に泣いてください」

 

 先生の付き添いで子ウサギ公園を訪れRABBIT小隊に説教してから数日。あれから彼女たちはエンジェル24の廃棄弁当を回収しに来たり、さっき先生と話した通りドラム缶を貰おうとして銃撃戦に発展したりなど、結構色々やらかすとまでは行かないが、元気にやっているらしい。まあいいことではあるのだが、彼女らが妄信するSRTの『正義』に振り回されないかだけが心配だ。……正義なんて、自分の中にしか存在しないのに。

 

「あ、ユキ。私ちょっと買い物に行ってくるね、インク切れちゃった……」

「わかりました、なるべく早め……いや、こっちの仕事はもうすぐ終わりますしそこそこゆっくりでも大丈夫ですよ。適当に昼飯買ってくるなりお好きにどうぞ」

「ユキは行かないの?」

「今日は当番不在なので。万が一電話が来た時に誰も居ませんじゃ流石に示しが付かないでしょう?」

「まあ確かに。それじゃあ行ってくるね」

「行ってらっしゃい。ゆっくりでいいとはいえ、1時間くらいしたら戻ってきてくださいよ」

「大丈夫大丈夫、私は書類に不備があっても時間は守る人だから」

「書類の不備もいい加減直してください」

「うぐっ……」

 

何故か勝手にダメージを受けたらしい先生を見送った後、今日の分のファイルを整理したパソコンを落として両腕を伸ばす……んー、やっぱり日が経つごとに増えてるな、灰色の髪。そろそろ染めるのも検討するか、流石にこれ以上はファッションというよりは何かの病気と思われかねん。特に異常も何もないはずなんだがな……

ひとまず先生が居ない間になるべく書類仕事を片付けておこうと思い、帰ってくるまで今日もまた束になっている書類を1束貰っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 現在時刻15:25、先生が出ていったのが12:00。流石に遅い、遅すぎる。また何か厄介事に巻き込まれたか?いや、近所に買い出しに行っただけだし早々そんなことに巻き込まれる筈もなかろう。アビドスの時みたくいきなり暴力団が襲ってくるわけでもあるまい。だとすれば出先で偶然生徒に絡まれたとか?流石に考えすぎか、今日は平日だしこんな時間にこの地区に遊びに来る生徒もいないだろう。もう少しだけ待ってみるか。書類仕事は全部終わってしまったが……ん、グラニ?

念のためトイレに移動し、グラニからの通信を開く。

 

「私だ、遅れてすまない」

『こちらこそ勤務時間中にすみません、マイマスター』

「それで、用件は?」

『かなりの非常事態かもしれません』

「なんだ、何が起きた」

『それがですね……』

 

 

 

 

『本日13:25頃、先生を運ぶ謎の人物を監視カメラ越しに確認しました』

「……成程な、道理で帰ってこないわけだ」

 

ああ、確かに大事だなそれ。何れこういう事態は起きると想定していたが、遂に起きてしまったか。……都合の良いことに今日の仕事は終わっている、電話に出れないのは流石にマズいが……最悪事後承諾で許してもらおう。

 

「そいつが移動した場所は?」

『送信します。装備の方は如何しましょう』

「今回は救出が目的だ。防弾チョッキは不要。銃は……あの拳銃、完成していたな?それを使おう」

『かしこまりました。受け渡し地点はD.U.4、時刻は15:50で』

「わかった。ではまた現地で」

 

……さて、どういう魂胆であいつを攫ったか知らんが居ないと仕事に差し支えるんでな。とっとと取り返させてもらおう。

ロッカーから最低限の装備を引き出し、標識を「closed」にしてから先生を助けに行くべく私は駐車場へと向かった。……そろそろ「Emergency(非常事態)」の標識でもあった方がいいのかもしれない。終わったら作っておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 16:00、先生を攫った集団の拠点と思わしき場所に現着。……なんだここ、ほぼほぼ廃墟じゃないか。

 

「グラニ、こっちは現場に到着した。先生を連れ去った奴について何か情報はないのか?」

『……見た目から該当する武装集団が一件。『所確幸』……所有せずとも確かな幸せを探す集い、だそうです』

「なんだそれは、如何にも胡散臭いが」

『実態はただのホームレス集団ですね。おまけに無所有なる矜持を掲げていますが高級品を盗難したらしい記録もあります』

「要するにただの犯罪者共か、なら遠慮はいらないな」

『ええ、それではこちらは通信を切ります、ご武運を』

 

