「……ユキ」
「なんです先生」
「その、なんだけど……」
「だからなんです歯切れの悪い」
「……この前ユキにどうして留年したのかって聞いたじゃん?その時は答えてくれなかったけど」
「そうですね、まだそんなプライベートを曝け出す仲ではないと拒否しました。無論今もですが」
「そっか……もう数か月位の付き合いだけどまだ駄目?」
「ダメです。特段話す理由もないですし」
「うーん……じゃあ気長に話してくれる時を待つよ」
「正直いつまで経っても話す機会はないと思いますが……先生が粘るのならご勝手に」
……所確幸から先生を救出してからというものの、どうも態度がよそよそしい。特段そうなる要素は……いや、あったか。失敗したな、せめてもう少しホムラ先輩のことについて話す時感情を込めておけばよかったか。……とはいえ、もう記憶だけでしか知らない相手にどう感情を込めろと言われても困るんだが。
「……よし、そろそろ子ウサギ公園行ってくるよ。ユキも来る?」
「最近御熱心ですねぇ全く、行きませんよ。今日も仕事は少ないとはいえまだ残ってますし、それに今私が行ってもあの子達を怖がらせるだけでしょう」
「わかった、気が変わったらいつでも言ってね」
「だから行かないって言ってるでしょう。それに今日の仕事は終わって……!?」
「どうしたのユキ?」
「……信じられません。まさか先生が書類仕事を終わらせてから行くなんて……」
「そこまで信用ないの!?」
「普段の積み重ね……でしょうか……ある意味信頼してたんですが」
「嫌だよそんな信頼!?……ふぅ、それじゃあ行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい」
子ウサギ公園に出発する先生を見送り、念のため先生が片付けた書類を確認する……あっやっぱりだめだこいつ。何度も言われてるのにまた数字の書き方間違えてるし。後で手直ししておかないとな……うん、メール?それも鞘野ユキ個人の端末に……誰からだ。先生以外はほぼほぼ知らない筈なんだが。
件名:件名なし
本日22:00、「あの事件」の跡地にて待つ。
FOX1
「……」
……FOX1、ユキノ?一体どうしてこんな時間、こんな日に……それにFOX小隊は先日サンクトゥムタワーを襲撃した一件以降行方知れずではなかったか?……考えれば考えるほど不可解だ、それにわざわざ「あの事件」を掘り返してくるとは……誘っているのか、私を。
……いいだろう、乗ってやろうじゃないか。だがまずは先生の書類を手直ししてからだな……
最早毎日の日課になりつつある書類の手直しをしながら、かつての後輩……FOX小隊について考えを寄せる。……ああ、
「……」
22:00、あの事件……ホムラ先輩と「JACKAL小隊」の皆が殉職した事件の跡地、廃工場に現着。装備はステルス性を求め防具は防弾チョッキは無しで色々機能を盛ったバイザー(ドヴェルグとして使っているもののプロトタイプだ)のみ、武器も先生救出時に使った拳銃とSRT時代のアサルトライフルだけ……そういや所確幸の奴らの銃、何処をどう漁っても出処がわからなかったな。一体何処から……まあいい、今はあいつらが何処にいるか、だ。ご丁寧にも封鎖済みの筈の入り口は開け放たれている、恐らくは盛大に歓迎の準備でもしているのだろう。
警戒しながら内部に突入し、遮蔽で身を隠しながら音を立てないよう慎重に移動する。今のところバイザーには何の反応もないか、一体何処に居るのやら……いや、わざわざ此処を指定した以上ある程度何処に誘導したいかは分かっている、少し癪だが思惑に乗ってやるとしよう。どうせ侵入した時点で居場所はバレていそうだしな。
「……っ」
ほうらやっぱり。開けた場所に少し身を乗り出した途端上階から狙撃が飛んできた。座標は……あそこだな。さて、此方の座標はバレた。なら単騎相手に次やることは……バイザーに反応、だろうな!
