『……マイマスター、連邦生徒会まで後2分です』
「ああ、どうも混乱しているらしい。今のうちに仕掛ける」
13:05、通信を傍受するにFOX小隊は作戦に失敗、先生率いるRABBIT小隊はカヤを確保するため連邦生徒会に移動中……これを好機と捉え、私は行動……不知火カヤの暗殺に打って出た。RABBIT小隊襲撃の騒ぎに乗れば暗殺自体は容易いだろう……ただ、それをするということは、もう私は戻れなくなる。
……いや、きっとそれでいいんだ。もともと私は彼女が思い描いた理想の英雄としての人格、逃げてしまった彼女の役目を代わりに与えられた抜け殻。……だからきっと、これで、いいんだ。私は最初から自由には生きれない、鞘野ユキのような人助けなんてできやしない。やってきたことは全て自分のため、それが例え人助けに見えたとしても。
無理やり自分を納得させ、連邦生徒会へとアクセルを踏み込む。……派手に爆発しているな、この様子ならさぞ混乱していることだろう。
『……ロビーにて不知火カヤの生命反応を検知、どうやらRABBIT小隊によって拘束されているようです』
「そうか、ならこのまま突っ込むぞ」
外部フレームを開き、Dáinsleifを取り出し構える……黒服曰く『充分な力を吸えばヘイローすら1発で壊せる』らしいが……この前の威力が最小限だというのなら仮に壊せなくても重傷を負わせることはできそうだ。……この持っていかれる感覚は、相変わらず慣れないが。
『……オートパイロットに切り替えます。突入まで、10、9、8、7、6……』
「……」
立ち上がり、両手で構えて更に力を籠める。……少し身体が怠くなってきたが、まだ問題ない範囲だ。どうにかなるはず。
『3、2、1……突入します!』
「……っ!」
ミズガルズを勢いよく乗り込ませ、グラニの報告通りRABBIT小隊によって確保されている不知火カヤに一発の弾丸を放ち……
「……させないよ、ユキ」
「……」
その一撃はカヤを庇うように前に出ていた先生を避けるように、あらぬ方向へと逸れていった。……そうか、それがお前の選択か、先生。
「……いい加減死人を追うのはやめたらどうだ、先生。それとどけ、用があるのは会長代行様だけだ」
「いいやどかない。ここで退いたら、貴方は戻れなくなる」
「な、なんです貴方は!?」
「サキ、不知火カヤを安全な場所に」
「ああ、わかってる」
「ええい何処に連れていく気です!?離せっ、離しなさいっ……!」
……なるほど、私が来るのは想定済みと、そういうことなんだな。……大方ユキノが白状したんだろう……隠したままでいればよかったというのは後の祭りか。
「……ねえユキ」
「私はドヴェルグだ。いい加減死人を重ねるのはやめたらどうなんだ?」
「……ユキノから、全部聞いた。だから重ねてるわけじゃない」
「貴方がユキってことは、確信してる」
「……はぁ」
「いいからどけ、お前らに危害を加える気はないと言っている」
「だから言ったでしょ?どかないって」
「しつこいんだよ。お前一人でどうにかできるとでも?」
「……一人じゃないよ」
意味のない問答を繰り返しながら先生が根負けするのを期待していたが……流石にバカの考えだったか。
「……敢えて私もユキ先輩と呼びます。武器商人ドヴェルグ」
「……」
「ユキノ先輩から全て聞きました。貴方の過去に何があったのか、そして貴方のやろうとしていることも」
「だからどうした」
「その上で言わせてもらいます。貴方の『正義』は、独善的な物です」
……独善的、か。
「確かに他人を、SRTを信じられなくなったのは分かります。ですが他になかったのですか?」
「他に、とは?」
「……私は先輩たちと違ってSRT時代の貴方は知りません。ですが先生と一緒に居た時の貴方は、確かに先生を信じて共に居たじゃないですか!」
「……」
「貴方と先生の間には確かに『絆』がありました。それを捨ててまで、どうして……!」
「……もういい」
「ユキ……?」
……これ以上は無謀だな。……こうなるのならお前たちが来る前に来るんだったよ。
「……先生、お前の端末に一つ座標を送信した。今日の21:00、其処で待つ」
「わかった」
「別に一人で、とは言わん。好きにしろ」
「……やっぱり優しいね、ユキは」
「言っておくが、私はお前との因縁を全て終わらせるつもりだ。ではな」
増援が来る前にミズガルズに飛び乗り、連邦生徒会を後にする。
「……グラニ、進路は、座標の通りだ……」
『マイマスター、バイタルが……』
「まだ、平気だ……行くぞ……」
『……イエス』
……向かう先は、篝ホムラが、そして鞘野ユキが死んだ場所。
『正義』を成すことは失敗した。ならいっそのこと、同じ場所で私を終わらせよう。
「……本当に良かったの、皆?」
「ええ、此処で抜けては後味が悪いですから」
「いーのいーの、此処まで手伝ってもらったんだからそのお返し」
「……それに、私達だってユキ先輩がどうしてああなったのか、気になるからな」
「ユキ先輩……凄く怖かった……」
あれからひとまずの事後処理を終えて。私たちはカヤを撃とうとしたドヴェルグ……ユキを追跡するという名目で端末に送られた座標を目指していた。本当は私一人で行くつもりだったのだが、RABBIT小隊の皆は疲れているだろうに満場一致で付いてきてくれた。今度お礼をしないとな……
「……見えてきたよ、あれが……」
「ユキ先輩が指定した、座標……」
「……ほぼほぼ、廃墟だな……」
ようやく見えてきた座標の場所は工場……の跡地のようなもので、酷い荒れようだった。どうしてこんな所を待ち合わせ場所に……あれ?