……なるほど、だから根城がこんなにボロいんだな。バイクが浮いて見えるぞ……っといけないいけない、観光しに来たんじゃないんだこっちは、さっさと先生を助け出して帰るとしよう。さて、何処から侵入したものか……いやよく見たら窓に木を立て付けただけじゃないかこれ、どこからでも侵入できるぞ。

手頃な窓の封鎖を蹴飛ばして壊し、内部に侵入する。……ったく、先生の端末を逆探知しておけばよかったぞ。今からは間に合わんし確実に一人一人無力化してから……うん?おかしいな、まるで緊張感がないぞ……もしかして先生を攫った奴の独断かこれ?……まあどっちにしろバレて増援が来ても困る、制圧しておこう。

 

「……」

「だれんむぅ!?」

 

確実に一人づつ、背後から急所を一発狙って気絶させていく。……まだバレていないな、もしものためにサイレンサーを付けておいてよかったぞこの拳銃、実績もできたし高く売れそうだ。にしてもこいつら他はボロボロなくせに装備だけは一丁前に最新式だな、何か裏についている気配がするが……後でいいか、今は先生を助けることが先決。こいつらの背後については武器を持ち帰って調べるとしよう。

 

「あれ?皆どうし……ひぎぃ!?」

「……このエリアは全員制圧できましたか。次は……爆発音?」

 

ひとまず侵入したエリアのメンバーを全員無力化したと同時、左の方から爆発音が聞こえた。誰か先生が攫われたと聞いて助けに来たのだろうか、アビドスとか……いや、ないか。っと、警報に釣られてメンバーがわらわらと爆発音の方向に向かっていく。……ふむ、バレてないか。ちょうどいい、背後から強襲しよう。

無力化した所確幸のメンバーが持っていたアサルトライフルを一丁拝借し、粗方が爆発音の方へ移動したところを見計らって私は背後を強襲すべく全力で走り出した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、でたらめな強さだ、逃げろ!」

「あいつらも多分逃げたし、俺も!」

「み、皆さん!何処へ行くのですが、確かに十数人ほど見当たりませんが、敵は……!」

「そもそも何もしたくないのに戦闘なんかできるわけな、うわぁぁ!?」

 

 和牛ステーキ弁当を出汁にして来てもらったRABBIT小隊の皆(何故かデカルトが騙したことになったのだが)が所確幸……だっけ?のアジトを制圧し、デカルト以外のメンバーが逃げ出していく中、逃げ出したメンバーたちの悲鳴が逃げた方向から聞こえてきた。あれは……ユキ?

 

「な、なんだこいつ。あいつらの増援か!?」

「生憎独断です」

「そんな馬鹿、ごはぁ!?」

「お、おい、あいつをどうにかしないと俺たち逃げれないぞ!?」

「ええい面倒くさいが仕方がない、撃て、撃てぇ!」

「……馬鹿の一つ覚えですか。単調すぎるんですよ」

 

此方に向かってくるユキは逃げ出したメンバーたちの集中砲火を受けるがまるで苦じゃないかのように止まることなく軽い重心移動で躱し、所確幸から奪ったらしき銃で一人気絶させるとそれを盾にして突撃し始めた。

 

「さあ、撃てますか」

「ひ、卑怯だぞ!仲間を盾にするなんて……」

「人攫い集団相手に卑怯も何もないでしょう。大人しく倒れてください」

「冗談じゃ……!」

 

流石に人質を取られてだいぶ動揺したらしく、逃げ出そうとしたメンバーは簡単にユキの手で無力化されてしまった。……蹴飛ばすのはちょっとやりすぎじゃないかなぁ。

 

「クリア……大丈夫ですか、先生」

「うん、大丈夫。RABBITの皆が助けてくれたから……」

「……はい?」

 

真顔になったユキが辺りを見回しはじめたので一緒にRABBIT小隊の皆を見てみると、デカルトを捕縛しながら先ほどのユキの動きに見惚れていたようで視線が釘付けになっていた。……やっぱり皆の憧れだったんだね、ユキ。

 

「すごい、あんなスムーズに……」

「……何のめぐり合わせです?貴方たちが先生を助けに来るような理由が思い浮かばないのですが」

「あー、えっと……その……」

「……」

 

流石に「高級和牛弁当に釣られて」ではバツが悪いのか、彼女たちはそのまましどろもどろになってしまった。まあそうだよね……ちょっと言うには恥ずかしい理由だよね……

 

