「......先生」
「......はい」
「どうして私が怒ってるか、わかりますか?」
「......すみませんさっぱりわかりません」
「はぁぁ……」
シャーレに入部届を提出しに来てから数日。私はあっさり入部が認められ、見事シャーレ部員第一号となりヘイロー無し……もとい先生のサポートを行うことになった、なったのだが……
「この書類の山、どういうことですか?」
「いやその、今から片付けていこうと、ね?」
「昨日も言ってましたよねそれ?まさか1日で片付けたのと同じ量の書類が追加されるとか普通あり得ませんよね?」
「は、はい……」
「……白状してください。昨日私が帰ってから、何してたんです?」
「……えっと、そのー……」
「どうして言葉を濁すんです?真面目に仕事をしていたなら素直にそう言えば……ああ、なるほど」
「仕事を片付けようとしたはいいが結局寝てしまったとかそういうことですね?」
「……息抜きに夜通しスマホゲームをしてました」
「ぶっ飛ばされたいんですか?」
「ごめんなさいぃ!」
こんな……こんな不真面目な奴が超法規的組織の責任者だと……?シャーレを利用する以前の問題だ。少なくともこのどうしようもないぐうたらダメ人間を更正させないと自治区内での自由な行動など認められるはずがない、というか認めてたまるか。……面倒だがひとまずは仕事をさせるところからだな……
「……ああもうわかりました。私もできる限り手伝いますから何とか今日中に終わらせましょう」
「神様仏様ユキ様ぁ……!」
「ええいしがみつかないでください後できる限りであって全部私がやるとは言ってません貴方の仕事なんだから貴方が終わらせるんですよ!?」
「肝に銘じます……」
「はぁ……貴方がやる気がない訳ではないのはよーくわかってますから、ちゃんとやってくれると信じますよ?というか信じさせてください」
……しばらく武器商人ドヴェルグは休業だな。これも私の目的のため、シャーレの先生様にはサボらないということを覚えてもらおう。
「はい、こっちに分けた書類は先生が目を通してサインするだけなのでさっさと終わらせてください。あとの書類は全部終わったので私は後でPCの方を終わらせてきます。適当にサインだけするんじゃなくてちゃんと1枚1枚目を通すんですよ?」
「助かります……」
「本来は先生が自分で終わらせるべき仕事なんですよ、全く。……ちょっと右腕が痛いので私は10分ほど休憩をもらいます、くれぐれもサボらないように」
「大変存じております……」
呆れた目をこちらに向けながらだいぶマシになったとはいえそれでも束になっている書類を机に置いた生徒、シャーレ部員第一号のユキは白い獣耳と両腕をピンと伸ばした後、ソファーへと横になって仮眠を取り始めた。聞けば彼女が元々在学していたSRTなる学園は連邦生徒会長直属のとても凄いところだったらしく、どんな仕事でもささっと終わらせてしまう手腕はそこで鍛えられたのだろう。おまけに厳しいけど面倒見も良い、赴任してから数日でまだ右も左もわからない私には救世主のような存在だった。さっき怒られた時の出荷される豚を見るような目は流石に少し堪えたけど、これも多分私のため。よし、怒られないように仕事を早く終わらせよう……
……
うん、本当に目を通すだけでいい。めんどくさい仕事は彼女が言った通り全部終わらせてくれたのだろう、本当に頭が上がらない。この調子なら何とか夜までに書類の方は終わりそうだ。……それにしてもどうして彼女は真っ先にシャーレに入部届を出しに来たのだろう。先日の一件がSNSで拡散されていたとはいえ、まだシャーレについては半信半疑な生徒が殆どの筈。何か理由でもあるのか、と入部初日に聞いてみたが「人助けが好きなので」と話すだけではぐらかされてしまった。……多分まだあくまで顧問と部員、という関係なだけで信用はされていないのだろう。……彼女の信頼を勝ち取れるよう、頑張らなきゃ。
「……てっきり私の監視がなくなったので自分も休憩、とかやってると思ってましたが、予想と違って真面目に仕事を続けてますね、いいことです」
「どひゃああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あっちょ、そんなに驚くことです!?私が起きてきたことがそんなに驚きですか!?ねえ!」
「い、いきなり話しかけられるとびっくりするから……」
「無造作に置かれた胡瓜を見て飛び上がる猫ですか貴方は。予定通り10分仮眠を取ったので私はPC作業の方に取り掛かりますね。さっさと書類仕事を終わらせておいてください」
め、珍しく褒められた……でも急に後ろから話しかけられるのはビビるよ……ん、「予定通り」?