「先生、どうしたの?」
「……何か、花が……」
「……本当だ、それにあれは……銃?」
入り口には比較的新しい花に囲まれて、銃が2本突き刺さっていた。……1つは見るからにボロボロだ。そしてもう1つは……あれ?
「これ、ユキの……」
「ええ、先輩のアサルトライフルですね……」
「……先生、もう一つの方、心当たりがある」
「本当?」
「……私の記憶が正しければ、これは……ホムラ先輩の使っていた銃だ」
「……じゃあ、この銃は……」
「……墓標?」
……なんだろう、ものすごい嫌な予感がする。
「……皆、これ……」
「ミユ、何か見つけましたか?」
「……バイクの、タイヤ痕……」
「……昼に先輩が乗っていたバイクの痕に違いない。比較的新しいしこれは……」
「いるんだろうね……ユキ先輩が」
「……行こう、皆」
タイヤの痕は綺麗に工場の中へと続いていた。きっとこの中に、ユキが……
「今の所トラップとかそういうのはないっぽいね、待ち構えようってわけじゃあないみたい」
「……にしても何でこんな場所を指定してきたんだろうな、先輩は……」
内部は恐ろしいほど静まり返っていて、不自然なほどに何の物音もない。ただただ私たちが歩く音だけが響いて……っ!
「……20:58、予定より少し早めの到着だな。……ちゃっかり護衛まで引き連れて、ご苦労なことで」
「一人じゃなくていいって言ったのは貴方だよ、ユキ。あとそれ似合ってない」
「ほんと、無理して演じてる感凄いぞ先輩」
「私達と会った時みたいな如何にも偉そうな口調でいいんだよ?」
「……如何にも偉そうとは、また」
少し開けた場所で、ユキは背中をバイクに預けて待っていた。……気のせいか、少し身体がふらついて見える。
「……にしても、よく来てくれましたね。罠の可能性とか考えなかったんですか?」
「ユキならそんなことはしないから」
「……信頼もここまでくると少し気持ち悪いですね、まあいいです」
「先輩、そのバイザーを外してください。私たちは『ドヴェルグ』ではなく『鞘野ユキ』と話をしに来たんです」
「ああ、そうですね……先に言っておきますが、ちゃんと私ですのでご安心を」
「それってどうい……う……」
無機質な音とともにバイザーが格納され、ユキの素顔が露わになる、が……
「……先、輩?」
「ええ、貴方たちがお望みの鞘野ユキですよ……生物学的には」
「……どうしてそうなったのかは、あえて聞きません」
その姿は平行世界のシロコのように髪は灰色に、目はあの時よりもひどく黒ずんで、少しだけ残った白髪で辛うじて彼女がユキと判断できるほどには、彼女は変わってしまっていた。
「……ユキ、貴方は……」
「……その前に、わざわざ此処に呼んだ理由を話しましょうか。入口にあった墓標は、見ていただけましたか?」
「やっぱり……」
「じゃあ、此処は……」
「ええ、WOLFが解散に至った理由。……かつてホムラ先輩と、私が死んだ場所です」
「……どういうこと?」
「……昔話をしましょうか」
立ち上がり、ユキは外周を回るようにして話し始める……やっぱり、少しふらついている。
「ユキノから大体は聞いているとは思いますが、かつてWOLFはこの工場に潜入し……失敗しました。ホムラ先輩は死亡し、私は重傷を負って病院に運ばれた」
「それで……退院してからユキは、おかしくなったって」
「……そうですね、3年生に上がるまでの2か月間、
ホムラ先輩は何も失敗しなかった、JACKALの皆だって、なら……
……ああ、そうか
「私が弱かったから、私が作った武器が弱かったから皆は死んだ。そう考えた私はひたすら訓練を繰り返し、強い武器を求め続けました。使う人間は、もう私しかいないのに」
「……」
「それに気づいた
こんなんじゃ「英雄」なんて名乗れない、私は、「英雄」じゃない……!
