「……」
7:00、起床。……ようやく体の違和感には慣れた。ただ、昨日の今日だからか妙に身体がだるいな……久々に二度寝でも『起きてください、マイマスター』……いいだろグラニ、今日は何の予定も……ああ、そうか。
『今日は職場復帰するんでしょう?運転は私がやりますから行ってください』
「……そうだったな。……待て、お前が運転を?」
『そうですが、大人しく担がれてください』
「担ぐって、人を荷物みたいに『散々警告を無視してDáinsleifを3発も撃とうとしたその身体で碌に運転できるわけないでしょう』……否定できんな」
『先生のおかげで辛うじて生きながらえてること、忘れないでくださいね?』
「そもそも私はあの場所で死ぬ気『二度とやらないでください、次は私も止めます』……わかってる、二度とやらない」
『はぁ、それならいいのですが……一応言っておきます、Dáinsleifは封印処分です。絶対に握らないでください』
「非常事態でもか?」
『非常事態でも、です』
「……わかったよ」
『ならさっさと準備をしてください。行きますよ』
「……ああ」
7:25、身だしなみを整えて朝食を済ませ、黒コートに袖を通す。……前まで着ていたシャーレの服は一回死んだときにボロボロになったから捨ててしまったしな。予備が何処かにあったはずだが、しばらくはこれでいいだろう。……にしても、死にぞこないがよく生き残ったものだよ、ほんと。
『ミズガルズはもう出してあります。地下じゃなくて外に行くように』
「……ミズガルズでいいのか?」
『武器商人ドヴェルグは廃業するのでしょう?それに先生に貴方の正体はバレているので今更です。私もシャーレでサポートできますからね』
「要介護者か私は……」
『現状そうとしか言えませんが』
「……よく口の回ることで」
『誉め言葉と受け取っておきます』
7:30、通勤のため外へ……出たはいいが、何故か前の私と同じ姿の素体……『鞘野ユキ』の姿のグラニがミズガルズの前で待っていた。お前、今の私と同じ姿の素体発注しただろ……
「来ましたか、乗ってくださいマイマスター。具体的には背中辺りに」
「……やっぱり二度寝していいか?Svalinの修理を……」
「ダメです、さっさと乗ってください。生真面目な貴方は何処に行ったんですか」
「わかったわかった、行こう」
「わかればよろしい」
ミズガルズに跨ったグラニの背にもたれるようにして身体を預ける。……カンナもこんな感じだったのか、割といいかもな、二人乗りの後方。
「しっかりとヘルメットは付けてください。あと回復したらちゃんと貴方が運転するんですよ」
「お前は私か……」
「貴方の思考ルーチンを元に作られたAIではあります」
「そうだったな……」
いつか先生と交わしたような軽いやり取りをしながらグラニに運転を任せ、昨日のことについて思い返すことにした。……まさか、あんな形で命を拾うとはな……
「……さようなら、先生っ……!?」
銃口を私のヘイローに向け自決しようとした瞬間僅かに身体がふらつき、発砲が一瞬遅れた。まあ大した問題ではないだろうと気にしてはいなかったのだが……
「……ちょっと我慢してね、ユキ」
「なっ、それ、は……」
……まさか先生が発砲するとは思わなかった。いつぞや商品として渡した記憶こそあったが、まさか身に着けているとは思わず。
「っ……しび、れ……」
「……まさかユキに使うことになるとは思ってなかったけど……」
先生が放った銃弾からはネットが広がり、私に絡みつき電流を流して動きを封じる……護身用だと思ってたんだがな、そのスタンガン。
「……クソ、動け、ない……」
「……先輩、貴方は」
脱力してまた倒れ込み、バリアも消失する。……2回目は許してくれなさそうだ。
「……どうか、しましたか。後輩……」
「貴方は……」
もう碌に動けない私に近づいてくるRABBITの面々、もう話すことは話したろう、に……っ