「……丁度10分だ」
「何がですか、私が寝てた時間ですか?」
うん、間違いない。ユキが寝てから起きるまでピッタリ10分。目覚ましもかけてないのに……
「……体内時計は正確な方なので、昔から決まった時間に寝て決まった時間に起きることは得意です。……そうでもしないと夢を見てしまうので。というかそんなことを気にするくらいならさっさと仕事をしてください。無駄話で時間を潰す余裕はもうありませんよ」
「あ、ごめん……」
「……にしてもよくこれだけ貯め込みましたね。逆に才能ですよ……今日は徹夜ですね……」
「それはダメ」
「……はい?」
流石にそれはダメだ。ユキは大人びているけどまだ子供なんだし、徹夜なんてさせてられない。
「ユキはあくまで部員なんだからちゃんと定時に帰って。後は私が終わらせておくから」
「言葉だけ聞けばありがたいですがそもそもこんなことになった原因は貴方が仕事を片付けられないからなんですよ?私を定時で帰らせたところで結局明日に持ち越す未来しか見えませんし、大人しく徹夜に付き合わせてください」
「でも、晩御飯とか……」
「一昨日の食事がコッペパン1枚だった人に言われたくありません。エンジェル24で軽食は買えますし、最悪デリバリーでもすればいい……失礼、貴方は現在進行形で金欠でしたね。自腹で頼むので大丈夫です」
「さ、流石にそうなるとしても晩飯代くらいはこっちで……」
「またコッペパン1枚で飢えを凌ぐ羽目になりたいんですか?貴方もしかしてそういう宗教の儀式でもやってます?」
「私そんなオカルト宗教に入信した記憶はないよ!?」
「でしょうね。わかったらとっとと諦めて仕事を進めてください」
……見事に言い負かされてしまった。徹夜なんてすればユキの学生生活に支障が出るかもしれないのに断り切れない自分がもどかしい。
「……その、大丈夫なの?学校とか……」
「……ああ、そうですね。大丈夫ですよ」
カタカタとキーボードを忙しなく叩くユキに最後の希望を込めて質問を投げるが、即座に断られてしまう。いや、流石に徹夜明けは授業とか……
「SRTは閉鎖されることが連邦生徒会の会議で決定されましたから」
「……えっ」
……ユキの学園が、閉鎖される?
「ちょっ、それってどういう」
「はい口を動かす暇があったら手を動かす。どうせどうにかするにしてもまずはこの仕事を終わらせないと次に取り掛かることなんでできるわけがないでしょう。話はそれからです」
「でも……」
「でももかももありません。いいですか、今考えるべきはよく知りもしない私の学園より目先の仕事です、いいですね?」
「……」
結局閉鎖についての話ははぐらかされ、ユキを徹夜に付き合わせることになってしまった……
「……では、お疲れ様でした。明日も今日と同じ時間に来ますので」
「……うん、お疲れ様、それで……」
「しつこいですよ。今日はもう時間も時間ですし、明日覚えていたら少しくらいは話してあげます、それでいいでしょう?」
「……わかった。覚えてたら、ね」
「はい、そうですね。それでは改めて、一日お疲れ様でした」
……全くどれだけ仕事を貯め込んでたんだこいつは、結局7割くらい私が終わらせたぞ……まあ、各自治区への資金繰りが確認できたのは収穫だな。少しは疑うことをすればいいものを、ああやって無防備だから機密情報を握られるんだぞ。まあ漏らす気はないが。私は武器商人であって情報屋でもテロリストでもないしな。
……にしてもSRT閉鎖についてしつこく聞かれたのは正直驚いたな。あちらからすればこっちはただの一般部員なのにどうしてそこまで個人の事情に踏み入りたがるのだか。……正直SRTに関してはもう何の未練も、良い思い出もない。閉鎖されると聞いた時も「ああそうか」くらいの感覚だったし。不思議だな。昔はもっと、何か眩しく感じていたのに……いや、よそう。SRTに憧れと希望を抱いていたのは「鞘野ユキ」だ。今の私は武器商人のドヴェルグ。
あの日、あの時、あの場所で「鞘野ユキ」は死んだのだ。
そう自分に言い聞かせ、すっかり日が暮れたD.U.シラトリ区を後にし、私は一人自宅へと帰っていった。
翌日、実はまだまだ終わっていなかった書類の束を見て私は再びこのボケナス先生に説教をすることになった。こんなんでやっていけるのか?シャーレ……
この女私利私欲でシャーレに入ったのに何やってんだろう(困惑)
番外編、いります?
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いる
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いらない
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コラボとかしろ