Rusted Dáinsleif   作:暁真

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殺ったぜ。 投稿者:愉悦部糞作者(12月19日(火曜日)07時14分22秒)


鮮血に染まる名残の雪

 

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

「強い……手負いなのに」

「伊達にシャーレの部長ではない、ということか。……まああの調子ならくたばるのも時間の問題だろう」

 

 アサルトライフルを乱射し、とにかく一人でも聖徒会を散らしていく。あいつらは倒したら銃ごと消える以上武器を奪う戦術は使えないが、1体1体は脆い。この身体であのアリウス共をまともに相手するのは無謀だ、頭数を減らしつつ足止めを……!

 

「い、痛いですよね?苦しいですよね?早く楽になりたいですよね?」

「まだ、死ねないんですよ、こっちは……!」

「……なんで抗うの、どうせ死ぬのに」

「どうせ死ぬにしても、派手に死にたいものでしょう……!」

「……理解できない」

「手負いの獣程怖いものはない、か。……様子見は終わりだ、そろそろ仕留めるぞ」

 

……流石に動き出すか、手負いの身体で何処までやれるかはわからんが、やれるだけ、やるしかあるまい……

リーダーらしき女の射撃をどうにか予測して躱し、続けざまに放たれるランチャーを聖徒会を一人蹴飛ばして盾にして防ぐ……っ、今ので左足がイかれたか……

 

「……今」

「クソっ、動け、うご、ガッ……」

 

今度こそ放たれたランチャーをモロにくらい、派手に吹っ飛んで瓦礫にぶつかる。……6分か、手負いにしては、だいぶ持った、方か……

 

「……これで最後だ、鞘野ユキ。死ぬ前に何か言い残すことはあるか?」

「……なら時間稼ぎに、10分ほど、ぐっ……」

「生憎無駄話をしている時間はない」

 

冗談の通じない奴らだ……まあいい、6分あればあいつらも脱出にはだいぶ近づいているだろう。

 

「……そう、ですか。なら、さっさと殺せばいいでしょう。殺せる、ものなら」

「ああ、お前はシャーレだ。先生共々、確実に殺す」

 

執拗に私の腹部を銃撃した後、アリウス達は何か爆弾のような物を取り出した……あれは……

 

「ヘイローを壊す爆弾、と言えばわかるな?」

「……そこまで、私のために準備を?……ふふ、随分と、過大評価された……ものです」

「評価はしていない、ただ万全の準備を整えただけだ。……さらばだ、鞘野ユキ」

 

起動した爆弾は真っすぐ私の方に転がり……

 

 

 

 

最期に見たのは、アリウス達に右手を伸ばす私と、恐らくは先生とヒナを追って移動する奴らの姿。そして視界を一瞬にして覆う爆風だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ……」

 

 気が付いた時には、聖徒会も、アリウス達も、先生もヒナも、誰もおらず、視界は血で紅く染まっていた。……意識が朦朧とする、まさか話にだけ聞いていた例の爆弾を使われるとは……程々に数を散らしてから死んだフリをして消えようとしていたんだが、これはもう、助からないか……

 

「……」

 

僅かばかり動く手をなんとかポケットに入れ、端末の録音機能を起動する。ここまで時間を稼いだんだ、なんとかあいつは生きているだろう。……まああいつのことだから、私が居なくなったら散々苦労することは想像に難くない。そうならないようにせめてものアドバイスくらいは遺しておこう。

 

「……これが、ぶじ、先生に、送信、されているなら、私は、もう、いきて、いない、でしょう……」

 

……頭痛が酷い、頭が割れるようだ。全身の痛みは最早四肢の感覚すらなくて感じないのがせめてもの救いだろうか。……おかげでこうやって遺言を残すだけの余裕は残っている、全部終わったら、多分死ぬだろうけどな……

 

「……未だに、書類仕事すら、できないのは、いい加減、どうにかしないと。私は、もう、いないん、ですから……」

 