「貴方は、また先生に同じ苦しみを与えるつもりだったんですか!?馬鹿です……ほんと、先輩は馬鹿です……!」
「……同じ?」
「……先輩の遺言を聞いた日から数日、先生は目も当てられない姿だった」
「ほんと、子ウサギ公園に来た時なんて生気のせの字もなかったんだからね?」
「貴方の後を追いかねないくらいには……酷かったです……」
……そうか、そりゃあ一発ビンタしたくもなるか。
「……それでも先生は立ち直りました。苦しかっただろうに、辛かっただろうに、先生を続けることを選びました」
「一応先輩の遺言のおかげでもあるんだぞ?「ちゃんとしないとユキに面目が立たない」とか言ってたからな」
「……そう、ですか」
「……ユキ」
「……なんです、先生。さっきも言いましたが、私はもう『SRTの英雄』でも、『連邦捜査部部長』でもないんですよ……ただの、犯罪者です」
「でも、まだ何もやってないよ」
「馬鹿言わないでください……私は確かに不知火カヤを「それは私が止めたから」……屁理屈ですね」
「うん、屁理屈。でもこれでいいんだ」
「子供の責任を代わりに負うのが、大人の役割だからね」
……そっか。ずっともう生徒ではない、子供には戻れないと、そう割り切ってきたけど……
「……はは、ほんと、貴方は、馬鹿だなぁ……はは……」
「……だから馬鹿でいいって。ほら、手を取って」
「……先輩、笑ってる……」
「器用ですね……泣きながら、笑ってます」
先生にとって私は、『生徒』で『子供』だったんだな……
電流による痺れも抜け、今度こそ先生の手を取って立ち上がる。……さっきの衝撃でDáinsleifは手放した。Svalinも完全に壊れたし、今度こそ完全敗北だ。……ごめんなさい、『鞘野ユキ』。私は、貴方の望んだことを、間違えて「……気づいてくれたから、いいんですよ」……え?
「……死にぞこないがしぶとく生き残っててすいませんね、
「なん、で……?」
気付けば暗闇の中、私は消えたはずの『鞘野ユキ』と対峙していた。
「んー、なんでと言われても……貴方を『ドヴェルグ』ではなく『鞘野ユキ』と認識していた人達の影響、ってところでしょうか」
「でも、『鞘野ユキ』が死んだと認識されれば貴方は消えるって……」
「ええ、ですがそれを信じられない。きっと生きていると強く信じていた人も居たようでそのせいでしょうか。一度は消えたはずなんですが時間をかけて段々とこうして話せるレベルには自己を再構築できちゃったっぽいです」
「強く信じてるって……そんなの誰が……?」
「私の推測ですが、かわいい後輩達と……」
「今貴方の手を取っている、先生ですよ。ほら、あの人の貴方への認識は一応『鞘野ユキ』ですから」
「……」
「まあ、そういうわけで同じ死にぞこない同士、また仲良くやっていきましょうか。ああ、トラウマに関しては心配しないでください。貴方のおかげで自分を納得させれましたから、もう大丈夫です」
「……はは、なんて都合の良い、ハッピーエンドなことで……」
「いいじゃないですかハッピーエンド。悲劇はもうありきたりすぎて飽きたでしょう?」
「……そうだな。たまにはこういうのも」
「……悪く、ない」
「……キ、ユキ?」
……どうも先生の眼には意識がないように見えたらしく、気づけば揺さぶられていた……地味に気持ち悪い。
「心配しなくてもちゃんと起きてますよ……というか微妙に吐きそうになるのでやめてください、吐きますよ」
「まあユキなら別にいいかな「正気ですか?」……流石に冗談です」
「先生、もしかしてそういう……」
「違うからミヤコ!?こればっかりは本当に誤解だからね!?」
……懐かしいな、こういうやり取りも。
「……にしても、これからどうするんです、先生?恐らく『鞘野ユキ』は死亡扱いされているでしょうし……」
「いや、『鞘野ユキ』は、まだ行方不明扱いだよ」
「さては相当ごねましたね……?」
