ユキと調印式
「うーん……まだしばらく暇だし、適当にぶらついてようかな」
「行ってらっしゃい、始まるまでには戻ってきてくださいよ」
「わかってる、それじゃあ」
「……いや、待ってください。私も一応後から付いていきます」
「別にいいけど、なんで?」
「……一応此処は調印式の場とはいえ、今まで散々対立していたゲヘナとトリニティが一同に会する場所です。何かの拍子で武力衝突が起きる可能性も充分ありますし、そうなったときに貴方の身の安全を確保する必要もまた」
「つまりは護衛ってこと?」
「そういう解釈で結構です。行きましょうか」
FOX小隊との邂逅から約一週間程。あれからRABBIT小隊は先生とようやく普通に交流するようになったとか、ヴァルキューレが不法取引を行っている証拠を手に入れるために潜入したとか色々聞いたがまあひとまず大丈夫とのことらしい……おい最後、何やってるんだ。ヴァルキューレが黙ってくれているからまだいいものの、先生が関わっていたとなれば結構な責任問題だぞそれ。……今度カンナに差し入れでも渡しに行くか、流石に不憫だ。そういう訳で現在私と先生はようやくアリウスの一件についての事後処理が終わり開催されたエデン条約の調印式に来賓として招かれている。今回も何時ものように先生だけ行かせようと思ったのだが、流石にゲヘナとトリニティが一同に会する場所でひと悶着起きないわけがないだろうと思い、こうやって万が一のための護衛として参「ひいっ!?急に委員長!?」……言わんこっちゃない。
「……早速ですか、何が起きたんです先生?」
「あーいや、それがね……」
急に大声が聞こえてきた現場に行くと先生と何故か赤面している正義実現委員会委員長、ついでにシスターフッドの姿があった。あ、委員長どっか行った。
「ちょっと正義実現委員会とゲヘナの風紀委員の間で揉め事が起こりかけていたのをツルギが何とかしてくれたんだ」
「なるほど。つまり巻き込まれる寸前だった、と」
「ま、まあそうなるのかな……」
「……はあ、後からじゃなくて普通に隣に居た方が良さそうですね」
……ここ数か月の付き合いであまりにも厄介事に巻き込まれる頻度が多すぎる。やっぱりこいつは天性のトラブルメーカーじゃないか?アビドス、百鬼夜行、ミレニアム、レッドウィンターに山海経、そしてトリニティ……なんか行く先々の自治区で毎度毎度何か事件に巻き込まれてるし、なんか解決して現地の生徒と仲良くなってるし……まあいいか。ん、あいつ何処に行く気だ?
「先生、何処へ?」
「ちょっとヒナタに古聖堂を案内してもらおうかと」
「なるほど、なら行きましょうか」
「あ、貴方も来るんですか?わかりました、それではこちらへ……」
……気のせいかもしれないが、何か嫌な予感がするんだよな。杞憂であればいいのだが……
「この『通功の古聖堂』は長い間、廃墟として放置されてきましたが……」
シスターフッド、ヒナタの説明を聞きながらうんうん頷いている先生に気を配りながら私は周囲の警戒を行っていた。こんなところでシャーレの先生が孤立している、となれば襲撃をかけてくる輩が出てくる可能性も充分あり得る。この前の所確幸の時もまあいいかで油断していたらだったからな、あれはグラニが居なかったら危なかったぞ……っ、にしても昨日から妙に頭が痛いんだよな、風邪でも引いたか?何か
「ユキ、ナギサ達がそろそろ来るって、行こう」
「わかりました、そろそろ調印式の時刻とはいえ気を緩めないように」
「わかってます、ユキこそもう少し緊張を解していいんだよ?」
「念のためです、念のため」
「そこまで気を張らなくてもいいと思うんだけどなぁ……」
「ふふ、仲が良いのですね、お二人は」
「仕事上の付き合いで面倒を見ているだけです」
「どうも、面倒見られている側です」
「乗らなくてよろしい」
……はあ、全くこいつには緊張感と危機感ってやつはないのか?まあいいか、私達は調印式を見届ければそこで帰還。その後の面倒くさいあれこれまでに関わる必要はない。そういう意味では今日はただ見届けるだけ……で……
「先生!伏せろ!!!!!!!」
「えっユキ、どうし――――――ー」
かつて
――――自然と、先生を庇うように覆いかぶさって
――――爆発と、それに伴う衝撃で崩れ落ちる瓦礫の山に飲み込まれた
『……い!先生!目を覚ましてください!』
「……ア、ロナ……」
あれ、何をしていたんだっけ。確か、ヒナタにユキと一緒に古聖堂の案内をしてもらってて、それで……
『先生、気を確かに!』
「いったい、なに、が……」
そうだ、思い出した。突然ユキに庇われて、その後……っ!