……でも、私は「SRTの英雄」なんだ。どうにかして「英雄」にならなきゃいけないんだ……
……演じなきゃ、「英雄」である自分を
私が思い描く、理想の「英雄」を……
「此処で一度、『鞘野ユキ』は眠りに就きました。私という人格を生み出して……解離性同一障害、と言った方がいいんですかね」
「じゃあ、先輩は……」
「……残念ながら、貴方を助けたらしい『鞘野ユキ』の人格はもう存在しませんよ」
「……そう、ですか……」
「話を続けましょう。『鞘野ユキ』の思い描く理想の英雄として生み出された私は何が必要か考えました。一人で全て終わらせることができる、完璧な英雄として何が足りないのか」
武器を作るための資金が足りない。なら自分で稼げばいい。
SRTにはそんな時間はない。ならば居る必要はない。
「考えた結果SRTに居る必要はないと考えた私は1年前に姿を消し、武器商人ドヴェルグとして活動し始めました……まあ、これは理由の一つで、姿を消した理由にはSRTへの不信も含まれていましたが」
……それなら。
「……じゃあ、なんでシャーレに来たの?時間が足りない筈なのに」
「……早い話が行き詰ったんですよ、武器開発に」
「……」
「1年間自分の求める武器を作り続けましたが、結局一人だけでは技術が頭打ちになりました。しかし技術を盗もうにも私には他の自治区で好き勝手できる権限はない。そんなときです、先生がキヴォトスに来たのは」
「シャーレは自治区での自由な活動が許されていました、これを利用しようと考えた私は貴方とドヴェルグとして会った翌日、シャーレに入部届を出したのです。それからの行動は全て自分のため勝手にやったことなんですよ」
「……仕事を手伝ってくれたのは?」
「私の負担を減らすためです。結局仕事は減るどころか増え続けましたが」
「……色々教えてくれたのは?」
「それも私の負担を減らすためです、貴方は知らないことが多すぎたんですよ、ほんと」
「私との約束は?」
「シャーレの評判を落とさないためです。私が自治区内で自由に動くためにはシャーレが信頼される必要がありましたから」
「……それなら」
「どうしてあの時、私を庇ったの?」
そう、全て自分のためだというのなら、あの日私を庇う理由が見当たらない。
「……さあ、どうしてでしょうね」
「……」
「不思議なことに気付いたら身体が勝手に動いていたんです。何故かあの時だけは、誰かを助けなきゃ、と」
「……そっか。やっぱり優しいんだね、ユキは」
「ご冗談を、その後囮を買って出たのは自然とシャーレから姿を消すためでしたしやはり自分のためにしか動いてないんですよ、私は」
「……たとえそうだとしても、私は今までずっとユキに助けられてきたと思ってる」
「そうですか……やはり貴方は馬鹿だ」
「馬鹿でいいよ、そして……」
「今度は私が、ユキを助ける番」
「……は?助ける?私を?……なんの冗談です?」
「冗談でも何でもない。ユキは優しい子なんだから、あんなことしなくていいんだよ」
「ええ、先輩。貴方が人柱にならなくても『悪』に立ち向かう『正義』はいつだって存在します」
「先輩はもう少し人に頼ることを覚えてくれ、昔も今も面倒見が良いって聞いたけど、独り善がりじゃなにもできないぞ」
「ほんと、一人でできることなんてたかが知れてるのにね」
「ひ、一人よりも助け合った方が、なんとか、できます……」
「……そうですか」
……止まった?
「ですが、私にはもうこれしかないんです」
ユキはバイクを弄り、あの時のように外部フレームから銃を引きぬいた……気のせいだろうか、あの銃を持った瞬間顔が苦痛に歪んで……
「『鞘野ユキ』が望んだ英雄として、私は生きるしかないんです!」
「……皆」
「ええ、行きましょう先生」
「……先輩から、絶対に笑顔を取り戻す」
「此処って廃工場だし思いっきりぶっ放してもいいよね?」
「さ、流石に……崩壊するんじゃあ……」
……待ってて、ユキ。
「……そうですね、全てを終わらせましょう」
絶対、助けて見せるから。
なんとか終わりまで頑張れそうです。
番外編、いります?
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いる
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いらない
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コラボとかしろ