「っ!?」
いつの間にか背後に迫っていたFOX1、ユキノに肘打ちを叩き込み、一瞬怯んだ隙に懐に入ってライフルのストックで突き態勢を崩す。FOX小隊は4人、後はオペレーターと……そうだったな。
「なっ、ユキノを踏み台にして……!?」
「二段構えとは考えましたね、ですが挟み撃ちにしなかったのはミスでしょう」
無力化ついでに睨みつけて隙を作った彼女を台代わりにして跳躍。やはりというべきかユキノのように後方から奇襲を仕掛けようとしていたFOX3、クルミが銃口を向けなおす間に盾を持つ手に数発撃ちこみ、手放させる。
「少し痛いですが、我慢してもらいましょうか」
「少しで済むわけ?せん、ぱい……」
落下の勢いを付けた踵落としを頭部に叩き込んでクルミの意識を奪い、追撃に腹部に7発ほど撃ち込んでから念のため手放した盾を踏みつけたユキノに投擲し確実に意識を奪う。……残りは狙撃手、FOX4のみ。……流石に投擲じゃあ届かないな。ならこっちから出向いてやろう。
ユキノが気絶したのを確認するついでに盾を回収し、バイザーで記録した狙撃手の座標へと向かう。……たしか此処の階段はあそこにあったはず、なら2分もかからない。どうせ居場所は割れているのだからと全力で走り出し、階段へと直行する……おっと、妙に身体が軽い気がするな。別に違法薬物を摂取した記憶はないのだが、どうしたものか……いやまあ支障がない分にはいいか。
『こちらFOX2、ごめん、FOX1と3がやられちゃった。後はそっちだけ……』
「いやぁ……さっすがユキ先輩だね。あっちは一人なのにこうも簡単「随分と余裕がありますね、FOX4」に……嘘、1発でバレるもんなの?」
「経験の違い、とでも言っておきましょうか」
「……はは、そりゃあ敵わないや」
狙撃ポイントで悠長に話していたFOX4、オトギの背後を確保しストックで一撃……これで全員か。
「盛大な歓迎をどうも、FOX小隊。少し腕が鈍りましたかね?」
『いやぁ、こっちも欠かさず訓練はしてたつもりなんだけど……ユキ先輩こそ何なんですか。1年間何処で何をやってたんです?』
「秘密です、それでまだ貴方が残っていますが……続けますか?」
『流石に無理ですって、降参です降参。私はこの座標にいるのでご自由に、できれば皆も連れてきてくれると嬉しいです』
「……其処は……わかりました。向かいましょう」
……よりにもよって其処か、まあいい。
ひとまず無力化したオトギを引き摺り、FOX2、ニコがいる場所へと歩を進めた。
「……お見事です、先輩。まさか4対1でも敵わないなんて」
「……ホムラ先輩が居ないなら勝てる、とでも侮られていました?」
「まっさか、侮ってるならこんなガチガチに奇襲なんかしてないって」
「ていうか先輩酷くない?お腹に7発とか……動かなくなるまでやるのはわかるけどさ……というか盾返してください!」
「ああすいません。便利だったので指摘されないようならそのまま持ち帰るつもりでした」
「ひ、人の心……!」
「あはは……ユキ先輩の装備マニアっぷりは相変わらずだね……」
数分後、なんとか動けるようになったFOX小隊の面々を引き連れた私は指定された座標、ニコの居る場所で久しぶりに会った後輩達と話し込んでいた……しかしまあ、此処まで露骨だとは思わなかったぞ。
「あ、ユキ先輩もおいなりさん食べます?いっぱい作ってきたんですよ!」
「……なら1個だけ」
ユキから手渡されたおいなりさんを頬張りながら、何故今更彼女たちがこうして私を呼び出したのか考える。先日連邦生徒会を襲撃したというのにこんな悠長にしている暇などあるのか?
「……先輩、やっぱりなんで私たちが今貴方を呼んだのか気になっていますか?」
「ええ、当然です」
「わざわざ
「……えっ?」
「ホムラ先輩が、ここで……?」
……嘘だろ、知らなかったのか。わざわざ此処を指定してきた上で合流地点に指定してきたんだから織り込み済みと思っていたが……いや、ホムラ先輩が最期何処に居たかは私しか知らないか。
枯れはてた花を踏みつぶしながら部屋の端に立てられた一丁の銃を手に取り、FOX小隊の面々に見せつけるように置く。
「この銃に見覚えは?」
「……妙にボロボロな……いや、それは……!」
「ホムラ先輩の、銃……!」
「……じゃあ本当にホムラ先輩は、此処で……」
うん、お前たちならわかってくれると思っていたよ。記憶でしか理解できていない私と違ってお前達にはホムラ先輩との思い出が残ってる。これで覚えてないようだったらそのまま帰るつもりだったぞ。
「……2年前、WOLFとJACKAL小隊はカイザーグループの違法兵器製造を摘発するためにこの工場に潜入しました」
「……それは存じています。しかし工場は爆散、証拠は全て消し飛び、生存者は……貴方一名」
「ええ……と言っても私がこうして生きてしまっているのは、ホムラ先輩とJACKALの皆のおかげ……なんですが」
「……それって、どういう……」
……うん、感情はいい感じに込めれているらしい。前回の失敗を繰り返すことはなさそうだ。
(3時方向に増援!数12!)
(しつけーな、あいつら意地でも資料を持って行かせないつもりかよ)
(そりゃあそうでしょう!早く行きますよ!)
(いんや、ここで全員黙らせる)
(先輩!?ああっもう……!)
「……違法兵器の製造、及び取引の証拠を手に入れた私と先輩は離脱のために脱出ルートを移動してた途中でした、ですが……」
(っ先輩!?何か巨大な熱源反応が!)
(は?一体何が……っ、ユキ、伏せろ!)
「……証拠隠滅を図ったカイザーグループは工場そのものを爆破、第一の爆発時施設の制圧に当たっていたJACKAL小隊は軽微な被害で済みましたが……爆発の中心部に居たWOLF……私とホムラ先輩は、爆発をモロに食らいました」
「……じゃあ、その爆発の被害に遭ったのが……」
「ええ、この部屋です」
(ユ……キ……無事、か……)
(……先輩……っ先輩!?)