……目の前が、暗くなってきた。以てあと数分、と言ったところだろうか。……死ぬ前って、本当に思考が冴えるんだな。普段思い出さないようなことや、記憶の片隅に置いていたようなことですらはっきりと思い出せる……ある意味では地獄だな。

 

「……ああ、そうだ、まちがえても、復讐とか、考え、ないで、くださいよ……」

 

一応釘を刺しておく。約束でそんなことするなとは言っているんだが、念のためやっておこう。……赤黒い視界が、何も見えなくなった。……本当に死ぬんだな、私は。……いや、もう思い残すことも、ないか。ドヴェルグはグラニに託した、先生はある程度仕事に慣れたし。RABBIT、FOXの後輩達とは完全に道を違えた。もう、私に残っているものは……

 

 

……本当ですか?

 

 

……私に残っているのは、もう何も、ないだろう?私の正義はきっとグラニが代わりに成してくれる。私が死ぬのは、『力』がなかったからだ、仕方のないことなんだよ。

 

 

ねえ、本当ですか?

 

……頭が、割れるように痛い。だから、言っているだろ?仕方がないんだ、これは。情けない話だよ、私は(鞘野ユキ)から託されたのに、結局『力』が足りなかったんだ。だから、グラニに、『理想』を託して、此処で死ぬしかないんだよ……

 

 

本 当 で す か ?

 

……ああもう、五月蠅い!私だって本当は託したくなんかないんだ、託して溜まるものか!(ドヴェルグ)(鞘野ユキ)から託された『正義』を遂行するためだけの存在!それだけが唯一の存在意義!『正義』を成せば何れ消えるのに、こんなところで消えたくなんかない!ホムラ先輩も、FOX小隊の皆も、先生だってそのために切り捨ててきたのに、こんな、こんなところで……!

 

じゃあ、生きたいんです?

 

ああ生きたいさ!生きたいに決まってる!でもこの状況で何ができるっていうんだ!身体は動かない、遺言もまともに残せない、後はグラニに任せるしかない!もっと私に『力』さえあれば、こんなことにはならなかったのに!

 

……それなら、力があればいいんですね?

 

どうやって!?もうすぐ死にゆく者がどうして力を手に入れられる!?アニメや映画じゃないんだ、そんな都合のいいことできるわけないだろう!ていうかそもそもお前は誰なんだ、私と同じ声で語りかけてくるな……!

 

……酷いですね、託した側なのに

 

……まさか。

 

 

 

「……ごめんなさい、(ドヴェルグ)。とんでもない重荷を、背負わせてしまっていたようです」

 

……気づけば何も見えないぼやけた視界に、私と同じ……いや、もう所々違う顔。眠りに就いたはずの(鞘野ユキ)が、居た。違う、私は貴方なんだ、背負わされた重荷じゃないんだ、背負った重荷なんだ。謝る必要なんかない。謝るのはこっちだ、こうして、何も成せないで、死んでしまう、私が……!

 

「……いいえ、貴方は死にませんよ」

 

気休めならよしてくれ、ここから生き残る手段なんてあるわけがない。どうして、どうやって!?

 

「……死ぬのは、(鞘野ユキ)だけです」

 

……は?

 

「……貴方は私が生み出してしまったもう一人の私。私の思い浮かべた『英雄』をエミュレートした、願望の人格。そのまま貴方がSRTの(鞘野ユキ)として生きていたのなら、私が消えると同時に貴方も消えるはずでしょう」

「……ですが、貴方は『ドヴェルグ』という自己を確立しました。そうして過ごしていく内、私と貴方の間には『ズレ』が発生したのです」

 

……意味がわからない、どういうことだ?

