Rusted Dáinsleif   作:暁真

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難解な説明を勢いでどうにかする勇気


最終編 VOl1
武器商人と黒服


 

 

 

「……」

 

 8:30、起床。……相変わらず急に身長が伸びたせいか身体の動かし方に違和感があるな。ひとまず身だしなみを整えようと洗面所に行けばまるで別人になった私の顔が出迎える。数週間程経っても元に戻る様子はまるでなく相変わらず瞳は黒く濁り、髪は整えるのが面倒くさいほど伸びている。……本当に変わってしまった(戻れない)んだな、私は。

(鞘野ユキ)が真に(ドヴェルグ)となってからそこそこの時間が流れた。どうやらあの遺言は無事先生に届いたらしく、表向きには『鞘野ユキ』は死亡したことになっている。……まあ、そうだな、確かに『鞘野ユキ(私だった者)』はあの時死んだ。私を生かすため、代わりとなって。

連邦捜査部部長としての役職から解放された私はグラニに任せていたドヴェルグとしての仕事に復帰。シャーレで得たデータを元に新たな武器を作成する傍ら今までのように資金源として武器の取引を行っている。……グラニが違法兵器を取り扱わなくてよかった、ちゃんと教育しておいた甲斐があったな。

 

「……にしても今日の取引先は……妙だな、弾薬ならわざわざ私から買う必要もないだろうに」

 

武器商人ドヴェルグは高品質な装備がウリだ。一応商品に並べてこそいるが弾薬なんてそこらで売っている物をわざわざ買う物好きなど居るわけがなく、しかも今回の取引先は弾丸1カートリッジというコンビニで買えレベルの注文だ。代金を踏み倒して商品を奪う気ならちゃんと装備を注文するだろうし、それすらないというのははっきり言って気味が悪い。一体何が目的なんだか。

 

「……まあいい、誠実な取引が私のモットーだ。行こう」

 

9:35、久しぶりに仕事用の黒コートを羽織り、バイザーを展開。……髪が伸びたせいか少しはみ出ているな、切っても何故かすぐ伸びてくるし、バイザー自体を後で作り直すか。制作中の「とあるもの」を一度保管し、工房から地下へと赴く。

 

「おはようグラニ、仕事の時間だ。それと、今まで私の代役ご苦労様」

『おはようございますマイマスター。現在の時刻は9:38。マルチギミックアーセナル『ミズガルズ』及びオペレートシステム『Grani』、どちらも正常に稼働しています。代役に関しては私はマスターのサポートが仕事ですので礼は不要です』

「そうか……素体はどうだった?」

『やはり私に生身の感覚という物はあまり慣れませんね、ただ食事は良いものだと思います』

「なるほど、今度発注するときの参考にしておく」

『かしこまりました、今日の予定は?』

「データの通りだ。ルートはG4を使用」

 

9:38、久方ぶりにミズガルズに跨りグラニを叩き起こす。今まで代役ご苦労様、次の素体は今の私に似せたやつにせねばな……まあそれは後で考えよう。いつものように地下道をハッキングし、ミズガルズのハンドルを握ってエンジンを吹かす。

 

『ルートG4、ハッキング完了。25分後に再閉鎖を行います、遅れないように』

「ああ、わかってる。行くぞ」

 

9:40、重い音を立てて開く地下道の入り口を豪速で駆け抜け、今日の『仕事場』へと赴く。

……ああ、そうだ。これが私なんだよ。表の世界では生きられない、正義の亡霊。うん、これでいいんだ。

 

『……マイマスター、どうかしましたか?』

「……いや、なんでもない、速度を上げるぞ」

『かしこまりました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……此処か」

 

 10:55、本日の取引先に到着。『いかにも』な感じが漂うビルで、明らかにただ商品を受け取りに来たわけではないことは透けていた。

 

「グラニ、念のためミズガルズは秘匿性の高い場所に保管しろ。もしものことがある」

『かしこまりました、武器の方は?』

「こういう時はいつも使っている物に限る」

 

外部フレームから使い慣れたアサルトライフルを引き抜き、万が一のためにミズガルズを隠しておく。……アタッシュケースは持った、行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりましたよ。『ドヴェルグ』様。お会いできて光栄です」