(ユキ……あいつら……連れて……撤退を……)
(何、言ってるんです。先輩を置いて行けるわけ……!)
(これは……隊長命令だ!……早く!)
(っ……!)
「……私を庇って致命傷を負った先輩は、資料を私に託して死に体の身体で足止めを引き受けました。恐らくは、力尽きるまで、この部屋で」
「……」
「あの事件の裏で、そんなことが……」
(ユキ先輩!早く離脱を……待ってください、ホムラ先輩は!?)
(WOLF1は……私に、資料を託して……)
(そんな、あの人が……!?)
(……行きましょう、JACKAL小隊。二度目が来ないとも)
(わかりました……!先輩、危ない!)
「私はJACKAL小隊と合流し、ホムラ先輩を見捨てて離脱を試みました。……ただ、もう少し、というところで2度目の爆発が」
「待ってください、それじゃあJACKAL小隊まで殉職した理由は……!」
(無事、ですか、先輩……)
(……なんで、私を庇ったんですか、皆……!)
(先輩は、SRTの英雄、WOLF、ですから……)
(私達よりも、優先順位、高いんですよ……)
(……先に、行って。資料、頼んだ……)
(だめ、です。私は、ホムラ先輩に、皆の事……!)
(……はは、後輩思いですね、先輩たち、は……)
「……JACKAL小隊4名は、ホムラ先輩と同じように私を庇って。助けようとした私を制止して、先に行かせました……」
「JACKALの皆まで、ユキ先輩を……」
「……でも、結局資料は紛失した。まだ何かあったの?」
「……」
(ホムラ、先輩……わたし、は……!)
(待っててください、JACKALの皆、せめて、貴方たちだけで、も……っ!?)
「……離脱直前、トドメと言わんばかりに三度目の爆発が起こりました。……今度こそ爆発は私に直撃、もうすぐで出口だったのが幸いしたのか衝撃で吹っ飛びこそすれど死にはしませんでしたが……」
(……ぅ、ぁ……)
(……資料、は……だめだ、もえ……っ、皆、は……!?)
(……ぁ、ぁぁ……)
「……工場は跡形もなく爆散。資料も焼失し、カイザーは見事証拠隠滅に成功。私はホムラ先輩とJACKALの皆をむざむざ死なせた上、重傷者として緊急搬送されました。これが此処で起こったことの、全てです」
「……」
全て話し終えるとFOX小隊の面々は黙りこんでしまった。……当然か、記録でしか知らなかったものをこうして詳細を知ったのは初めてだろうし、ショックも受けるだろう。
「……先輩は」
「なんです」
「先輩は、退院後、狂ったように武器の整備と訓練を繰り返していました。そしてその2か月後、3年生に上がった時……」
「……SRTから、姿を消した」
「確かにそれだけのことが起こったのならああなるのもわかるんだ、ユキ先輩。だけどどうしてSRTから居なくなったの?」
……簡単なことだよ、後輩。
「……私は」
「SRTの掲げる『正義』を信じられなくなりました。それだけです」
「っ、じゃあなんで先輩は今『シャーレ』なんかに!?SRTを信じられなくなったのはまだわかります。ですがあんな『大人』の率いる組織に、何故……!」
「私の『
「利用……?」
「何れ私が私の理想を実現するため、そのための力が手に入るまでの関係です。それさえ手に入れば、『鞘野ユキ』はシャーレ部長でも、なんでもなくなります」
「なら、その後はどうするの先輩、シャーレをやめた後行く当てなんて」
「それについて答える義務はありません」
「なら無理やりにでも……!」
「勝てると思うんですか?先ほど私一人にいいようにされたばかりだというのに」
殺意を込めて睨みつければ、簡単に怖気づく。……うん、少し顔に恐怖が滲み出ているな?そこまで圧があったか、今の。
「……成程、大体理解しましたよ。貴方たちがやろうとしていたのは私の引き抜きですね?」
「……ええ、その通りです。シャーレの廃絶、及びSRT復活のため「興味ありませんね」……でしょうね」
「もうどうでもいいんですよ、SRTも、SRTが掲げる『正義』も」
これは
「今の私は私の『正義』のために動いているだけです。これまでも、これからも」
「……そうですか、先輩。なら話は此処までですね」
「ええ、此処までです」
ホムラ先輩の銃を元の場所に立てかけ、FOX小隊に背を向ける。さようなら後輩、恐らく二度と会うことはないだろう。
「……ユキ先輩」
「なんですか、ユキノ」
「もし貴方の『正義』が我々と対立……いや、キヴォトスを脅かすものだった場合……我々FOX小隊は全力を以て、貴方を止めます」
「やってみるといい、後輩」
……おっと、ドヴェルグとしての顔が出てしまった、いけないいけない。
にしても全力を以て止める、か。随分と大きく出たものだ。
私の『
もうすぐデータも集め終わる、比較的早くお披露目できるかな、これは。
※この裏ではRABBIT小隊がヴァルキューレに潜入しています。
番外編、いります?
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いる
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いらない
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コラボとかしろ