 

「んー、そうですね。わかりやすく言えばだまし絵のようなものでしょうか。今のキヴォトスには『鞘野ユキ』として貴方を認識している人と『武器商人ドヴェルグ』として貴方を認識している人が存在します。今貴方が死ねば、この内の『鞘野ユキ』は死んだ、そう貴方を知る人たちは認識するでしょう」

「しかし『ドヴェルグ』は正体不明の武器商人です。その素顔も、本当の名前も、誰も知らない。故に『ドヴェルグ』として認識されている貴方は死なずにすむ……可能性があります」

 

……なんだよそれ、曖昧だな……

 

「あくまで可能性、というだけです。ほら、貴方の身体に起きた変化、覚えているでしょう?」

「あれは私と貴方の『ズレ』の象徴なんです。貴方が自分を『ドヴェルグ』と認識し、同じくそう思っている人たちの数が増えることで貴方は『鞘野ユキ』ではなくなっていく、『ドヴェルグ』として存在を再定義されていくんです」

 

……まさか。

 

「ええ、此処で私が死ねばこの体の自意識は完全に『ドヴェルグ』になります。そして『鞘野ユキが死んだ』と『鞘野ユキ』を認識していた者たちが一瞬でも思えば、貴方は完全に『ドヴェルグ』として再定義されるでしょう」

 

待ってくれ、じゃあ貴方は、『鞘野ユキ』は!?

 

「んー、まあ消えるでしょうね。私は『鞘野ユキ』ですから。……おっと、そろそろお別れみたいです」

 

ねえ待ってよ!貴方に返すために今までやってきたんだ!全部終わった後に消える存在が私なんだ!貴方が消えたら……

 

「……今までごめんなさい、ドヴェルグ。私は貴方に、全部背負わせてしまった。でももう、いいんです」

「自由に生きてください、貴方の思うままに。もう私の目指した正義は、叶えなくていいんです」

 

……ちが、正義を目指さなくていいのなら、私が生まれた、意味が……!

 

「いいえ。貴方は今、本当に生まれるんです。私の理想の『英雄』ではなく、ただの『ドヴェルグ』として」

「……さようなら、どうか、貴方の生きる意味を、みつけ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ター』

『……スター?』

 

「……ぁ……?」

 

目を覚ませば、何処かの路地裏に居た。視界のピントが合うと私……『ドヴェルグ』の恰好をしたグラニが立っていた。

 

「……グラニ、だよな」

『はい。そちらこそマイマスター……ですよね?』

「……?」

『……これを』

 

グラニは端末を起動し、アプリで私の顔を映し出した……これは、本当に私か?

 

白かったはずの髪はその全てが灰色に染まり……いや、一本だけ白いな。おまけに首までくらいの長さだったはずなのだが肩に垂れるほど伸びている。瞳は以前よりもさらに黒く、光を映さず。ヘイローは割れて黒ずみ、心なしか身長も少し伸びている……不思議なことに致命傷だった身体の傷も完全に癒えている……誰だこいつは。

 

「……」

『……指紋などの情報は一致していますからマイマスター、でいいのでしょうね。多分』

「……そうだな、ところでグラニはなぜここに?」

『マスターの心停止を確認し、急遽飛び出して来ました。ですが、回収しに来た時には既にその姿で……』

「なるほど、そういうことだったんだな。ありがとうグラニ」

『礼には及びません、それはそれとしてこれからどうするおつもりですか?』

「……これから、か」

『今からでもシャーレに戻ることは「それはしない」……何故です?』

「今までの活動で各自治区のデータは充分すぎるほど集まっている。もうシャーレを利用する必要はない」

『……そうですか』

「連邦捜査部シャーレ部長『鞘野ユキ』はアリウスによる調印式襲撃で死んだ。今ここにいるのは……」

 

……ごめん、『鞘野ユキ』。私は結局、貴方の正義を成すことしか残ってないんだよ。

 

 

 

 

 

 

「ただの、『ドヴェルグ(理解できない存在)』だよ」

 

 

 

 

さあ、貴方の『正義』のため、最後の仕上げに入ろう。




事象とは、解釈によって如何様にも変わってしまうものなのです。

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