「……お前が今日の取引先でいいんだな?」

「ええ、とはいっても取引は建前なのですが」

 

……やっぱりな、どこからどう見ても怪しいんだよ、あんな購入内容は。

11:00、時刻通り指定された取引場所……薄暗いオフィスのような場所で、私は本日の取引先……もとい、何かを企んでいる何者か。明らかにこの世の物とは思えないスーツの人間と対峙していた。

 

「……そうか、だがその前に取引は済ませておこう。書類と決済を」

「それは勿論。「取引」という名目で呼び出した以上、違えるわけには行きません」

 

アタッシュケースから弾薬と書類を取り出し、スーツの男の支払いとサインが終わるのを待って手渡す……『黒服』?

 

「ああ、一応此処ではこの名義で通させてもらっています。個人的に気に入ったものでして」

「……そのままだな」

「ええ、そのままそっくり私の特徴を捉えています。良い名前でしょう?『鞘野ユキ』様。いえ、今は武器商人ドヴェルグ、でしたね」

 

っ……こいつ、私の正体を……!?

 

「おっと落ち着いてください。別に私は貴方を脅迫しようとしているわけではありません」

「私は貴方と『取引』がしたいのですよ」

「……」

 

……何が何だかよくわからんが、少なくとも今敵意はない、か。

観念してバイザーを格納し、変わってしまった素顔を露わにする。

 

「……やはり、一度神秘は剥がれている。しかし恐怖に近づきこそすれど、完全に反転はしていない……。成程成程、完全に恐怖に至る前にもう一度神秘を貼りなおしたのか、クックック、実に興味深い……」

「……何を言っているんだ、お前は」

「おっと失礼、一人で盛り上がってしまいました」

「円滑な取引のために『説明』をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「……なるほど、聞くだけは聞こう、取引に応じるかはまだ決めかねるがな」

「それはご自由に、私は別に強制しているわけではありませんので」

 

私の正体を知り、素顔を見れば意味不明な用語を捲し立て、おまけに説明会を始める……この黒服とかいう奴、胡散臭さしかないな。まあ説明とやら、聞くだけは聞いておこう。

 

「まず初めに、貴方は『神秘』と『恐怖』についてはご存じですか?」

「生憎聞かない言葉だ」

「そうでしょうね。一言で説明するとなると大変難しいのですが……貴方たち『生徒』の表と裏、とでも言っておきましょうか」

「……もう生徒ではないのだがな」

「便宜上そういうことにしておいてください。それで、此処からが本題になります」

「今の貴方がどうしてそうなったのか、知りたくはないですか?」

「……知りたくないと言えば、嘘になる」

「では、お話しましょう」

 

……あの時、『鞘野ユキ』は私を『ドヴェルグ』として再構築すると、そう言っていた。何を意味するのかは未だに理解できていない、こいつが何か知っているというのなら……聞かせてもらおう。

 

「前提として、生徒の表……『神秘』は、自己認識と他者からの認識で成り立っています。例えばこれは何でしょうか?」

 

難解な説明がしたいのか黒服とやらは先ほど購入した弾薬を取り出す。

 

「……弾薬、だな」

「ええ、その認識こそが『神秘』なのです」

「他者からの自己の認識、それを受けた自己認識を得て初めて『神秘』は『神秘』足りえます。……そしてその認識にズレが発生した時、『神秘』は『恐怖』に反転する。これが私の仮説です」

「認識がズレる?」

「ええ、一例ですがこの弾薬を……」

 

黒服がピンと指を弾くと、持っていた弾薬は粉々になってしまった。物を粗末に扱うなよ、全く……

 

「こうして粉々にしたとします。さて、これを貴方は『弾薬』と認識できますか?」

「……少なくとも『弾薬』ではないな、ただの『破片』だ」

「そう、それこそが認識がズレる、ということです」

「は?」

「何かの要因で自己と他者の認識がズレた場合、『神秘』はだんだんと『恐怖』、理解できないものへと変貌していきます。最初は微々たるものですが、ズレが大きくなるにつれ異変は目に見えて発生する。貴方にも覚えがあるのでは?」

「……」

 

……あの日。戦うために『鞘野ユキ』を眠らせたあの日。私の身体には確かに変化が起きた、それが『恐怖』とでも?