「……まあいいです、多少心配したんですよ先生。早く帰りましょう」

「あ、ああうん……ちょっと待って多少ってなに!?」

「どっかで生徒とじゃれ合ってると思ってましたから、貴方は基本それ以外で時間を破ることはありませんし」

「そ、そっか……」

 

ユキの手を取り、まだ麻酔が効いているのか覚束ない足取りでなんとか立ち上がる。

 

「……RABBIT小隊、所確幸のリーダーはそちらに任せましょう。私は先生を連れ「待ってください!」……なんです、小隊長」

 

そのまま私の手を取ったままその場を去ろうとしたユキをミヤコが呼び止める。一体何の用だろうか。

 

 

「……今の戦闘を見る限り、貴方には充分『理想』を実現するだけの『力』があります。……あれを見せられては、貴方の言っていたことに同意せざるを得ません」

「そうですか」

「ですが貴方は以前自分の『理想』を実現するための『力』が無いと、そう言いました!何故です、貴方にはこれ以上『何』が足りないのですか!?」

「……」

「そうです先輩!貴方がかつて私を助けてくれた時のように、もう貴方には揃っているじゃないですか!足りないなんてこと……!」

 

 

 

 

「あんなもので、足りるわけがないでしょう?」

「……っ!?」

 

いつにもまして凍える視線が私とRABBITの皆を襲う。なんだかユキが睨むたびに起こるこの寒気、どんどん強くなっていっているような……それにしたってユキは一体何を求めて……?

 

「一人で全て終わらせるためにはまだ足りないんですよ、武器も、力も、頭脳も」

『一人?でも確かWOLFには貴方の相棒が……』

「……ホムラ先輩は、もう居ないんですよ」

「え……?」

 

……おかしい、トラウマを克服したというのはまだわかるけど、今のユキの言葉はかつての相棒のことを話すには無感情すぎる。何か、あったの……?

 

「待ってくれ先輩、貴方の相棒がもう居ないって、どういう「文字通りです、これ以上話すことはありません」……っ」

「……ユキ」

「なんです先生」

「ちょっとRABBITの皆とデカルトの処遇について話したい。先に帰っててもらえるかな?」

「……はあ、わかりましたよ。今日の仕事はもう終わっているので直帰してもらって結構です」

 

明らかに今のユキはおかしい、一旦様子を見るために先に帰ってもらうよう頼み、彼女から手を離した。

 

「では私はこれで」

「待って、先輩!」

「……しつこいですね、何です」

 

そのまま去ろうとするユキをサキが呼び止める。

 

「……先輩は、一体どうしちゃったんですか。昔私を助けてくれた時のような華やかな笑顔は、一体どこに行ってしまったんですか……!」

「……そうですね」

 

 

 

 

「『SRTの英雄』鞘野ユキはとうの昔に死んだ、それだけの話ですよ。それでは」

「まっ……!」

「ストップ、サキ。今引き留めても何にもならない」

「でも……!」

「……ごめん」

 

まだ話しかけようとするサキを制止し、そのまま去っていくユキを見送る。

 

「……サキ、貴方は『ユキに助けられた』って言ってたけど、昔何があったの?」

「……それは……」

 

とりあえず今知るべきはサキの事情だ。ユキの正体を知っていたり、明らかに何か他人行儀では無い。

 

「……昔、中学生の時、テロに巻き込まれたんだ。私は幼いからって人質に取られて、怖くて、もう駄目だって思ったところで……」

 

 

(WOLF1、クリア!WOLF2、そっちは!)

(WOLF2、クリア、ポイント内の全テロリストの無力化に成功しました。……怖かったですよね、もう大丈夫ですよ……WOLF1、待機中のJACKAL小隊を突入させます、合図を!)

 

「……あの人に、助けてもらったんだ。私はその強さと、何事にも動じない誇りに憧れて、SRTに……」

「そっか」

 

ようやく、少し心を開いてくれた。

 

「……先生、今のあの人は、明らかに変わってしまった。一体何があったんだ……?」

「……わからない、ああなったのも、つい最近で……いや」

 

……そうだ、思えばユキがシャーレに来てから今日まで……

 

「……私は、ユキが「笑った」顔を、見たことが、ない……」

 

……ねえユキ、一体貴方の過去に、何があったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええい、とっととこの拘束を外しなさい……!」

「「あ」」

 

……すっかり忘れてた。まずはデカルトをどうにかしなきゃ……




友人って、割と相手のことを知っているように見えて実はだいぶ隠していることが多いんですよ。

番外編、いります?

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