「あはは……まあそれも多少はあるんだけど」
「きっと生きてるって、何処かで信じてたから」
「……感想に困ります。そこまで信頼されてましたかね、私?」
「勿論」
「だってユキは私の頼れる右腕だよ?シャーレの『部長』とかそういうの関係なしに」
「その右腕に殆どの仕事を代行させてた口が言いますか」
「それは……その……」
「……戻ってきましたね、昔の先輩が」
「ああ、しかも笑ってる。さっきみたいな泣き笑いじゃなくて、本当に」
「んー、なんかそういう雰囲気だし私達いる?これ」
「い、一応万が一がありますから……」
「……まあ、そうですね。そういうことなら明日から復帰させてもらいましょうか。シャーレ」
「明日から!?さ、流石に休んだ方が……」
「私なりのケジメです。あ、服はボロボロになっちゃったので私服ですがそれは許してくださいね」
「それは別にいいけど」
「やっぱり大雑把ですね貴方?まさかまだ書類のミスは……」
「……」
「目を逸らさない。……はあ、また1から教えなおしですかねこれは」
「ご、ご容赦を……そうだ、これだけ言わせて」
「なんです?」
「おかえり、ユキ」
「……ええ、ただいまです。先生」
「……随分と奇妙な縁で命を拾ったな、ほんと」
「むしろ勝手に死のうとしないでください、事後処理を全て私に任せる気ですか?」
「それは……すまない。悪かった」
「わかってるならいいです。あとその口調大不評だったし戻しましょうよ、その口調はドヴェルグの時だけで充分です」
「……わかったわかった。……やっぱりこっちの方が落ち着くのはどうも不思議なものですね」
「そりゃあ貴方は『鞘野ユキ』ですから……そろそろシャーレに着きますよ。肩は貸しますからなんとか歩いてください」
「ああ、助かる、グラニ」
「戻ってないじゃないですか」
シャーレの駐車場に無事辿り着き、グラニの肩を借りてなんとかシャーレの部室へと歩を進める。……ねえ
(そんなもんじゃないですか?そう簡単に見つかるなら苦労しませんよ)
ええ、なので当分はシャーレ部長として、あちこち回って探そうと思います。それと、やっぱり先生一人に任せるのは不安なので。
(……これはもうホの字なのではないですか?)
断じて違います、ただの部下と上司の関係です……何故か私が上司みたくなってますが。
「そろそろですよ、マイマスター」
「……あれ、送り届けるだけじゃないんです、グラニ?」
「心配なので今日一日は監視役として同行します」
「そうですか……」
シャーレの扉に辿り着き、標識がopenになっていることを確認して開ける。……ちゃんと作ったemergencyも残ってるんだな、律儀なことで。
……よし、久しぶりに本日の業務、始めるとしましょうか。
「おはようございます、せん、せ……」
「ありがとうね先生。こうも暑くなると火起こしするのも大変でさぁ」
「前にも言ったけど、シャーレのシャワー室はいつでも使っていいからね、あ、おはようユ……キ……」
「……朝から生徒を連れ込んでシャワーとは、随分と大胆なことですねぇ?」
(誤解な気もしますが……まあ面白いので黙っておきますか)
「い、いやぁその、これは……」
「問答無用!書類をほったらかしてなんてことやってるんですか、こんの馬鹿がぁ!」
「ご、誤解なんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
……今日の業務は、数か月ぶりに先生への説教から始まることになった。
なんとか人生初の完結までこぎつけることができました。
この小説を読んで評価、感想をしてくれた皆さんには感謝の言葉しかありません。
一旦ここでこの話はおしまいとなりますが、需要があるのならイベストなどの番外編を書いてもいいかななど思っています。
では、また何か次の作品か番外編を書くときまで。
番外編、いります?
-
いる
-
いらない
-
コラボとかしろ