「アロナ、何が起こったの、それにユキは!?」
『古聖堂が爆破させられて……なんとか先生を守ろうとしたのですが……もう、これ以上は……しっかり……力が……』
「アロナ、アロナっ!?」
……ダメだ、アロナまで……ユキは、皆は……?
再び薄れゆく意識の中……何か、異形の……何かを……
「……先生!」
「よ、よかったです、辛うじて瓦礫の隙間に……」
……再び目が覚めた私は、ヒナタに助けられてなんとか立ち上がることができた……
「お怪我は……無さそうですね。あの爆発に巻き込まれてほとんど傷一つないなんて……」
「ユキが庇ってくれたおかげかな……っ!そうだヒナタ、ユキは!?」
「ユ、ユキさんですか!?ごめんなさい、彼女はまだ……「……ああ、無事だったんですね、先、生……」っ!ユキさん!?」
「ユキ!無事、で……」
少ししてハスミとツルギが合流した後、私が助けられた瓦礫の近くからユキが起き上がってきた……だけど、これは……
「……庇えて、よかった、です。先生が、死んでたら、私は……」
「私の心配なんてしなくていいから!?ユキ、しっかりして、ユキ!」
「……先生、汚れますよ……」
「そんなことはどうでもいいから!」
……確かにアロナとユキのおかげで私はほぼ傷一つ無い。ただ直ぐに助けないと危ないとよく見なくても分かるほどに、ユキは酷い有様だった。
全身が出血で赤く染まり、衣服もボロボロで所々焼け焦げ、銃を支えにしてなんとか立てている状態だ。私が受けるはずの衝撃をほぼ自分で受けたせいか、その傷はヒナタや正義実現委員会の皆より酷い。
「おいていって、ください。この傷じゃ、足手、まとい……」
「置いて行けるわけない!一緒に何処か、治療ができる場所へ……!?」
「……あり、うす……」
ユキに肩を貸して安全な場所へ移動しようとした次の瞬間、突然現れたアリウスの生徒達に囲まれる。マズい、普段ならともかく、瀕死のユキを庇いながらじゃ……「先生、行きましょう!」……ツルギ、ハスミ、ヒナタ……!
「……やっぱり、わたし、は……」
「ダメ!ユキも一緒に!」
……いつも助けられてばっかりでまだ何も返せてないんだ。このまま見殺しになんてできるはずがない!
ユキは、私の『生徒』なんだから……!
「先生、ユキ。もう少し耐えて、此処を抜ければ……」
「……まって、ください。新手、が……」
……ああ、身体が言うことを聞かない。全身が鉛になったようだ。……情けない、護衛だと豪語していたのにこれじゃあただの役立たずじゃないか。連邦捜査部部長の肩書が泣いているぞ、鞘野ユキ……
周りをなんとか見渡せば、四方八方を「ユスティナ聖徒会」なるきわどい衣装の……もとい武装集団に囲まれている。……一人、生徒がいるな、アリウス、か……
「ま、また会いましたね、ヒナさん……」
「っ、性懲りもなく……!」
「……せん、せい、ヒナ……」
「ユキ!?」
……そうだな、此処でお別れだ『先生』。大丈夫だよ、私はそう簡単には死なないって知ってるだろ。……それに……
「此処は、私が、引き受ける……」
「無茶だ、その傷じゃあ……!」
「……足手まといでも、足止めくらいはできます!」
「っ……!」
動かない身体を、糸に引かれるように無理やり動かす。支えようとする先生を押しのけ、銃を構えてヒナとアリウスの前に立ちはだかる。
「ま、まさかその傷で私達の相手をするんですか?痛いのに、どうして……?」
「……そんなの、決まっている、でしょう……」
……ああそうだな。私は
「先生、ヒナ、行って……」
「ダメだ、ユキも……!」
「早く行けと、言っている!!!!!」
「……先生、早く」
「でも、このままじゃユキが!」
「先生はあの人の覚悟を無駄にするつもりなの!?」
「……っ、ごめん、ヒナ、ユキ……」
……行ったか、それでいい。少しでも、時間を稼げれば、それでいい。
「……ど、どうして一緒に逃げないんですか?痛いのに、苦しいのに……!?」
「……かんたん、ですよ、私は……」
……後方から、三人。あいつらも、か……丁度良い、時間稼ぎがてら……
「『
「……理解できない、それだけの理由で?」
「どうでもいいな。シャーレ部長、鞘野ユキ。お前をやれば後は空崎ヒナと先生だけだ。……『シャーレの先生と部長は始末しろ』との命令でな、お前には死んでもらおう」
……なんて、都合の良い。そうだな、お前達の目論見通りになってやろう。
「やれる、ものなら、やってみると、いいですね……!」
『
……ただで死ぬほどつまらないこともないからな、最後の花火だ、せめて半分は持っていく……!
盛り上がって参りました。
番外編、いります?
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いる
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いらない
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コラボとかしろ