 

「話を戻しましょう。『神秘』が『恐怖』に変貌するのに必要な条件は自己認識と他者からの認識の大きなズレ、もしくは……」

「他者からの認識の消滅、です」

「……消滅?」

「ええ、先ほど壊した弾薬、私と貴方はこれが『弾薬』と理解しているからこそ認識できますが……」

「そもそも『弾薬』という存在を知らない場合、訳の分からない、未知の存在として無意識に恐怖するでしょう。これが『認識の消滅』です」

「実はこれ、貴方にも密接に関わっているのですよ」

「……詳しく聞こう」

 

……なんなんだ、一体。

 

「貴方がその状態になったのは今までの他者からの認識であった『鞘野ユキ』が死亡したためです。此処で『鞘野ユキ』という神秘は剥がれました。その時点で『鞘野ユキ』は死んだ、と認識され、自己認識すら朧げな状態ではそのまま死ぬだけだったでしょう。ですが、実際には貴方は死なず……」

「『死んだ』と認識されている鞘野ユキが生きているのは可笑しい、理解できない。それ故『神秘』の裏側、『恐怖』へと完全に変わってしまう筈なのですが……」

「完全に反転しきる前に貴方は何故か『ドヴェルグ』として神秘が再度張り巡らされ、ギリギリで踏みとどまり、その姿すら変質させました。それが貴方に起こったことの全てです」

「長い、簡潔に纏めろ」

「まあ言ってしまえばパッケージのリニューアルです。菓子が形はそのまま、箱と名前を変えても人はそういうものかと認識を改めるだけでしょう?」

「……私が元々ドヴェルグとして認識されていたからこそ、という話か」

「ええ、その解釈で概ねはあっています。……そして興味深いのはその後、今の貴方の状態です」

「どういうことだ」

「今のあなたは恐怖に限りなく近づいていると同時に、神秘を持ち得ている。しかし崇高にはなり損ね……いや、それとはまた別の……」

 

……また一人で捲し立てている、話を聞いたのは失敗だったか?

 

「……失礼、今の貴方の状態をどう形容すればいいのか迷っておりまして。そうですね……」

 

「『神秘(生徒)』と『恐怖(テラー)』の間、どちらにもなり得るがどちらもは持ちえない、『狭間(デュアリング)』とでも名付けましょうか」

「それで、此処からが取引なのですが……」

「……結局要求はなんだ」

「いえいえ、何も特別なことは致しませんよ。ただ貴方のデータが欲しいのです」

「データ?」

「ええ、我々の求める『崇高』に近づくための手がかりとして」

「……そちらからは何を?」

「……古の技術、と言っておきましょう。なぁに、そちらを騙すような意図はありません。お互いに利のある取引だと思いますが」

「此方に不利な取引の場合は即座に断るが」

「まさか、そんなことをすれば……」

 

「シャーレの『先生』が、黙っていませんから」

「……何故今その名前が出てくるのかはわからんが、そこまで言うのならいいだろう、交渉成立だ」

「ありがとうございます。それではこちらの書類をよく読んだ上でサインを」

 

渡された書類をよく読み込む。……成程、言葉通り特に此方に不利になる条項は存在しない。

 

「……ほら、書いたぞ」

「ええ、ではこれから末永くよろしくお願いしますね、『ドヴェルグ』」

「……改めて聞くが、今日の要件はこれだけか?」

「これだけですとも」

「そうか、ではな」

「また後日、お会いしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

『大丈夫でしたか?マイマスター』

「ああ、別にこっちに損も害もなかったよ」

『ならばよろしいのですが……』

 

15:25、取引を終え、ミズガルズに乗って帰路を辿る……どうにも意図が掴めん、私のデータなんか何に使うんだか……まあいい、帰ろう。

 

「グラニ、G2ルートを……」

『かしこまりま……待ってください、マイマスター』

「……なんだ、また暴動でも起きているのか?」

『それが……』

 

 

 

 

 

 

 

『つい先ほど、連邦生徒会主席行政官七神リンの不信任決議案が提出、同時にシャーレの『先生』が行方不明になりました』

「……は?」

 

……一体、何が起こっている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろ終わりが見えてきました

番外編、いります?

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